セクハラ提督と秘密の艦娘達   作:変なおっさん

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『居酒屋鳳翔②』

「ていとく~、榛名よっちゃいましたぁ♪」

 

「そのようだな」

 

 榛名と共に酒を飲み始めたがどうやら榛名は酒にはそこまで強くないようだ。今では、頬を赤く染め私の腕にしがみ付いている。柔らかい……とても柔らかい。

 

「榛名、そろそろやめておいた方がいいのではないか?」

 

「むぅ~、そんなことを言うのはこの口ですか? えいえい♪」

 

 指でツンツンされる。今下手に口を開くと大変な事になりそうだ。

 

「えへへ~、ていとく~♪ もっとのみましょ~♪」

 

 新しく酒が注がれる。なんだか上官に連れていかれた夜のお店を思い出してきた。あの時は、私ではなく他の者が同じような状況だったが。

 

「あと一杯だけだぞ?」

 

「もうそんなこと言わないでくださいよぉ~。榛名はていとくのモノなんですからぁ~。なんでも命令してくれていいんですよ?」

 

 周囲を確認する。忙しいか酔っ払っているかで誰も見てはいない。

 

「まさか……」

 

 今の榛名の言葉は、催眠術を掛けている時に言う言葉だ。なぜ、それを今言うのだ?

 

「考えられるのは一つだけか」

 

 催眠術の副作用。酒により意識が混濁しており催眠状態と似た様な状態になってしまっているのではないのか? その為、何度も催眠術に掛けられた榛名は酒でも催眠術の効果がある状態に? これは調べる必要があるな。

 

「榛名」

 

「はい。ていとくの榛名ですよぉ?」

 

「危ないからしっかりとつかまっておきなさい」

 

「は~い♪」

 

 榛名の腕に力が入り、ギュッと腕を抱きしめられる。

 

(行けるのか?)

 

 仮にこれでいけるとするなら戦略に幅が広がる。催眠術を掛けるのはなかなかに大変だ。しかし、酒に誘うのはそこまで難しくはない。それこそ此処でなら問題はないだろう。隣に座った者に酒を飲ませ、そのまま……いかん。それでは犯罪ではないか。いや、催眠術を使っている人間が何を言ってもダメな気はするが。

 

「どうかされましたか、提督?」

 

「――はっ!? いや、なんでもないぞ、鳳翔!」

 

 気迫のある声に思考の底から一気に現実へと引き戻される。なんだ……鳳翔から覇気を感じる。これはまずい。

 

「すまない、鳳翔。榛名が酔ってしまっていてな。部屋に送ってやってほしいのだ」

 

「……そうですか。瑞鶴さん、龍驤さん。榛名さんをお部屋までお連れして」

 

「わかりました。帰りましょう、榛名さん」

 

「せやで。これ以上はあかんで」

 

「まってください……榛名は、榛名はていとくのおそば――」

 

 瑞鶴と龍驤に両脇を抱えられ、榛名も足柄に続き退場する。

 

「しかし、席を共にして分かったが艦娘とは酒癖が悪いものなのか?」

 

「どうでしょう? お隣、失礼しますね」

 

 榛名が居た席に鳳翔が座る。

 

「もう大丈夫なのか?」

 

「はい。後は、出すだけですので」

 

「そうか。では、注ごう」

 

 鳳翔の分の杯を用意し、酒を注ぐ。

 

「そう言えば、今日は島風さんと遊ばれたそうですね。島風さんが嬉しそうにいろいろな所で話していましたよ」

 

「恥ずかしいな。しかし、島風は早過ぎだ。これでも体力には自信があったのだがな」

 

「提督の指示で機動力の鍛錬を重点的に行っている成果ではないでしょうか?」

 

「それは、あくまでも海上での話だろ? 陸上まで影響のあるものなのか?」

 

「島風さんは、普段から走っているようですからその影響ではないでしょうか?」

 

「鍛錬の成果か……しかし、悔しいものだな」

 

 見た目が子供な島風に惨敗。情けないが、結果は絶対だ。

 

「提督も子供らしい所があったんですね。いつも気難しいお顔でお仕事をしていましたのに。いったいどのような心境の変化があったのですか?」

 

「心境の変化か」

 

 まさか催眠術の本を手に入れ、欲望の赴くままに行動しているからだとは言えない。

 

「確か、催眠術の本を手に入れたとか? 前に此処でお話していましたものね。子供の頃にそういったものに興味があったと」

 

「……話した事があったか?」

 

「もう、忘れるなんて酷いですよ」

 

「すまない。そうか……鳳翔には話していたのか」

 

 別に大した事はない話だ。子供なら一度は未知の力、不思議な力に憧れるものだ。魔法、超能力、気。それらを扱えたらどれだけ楽しいのかと想像に耽ったものだ。

 

「恥ずかしながら気ぐらいなら使えないものかと子供ながらに武術を学ぶ事にした。しかし、何をやってもできる事はなかった。ただ、催眠術は他とは違い存在する可能性があった。だからか……興味はあった。試す相手も機会もなかったが」

 

 しかし、催眠術は実在した。そして、今やその力を手に入れた。

 

「でも、その本のおかげで提督は皆と関われる事ができました。慕われては居ましたけど、上官として常に距離を取っておられましたからね。最近では、提督と何をしたのかを話すのが一つの楽しみのようですよ?」

 

「……聞きたくなかったな」

 

「もう、照れないでください」

 

「そうは言うが自分の事を話されるなど恥ずかしいだろう。しかし、こんな私の事など面白くもないだろうに」

 

「そんなことはないと思いますよ? 皆さん、提督とお話をしたかったようですから。なにかきっかけでもあればと話していたぐらい」

 

「うむ……」

 

 まさかそこまで。やはり、神か悪魔かは知らんが見ている者は見ているのだな。あの本を私に与えてくれた者には感謝せねばなるまい。

 

「提督、今日は私とお話でもしましょう。今までもこうしてお話したことはありましたけど、前よりも楽しいお話が出来そうですから」

 

「……もう少し飲んでからだ」

 

「それでは、注がせて頂きますね」

 

 居酒屋鳳翔が出来てからこうして鳳翔とは少しだけだが最後まで残り飲んでいた。此処では、上官と部下ではなく、客と店主として関われるように。本当に鳳翔には世話になっているな。

 

「世話を掛けるな」

 

「お互い様です」

 

 今この泊地に居る者の中でただ一人鳳翔には催眠術を掛けていない。おそらくこれからも掛ける事は……たぶんないと思う。

 


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