ハチマンくんとアスナさん   作:大和昭

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ALOへの突入は、第100話の最後になります。そこからが本番ですね!
あと、第095話でユイが目覚めた後、アスナについて言及するシーンを数行追加しました


第099話 ストップ雪乃ちゃん

「しかしみんながALOをやってたなんて、想像もしなかったよ」

 

 キリトがそんな事を言ったが、八幡はそれをバッサリと切り捨てた。

 

「多分キリトもこの場にいたらすぐに気付いたと思うぞ。

その程度にはまあ、わかり易かった」

 

 それを聞いた四人は、ぐぬぬという感じで悔しそうにしていたが、

まず雪乃が立ち直り、咳払いをした。

 

「こほん。それでは情報交換といきましょうか。まずは私達から自己紹介するわね。

私はユキノ。主にヒーラーをやっているわ。種族はウンディーネ」

「ユイユイ!重戦士!種族はシルフ!」

「コマチです!種族はケットシーで、主に斥候をしています!」

「イロハです。ケットシーで、基本攻撃魔法担当です、先輩!」

 

 四人はゲーム内の名を名乗ったのだが、どうやら八幡はそうは思わなかったようだ。

 

「おう、で、ゲーム内の名前は?」

「えっ?」

「いや、その……」

 

 八幡のそのセリフのせいで、場を気まずい沈黙が支配した。

 

「えーっと……」

「おい八幡、もしかして今のって……」

「お兄ちゃん、空気読んで!」

「あ?あー……そうか、そういう事か」

「要するにお前と同じって事だよ」

 

 キリトが面白そうにそう言い、八幡は頭をかいた。

 

「すまん、まさか全員そのまんまの名前だとは思ってなかった。

実際俺も人の事は言えないからな。その、すまなかった」

「あなたが謝る事ではないわ。実際私達もゲームを始めてしばらくしてから、

その事に思い当たってしまったと思ったもの」

「まあALOはキャラの顔がアバターだからまだいいだろ。

俺の場合はな……外で名乗ってそれが元SAOプレイヤーだったら、

一発でバレちまうレベルだからな……」

「まあ、攻略組以外にはそんなに俺達の顔は知られてないはずだし、大丈夫だろ」

「まあそうだな。すまん、話を続けてくれ」

「そうね、それじゃ話を続けるわ。

もっとも伝えるべき情報がそんなにあるわけではないのだけれども」

「雪乃ちゃん、ストップ」

 

 その雪乃の言葉に、陽乃が突然ストップをかけた。

 

「……何かしら、姉さん」

 

 陽乃は八幡を指差してこう言った。

 

「銀影」

「ぐっ……」

 

 次に陽乃は、キリトを指差して言った。

 

「黒の剣士、英雄」

「真顔でそう言われるとちょっと恥ずかしいな……」

 

 キリトはそう言って頭をかいた。

更に陽乃は、飾ってある写真のアスナを指差して言った。

 

「閃光」

 

 最後に陽乃はとてもいい笑顔で雪乃を指差し、そのままの形で静止した。

 

「……何のつもりかしら」

「雪乃ちゃん、分かってるくせに」

「……」

 

 場は静寂に包まれていたが、八幡が何かに気付いたように雪乃に尋ねた。

 

「もしかして、雪乃にも何か二つ名があるのか?」

 

 その問いに対し、雪乃は早口でこうまくしたてた。

 

「何を言っているのかしら比企谷君、

少しは人の気持ちが分かるようになったと思っていたけど、

それは私の勘違いだったみたいね比企谷菌。

何故私にそのような名前がついていると考えたのかしら?

やはりあなたはいつになってもおかしな考え方をするのが直らないみたいね。

謝罪と賠償を要求したいところだけど、このような場でもある事だし、

それは後日の課題にすると言う事でこの場は納めましょう。これでこの話も終わりよ。

少し格好よくなったからといって、いいえ、とても格好よくなったからといって、

調子に乗るのはやめてもらえないかしら。いえ、たまになら良いのだけれど、

毎回というのは私としても恥ずかしいというか、とにかく色々と察しなさい」

「おい雪乃、呼び方が比企谷君に戻ってるぞ。

あと後半は意味がわからん、とにかく落ち着け」

「何かしら、もうこの件について話す事は何も無いはずよ。さあ、話を続けましょう」

「やれやれ……」

 

 八幡は肩を竦め、いきなり雪乃の頭をなでた。

 

「っ……何のつもりかしら……」

「大丈夫、恥ずかしい事なんか何も無いからな。むしろすごいじゃないか。

雪乃がそれだけ活躍してるって事だろう?

そんなすごいプレイヤーに助けてもらえるなんて、すげー心強いぞ。ありがとな、雪乃」

「なっ……八幡君、ずるいわ……」

 

 雪乃は嬉しさと恥ずかしさの間で葛藤しているようだったが、やがてぽつりと呟いた。

 

「………度」

「ん?」

 

 八幡は難聴系主人公ではないため、本当に聞こえなかったようだ。

雪乃はぷるぷると震えていたが、やがて意を決したようにハッキリと言った。

 

「絶対零度、それが私の二つ名よ」

「……そうか、氷の魔法が得意とかなのか?」

「おい、八幡!」

「あ?」

「雪乃さんはさっきヒーラーだって」

「あっ……」

 

 八幡は慌てて雪乃の顔を見た。先ほどまでは恥じらいで赤くなっていた雪乃の顔は、

今は怒りで赤くなっているようだ。その事に気付いた八幡は、自分の迂闊さを呪った。

 

「あ……違うんだ雪乃、ほらアレだ、アレがアレしてちょっと勘違いしただけなんだよ。

つまりアレだ、俺は悪くない」

「お兄ちゃん、その言い訳は小町的にどうかと思うな……」

「先輩、男ならいさぎよく制裁を受けた方がいいですよ!」

「うん、今のはヒッキーが悪い!」

「八幡君はやっぱりまだまだ修行が足りないみたいだねぇ」

「陽乃さん……妹さんを何とかなだめて下さい!」

「ん~?ごめん、無理!」

「そんな……」

 

 その時キリトが八幡の肩をぽんぽんと叩いた。八幡はすがるような目でキリトを見たが、

キリトはとてもいい笑顔でこう言った。

 

「八幡、歯をくいしばっといたほうがいいぞ」

「くそ、何だそのいい笑顔は……」

 

 その瞬間に雪乃が手を振りかぶった。八幡は咄嗟に目をつぶり、歯をくいしばった。

だがいつまで待っても衝撃は来なかった。

そのかわりに八幡は、頬に柔らかい物が触れるのを感じた。

慌てて目を開けた八幡は、顔のすぐ横に雪乃の顔があるのを見つけて、事情を悟った。

雪乃は八幡から離れ、してやったりという風に言った。

 

「ガードが甘いわね、隙だらけよ」

「ぐっ、また油断した……」

「ひゃぁ~、小町お兄ちゃんのキスシーンを見るのはさすがに恥ずかしいなぁ」

「あらあら、雪乃ちゃんやるぅ!」

「ゆきのんが策士だ!」

「雪乃先輩やりますね……

ハッ、さっき結衣先輩も先輩を押し倒したし、私だけ出遅れてる!?」

 

 そう言っていろはは、慌てて八幡の反対の頬にキスをしようとしたが、

それは八幡に頭を掴まれ、阻止された。

 

「させるかっ」

「うー、ひどいです先輩!」

「いろはさんもまだまだね。この男のガードはそれくらいじゃ崩れないのよ。

私みたいに完全に不意打ちしないとね」

「くっそ、お前怒ってたんじゃないのかよ!」

 

 八幡は雪乃に激しく抗議した。

 

「何を言っているのかしら。あなたの失言なんか折り込み済みに決まっているじゃない。

その上で策を立てる事なんか簡単な事ではないかしら」

「八幡がよくやってる事だよな」

「それはそうだが、はぁ……参った、降参だ」

「あなたは常に狙われる立場にあるという事を、もっと自覚するべきね」

「俺の鉄壁のガードはそう簡単に抜けられないはずなんだが、どうも調子が狂うな」

「まあいいのではないかしら。それだけあなたが私達に心を許しているという事なのだから」

「そうか……そうだな。よし、それじゃあ改めて話し合いをするか」

 

 八幡がそう言い、話は今後の事へと移った。まず話を切り出したのはキリトだった。

 

「それで結局、合流はいつになるんだ?」

「明後日ね。私達の現在位置は、スプリガン領の中立都市。

そこから央都アルンに戻るまで、どんなに頑張っても今夜いっぱいかかるわ。

今夜はそこまでで、明後日にあなた達のいる方角へと飛ぶ事になるわね」

「ALOの移動って不便なんだな……」

「リアルさを追求した結果だと思うのだけれど、まあ不便なのは確かね」

「俺達も今夜アルンってとこに向かえばいいんじゃないのか?」

 

 八幡はそう尋ねたが、雪乃はそれを否定した。

 

「ALOでは、プレイヤーは一定以上の高度には飛べないのよ。

そしてあなた達がアルンに向かう途中には、越えられない高い山脈があるの。

だからどうしてもルグルー回廊っていう洞窟を突破する必要があるわ。

あなた達は最初から相当強い状態でスタートする事になったと聞いているけど、

地理に不案内なのはどうしようもないでしょう?」

「確かにな」

「だから知り合いに案内をお願いする事にしたわ。

そしてまずはシルフの領都スイルベーンで装備を揃えて欲しいの。

さすがに初期装備のままというのは危険だわ。

後は自由自在に飛べるようになれば、ほぼ長距離移動に必要な条件は満たされる。

もしサラマンダーあたりと戦闘になる事になっても、

よほどの大人数が相手でもない限り問題ないでしょう」

「わかった。それを今夜一日で達成すればいいんだな」

「そうね。そうすれば明後日、その人の案内でルグルー回廊を突破する事になるのだけれど、

その頃には私達も、距離的に丁度ルグルー回廊の出口に到達出来ると思うわ。

なのでそこで合流する事になるのだけれど……」

「何か気になる事でもあるのか?」

「そうね……あなた達はおそらく世界樹の上に行くために、

グランドクエストに挑むつもりなのよね?でも合流してアルンに向かい、

今いるメンバーでグランドクエストに挑んだとしても、ただ無駄死にするだけよ」

 

 雪乃は八幡とキリトに、そう言い放ったのだった。


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