ハチマンくんとアスナさん   作:大和昭

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2017/10/29 修正


第011話 遺跡探索

 それからハチマンとアスナは、情報収集や更新されたガイドブックを配る手伝いをし、

時にはリズベットを交えて狩りに行ったり、料理をしたりと、

それなりに充実した日々を過ごしていた。

リズベットはよくアスナの部屋に泊まりに来るようで、

アスナはよくリズベットの話をするようになった。

アスナが楽しそうに話すのを聞くのが、ハチマンは好きだった。

ハチマンとアスナは、もう余裕でボスに挑めるくらいのレベルや装備を確保していたが、

アルゴから漏れ聞くところによると、

フィールドボスは既にある程度余裕をもって倒されているとの事であったが、

階層ボス戦に挑める状態を確保できているプレイヤーの数は、

まだ微妙に足りていないとの事であった。

アルゴの話だと、彼ら三人にリズベットを加えれば、

ボス部屋を発見する事は十分可能との事であったが、

今の段階だと、無理して挑もうとする者が多く含まれる可能性があるとの考えから、

まだ時期尚早だと二人の意見が一致し、ボスへ挑むのは、

他のプレイヤーが自力でボス部屋を見つけた後の方がいいという事になった。

 

「まあ、何事も最初は時間がかかっちまうもんなんだよな。

次の層からはもっと早く進行できると思うんだがな」

「まあそうだな。それよりもなハー坊、もっと深刻な問題があるんだヨ」

「ん、何かあんのか?」

「ゲーム内で、ボスの情報があまり出ていない」

 

 通常はクエスト等で出てくるはずのボスの情報が、

現状あまりにも足りていないとの事だった。βテスト時の情報はあるにはあるが、

どんな変更点が加えられているかわからない以上、

そんな情報に頼って攻略するのは、自殺行為だ。

 

「でな、昨日NPCから、やっとそれっぽい情報が聞けたんだよナ」

「なるほど、調査を手伝えと」

「ああ。依頼料も出すぜ。アーちゃんも加えて、一緒に遺跡に潜って欲しいんだヨ」

「リズが一緒でもいいか?アスナが喜びそうだし」

「リズっちか。本人がいいって言うならいいゼ」

「じゃあ二人に聞いてみるわ」

 

 こうして四人は、トールバーナから少し東に行った所にある遺跡を探索する事となった。

 

「で、どんな情報なんだ?」

「追放されたコボルド王の側近が、隠れ住んでいるらしいってサ」

「なんともいえないな、行ってみるしかないか」

 

 四人は、慎重に探索を進める事にした。

 

「俺が先頭、アスナとリズベットは真ん中、アルゴは後方の警戒な」

「オレっちが先頭の方が良くないカ?」

「まあ任せろって。っと、ストップだ。前方に罠がある」

「どこだ?オレっちには感知できないナ」

 

 ハチマンが、近くにあった小石を前方に放り投げると、落とし穴が発動した。

三人はあっけにとられてハチマンを見た。

 

「あー昔から俺は、観察眼と他人の視線を感じる事には定評があってだな」

「それにしても今のは、まるで周囲のデータ量の違いとかが見えてるみたいだったゾ」

 

 アルゴはそう言いながら落とし穴に近づいていった。

 

「このくらいの距離ならオレっちにもわかるんだけどナ」

「まあ、早めに気付けた方が対応も取りやすいしな」

「ハー坊は化け物か……」

「ハチマン君すごい……」

「人間業じゃないね……」

「そんなに褒めるな。照れるだろ」

 

 ハチマンは、ちっとも照れていないように見えたのだが、口に出してはそう言った。

 

「いや褒めてないんだけど!」

「まあ褒め言葉ではないナ」

「わ、私は褒めてるよ!」

「あーはいはい、俺の味方はアスナだけだな。それじゃ行くぞお前ら」

 

 その後も全ての罠や不意打ちがハチマンの手により封殺され、

一行は順調に奥へ探索の手を伸ばしていった。そして四日目、一行は豪華な扉の前にいた。

 

「ここで最後みたいだな、ちょっと覗いてみるか」

「気をつけてね、ハチマン君」

「おう、隙間からちょっと見るだけな」

 

 ハチマンが中を覗き見ると、遠くの方に、黒いコボルドらしき巨体が見えた。

 

「敵は黒いコボルドが一匹。HPバーは二本。

見た感じ、話に聞いたフィールドボスほどの大きさじゃない。

援軍の可能性もあるから、周囲は必ず警戒だな」

「フォーメーションはどうするの?」

「俺がまず敵を引き付ける。アルゴと俺がスイッチ、アスナとリズがスイッチだ。

後方に下がった奴が、追加沸きに備えて周囲の警戒だな。

ポーションを準備しておくのを、忘れるなよ」

 

 こうしてフォーメーションを確認した後、四人は部屋へと入っていった。

 

「ブラック・ルイン・コボルドセンチネルか。名前からすると、

階層ボスの取り巻きのちょっと強い奴って感じだナ」

「ボスの強さを計るにもちょうどいいかもね」

「私はちょっと緊張してるかも」

「大丈夫だリズ、きちんと周りがフォローする。それじゃ、行くぞ」

 

 四人が駆けだすと、敵は即座に戦闘態勢をとり、右手に持つ剣を振り上げた。

ハチマンは急加速し、敵が剣を振り下ろす前に敵の股間をスライディングで抜け、

右足にソードスキルを放った。

体重のかかっていた右足を攻撃されたためか、敵はそのまま転倒した。

 

「アスナ、今だ!」

 

ハチマンがそう叫ぶと、すかさずアスナが突進し、連続して《リニアー》を放った。

敵は立ち上がりつつ、剣を滅茶苦茶に振り回した。

滅茶苦茶ゆえに、その攻撃は何度かハチマンにかすっていたが、

ハチマンはしっかりと見極めた上、何度かパリィを決め、

その隙にアスナが再び攻撃を加え、初手でかなりのダメージを与える事に成功した。

そしてアルゴとリズベットにスイッチ。

アルゴはヒット&アウェイで確実にダメージを積み重ね、

リズベットも、無理をしないように、主に後方から、確実に打撃を与えていた。

四人はスムーズなコンビネーションを見せ、とても安定した戦闘を繰り広げていた。

 

「まもなく一本目が削り終わる。援軍が来るとしたら、ここか、HPバーが赤くなった時だ。

アルゴ、スイッチ!アスナとリズベットは安全が確認できるまで後方待機で頼む」

 

 ハチマンが前に出て、三人は周囲の警戒を強めた。

幸いその時は何も起こらず、四人はさきほどのように戦闘を続けた。

そして敵のHPがレッドゾーンに入ろうとした時、

一本目の時と同じように警戒していた三人は、新たな敵の出現を目にした。

 

「ハー坊、前方から敵が二匹くる。HPバーは一本。そいつよりは小さいナ」

 

敵は既に発狂モードに入り、攻撃は激しくなるばかりだった。

三人が迷っていると、ハチマンから指示が飛んだ。

 

「ちょっと無理をする事になるが、しばらく一人で支える。

三人でローテを組んで、追加の二匹を頼む」

「そんな!ハチマン君、一人で大丈夫なの?」

「大丈夫だ、無理はするが無茶は絶対にしない、約束する」

「わかった。すぐ助けに戻るから、待ってて!」

「ああ、なるべく早めに頼む」

 

 幸い大した強さの敵では無かったため、三人は多少攻撃をくらいはしたが、

程なくして二体を撃退し、急いでハチマンの元へと戻った。

そこで三人が見たものは、先ほどまでのパリィに加え、

敵が武器を振りかぶるか否かのタイミングに合わせて要所に攻撃を入れ、

敵に攻撃の余地をまったく与えていない、ハチマンの姿であった。

ハチマンはアルゴにスイッチしてもらい、後方に下がると、崩れるように腰を下ろした。

アスナがあわてて駆け寄ろうとしたが、ハチマンはそれを制した。

 

「俺は大丈夫だから、さくっとあいつ、やっちゃってくれ」

「ごめんね、すぐ戻るから」

 

 そして数分後、ついにブラック・ルイン・コボルドセンチネルは倒れた。

三人はすぐさまハチマンに駆け寄った。

 

「ハチマン君、具合はどう?」

「ああ。ダメージをくらったわけじゃないから、問題ないぞ」

「しかしすごかったな。あんな事が出来るなんて思ってもみなかったヨ」

「ねえハチマン。あれ、どうやってやってたの?」

「ああ、あれはな、罠を見つけるようなもんだ」

 

 三人の頭の上に、疑問符が並んだ。

 

「罠を見つける時言っただろ。なんとなくわかるって。

あれと同じで、敵の体を良く観察してな、

で、攻撃の気配がしたと思ったら、そこに攻撃を叩きこむ。

そうするとな、敵の攻撃が止まるんだよ。

通常はそこで攻撃も叩きこむんだが、今の条件じゃ無理だ。

まあ、ダメージと引き換えに無茶すればやれない事もなかったんだが……

それじゃあアスナとの約束を破る事になっちまうからな。安全第一だ」

 

 ハチマンは事もなげに言ったが、それがどれほどすごい技術であるのか。

三人には想像もつかなかった。

 

「約束、ちゃんと守ってくれたんだね」

「ああ。パーティリストのHPバーが大きく減ったら、余計な心配かけちまうしな。

更にそれに気を取られて、もし三人がピンチになったりしたらって考えたらな」

「ところでハチマン、ダメージが無かったのにすごい疲れてなかった?」

「あ~それはな、馬鹿みたいに集中するから、主に脳がすごい疲労するんだよ。

集中してる間はまだいいんだが、終わるとどっと疲れるんだよな」

「なるほどな……それじゃオレっちとリズっちで、周囲の探索をしてくるとするか。

アーちゃんは、もうちょっとハー坊についててやってくれよナ」

「うん、それがいいね。アスナ、ハチマンをよろしくー」

「うんわかったよ。何かあったらすぐに知らせてね」

 

 二人は周囲を調べに行き、アスナは、まだ心配そうにハチマンを見ていた。

 

「大丈夫?何か飲む?」

「あー、大丈夫だ。とっておきを出す」

 

 ハチマンはそう言うと、何か飲み物を取り出して、飲み始めた。

 

「何それ?」

「千葉県民のソウルドリンクだ。まだまだあるぞ。アスナも飲むか?」

「うん、飲んでみようかな」

 

 ハチマンは、アイテムストレージから飲み物を取り出し、アスナに渡した。

 

「それじゃいただきまーす、って、甘い!!」

「アスナには甘すぎたか?」

「うーん、大丈夫かな。むしろ好きな味かな」

「この良さをわかってくれるか……基本的に、昔お勧めした奴は皆、

甘すぎる甘すぎるって文句ばっかりだったから、なんかすげー嬉しいわ」

「確かに甘いけど、好きな味かな。疲れも取れそうだし」

「脳の疲労回復には甘いものが一番だしな」

 

 こうしてしばらく休んだ後、二人も探索に加わった。

奥には部屋があり、そこの宝箱には、沢山のポーションが入っていた。

そのポーションはアルゴに委託され、出所がわからないように工夫された上で、

ボス戦に参加する人に渡っていく事となる。

 

「壁画?」

「ああ、これで確定したな」

 

 その部屋の壁画に描いてあったのは、

イルファング・ザ・コボルドロードと、十二体のルイン・コボルドセンチネルの絵だった。

イルファング・ザ・コボルドロードの横には、種類はわからないが、

何本かの武器が入った箱が描いてあった。

 

「ボスと、取り巻きが十二体出るって事でいいのか?

あと、ボスが途中で武器を持ち変えるイメージなのか、これ」

「そういう事だナ」

 

 無事探索を終えた一行は街に戻り、アルゴのおごりで軽い打ち上げを行った。

打ち上げと聞いたハチマンは、最初はしぶっていたが、

アスナの必殺技、上目遣いでお願い攻撃をくらい、一発で撃沈した。

そして数日後、アルゴから、ついにボス部屋が発見されたとの連絡が入り、

その二日後、トールバーナの広場にて、第一回ボス攻略会議の開催が決定された。




膝枕と間接キスフラグはどこへいった。

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