ハチマンくんとアスナさん   作:大和昭

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第110話 集結の日~明かされた実力~

 この戦いにおいて、キリトは武器を一本しか持っていなかった。

戦場がやや狭いので、フレンドリーファイアを防ぐ為である。

そのキリトは、大剣を高く掲げて敵陣へと斬り込んでいった。

 

「おおおおおおお」

 

 キリトは裂帛の気合と共に、敵の盾目掛けて大剣を振り下ろした。

その攻撃を受けた重戦士は衝撃に耐えられず、後方へと数メートル飛ばされた。

 

「なっ、何だこの攻撃の重さは」

「お前らが軽いだけじゃないのか?」

「ふざけるな!盾二つ分の重量が加わってるんだぞ!」

「はあ?ただ盾を構えればいいとでも思ってるのか?ああ、そういう事か」

 

 キリトは大剣を肩にかついで振り返り、ハチマンに言った。

 

「お~いハチマン、こいつら即席で重戦士やってるだけの素人だ。

ちょっと手伝ってくれよ。二人で殲滅しようぜ。武器すら持ってないから楽勝だぞ」

「なっ……」

 

 その男は、あるいは何故それを、とでも言うつもりだったのかもしれないが、

一瞬で振り返ったキリトが、油断していたであろう、その男を一刀両断にした。

それを見たサラマンダーの面々は、あまりの凄まじさに凍りついた。

 

「うわ、キリト君すごっ」

「もしかしてお兄ちゃんも同じような事が出来るのかな……」

「先輩、どうするんですか?」

「そうだな、せっかくのキリトのお誘いだし、ちょっと殲滅してくるわ。

どうやら奥にいる奴らが本命みたいだしな。ユキノ、それでいいか?」

 

 ハチマンはユキノにそう尋ね、ユキノはそれを快諾した。

 

「いいんじゃないかしら。確かに素人っぽい動きではあったものね」

「オーケーだ。おーいキリト、ちょっと待っててくれ」

「おう」

「とりあえず牽制は任せるわ。隙があったら無理せずどんどん倒しちまっていいからな」

 

 そう言うとハチマンは、素早くキリトの横へと移動した。

 

「よし、後方のあいつらがこっちに来ないうちに、さっさと片付けようぜ」

「おう、とりあえず攻撃される心配は無いみたいだし、キリトは好きに暴れてくれ。

俺は隙が出来た奴を、片っ端から倒してくわ」

「オーケーオーケー」

「こうして二人で肩を並べて戦うのも久しぶりだな」

「ああ、何か懐かしいな」

「よし、行くか」

「おう」

 

 その言葉を聞いて、我に返ったのだろう、敵の第一列目を構成する重戦士達が、

両手の盾をかざして二人を押さえ込みにきた。時を同じくして、カゲムネが指示を飛ばした。

 

「前衛はとにかく耐えろ!ヒーラー隊は前衛を回復だ!

魔導師隊は味方への誤射を防ぐため、敵の後衛にだけ攻撃を加えろ!

俺達はこれからすぐに前衛部隊の援護に向かう!

後衛部隊の守りが薄くなるから、後衛部隊は敵の接近に注意しろ!」

 

 カゲムネが指示をしている間も、キリトは向かってくる敵を片っ端からぶっ飛ばし、

ハチマンはその敵の懐に入り、片っ端から斬り刻んでいた。

それを見て身を竦ませ、盾を下げた者はみな、そのままキリトに両断されていた。

 

「ひっ……」

 

 さらに何人かが恐怖のあまり、無防備でユキノ達に背を向けた。

リーファとユイユイはその隙を逃さず、背後から攻撃を加えた。

 

「どこを見てるの?背中ががら空きよ」

「えいっ、えいっ」

 

 リーファは的確に相手の急所を狙い、ユイユイは掛け声こそのんびりしたものだったが、

その攻撃はとても鋭く、重いものだった。

 

「お前ら結構やるじゃないか」

「あなた達にそう言われてもねぇ……」

「っていうか、二人はどう見てもおかしーし!」

「そうか?普通だよな、ハチマン」

「まあ、普通だな」

 

 一方ユキノとイロハはMP温存のため、

周囲を警戒しつつもみんなの戦いぶりを眺めているだけだった。

 

「強いだろうとは思ってましたけど、これほどまでとは予想外でしたね、ユキノ先輩」

「私達の出番はもう少し先みたいだし、それまでは全部任せてしまいましょう」

「うー、コマチは完全に出遅れました!このまま後方を警戒します!」

 

 ハチマンとキリトは、さながら暴風のようだった。

その横で、ユイユイとリーファも隙のできた敵を確実に倒していった。

結果、カゲムネ達が到着する前に、前衛集団はあっさりと全滅する事となった。

ハチマンは後方に下がり、ユイユイを中心にキリトとリーファが左右を固め、

即座に最初と同じフォーメーションを形成した。

それを見たカゲムネ達も走るのをやめて停止し、その場でフォーメーションを形成した。

 

「くそっ、お前らみたいな奴がユキノのパーティにいるなんて聞いてないぞ」

「そりゃまあ、言ってないからな」

「何でその強さで、今まで誰にも知られないままでいられたんだ」

「まあ、世界は広いって事だな」

「くそっ、あいつらに慣れない盾役をやらせたのは、完全に俺のミスだ。

だがここからはそうはいかない。残りは全員本職の重戦士だからな」

 

 敵を観察すると、なるほどカゲムネがそう言うだけの事はあり、

残った者は、先ほどの敵より堂に入った構えをしていた。

 

「ユイはユキノの近くにいてくれ。後方から近付く敵がいたら、すぐユキノに報告を頼む」

「わかりましたパパ。ご武運を!」

「さすがにあの守りを抜くのには多少手こずりそうだな」

「そうね、横から回り込むのは不可能だし、飛び越したとしても、

後方の魔導師に狙い撃たれるだけね」

「とりあえず少し戦ってみて、ラチがあかないようなら奥の手を使うさ」

「奥の手?」

「ユキノ、ちょっと耳を貸してくれ」

 

 そう言うとハチマンは、ユキノに何か耳打ちした。

 

「……あの魔法はスキルが低いと使い物にならないと聞いているのだけれど」

「その点は大丈夫だ。キリトがどうなるかは俺が確認済だ」

「……あなたの方はどうなの?」

「それなんだが、キリトがどうしても教えてくれないんだよな。

だがまあ、問題ないと太鼓判は押されてる」

「そう、それじゃあ戦術に組み入れましょう」

「巻き込まれると危ないんで、その時はあいつらをすぐに下がらせてくれよな」

「わかったわ」

 

 二人が簡単に打ち合わせを終えた後、すぐに戦闘が開始された。

キリトは先ほどと同じように敵前衛に攻撃を加えたが、今度は耐えられてしまった。

 

「おおう、さすが本職って言うだけの事はあるな」

「キリト君、どうする?」

「こうなると、本当は後衛から先に潰したいところなんだけどな」

 

 そう言ってキリトは敵後衛に視線を走らせた。そのキリト目掛けて、火球が飛んできた。

 

「おっと」

 

 キリトは軽々とそれを避けたが、敵が遠いため、当然反撃をする事は出来ない。

このままでは遠距離から狙い撃ちされるだけだと思われたが、その時イロハが魔法を放った。

 

「致命傷を与える事は出来ないですが、せめて邪魔させてもらいます!」

 

 イロハは威力こそ小さいが、発動の早い攻撃魔法を連続して敵後衛に放っていた。

おかげである程度、敵の魔法攻撃や回復魔法の発動を邪魔する事が出来た。

 

「とりあえず前衛を崩せないかやってみようぜ」

「うん」

 

 前衛の三人はそのまま攻撃を続けた。攻撃中、キリトは少し驚いていた。

 

(おいおい、常にヒールが欲しいと思う直前に回復魔法が飛んでくるぞ。

バフも計ったように切れる瞬間に飛んでくるし、

ユキノさんの脳内では一体どんな処理が行われてるんだよ……)

 

 前衛陣は頑張っていたが、その健闘も空しく、場は消耗戦の様相を呈して来た。

ハチマンはそろそろ頃合いだと思い、ユキノに声をかけた。

 

「ユキノ、さすがにここままじゃジリ貧だ。あのカゲムネって奴、中々やるよ。

さすがにこのままだと負けないにしても犠牲が出るかもしれん。そろそろアレをやるぞ」

「このまま犠牲が出るのを覚悟で全員で強引に中央突破をして、

まず後衛から攻撃する手もあるのだけれど」

 

 確かに今の戦力だと、そのやり方で勝利する事は十分可能だと思われたが、

ハチマンとキリトは、パーティメンバーが一人でも倒れる事を許容出来なかった。

 

「すまん、俺もキリトも、パーティメンバーが誰か一人でも倒れるのを許容出来ないんだ」

「そう……分かったわ。それでは奥の手を出して頂戴」

 

 ユキノは、蘇生が可能な以上、ハチマン達の考えが効率的ではない事を十分承知した上で、

そのままハチマンの意見を受け入れた。きっと二人には譲れないものがあるのだろう。

そう思ったユキノは、それが発動する時をじっと待った。

 

「キリト、アレをやるぞ!準備しろ!」

「おっ、ついにアレの出番か。リーファ、ユイユイ、すまないが少し時間を稼いでくれ」

「うん、わかった!」

「何をするかはわからないけど任せといて!」

 

 二人の返事を聞いた後すぐに、キリトは魔法の詠唱を始めた。

同時にハチマンも魔法の詠唱を始めた。まず先にハチマンの魔法が発動し、

ハチマンを中心に、回廊全体を覆う勢いで黒煙が発生した。

その瞬間に、ユキノが叫んだ。

 

「みんな、危ないからすぐにこちらに下がって!」

 

 一方カゲムネも、同様に叫んでいた。

 

「これは幻惑範囲魔法か?敵が突っ込んでくるかもしれん。気を付けろ!」

 

 カゲムネは指示を飛ばした後、周りに神経を集中させた。

そんなカゲムネの耳に、何人もの味方の悲鳴が聞こえてきた。

 

「敵が突っ込んできたのか?陣形を崩さないようにして、落ち着いて対処しろ!」

「カ、カゲムネさん、違うんです。何か巨大なものが!」

「巨大なもの?」

 

 辺りを包む黒煙は徐々に晴れてきていた。

同時にカゲムネの視界に、はっきりと巨大な影のようなものが姿を見せていた。

 

「何だあれ……」

「ひい、バ、バケモノ!カゲムネさん、前方にバケモ……ぎゃっ」

「おい、どうした!」

 

 そしてまもなく完全に黒煙が晴れ、カゲムネははっきりとそれを目撃した。

そこにいたのは、山羊のような角を生やした、悪魔にも似た巨大な生き物だった。


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