ハチマンくんとアスナさん   作:大和昭

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明日からいよいよ長い一日の始まりです


第106話 嵐の前

「うひょおおおおおお」

「おおおおおおおおお」

 

 ハチマンとキリトは、叫びながらも楽しそうに滑空していた。

 

「二人とも上手いじゃない」

「ジェットコースターみたいだな」

「爽快感がはんぱないな」

「ふふ、二人とも高所恐怖症じゃなくて良かったね。あ、そろそろ着地に備えてね」

「おう」

「了解だ」

 

 三人は徐々にスピードを落とし、そのまま地面に着地した。

 

「着地も上手いじゃない。普通はもっとてこずるのよ」

「まあ、飛ぶのも着地も特に問題はないよな」

「ああ、まあそうだな。あのまま飛び続けるのも平気そうだな」

「順応が早いね。あー!そういえば二人とも昔かなりやってたんだっけ、

それじゃあまあ当たり前なのかな」

「あ、あー……まあそうだな、思い出すだけだしな」

「そ、そうだな、うん」

「なるほどね」

 

 リーファに本当の事を話していいのかどうかの判断がまだついていないため、

二人はとりあえず誤魔化す事にしたようだ。

そして三人は車座になって座り、さきほどの事についての話し合いをする事にした。

 

「なあリーファ、仮にリーファが今回の状況でユキノ達を襲うとしたら、どうする?」

「うーん……シルフだけじゃ絶対に無理。誰もついてきてくれないと思う」

「……二つ名がついた時の出来事のせいか?」

「うん。シルフとケットシーの間じゃ相当有名な話だからね。

その二つの種族はユキノを襲うなんて言ったらみんな断ると思うよ」

「それじゃあ可能性としては、やっぱりサラマンダーにこっそり情報を流すとかか?」

「襲う前提だと、多分それ以外に方法はないんだよね……

シグルドがそこまでやるとは考えたくないけど……」

 

 一応シグルドとは、パーティ活動を通してそれなりに楽しい思い出もあったため、

リーファは少しつらそうにそう言った。

 

「まあ、やっぱりこっちが本線だとは思うんだけどな」

「それって、狙われる対象が俺達って事だよな?」

「ああ。ユキノ達と合流する場所を聞いておいて、合流前に俺達を潰す。

いかにもありそうな話だよな」

「確かにそっちの方が現実的な気がするよね」

「やっぱりリーファもそう思うか?」

「うん。私が相手なら、多分シルフの中にも参加する人はいるんじゃないかな?

武道大会で私が倒した人とかね。顔さえ隠せば誰がやったのかわからないと思うし」

「ネームバリューから言っても、ユキノほど恐ろしくはない、って事でいいのか?」

「うん。まあそんな感じかな」

「両方同時に襲う可能性も無くはないよな。サラマンダーがユキノ達担当、

シルフが俺達担当みたいに。もちろん両方サラマンダーの可能性もあるが」

「そうだね、ありうると思うよ」

「それじゃ、そういう前提で少し考えるわ」

「おう」

 

 ハチマンはそう言って、考えをまとめるためなのだろう、目をつぶった。

リーファはそれを興味深そうに眺めていた。

ちなみにキリトは慣れているのでのんびりしていた。

 

「ねえキリト君、いつもこんな感じで、ハチマン君が頭脳担当なの?」

「そうだな。あ、別に俺が考えるのがめんどくさいとかそういう訳じゃないぞ?

ハチマンが頼りになりすぎるせいで、考える機会があまり無いだけだ」

「そうなんだ」

「ちなみにハチマンは戦っても強いぞ。まあ俺も負けるつもりはまったく無いけどな」

「うん、二人が強いのは、この前の戦闘でよく分かった。

そんな二人が一緒だなんて、襲う相手が逆にかわいそうな気もするよ」

「今はリーファも一緒だしな。ユキノさん達と合流したら、もう無敵じゃないか?」

「そうだな、敵の数が分からない以上、やっぱりそれしかないな」

 

 唐突にハチマンが目を開け、そう言った。

 

「お、考えが纏まったのか?早いな」

「まあ今回は、そんなに難しい話じゃないからな」

「で、どうする?」

「シグルドに故意に情報を流して操作し、その間にユキノ達と合流する。その後は殲滅だ」

「分かりやすくていいな」

「ああ。なあリーファ、回廊のこっち側で合流するのに都合がいいのはどこだ?」

「それならやっぱりルグルーの街じゃないかなぁ」

「回廊の向こう側からルグルーの街までどのくらい時間が必要だ?」

「ユキノ達のパーティなら、二時間くらいでいけると思うよ」

「そうか。それじゃリーファ、ユキノにローテアウトするように連絡を入れてくれないか?

俺も一旦落ちて、直接電話で事情を説明する」

「確かにその方が早そうだね。ちょっと待っててね」

「頼む。俺は向こうで待機しとくわ」

「分かった」

 

 ハチマンはそこでログアウトし、リーファは素早くユキノにメッセージを送った。

ユキノは仲間達に断ってすぐにログアウトし、ハチマンに電話をかけた。

 

「おう、わざわざすまないな。ちょっと事情が変わってな」

「問題ないわ。で、何があったのかしら?」

「実はな……」

 

 ハチマンは、先ほどあった出来事を、出来るだけ詳しくユキノに説明した。

 

「そう……あの男がね」

「シグルドと面識はあったのか?」

「一度パーティに誘われたわ。もちろん断ったけどね」

「既に内輪でパーティを組んでたわけだしな。ちなみにあいつについて何か気付いた事は?」

「そうね、自分の名声を高めるために私を誘っているのが見え見えだったわ」

「やっぱりあいつはそういう奴なんだな」

「あの男なら、この機会に私達も一緒に排除しようとしても不思議は無いと思うわ」

「何か心当たりがあるのか?」

「断る時公衆の面前で、他の人より手厳しくあしらったくらいね」

「それはまた……」

「ちなみにあっちが公衆の面前で自信満々に誘ってきたのよ」

「自業自得か……」

「なのでまあ、私を憎んでいるのは間違いないと思うのよね」

「オーケーだ。それじゃ実務面を詰めようぜ。俺としては敵の数が分からない以上、

ルグルーの街で予定より早めに合流して、逆に相手を殲滅したいと思ってるんだがどうだ?」

「そうね、私もそれでいいと思うわ」

 

 ユキノはハチマンの提案にすぐ賛成した。

 

「私達のパーティの弱点は、前衛の薄さなのよ。そしてそちらには強力な前衛が揃っている。

合流さえすれば、倍の敵相手でも殲滅が可能だと思うわ」

「倍っていうと、単純計算で十四人か」

「……ごめんなさい。ちょっと計算を間違えたかもしれないわ」

「ん?やっぱり十四人はきついか?」

「多分三十人くらいまでは余裕でいけると思うわ」

「さっ……三十?」

「場合によってはもっといけるかもしれないわね。もっともその場合は、

地形とか敵の編成も計算に入れないといけないのだけれどね」

「おいおい、随分強気なんだな……」

 

 そう言いつつもハチマンは、ユキノが言うなら多分そうなのだろうと思っていた。

ユキノは出来ない事を出来るとは言わないはずだからだ。

 

「前衛はユイユイを中心にキリト君とリーファさんが両翼を固める。

後衛は私とイロハさんを中心に小町さんとあなたがガードしつつ遊撃。

これ以上の布陣があるのかしら?」

「……ユキノはヒーラーだったよな。一人でMPとか持つのか?」

「その辺りの管理は任せて頂戴。完璧にこなしてみせるわ」

「お前がそう言うと信頼感が半端ないな」

「それじゃあ私達は、明日一気にルグルーの街まで行くわ」

「それじゃ俺達は適当に交代で姿を見せて、まだ街にいますよアピールでもしておくか」

「こっちはまもなくアルンの街に着くから、少し休憩したらさらに飛んで、

少しでも距離を詰める事にするわね。途中の安全地帯までは何とか到達してみせるわ」

「疲れてるのになんかすまないな……」

「気にしないで。私達の目的のために、降りかかる火の粉を払うだけの話よ」

「ありがとな、ユキノ。みんなにもお礼を言っといてくれ。それじゃ宜しく頼む」

「ええ」

 

 電話を終えてゲーム内に戻ると、ハチマンはユキノとの話し合いの内容を二人に伝えた。

リ-ファはレコンにメッセージを送り、明日の正確な予定を伝えた後、

シグルドにその時間よりもかなり遅い時間に到着するという偽情報を伝えるように頼んだ。

その後三人は、安全にログアウトするためにスイルベーンへと戻った。

 

「しかしこれだけやって何も無かったらちょっと笑えるな」

「まあその時は楽でいいじゃないか」

「それじゃ二人とも、明日も宜しくね!」

「ああ、またな」

「リーファ、また明日」

 

 そう挨拶を交わし、三人はそのままログアウトした。

ログアウトの瞬間、フードを被ったプレイヤーが遠くから走ってきて、

三人に声をかけようとしていたのだが、残念ながら間に合わなかったようだ。

そのプレイヤーは辺りをきょろきょろ見回した後、残念そうに肩を落とした。

 

「間に合わなかった……まあ明日必ず会えるんだし、楽しみは後にとっておけばいいか」

 

 そう呟くと、そのプレイヤーはどこへともなく去っていったのだった。


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