ハチマンくんとアスナさん   作:大和昭

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第125話 友のため、好きな人のため

 グランドクエストの間の前の広場に、とてつもない数の軍勢が集まっていた。

噂が噂を呼び、多くの野次馬が、その周りを取り囲んでいた。

そんな多くのプレイヤーが見守る中、数人のプレイヤーの集団が中央へと歩いていった。

その集団は、ユージーン将軍や【絶対零度】、そして各領主らで構成されており、

当然その中の誰かが指導者の役割を果たしているのだろうと思われたが、

予想に反してその役目を与えられていたのは、誰も見た事がない無名のプレイヤーだった。

連合軍のメンバーは、誰もその事に苦情を述べたり異議を唱えようとはしなかった。

事前に各領主から周知されていたのだろう。

そしてその無名のプレイヤーは、右手を振り上げ、まっすぐ正面へと振り下ろした。

 

「全軍突入!」

 

 その無名のプレイヤー、当然それはハチマンであったが、

ハチマンの掛け声と共に、連合軍は鬨の声を上げ、グランドクエストの間へ突入を開始した。

それを見ていた群集からも、大歓声が上がった。

群衆が見守る中、最初に突入したのはサラマンダー軍、シルフ軍だった。

次にケットシー軍が中に入り、騎竜を召喚した。

ケットシー軍が騎竜に乗り込み配置についた後、

後方にウンディーネ軍が展開し、バックアップ体制を整えた。

そして最後、中央にユージーン将軍を先頭に、ハチマン達が配置についた。

それは実に壮観な眺めであり、その場にいる者達は、

自分達が今この場に立っている事を誇りに思ったのだった。

 

「先鋒はキリト、リーファ、レコン、ユージーンの四人で頼む。

左右の軍は敵を近付けさせるな。竜騎士隊は正面をけん制しながら本隊の侵攻を助けてくれ」

「レコン、背中は任せたわよ」

「う、うん、リーファちゃんは僕が絶対に守るよ!」

「あんたとこうして肩を並べて戦う事になるなんてな」

「運命とは不思議なものだな。全て終わったら、また一対一でやろう」

「おう、また勝たせてもらうけどな」

「よし、全軍、前へ!」

 

 フォーメーションが整ったところで、ハチマンは前進の指示を出した。

後の細かい指示は現場の指揮官に任せればいいだろう。

一同は、前進しながら敵の出現を今か今かと待ち構えていた。

そしてある程度進んだ時、壁面にポッポッと光の玉が現れ、

その中から天使のような敵が現れ始めた。その光はすさまじい勢いで全周に広がり、

気が付くと連合軍は、無数の敵に囲まれていた。

 

「おいおい、話には聞いていたが、こんなに多いのかよユージーン」

「ああ、一体一体の強さは大した事が無いんだがな」

「とにかく飽和攻撃をしてくるわけか。あの馬鹿が考えそうな事だな」

「あの馬鹿?」

「ああ、この事件の黒幕だよ」

「そうか……なら我らの強さを思い知らせてやろう、行くぞ、キリト!」

「おう!」

「私達も行くよレコン!」

「うん!」

 

 キリト達四人がなおも前進すると、周囲の敵が一斉に動き出した。

 

「竜騎士隊第一陣、ブレス!」

「サラマンダー隊前衛、エクストラスキルを放て!」

「シルフ隊前衛、同じくエクストラスキルを!」

 

 敵めがけて一斉に遠距離攻撃が放たれ、轟音と共に着弾した。

その攻撃により、敵の第一陣は殲滅されたが、次の瞬間に壁面に光点が現れ、

再び大量の敵が姿を現した。

 

「なるほど、これはとにかく周囲の敵を抑えている間に精鋭で奥まで突入するしかないな」

「ある程度まではこのまま進み、一気に駆け抜けられる距離まで近付いたら、

そのまま本隊だけで突撃だな」

「全軍、交代で弾幕を張りつつそのまま前進!」

 

 連合軍は、ブレスやエクストラスキルのクールタイムを考慮しつつ、

交代で弾幕を張り、徐々に前進していった。

たまに弾幕を抜けてくる敵がいたが、問題なく処理されていった。

被弾した者達はすぐ後方に下がり、ウンディーネ隊の治療を受けると、

即元の場所へと復帰していった。

 

「さすがにこれだけ味方を集めると、敵が多くても何とかなるな」

「兵数ってやっぱり大事なのね。不敗の魔術師の苦労がしのばれるわ」

「そんなネタが出てくるとは、余裕あるじゃないか」

「今のところはね。でもそろそろ本隊にも敵が殺到して来るのではないかしら、見て」

 

 そう言ってユキノは上を指差した。ハチマンが上を見ると、

天頂方向はまるで全体が光っているかのようにすさまじい数の光点に覆われていた。

 

「いよいよか……頼むぞ、みんな」

 

 ハチマンは仲間達に声をかけた。

 

「やっと出番だな!」 とクラインが、

「腕がなるぜ!」とエギルが、

「今度こそ私も一緒に戦います!」とシリカが、

「悪い奴らをやっつけよう!」とユイユイが、

「未来のお姉ちゃん、待っててね!」とコマチが、

「今度こそ私の存在価値を見せつけますよ!」とイロハが応え、最後にユキノが、

 

「即死しなければ私が即癒すわ。私達の力を見せてあげましょう!」

 

 と締めくくった。

 

「よし、全軍、全力で前へ!」

 

 そしてハチマンが、ついに全力攻撃の指示を出した。

 

「今こそサラマンダーの力を見せろ!」

「シルフの底力を見せてやれ!」

「竜騎士隊!天空の覇者は誰なのか、あの天使達に教えてやれ!」

「ウンディーネ隊は、各隊に散らばって範囲回復魔法を中心に全力で仲間を守れ!」

 

 全軍は一丸となって前へと突撃を開始した。そこに敵の集団が、正面からぶつかった。

それは例えて言うなら、氷の塊に、水道の水をかけ続けているようなものだった。

氷を持ち上げるのと同時に、蛇口も捻られ、水量が段々増えていく。

このままだと氷はどんどん小さくなり、いつしか消えて無くなるだろう。

連合軍は今まさにそんな状態だった。

 

「まさかここまでとは……これは我らだけでは到底無理だったな……」

「弱音を吐くなユージーン!また俺とやるんだろ!」

「ユキノン、シルフ軍がそろそろ限界かも!」

「さっきメビウスさんが向かうのが見えたわ。それで少しは持つと思うわ。

ハチマン君、どうする?私達はまだ健在だけど、両翼が落とされるとさすがにまずいわ」

「ここからだと奥まで届かない可能性が高い、もう少し我慢だな」

「わかったわ、タイミングは任せる」

「みんなすまん、もう少し耐えてくれ!」

 

 

 

 一方その頃レクト・プログレス社では……

 

「こんばんわ、ご注文の弁当をお持ちしました~」

「おう、来たか。よし、それじゃあ俺達は先に食っちまうから、

材木座は交代まで一人で留守番を頼むな。あ、受け取りのサインも頼む」

「あっ、はい、わかりました」

 

 そう言うと社員連中は、弁当を持って別室へと移動していった。

材木座はその扉の前に立ち、中の様子を監視する体制をとると、弁当屋に手で合図をした。

弁当屋はその合図と同時に、コンソールを操作し始めた。

 

「待っててくれよ……今オレっちも手伝うからナ」

 

 そのまま色々操作を続けていた弁当屋は、どうやらやるべき事を終えたらしく、

材木座に手招きして呼び寄せた。

 

「材木っち、ここを押せば、ハー坊達を少しは楽にしてやれるぞ。

その役目は材木っちに任せる事にするゾ」

「そ、そんな大事な事を我がやってもよろしいのでありますか?」

「……相変わらず面白い喋り方をするなぁ材木っち。ハー坊を助けたいんだろ?

気にせず押しちゃってくれよ。押したら二人でトンズラすんゾ」

「わかりました……八幡、今我が助けるぞ!」

 

 材木座は今まさに必死で戦っているであろう友の顔を思い浮かべ、

そのパネルのボタンを押した。

 

 

 

「そろそろ突っ込む。ここからはなるべく前面の敵を中心に攻撃してくれ」

 

 ハチマンの指示を受けて、本隊の面々は正面に攻撃を集中させた。

だが、中々前に進む事は出来なかった。

 

「リーファちゃん、大丈夫?」

「大丈夫じゃないわね、でもここは絶対に突破しなくちゃだめなの。

例え私が倒れても、絶対に前に進むのよ。いいわね、レコン」

「リーファちゃん……」

 

 レコンはリーファの表情から、断固たる決意を見てとった。

それを見て、レコンは自分に何が出来るかを考え、腹をくくった。

 

「リーファちゃん、僕がチャンスを作るよ。だからその隙を絶対に逃さないでね」

「レコン?」

「ハチマンさん、僕が正面の敵を一瞬蹴散らします。その隙に突入して下さい!」

「レコン、一体何をするつもりだ?」

「僕だって、仲間ですから!」

「……分かった、任せた!」

 

 レコンはそのまま、強引に正面に突っ込んでいった。

敵の攻撃がレコンに集中し、レコンのHPがどんどん削られていく。

 

「ハチマン君!レコンを助けないと!」

 

 リーファが焦ったようにハチマンに言った。

 

「レコンは何かするつもりらしい。あいつだって男だ。俺はあいつの言葉を信じる」

「……そうだね。それじゃあせめて私は……」

 

 リーファはそう言うと、大きな声で叫んだ。

 

「レコン!頑張れ!」

 

 レコンはリーファからの声援を聞き、己を奮い立たせた。

今詠唱中の呪文はどれだけ攻撃されても、絶対に完成させてやる。

レコンは呪文の詠唱を切らさないように集中しながら攻撃に耐え続け、前へと進んでいった。

そしてついにレコンは、呪文の詠唱を終えた。

その瞬間にレコンは自爆し、周囲の敵は爆発に巻き込まれ、消滅した。

そしてハチマン達の正面に、ぽっかりと通路が口を開いたのだった。


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