セクハラ提督と秘密の艦娘達   作:変なおっさん

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『秘密のルール』

「どうですか、提督? 比叡頑張りました!」

 

「うむ。少しシャリが硬い気はするが美味い。頑張ったな、比叡」

 

「えへへ、もっと褒めて下さいよー♪」

 

 どうやら比叡達は、食堂で海苔巻きなどを製作していたようだ。今は、比叡が巻いた海苔巻きを食べている。

 

「酢飯などは私が計算して調合しました。比叡お姉様には制作の方を担当して頂きました」

 

 内心、霧島に称賛を送りたい。比叡に任せたら寿司酢の内容がどうなっていたか分かったものじゃない。冷静にやれば問題ないのだろうが未だに上手くはいかない。気合いを入れ頑張るのもほどほどに。

 

「提督、お味噌汁は榛名が作りました。味見して頂いてもいいですか?」

 

「……うん、美味い。やはり味噌汁があると良いな。ありがとう、榛名」

 

「榛名、頑張りましたから。提督に喜んでもらえて嬉しいです」

 

 こちらは榛名お手製の味噌汁。ワカメが沢山入っている。同じ物を使用しているはずなのに人によって味が違うのは今思っても不思議だ。榛名の味噌汁は、あっさりとしている気がする。

 

「でも、なんで金剛お姉様はドレスを着ているんですか?」

 

「それはですネ……せっかくこうしてilluminationをしましたので合わせたんデース。似合いますか、比叡?」

 

「とってもお似合いです! 比叡も飾りつけを手伝った甲斐がありました!」

 

 どうやら比叡は金剛のドレスに関しては知らないようだ。なんだか少し得した気がする。

 

「あの、提督?」

 

「どうかしたか、榛名?」

 

「榛名もドレスをお姉様と一緒に買ったんです。もしよければ、今度着てみたいと思うのですが……」

 

 榛名のドレス。金剛が赤だとすると何色だ? お揃いも悪くないが、ピンクや白なんていいかもしれないな。

 

「機会があれば見せてもらいたいな。楽しみにしているよ」

 

「本当ですか!? 榛名頑張りますね!」

 

 妙に気合が入っているが何を頑張るのだろう? まぁ、やる気なのは良い事だ。

 

「そうだ、提督。さっき掲示板を見たんですけど今週の艦隊新聞に提督が載ってましたよ」

 

 青葉が製作している艦隊新聞。この艦隊新聞は、泊地内の物と他の場所の二つがある。早い話見た目が子供の島風相手にいい大人が本気で頑張っている姿が他の鎮守府や泊地に広まるのだ。当然、他の場所に居る別の青葉が同じような事をしていたりするので提督達の間では恐怖新聞、あるいは痴態新聞などと呼ばれている。

 

「おかげで私はあまり読めていないよ。何が悲しくて自分の恥を見なければならない」

 

「島風さん相手に善戦したと書かれていましたよ?」

 

「霧島。褒めるなら表情を緩めるな」

 

「島風girlは本当に早いですヨ。こうクルクルって演習の時にいつも避けてしまいマース」

 

「島風をはじめ、駆逐艦には戦艦の砲撃に対する回避訓練をさせているからな。その成果が出たのだと今回はそれだけを慰めにしている」

 

 此処での方針では、駆逐艦は相手の攻撃を躱しながら戦場をかき回すように指導している。深海棲艦側にも頑丈な者が現れはじめ駆逐艦では有効的な損傷を与える事が難しい時がある。逆に強力な一撃を貰う機会も増えたのでこのような考えが生まれた。今では、戦艦二隻からの砲撃を躱しながらターゲットを狙う訓練がなされている。

 

「さて、そろそろ私は戻るとしよう。これ以上は、流石にまずいからな」

 

 既に消灯時間は過ぎている。比叡達がせっかく作ってくれたので頂いたがそろそろ引き上げた方がいい。

 

「寂しいけど仕方ないネー。テイトク、また明日ネ」

 

 金剛達と別れ、自分の部屋へと戻る。

 

「疲れたな」

 

 本当に疲れたわけではないが、部屋に戻りベッドに横になるとつい口に出してしまう。

 

「しかし……私は、この力を上手く扱えているのだろうか?」

 

 今までの自分を振り返ってみる。催眠術を使い己の欲望に素直に従ってきてはいるが上手く扱えている気がしない。

 

「やはりここは、強敵に挑戦してみる必要があるのか?」

 

 更なるパワーアップの為に危険な相手と戦うのも必要だろう。

 

「未だに催眠術の掛かり具合が微妙な者や効果の無い者にも積極的になるべきだな。明日の秘書艦は……確か、加賀だったか」

 

 何度か挑戦はしたが今一つの相手だ。自分で言うのもアレだが上官として慕われていると思う。その為、上官と部下として付き合ってくれているのではと思いあまり難しい命令などは下していない。

 

「よし、明日は少し頑張ってみるか」

 

 明日の為に今日はもう寝てしまおう。加賀よ、待っていろ。この飢えた獣がお前を頂いてやるからな。

 

 

 

 ♢♢♢♢♢♢

 

 

 

「提督、書類の確認をお願いします」

 

「うむ。……大淀、すまないが今度の演習の資料はあるか?」

 

「はい。こちらですね、どうぞ」

 

「ありがとう。……加賀、この部分をコレと改めて比べてもらっていいか?」

 

「わかりました」

 

 休暇から業務に戻り、今は司令室にて加賀と大淀と共に書類を片付けている。

 

(隙の無い女だな、加賀は)

 

 今も書類に目を通し作業をしている加賀の姿は隙が無い。物静かで表情の変化に乏しい加賀だが、あれで子供らしい所もある。主に赤城や鳳翔と居る時に見られるがアレはなかなかの威力がある。しかし、それ以外だと大抵の事はそつなくこなしてしまう。

 

(あの笑みを見る事を今は目標にしているが……)

 

 難し過ぎるだろう。本にも――

 

 《加賀型 加賀》

 

 少し難しいかもしれないけど嫌われることはないよ。でも、注意は必要。あまりエッチな事はNG。段階を踏んで行ってあげてね。優しくしてあげるのがコツかも?

 

 他には加賀の好きな物などが書かれていたがほとんどが食べ物。カラオケもあったが私の方が苦手で問題がある。他の情報も使い勝手が難しく今までは簡単なものしか命令できなかった。

 

「どうかされましたか、提督?」

 

 加賀と目が合う。

 

「いや、なんでもない。少し席を外す」

 

「そうですか。お気をつけて」

 

 一度、頭を冷やすために場所を離れる。

 

「どうしたものか……」

 

 相手は強敵。勝ち目の少ない相手。しかし、だからこそ勝つ意味がある。

 

「ん? あれは、時雨か?」

 

 廊下を歩いていると雑巾とバケツを持って一生懸命廊下を掃除している時雨の姿を見つける。

 

「どうした、時雨。掃除当番だったか?」

 

「あっ、提督。別に当番じゃないけど……ほら、あれだよ。いつもこの場所にはお世話になっているからね。恩返しをしようと思って」

 

「そうか。随分と殊勝な心掛けだな。だが、当番制を用いている以上あまり無理はするなよ? 各自に与えられている時間は自由ではあるが無理をしては意味がないからな」

 

「心配してくれてありがとう。やっぱり提督は優しいね。……そうだ、提督一ついいかな?」

 

 時雨は周囲を確認する。提督もつられて確認するが誰か居るような気配はない。

 

「その、褒めてくれるのなら……頭を撫でてもらってもいいかな? 提督に撫でられるのが好きになっちゃって」

 

「撫でるか……」

 

 そう言えば、時雨に掛けた『甘え上手になる』暗示は解いていなかったな。あれから上手く甘えられるようになったのだろうか?

 

「その程度なら問題はない。よくやっているな、時雨は」

 

「えへへ……やっぱり提督に撫でてもらえると嬉しいな♪」

 

「他の者とは上手くやっているのか?」

 

「えっと……そうだね。そう、あれだよ! 少しだけど夕立に甘えてみたよ。ホントダヨ?」

 

 視線が逸れる。何かあったのか?

 

「そうか。時雨には、暗示を掛けたままだからな。上手く行かなくなったら言うんだぞ? 私にも責任はあるからな」

 

「大丈夫だよ。皆、優しいから。でも、なにかあったら提督を頼らせてもらうね」

 

「私は、時雨の上官だからな。いつでも頼るといい。では、無理をしない程度に頑張るのだぞ」

 

 時雨に別れを告げると提督はその場を去っていく。

 

「……役得だったな」

 

 時雨は、提督に撫でられた所に触れ、思い出す。すると思わず笑みが零れる。

 

「青葉、見ちゃいました」

 

 近くに置いてあった段ボールから青葉が姿を現す。

 

「い、居たのかい、青葉!?」

 

 これには流石に驚く。今の今まで一人で作業をしていたと思っていた。

 

「もちろん居ますよ。今の青葉は、公平なジャッジですからね。それでですが今のは問題なしとします。司令官からの接触でしたからね。しかし、時雨さんはなかなか積極的に行ってますね。別にそれは悪いことではないですが気をつけて下さいね?」

 

「分かっているよ。でも、提督を前にするとどうしても止められない自分が居るんだ。青葉さんなら分かるんじゃないかな?」

 

「……そうですね。ですが、これもルールです。それと、もう一つあります。先ほどの写真はどうですか? 今ならサイズを大きくしても同じ値段ですよ?」

 

「大きいのを三枚。小さいのを一枚お願いするよ。小さい方は、ラミネート加工でお願い」

 

「分かりました。ラミネート加工分は別料金になりますのでよろしくお願いします。では、また」

 

 青葉は段ボールへと戻っていく。

 

「……もう隠れる必要はないんじゃないかな?」

 

「…………」

 

「青葉さん?」

 

 時雨が段ボールの箱を開けてみるが、そこに青葉の姿はない。

 

「……そうだよね。あの時に居たら提督なら気づくもんね」

 

 ルールは絶対。それを改めて心に誓う時雨であった。

 


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