ハチマンくんとアスナさん   作:大和昭

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第117話 集結の日~ソレイユ~

「マジっすか……」

「大マジだよハチマン君。だからそろそろこの手を離してくれないかな」

「え、嫌ですよ。この手を離したら、また抱き付いてくるじゃないですか」

 

 ハチマンはそう言って、ソレイユの頭から手を離すのを頑なに拒否した。

 

「はぁ……仕方ないなあ、何もしないって約束するから」

「絶対に約束ですからね」

 

 ハチマンはそう言うと、ソレイユの頭から手を離したが、またすぐ掴んだ。

案の定再びハチマンに抱き付こうとしたソレイユは、

そのハチマンの手によってピタッと動きを止めた。

 

「……何で分かったの」

「はぁ、まあ予想は出来たんで、じっくり観察してましたからね」

 

 ソレイユはそれを聞くと、自身の豊満な胸を抱き、こう言った。

 

「私の胸をじっくり観察してただなんて、私の体が目当てだったのね!?」

「おいこら色々と誤解を生むんでちょっと黙ってもらえませんかね」

「姉さん、いい加減にしなさい。もぐわよ」

 

 ユキノはソレイユに冷たい目を向け、そう言い放った。

 

「は~い、確かにこんな事してる場合じゃなかったわね、ごめんなさい」

 

 今度こそソレイユは本当に反省しているようだったので、ハチマンは手を離した。

ソレイユは一歩前に出て、旧知の人達に挨拶をした。

 

「と、いうわけでお久しぶりね、サクヤちゃん、アリシャちゃん、ユージーン君」

 

 その挨拶を受け、やっとフリーズが解けた三人は、ソレイユに挨拶を返した。

 

「こ、ここここんにちは、ソレイユさん」

「お、おおおおお久しぶりですソレイユさん」

「ま、またお会いできて、こここ光栄ですソレイユさん」

「一体何なんだお前ら……」

 

 三人があまりにも動揺しているように見えたので、ハチマンはそう尋ねた。

 

「ソレイユさん、ちょっと失礼しますね」

 

 三人はそう言うと、ハチマンの手を引き、後方へと連れていった。

 

「一体何だって言うんだよ……」

「おいハチマン、お前ソレイユさんとどういう関係だよ」

「あの人の頭に平然とアイアンクローをかますなんて、常識じゃ考えられないよ!」

「お、おう、ユキノ自身がさっき言ってたからここで言ってもいいと思うが、ユキノの姉だ」

 

 それを聞いたユージーンは、呆然と呟いた。

 

「絶対零度の姉が、絶対暴君だと……」

「おい、何だその呼び方は……」

「知らないの?ソレイユさんの二つ名だよ」

「うへ、アリシャさん、それマジか?」

「アリシャでいいよ。私達とあなたはもう対等。オーケー?」

「オ、オーケー」

「それでは私の事も、気軽にサクヤと呼ぶがよい」

「俺もユージーンでいいぜ、ハチマン」

「お、おう、改めて宜しくな、三人とも」

「で、話の続きだけど、あのソレイユさんは、ALOの全種族の中で、

一番最初に領主の座についた人なんだよね」

「つまり、メビウスさんの前のウンディーネ領主って事か?」

「そうだ」

「なるほど……で、当時から暴れまくっていたと」

 

 それを聞いた三人は、思い出すのも恐ろしいという感じで、震えながら説明を続けた。

 

「あの人に喧嘩を売って生きてた奴は、今まで一人もいないんだ」

「個人でも集団でも、ね」

「数十人でかかった奴らもいたようだが、一人相手に瞬殺されたと聞いている」

「いつしかついた二つ名が、絶対暴君ソレイユよ」

「あの人が領主の座を穏やかなメビウスさんに譲って引退した時は、

誰もがホッと胸をなでおろしたもんだ」

「メビウスさんは確かに正反対だな」

「今だってほら、私まだ震えてるでしょ?それくらいあの人は伝説クラスの人なのよ」

「今でこそ俺も最強プレイヤーとか呼ばれているが、

あの人を前にすると、その俺ですら震えが止まらん」

「そんな人がまさかあのユキノの姉だったとはね……」

「お前らそこまであの人が怖いのか……」

 

 それを聞いた三人は顔を見合わせて、ハチマンに尋ねた。

 

「ハチマン君は怖くないの?」

「いや、まあ俺はあの人に弟みたいに思われてると思うしな」

「そういえばさっき、あのソレイユさんがハチマン君に甘えるような仕草をしてたような」

「弟っていうより、好きな人に対するような感じじゃなかった?」

「そうだな、俺にもそう見えたな」

「ハチマン君、どうなの?」

「あー……まあ確かにそれは否定出来ん……本気かどうか判断しにくいんだが……」

 

 三人はそれを聞き、頭を抱えた。

 

「絶対暴君の想い人か……」

「これは絶対に敵対出来ないわ」

「シルフとケットシーはとりあえずセーフかな」

「これはもう絶対に兄貴を説得するしかないな。

というかソレイユさんの事を話せば間違いなくハチマンに協力する事を選ぶと思うが」

「お前らいくらなんでも怖がりすぎだろ……確かにあの人は何でも出来る完璧超人だが、

ちょっとかわいい所もあるし、面倒見もいいとても優しい人なんだけどな。

ああ、でも興味が無い奴にはとことん興味を示さない人ではあるかもだけどな」

「うんまあ大体合ってるかな。さすがに私の事が良く分かってるじゃない、ハチマン君。

恐ろしく美人でスタイルも良くて性格もいいだなんてね。で、そろそろ話は終わったかな?」

「ひいいいいいいいい」

 

 いつの間にか背後に立っていたソレイユがいきなり声をかけてきたので、

ハチマン以外の三人は悲鳴を上げ、ガタガタと震えだした。

 

「あんまり驚かさないで下さいよソレイユさん。あとさりげなく俺の発言を捏造すんな」

「はいはいごめんなさい。というわけでユージーン君」

「はっ、はいっ」

「この私が保証するわ。ウンディーネ軍は今回のグランドクエストに限り、

このハチマン君の傘下に入る事とする。そうお兄さんに伝えなさい。

もし協力出来ないというなら、私が直接話をつけに行ってもいいと」

「わかりました!必ず兄に伝えます!というかサラマンダーも協力を約束します!」

「あら、勝手に決めちゃっていいの?」

「問題ありません!」

「そう」

 

 ソレイユはにっこり微笑むと、ハチマンに向き直った。

 

「こんなもんでいいかな?」

「ありがとうございます、ソレイユさん。このご恩はいつか必ず返します」

「私はグランドクエスト本番の時は参加出来ないけど、舞台は整えたつもりよ。

後はあなた次第ね、ハチマン君」

「はい」

「あなた達もお願いね。私の代わりに絶対に彼を守ってね」

「はっ、はいです!」

「心得ました」

「この身に代えても必ず」

「おっおい、お前ら……」

「だってあのソレイユさんがここまで言うんだよ。これは頑張るしかないじゃない」

「ああ、腕が鳴るな」

「何か理由があるんだろ?いつか俺にも聞かせてくれよな」

「すまん、恩にきる」

 

 ハチマンは三人に、深々と頭を下げた。

 

「はい、それじゃみんな集合!」

 

 ソレイユはそう言って、パチンと手を叩いた。それを聞いて仲間達が集まってきた。

 

「グランドクエスト当日は、私には私の戦いがある。その舞台はここではなくリアルだから、

私はここでの戦いには参加は出来ません。その分あなた達の奮戦に期待します。

そしてこれは一部の人にだけ分かってもらえればいいんだけど、

あなた達にはもう一人、ここに来ていない大切な仲間がいるはずです。

その人は事情があってここにはいないけど、リアルであなた達と一緒に戦っています。

だから何も心配しないで、心おきなくグランドクエストに挑みなさい」

 

 その言葉にSAO組はハッとした。ここに来ていない大切な仲間、

それは当然アルゴ以外にはありえない。

あのアルゴもどこかで一緒に戦ってくれている、そう思った一同は、

その気持ちに応えるためにも、絶対にこの戦いに勝つ事を改めて誓った。

 

「それじゃあ私は先にここで落ちるね。みんな、後の事は宜しくね」

「はい!」

 

 全員がそう唱和し、満足そうに頷いたソレイユはログアウトしようとしたが、

それをリーファが止めた。

 

「あっ、ソレイユさん、もう一つお願いがあるんですけど……」

「ん?なぁに?」

「ちょっと待ってて下さいね、ねえ、サクヤ、

実はもう一つ決着をつけないといけない事があるんだよね」

「何かあったのか?」

「シグルドの事なんだけど」

「ふむ、話を聞こう」

 

 リーファは、シグルドの裏切りについて、自分が知る限りの事を全てサクヤに話した。

 

「そうか、あいつが……ユージーン、話を聞いてもいいか?」

「言いたい事はわかるが、俺の立場からは何も言えん。仁義というものがあるからな」

「確かにそうだな、つまらない事を言った、忘れてくれ」

「まあ一般論で言わせてもらえば、俺はああいう奴は好かんから、

あいつがどうなろうと知った事ではない」

「ははっ、ユージーンはそういうタイプっぽいよな」

「ああ。お前みたいな奴は大好きだぞ、キリト」

「俺もだよ」

 

 そんな二人を微笑ましく見つめた後、サクヤは決断したのか、きっぱりと言った。

 

「アリシャ、すまないが月光鏡の魔法を使ってくれないか?

そしてソレイユさん、あいつを脅す協力をお願い出来ませんか?

私があいつに直接話をして、引導を渡します」


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