問題児扱いなら問題児らしく好き勝手しようじゃないか   作:きりがる

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少し用事があったけど早かったでしょう?
評価して評価くれてもいいのよ?


01 普通喚ばれて置いてかれるとは思わないじゃん?

 

 バシャバシャと湖を泳いで岸まで行く。やがて足がつく所まで来ると立ち上がり、ビシャビシャの学ランを脱いでシャツを絞って水をできるだけ落とす。

 

 やれやれ、偽ラブレターにホイホイ釣られて開けてみれば、まさかの異世界に飛ばされるとか、何処の小説の世界? いや、転生を果たした僕の言うことじゃないんだろうけどさ、流石に異世界転移はそう言いたくなっちゃうじゃん? だって異世界転移だぜ? 僕の転生は何も無いただの地球だったしね。

 

 それに比べて空から落ちている時に見た光景はまさに異世界。ファンタジー! なんか翼の生えた幻想生物も普通に飛んでいた。

 

「し、信じられないわ! まさか問答無用で引きずり込んだ挙句、空に放り出すなんて!」

「右に同じだクソッタレ。場合によっちゃその場でゲームオーバーだぜコレ。石の中の方がまだ親切だ」

 

 *いしのなかにいる*

 

 そんなことになれば瞬時に考えることを止めたみたいな展開になるので勘弁願いたいものだ。僕としては布団の中とか炬燵の中のほうが断然親切だ。

 

「まず間違いないだろうけど、一応確認しとくぞ。もしかしてお前達にも変な手紙が?」

「そうだけど、まずは“オマエ”って呼び方を訂正して。―――私は久遠飛鳥よ。以後は気を付けて。それで、そこの猫を抱きかかえている貴女は?」

「………春日部耀。以下同文」

「そう。よろしく春日部さん。次に、野蛮で凶暴そうなそこの貴方は?」

「高圧的な自己紹介をありがとよ。見たまんま野蛮で凶暴な逆廻十六夜です。粗野で凶悪で快楽主義と三拍子揃った駄目人間なので、用法と用量を守った上で適切な態度で接してくれやお嬢様」

「そう。取扱説明書をくれたら考えるわ、十六夜君」

「ハハ、マジかよ。今度作っとくわ」

 

 うわ、濃いメンツ。

 

「最後に、目の腐っている貴方は?」

「おいおい、腐ってるなんて酷いじゃないか。まあいいさ、許してあげよう、僕は優しいからね。さて、無難な自己紹介で〆るとしようか。どうも、白崎黒葉です。人畜無害で温厚篤実で寛仁大度と三拍子揃った聖人君子のような人間なので、用量も用法も気にせずに気さくな態度で接するといいよ」

 

 ヘラヘラとにこやかに笑顔で自己紹介をする。そんな僕を見て飛鳥ちゃんは顔を顰め、耀ちゃんは興味なさそうに猫を弄り、十六夜君は何やら意味を含んでいそうな笑みを浮かべていた。それと、僕の目が腐ってるのは仕様だから。一回死んでるからこうなっただけだから。

 

 なのに、直死の魔眼のようなものを授かったなんてことはなかった。死ぬときも適当なこと考えていたから駄目だったのだろうか。わかんないね。

 

「で、呼び出されたはいいけどなんで誰もいねえんだよ。普通、説明する奴が現れるもんじゃねえのか?」

「そうね。何の説明もないままでは動きようがないもの」

「……この状況に対して落ち着きすぎているのもどうかと思うけど」

 

 それな。

 

 僕の渾身の自己紹介はサラッと流されて三人でそんなことを話し始めた。三人だけで話が回っている当たり、僕はいないものとされているのかもしれない。うわ、普通に傷ついた。自己紹介が駄目だったのだろうか。あれだけ完璧だったのに。

 

 それにしてもこの三人はリア充か何かなのだろうか。出会ってすぐにここまで意気投合して話すことができるなんて、僕には絶対に無理だ。なにせ、人が寄ってこないからね。僕は何時も一人ぼっち…べ、別に悲しくなんてないんだからね! 孤独じゃないのさ、孤高なだけだ!

 

 この言い訳を僕の心の中で何回したことだろうか。もはや決め台詞なまである。

 

「―――仕方ねぇな。こうなったら、そこに隠れているやつにでも聞くか?」

「なんだ、貴方も気づいていたの?」

「当然、隠れんぼじゃ負けなしだぜ。そっちの猫を抱えているやつも気づいていたんだろう?」

「風上に立たれたら嫌でもわかる」

「………へぇ、面白いな、お前」

 

 僕だけ話についていけない件について。

 

 何やら三人は個々にいない誰かの気配を感じ取って、三人だけで話を進めているらしい。これはダメだ、本格的に僕は除け者にされている。いいさいいさ、僕は一人で寂しく端っこで見学してるよ。

 

 ステルスもかくやという気配の消し方で少し遠目にある岩の上に腰掛けた。ついでに学ランを木に引っ掛けておいた。

 

 視線を戻せばなんと吃驚、ウサ耳を生やした美人な子が居た。露出の多い服は大きな胸に谷間を作り、見えるんじゃないかと思うミニスカート。その下から伸びるスラリとした脚はニーソに包まれていて、おまけにガーターベルトまで付けているためとてもエロく見える。エロウサギ。

 

 二次創作においてウサ耳キャラは大体容姿端麗が多く、オリジナル小説なんかは奴隷なんかによくなっている。でも、ウサ耳キャラって大体似たような顔だよね。大好きだけど。

 

「や、やだなあ御四人様、そんな狼みたいに怖い顔で見られると黒ウサギが死んじゃいますよ? ええ、ええ、古来より孤独と狼はウサギの天敵でございます、そんな黒ウサギの脆弱な心臓に免じてここはひとつ穏便にお話を聞いていただけたら嬉しいでございますヨ?」 

「断る」

「却下」

「お断りします」

「あっは、取りつくシマもないですね♪」

 

 バンザーイとウサ耳ちゃん。断られたことに対して喜んでいるのかもしれない。もしそうなのであれば、割りとMな感じがする。美人なウサ耳っ子がMとか、なにそれ最高じゃねぇか。

 

 とまぁ、そんなことを考えていても、僕があんな綺麗な子とお近づきになるなんてことないだろうけどさ。僕の人生、綺麗な子どころか女の子すら近くにいなかった。なんなら頭のおかしな奴に付き纏われてたからね。ストーカーかよって感じの太った男で、私物がなくなっていたり、盗撮されてたり…あいつ、絶対にホモだよ。あー、思い出すだけでも気持ち悪いぜ。ま、ボコボコにして社会的に殺してから警察に突き出しておいたけどねー。

 

 今度は三人がウサ耳ちゃんのウサ耳をグイグイと引っ張って遊んでいる。ああ、羨ましいな…僕もウサ耳を好きに愛でてみたいね。

 

 暫くして三人も落ち着いたのか、ウサ耳ちゃんもとい、黒ウサギちゃんの話を聞き始めた。黒ウサちゃんは僕に気づいているのか気づいていないのかわからないけど、声は僕の居るここまで聞こえてくる。ただ興奮してるだけかな?

 

 説明から聞こえてきたのはこの世界…箱庭のこと。ギフトゲーム、恩恵、箱庭、コミュニティ、修羅神仏……ここは随分と愉快な世界のようだ。

 

 どこかのコミュニティに属してギフトゲームを自身の持っている恩恵(ギフト)を用いて行い、好きなチップを賭けて様々なルールで勝負事。話を聞く限り、あの三人は最高級のギフトを持っているからこの世界に喚ばれたのだろう。にしては、あの黒ウサちゃんの属してもらいます宣言の時の、表情の裏に隠された感情……随分と必死みたいじゃないか。

 

 僕も手紙で喚ばれたことからギフトを持っていると思われているのだろう。恐らく、()()のことかな? 転生を果たした時に、神様が気まぐれでくれたのかもしれないものだ。平和な世界では大して使うこともなかったけど、使い方だけは完璧に把握しておいたから大丈夫……のはず。

 

 話の最後に、十六夜君の質問があった。

 

「この世界は……面白いか?」

「――YES、『ギフトゲーム』は人を超えた者たちだけが参加できる神魔の遊戯。箱庭の世界は外界より格段に面白いと、黒ウサギは保障いたします♪」

 

 そんなやりとりを見ながら思う。

 もし、この世界の出来事が物語であるなら、十六夜君が主人公で、黒ウサちゃんがヒロインなんだろうなぁ、と。

 

 この三人が主要人物であるなら、僕はその三人の間に入り込めるだろうか。入り込む余地はあるのだろうか。この三人で完成させることができる物語……例え、僕が入り込めないとし

 

ても、僕は僕なりに楽しんでみせよう。その結果、物語がどう変わろうとも。

 

 

 

 

 

 

 世界は僕を置き去りにして進んでいる。

 

 何やら格好良いことを言っているが、別にそこまで名言でもない。あいつら、いい雰囲気で終わって僕を置いてどっかに行きやがった……ッッ!!!

 

 話が終わったから学ランを取って濡れ具合を少し確認している間に何処かに消えやがった。後ろを振り向けば既に誰もおらず、僕は学ランを持ってぽつんと取り残されていた。

 風に撫でられサワサワと揺れる草木と、赤くなり始めた太陽の光をキラキラと反射している水面。鳥らしき生物が鳴きながら群れを成し、どこかへ飛んでいく。

 

 そして、ポツリと立ち尽くす僕。

 

「おいおい、勘弁してよ……」

 

 そう呟けど、現状は何も変わりはしない。僕の表情は引き攣ったままで、普段のヘラヘラした笑顔すら何処かへ行ってしまった。誰か世界の矢澤を呼んでくれないかな? ニコニコの魔法とか笑顔の魔法かけてもらって、にっこにっこにー!って叫ぶんだ。

 

 ここで野宿なんてことも考えられないので行動に移る。取り敢えずあの四人の居た方向に進んでいけばいいのだろう。

 そう思ってのんびりと歩いていく。焦ったって早く着くなんてことはないし、僕の性格からもこの程度で焦るなんて考えられない。まだ行ける。謎の自信である。

 

 日本では考えられないような太さの木の間をスルスルと進んでいく。背も高く、幹の太い木が連なる森の中を歩いているとまるで何かの物語の世界に来たみたいだ。ジブリとかだろうか。や、僕の結び付けられるイメージ像が少なすぎるだけかな。

 

 段々と辺りが赤く染まってくる。やがて、僕は大きな川に辿り着いた。ザアザアと滝が音を立て、大量の水が流れ落ちている。大量の水を受け止めている川には一つの大きな白い物体が浮かんでいた。

 

「え、何アレ……デカい蛇?」

 

 しかも白い蛇だ。古来より白蛇は水神として有名だが、もしかしてこの川の神とかだろうか。神のテリトリーに勝手に入ってしまったが、大丈夫かな? もしシャーの一言でぱくんと食べようとするなら、僕は神殺しを成し遂げて神殺しの魔王…カンピオーネになっちゃうんだけど。

 

 丁度頭が岸のところに打ち上げられている感じであるので、そこまで行って死んでいるかどうか確かめてみる。好奇心には勝てなかったよ。

 

 枝を適当に拾ってソロリソロリと近づいた僕は、ゆっくりと枝を近づけてつんつんと巨大な頭を突いてみる。存外硬い鱗のようで、一回ついただけで枝がペキリと折れてしまった。

 

『………何か用か、人間』 

「うぉう、蛇が喋った!」

『喋ったら悪いか?』

「いやいや、そんなことないぜ? 喋る鳥だって居るんだ、蛇が喋ってもいいんじゃないかな?」

『フッ…それもそうだな』

 

 いきなり話しかけてきた白蛇は僕とのやり取りで何やら笑ってくれた。何が面白かったのだろうか。

 白蛇はのそりと起き上がる。巨体から水が滴り落ち、僕の頭上高くにさっきまで目の前にあった顔が上がる。おー、と枝を持ったまま感心していると、白蛇は更に話しかけてきた。

 

『さて、それで、何か用か? 人間。ギフトゲームなら今度にしてくれ。今は些か体の調子が良くないのでな』

「んにゃ、ギフトゲームじゃないさ。別に用事もない。僕は迷っていてね、ここに偶々辿り着いただけだよ」

『迷子だと?』

「迷子だよ。いやぁ、吃驚したものさ。ラブレターかと思った手紙が、まさか異世界行きの片道切符だなんてね。湖ボチャンからの迷子だよ」

『異世界行き? フム……人間、もしかして箱庭の貴族の仲間か?』

「ん? 箱庭の貴族って?」

『黒ウサギという奴だ』

「黒ウサちゃん? まぁ、仲間とはいえないだろうけど、僕を理不尽に喚び出して捨てていった美人なウサ耳っ子さ」

 

 黒ウサちゃん、箱庭の貴族なんて呼ばれてるんだね。あの服装で貴族なんて言われているのか…箱庭の貴族(笑)なんていうものかもしれない。貴族は誰かしら頭がおかしいものだと思ってたけど、黒ウサちゃんもおかしかったんだ。エロ方向に。

 

『仕方ない…道案内くらいしてやろう。感謝するがいい、人間』

「じゃあ感謝してあげようじゃないか、爬虫類。僕の感謝は凄いぜ? なにせ、感謝の念が一つも篭ってないからね」

『ハハハッ! 貴様は面白いことを言う人間だな。小僧、名は?』

「そういうのは自分から名乗るものじゃないのかな?」

『フフ…それもそうだな。我相手にここまで飄々と接するとは…気に入ったぞ。我が名は白雪姫だ。小僧、貴様はなんという?』

「僕は白崎黒葉だよ。それにしても白雪姫って…毒リンゴでも食べちゃう系お姫様?」

『そんなわけあるか。夜叉ヶ池の方だ』

「ああ、納得」

 

 泉鏡花の夜叉ヶ池の方ね。夜叉ヶ池の主・龍神がそんな名前だったような。まあそれはいいとして道案内してもらおう。

 

「それじゃ早速道案内よろしく。人がいる所までお願いしたいんだけど、道中は色々よろしくお願いするよ。僕は見たまんま弱っちい人間様だからね」

『よく言う。弱い人間が我とこうして話せるものか。まあいい、黒葉よ、乗るといい』

「おお、気前のいい姫様だね。よっこいしょっと」

 

 道案内してくれるだけではなくて、まさか頭の上に乗せて送ってくれるなんて、至れり尽くせりじゃないか。ありがたいことに僕は歩くこと無く、散歩気分を楽しめるようだ。

 

 僕の目の前に来た頭に乗せてもらうと、グッと上に持ち上がった。瞬時に木より高くなる視界にわくわくしてくる。

 

「おおっ」

『落ちないように気をつけろ』

 

 そう言われて落ちないように角っぽいのに掴まると、白雪ちゃんは蛇行し始める。ずるずると地面に跡を残しながら進む。まさかこんな大きな蛇に乗って散歩できるなんて、夢にも思わなかった。やろうと思えば僕一人でもできるシチュエーションだけど、これはこれで意外と心地よい。

 

 先程まで歩いていた木の下を、今度は木の上から進んでいる。現実離れした光景とイベントだ。これだけでつまらなかった日常に面白みが出る。いいね、また乗せてもらいに来ようかな。

 

「高い視点もいいものだ……それにしても白雪ちゃん」

『し、白雪ちゃん……? 我のことか?』

「うん。で、白雪ちゃんはなんでそんなにボロボロなの? 誰かとバトったあと?」

『ああ……ノーネームの小僧と少しばかりな。喧嘩を振ってきたと思ったら神格を持つ我にゲーム関係なく勝つとはな……』

「へぇ、ノーネーム…当たり前だけど、知らないな。喧嘩売って白雪ちゃんの綺麗な体に傷を残すなんて、なんてやつだ」

 

 元は白い綺麗な鱗だったのだろうが、恐らく激しかっただろう戦いによって傷がついたり汚れたりしている。撫でるようにして頭の上の汚れを取ってあげる。

 

『………………』

「……あれ? もしかして照れてる?」

『う、五月蝿いぞ! そんなこと言われたこともなかったから驚いただけだ!』

「ふ~ん、意外に可愛いところもあるじゃないか」

『蛇相手に綺麗なんて言う輩はおらん。お前がおかしいだけだ』

「失敬な。綺麗な景色を見て綺麗という。美女を見て綺麗という。美しいものを見て綺麗という。同じようなことじゃないか」

『それもそうだが……』

 

 川からそれなりに離れたところでそんなことを話しながら進んでいる。どうやら白雪ちゃんはそこまで交流関係が多いというわけでもなく、何気ない言葉にも大げさに反応する。その反応がちょっと可愛らしい。

 

 他にも照れそうなことを言いまくって弄っていたら、突如上空から何かが降ってきた。瞬間、白雪ちゃんが戦闘態勢に入る。体から何やらオーラ的な物を滲み出して、周囲に水の弾幕を張る。この世界にも弾幕ごっこはあったのか…知らなかったよ。

 

 問答無用で弾幕を放とうとした白雪ちゃんだが、その前に落ちてきた何かが叫んだ。

 

「お、お待ち下さい! 先程もお会いした黒ウサギです!」

『……今度は何だ。水樹の苗だけでは足りず、また戦おうというのか?』

「うわ、何それ下衆い。弱っている敗者に目をつけて、全てを毟り取ろうとしてるのか…質の悪い借金取りかよ」

「ち、違いますよ! 黒ウサギは白崎さんを迎えに来たのデス!」

 

 下衆い奴が白雪ちゃんから全てを搾取しようとするのかと思ったら、まさかの僕のお迎えでした。まあそろそろ夜になるからね。門限というものがあるのかもしれない。お母さんが帰ってこない困った子供を迎えに行く感じ? 困っているのは子供のほうだよ。お母さん、子供放ったらかしてどこか行くんだからさ。

 

「ということで白雪ちゃん、お母さんが迎えに来たから僕は行くよ」

「お、お母さんッ!?」

『ああ、まるで駄目なお母さん、略してマダオだがな』

「全くだぜ。でもなんで白雪ちゃんがマダオのこと知ってんの?」

 

 この世界にも銀魂の漫画はあるのだろうか。それとも誰かがその言葉を作っちゃった感じ?

 

 僕が降りやすいように白雪ちゃんは頭を下げてくれたので、地面に向けてジャンプして降りる。最後に白雪ちゃんの鼻先を撫でてからお礼を言った。

 

「じゃあね。ここまでの道案内?助かったよ」

『うむ。我も中々に面白い話ができてよかった。また遊びに来い、黒葉よ。お前だけなら歓迎してやる』

「わぁお、好感度高いね。了解だよ。お茶と茶菓子でも用意して歓迎でもしてね」

『フッ…遠慮がないな。だが、お前はそれがいい。さらばだ』

「ういうい」

 

 僕らに背を向けてズルズルと来た道を戻っていく白雪ちゃんに軽く手を降ってから黒ウサちゃんに振り返る。何故か、黒ウサちゃんの顔は何かに驚いたように口を開けていた。

 

 そっと指を口の中に向けて差し出してみる。黒ウサちゃんの吐息が分かる位置まで来て、あと少しで舌に触れるというところで……ガチンと勢い良く閉まった。

 

「危ねッ」

「し、白崎さん、先程の方とは一体どのような関係で!? なぜああも親しげだったのですか!?」

「いや、最初に聞くことそこ? 別にいいけどさ……アレだよ、迷い迷って偶然出会ったのが白雪ちゃんだ。何やらぐったりしてたけど、話しかけてみたらあら吃驚。蛇が喋るんだもの。まあ人形の兎が喋るなんて言う奇っ怪なこともあるんだし、喋ったっていいじゃない、蛇だもの。くろを」

「いえ…そんなこと言ったら喋る人形の虎なんかも居ますからね。まあいいです、白崎さんがご無事なら。それよりも、申し訳ありませんでした。白崎さんを置いたまま事を進めてしまって」

 

 ウサ耳をしゅんと萎れさせて深々と頭を下げる黒ウサちゃん。まあ、あれは僕も遠くから眺めていたのも悪かったと思うよ。流石に喚び出した本人が忘れるなんて思っても見なかったけどね。

 でも、ここまで罪悪感を感じているなら、利用しない手はない。基本、僕の使う手は下衆い。あ、下衆いって言っちゃったよ。せめて掴み所がないとか、天邪鬼とかにしよう。

 

「いいさいいさ。なんで喚ばれたかもわからない一般人だし、特徴もない凡人だから忘れられることもあるって! 目の前にイケメンと美少女が居たら、モブ男なんて目に入らないよね」

「い、いえいえそんなこと…! 白崎さんも綺麗なお顔をしていらっしゃいますヨ!」

「うわ、お世辞で言われると何気にダメージがデカい…まあいいとしてさ。そんなに罪悪感を感じてくれているのなら、僕の言うことを一つ聞いてくれるだけで勘弁してあげようじゃないか」

「言うこと、ですか?」

「そう、罪滅ぼしだと思って聞いてくれればいいよ。ん~……何にするか。そうだ、一ヶ月僕のメイドさんになってもらおう!」

「え、えぇぇええぇッ!!? メ、メイドッ!!?」

「うん。メイド。まあ僕のお世話するみたいな? メイド服来てくれれば嬉しいけど、それはまた今度の機会にでも。で、どう?」

「うぅ……し、しかし今回のことは黒ウサギが悪いですし……わ、わかりました。黒ウサギにお任せ下さい!」

「おおっ、ありがとね。あと、黒葉でいいから」

 

 やる気になってくれたようだが、多分他の三人のこともあるし、あまり期待は出来なさそうだけど、してくれたら儲けものみたいに思っておこう。それにしても、ウサ耳メイド服の美人メイドさん…見たかった。今度絶対に何かしらの理由をつけてやってもらおう。

 

 それから皆と合流するからと森を抜けた。その間に色々と聞いたけど、黒ウサちゃんの居るコミュニティと僕がこれからはいるところはノーネームというところらしい。これって白雪ちゃんの言ってた……お前らかよ!

 

 しかも旗のないノーネームは崖っぷちであり、ヤバメなので今回僕達を喚んだらしい。僕、役に立つかわからないぜ? なにせひょろひょろのもやしのようなボディで女みたいって言われたからね。

 

 月明かりと街灯の照らす並木道を黒ウサちゃんと二人で歩いて行く。上からは桃色の桜のような花がひらひらと舞い落ちており、日が暮れたこの並木道からしてまるでデートみたいだが、僕が黒ウサちゃんの後ろを歩いており、丸い尻尾と大きなお尻を眺めているだけだから違う。変態ではない。

 

 やがて、一つの店についた。商店の旗には、蒼い生地に互いが向かい合う二人の女神像が記されている。あれが“サウザンドアイズ”の旗であり、この店に掲げられている。

 

「ここです。ここに皆様方がいらっしゃいます」

「ふ~ん、ここにねぇ…ここでギフトカードがなんちゃらだっけ?」

「YES。さ、入りましょう」

 

 黒ウサちゃんの後ろを再びついていき、一つの和室に入った。そこにはあの主要キャラ三人組と一人の白髪の幼女がお茶を飲んでいた。入った瞬間の幼女からの観察するかのような視線…ぼっちは視線に敏感なんだ。そういうの、すぐわかるんだぞ?

 

「ほぅ、其奴が最後の一人か?」

「お待たせしてしまって申し訳ありません、白夜叉様。此方が白崎黒葉様です」

「どうも、白崎黒葉です。人畜無害で温厚篤実で以下略…よろしくしてあげようじゃないか」

「ちょ、黒葉さん! 白夜叉様になんてことを……」

「よいよい。なかなか面白い小僧じゃないか。儂は白夜叉という。よろしくしてもらおうかの」

「オッケー。で、僕は面白味もなかったと思うけど、美味しかったかな?」

「まだ舐めたばかりだぞ? まぁ、今しがた面白味を感じたところさ」

「なら良かったよ。記念に本当に舐めて味わってくれてもいいんだよ?」

「ふむ、舐められるのが好きなのか?」

「6:4くらいで舐めるほうが好きかな」

 

 何やら偉そうな白夜叉ちゃん相手に馬鹿な話をしながら開いている場所に座ると、座ると同時にわざわざ白夜叉ちゃんがお茶を入れてくれたのか置いてくれた。ちらりと他の三人を見ると既にカードのようなものを持っている。僕が来る前に全て事は終わったようだ。

 

 黒ウサちゃんと白夜叉ちゃんが話し合っているのを聞いてみると、なにかゲームをしたらしくて、その報酬にカードを貰ったようだ。惜しい…初めてゲームが見れると思ったんだけど、どうやら遅刻だったみたい。

 

 んで、どうやら僕にもカードをくれるらしい。また、初対面の人に勝手に気に入られた。白雪ちゃん、白夜叉ちゃんの二人だ。どうでもいいけど僕も白崎だし、白白白だね。

 

 柏手一つ。その手には白黒のギフトカードがあった。

 

「ほれ、これがおんしのギフトカードだ。受け取れ」

「おー、ありがとさん。只ほど良いものはないよねー」

 

 白崎黒葉・ギフトネーム“魔獣創造”“無限の龍神”

 

 そんなことが書かれていた。

 そう、僕の能力はあの神器・魔獣創造だ。転生をしたと認識した瞬間、胸に熱い感覚があった。それを瞑想をするかのように確認してみると、この神器が入っていた。

 

 そしてもう一つのギフト・無限の龍神は知っての通りオーフィスだ。いや、HSDD繋がりで創ってみようと思って創ってみたんだけど、暇な時の遊び相手としてオーフィスを出していたら一つの存在として確立していた。まともなキャラを創ったのはオーフィスだけだけど、恐らく…いや、絶対に他のキャラも自由に作れると思うんだ。それまでは適当に動物とか未知のナニカを創ってたりしてたけど。

 

「おんしのギフトはなんだ?」

「おっと」

 

 白夜叉ちゃんが勝手に僕のギフトカードを見てこようとしたので、直ぐ様上に上げて見えないようにする。

 

「む、何故見せんのだ」

「フッフッフ…これは既に僕のものだ。僕のカードを誰に見せようが見せまいが、僕の勝手ということさ」

「ケチッ」

「ケチで結構。僕のを見たいなら好感度をもうちょっと上げるんだね。僕の攻略難易度はかなりハード…いや、ルナティックだぜ? ちなみに、男でもあげられるから十六夜君も頑張るといいよ」

「お、そうなのか。なら頑張らねーとな」

 

 冗談で言ったのに笑いながらそんなことを言う十六夜君…なんで受け入れたんですかねぇ、ホモなの? 僕は美少女と美女が大好きなんだけど、優しくしてくれる相手なら好きになっちゃうぜ? ホモにはならないけど。好感度的にね。

 

 

 

 




物語がサクサク進むけどいいですよね? 恐らく十話も行かない内にルイオス編終わってそう。

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