セクハラ提督と秘密の艦娘達   作:変なおっさん

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『case15 大淀②』

 

「提督、失礼します」

 

 大淀は、提督の部屋を訪れる。

 

「昨日は、神通さんが提督と飲まれたとの事ですが……ぐっすりと眠られているようですね」

 

 大淀は、酒を飲んで眠りが深くなっている提督を念のために起こしに来た。但し、本来の起床時間よりも少し早い。

 

「見る限りお酒はそれなりですね」

 

 部屋に残っているお酒の量を確認する。実際の飲酒量は分からないが二人で飲み合ったと考えても十分だろう。

 

「……先に目覚ましを止めておきましょう」

 

 慣れた手つきで目覚ましを止める。

 

「全部、提督が悪いんですからね?」

 

 未だ夢の中に居る提督に声を掛ける。提督は、大淀が部屋を訪れていることを知らずにベッドで眠りに就いている。

 

「失礼します」

 

 キョロキョロと周囲を確認してからベッドの中へと潜る。

 

「温かいです」

 

 提督の腕を枕にするようにして身体に抱きつく。布団の中でこもった体熱を感じながら提督の身体に触れる。

 

「シャツ越しですからドキドキしますね。提督は、鍛えていますから……凄く男らしいです」

 

 シャツ越しに触る提督の上半身に心臓が高鳴るのを感じる。鍛えられた胸筋に腹筋。枕にしている腕もそうだ。逞しい男の身体に気持ちが昂るのを抑えられない。

 

「このまま時間が止まればいいのに」

 

 先ほど止めた時計を見る。幸せな時間は過ぎるのが早い。あっと言う間だ。

 

「これ以上は無理ですね。残念ですけど……」

 

 名残惜しい。できればここから離れたくない。そう思う大淀に一つの考えが浮かんでしまう。この前の催眠術での出来事。それが浮かんでしまうと意識がそれから離れなくなる。

 

「……提督」

 

 大淀は、ゆっくりと提督の顔へと近づく。言葉通り、その距離は目と鼻の先。あと僅かでも近づけば触れてしまえる距離。

 

「この前のお返しです」

 

 先ほどよりも更に心臓が高鳴る。痛いほどに。でも、それでもやめられない。

 

「……しちゃいましたね」

 

 提督の頬に口づけを。

 

「あの後、いろいろと考えました。できれば、起きている時にしてほしいです。でも、それだと少し怖いです。提督、あなたは酷い人です。こんなにも――」

 

「はい、ストップ」

 

 急に聞こえた声に全身が強張る。声を上げなかったのは可能性を考慮していたおかげだろう。

 

「……夕張さん」

 

「おはようございます」

 

 天井板が外れており、そこから夕張が顔を出している。欠伸交じりで眠たそうだ。

 

「まったく、朝っぱらからはやめて下さいよね。こっちも大変なんですから」

 

「……いつから見ていらしたんですか?」

 

 そそくさとベッドから出ると身なりを整える。

 

「言わなくても分かるでしょ? 私と青葉さん、それに明石の三人は公正な審判なんですから」

 

「内緒でお願いします」

 

「詳細は内緒にしますけど今日行われる会合には顔を出して下さい。皆さんのお気持ちは分かりますけど気をつけてもらわないと困るんですよ。だいたい私なんてまだ抱きしめてもらってすらいないんですからね。身近に居る大淀さんは少し自重でお願いしますよ。そうでないとズルいですよ」

 

「身近に居るからこそ辛いこともあるんです。夕張さんに分かりますか? 生殺しもいいところです」

 

「贅沢な悩みに聞こえますけど。とりあえず一旦引きますね。それじゃあ、お願いします」

 

 夕張は、天井裏に引っ込むと天井板を元通りに直す。

 

「気配はないと思ったんですけどね」

 

 目覚ましをセットし直す。あと数分で起床の時間だ。

 

「3、2、1……提督、起床のお時間になりました」

 

 部屋に鳴り響く目覚ましの音と共に提督に声を掛ける。

 

「……大淀か?」

 

「はい。おはようございます」

 

 提督は、のそのそと身体を起こす。

 

「お酒を飲まれると聞いておりましたので念のために起こしに来ました」

 

「そうか。大淀には、毎度迷惑を掛けるな」

 

「いえ、迷惑などではありません。言って頂ければいつでも」

 

「それは助かるな。上官が寝坊などするわけにはいかないからな」

 

「それでは、先に司令室でお待ちしております」

 

 大淀は、着替えなどの邪魔にならないように部屋から出て行く。

 

「……飲むことを大淀に言ったか?」

 

 言った記憶はないが、言わなかった確証もない。と言うか頭が痛くて昨日の記憶が曖昧だ。ベッドで横になってから何かあったような気がするが思い出せない。

 

「神通となにかあったか? ベッドに横なってからの記憶がないな。まぁ、私が酔う分にはないだろう」

 

 サッサと着替えてしまおう。それで神通に会えたら迷惑を掛けた詫びの一つでもしておかないとな。

 

 

 

 ♢♢♢♢♢♢

 

 

 

 泊地には、緊急用のシェルターが配備されている。整備や点検は秘書艦である艦娘達の管理の下に置かれているので内情を提督が知る事はない。今では、シェルターの形は守ってはいるが艦娘達の秘密の憩い場となっている。

 

「本日は、今まで参加していなかった『ダイヤモンド』さんからの要望で会合を開きます。司会は、『見ちゃいました』がやらせて頂きます」

 

 此処に来る際には、身元を隠すために偽名と仮面を使う決まりになっている。誰かは分かるが、その方が本音で話しやすいという配慮からだ。司会である見ちゃいましたは、マスクにサングラスをしている。

 

「my sisterから話は聞いています。ですが、どこまで許されるかが曖昧デース。詳細を求めマース」

 

 仮面舞踏会で使われる煌びやかな仮面を着けたダイヤモンドは、見ちゃいましたに詰め寄る勢いで問い質す。

 

「そうですね。メロンさんからもありましたが、どうも決まりを破りそうな人達が居るみたいですし。『やまない雨はない』さんと『メガネ委員長』さんのお二人ですよ」

 

「仕方ないじゃないか。提督と一緒だと気持ちが抑えられなくなるんだよ」

 

 こちらはサングラスだけのやまない雨はない。

 

「今まで一歩引いていた提督が傍に居るんです。決まりは分かりますけど、耐え難いものがあります」

 

 こちらはマスクのみのメガネ委員長。

 

「気持ちは分かりますが、仮に司令官にバレた場合を考えて下さい。司令官が責任を感じて、その時の誰かと結婚をするのは百歩譲って許します。ですが、艦娘達と距離をとるような事になったらどうするんですか?」

 

「それは嫌に決まってますヨ! テイトクに嫌われたくない……」

 

「嫌に決まってる!」

 

「そうですね。それだけは避けたいところです」

 

「だったら少しは堪えて下さい。後で詳しく過去の事例を交えてダイヤモンドさんに説明しますがコレだけは守ってください。『司令官からはオールオッケー。艦娘からはノー』。司令官からなら誰も文句は言いません。でも、こちらからは自重してくださいね? 分かりましたか? やっと司令官が艦娘達に興味を持ち始めたんです。ここで失敗とか許されませんよ」

 

 見ちゃいましたの言葉に各自は頷く。

 

 つい最近まで、提督は艦娘に興味を持っていなかった。あくまでも上官と部下として接してきたためだ。しかし、提督が隠し持っていた密書が見つかった事から全てが始まった。その話は、瞬く間に艦娘達の間に広がり、女性に興味が無いのではと言う疑問を見事に打ち壊した。そして、ある人物からもたらされた情報により催眠術を利用して提督が艦娘に興味を持ってもらえるように計画が動き出した。

 

「司令官が少しずつですが積極的になってきています。今は、このまま様子を見て行きます」

 

「でも……kissぐらいしたいですヨー」

 

 他の二人も頷く。

 

「まったく仕方がなない人達ですね。それに関しては、ちゃんと考えています。ですが、それはまだ先です。今度、派遣先から帰って来る人が居る時まで我慢してください」

 

「本になにか書くんだね? なにを書くか教えてもらえるかな?」

 

「そこの所を詳しく教えてください!」

 

「我慢するから教えるデース!」

 

「今は内緒です。それよりも頼みますよ? バレたら全ては台無しなんですから。それでは、今回の会合はこれにて終わりです。ダイヤモンドさんは残ってくださいね」

 

 何度目になるか分からない会合はこれにて終了。これから見ちゃいましたの下でダイヤモンドが今まで行われたものから今後の行いを学ぶ事になる。全ては、艦娘達の幸せのために。提督への秘密は続く。

 


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