セクハラ提督と秘密の艦娘達   作:変なおっさん

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『case8 川内』

 

 時雨が居なくなったので秘蔵のブランデーを嗜みつつ催眠術の本に目を通す。

 

「……こうして見てみると催眠術関係なしに使える本だよな」

 

 それぞれの好みや趣味なども書かれている。短い付き合いではないが知らない事ばかりだ。

 

「提督、失礼します」

 

 部屋の扉が叩かれ、川内が部屋へと入って来る。

 

「今日も借りるね」

 

 そう言うと許可も得ずにベッドへと潜り込む。

 

「……川内。確かに私は気にはしないがどうかと思うぞ?」

 

「なに言ってるの? 少しでも万全な状態で夜戦に挑むのは大事でしょ?」

 

 布団から顔だけを出している。もう慣れはした。他も理解しているようだが事情を知らない者が見たら誤解を生みかねない。

 

「危険な夜戦を率先して行ってくれる川内には感謝している。しかしだ、ギリギリまで眠るために私のベッドを使うのはやめないか?」

 

「だって夜戦に行く前に司令室に顔を出さないとダメでしょ? だったら司令室の隣の此処が一番近いよね?」

 

 任務に入る前に司令室に居る者に任務開始を伝える必要がある。

 

「そうだが……」

 

「もう、今更なんだからいいじゃん。それよりもなんだか提督以外の匂いがするんだけど? 誰か連れ込んだの?」

 

「人聞きの悪い言い方をするな。先ほど、時雨が相談に来たんだ」

 

「ふーん。それでか……まぁ、ルールは守らないとね」

 

「ルール?」

 

「提督には関係ない話だよ。それじゃあ、お休み」

 

 本格的に眠りに入る。危険な夜戦を行う川内に気を使って許しているがもうそろそろ何かしら考えないといけない気がする。

 

「そういえば、提督。催眠術でさ、いい感じに寝かせてくれない?」

 

「催眠術は、睡眠導入剤ではないのだぞ?」

 

「眠るのなら一緒でしょ。それに薬よりも安全そうだし。前にやってもらった時にさ、なんだか調子が良かったんだ。お願い、提督」

 

「まったく仕方がないな。前と同じで、『起こされるまで起きない』でいいんだよな?」

 

 川内が横になるベッドの傍まで移動する。

 

「では、始める」

 

 気合いを入れてから川内に手をかざす。当の本人は、行儀よく仰向けに寝ている。

 

「川内は、眠くな~る。眠くな~る。誰かが起こすまで何があっても起きな~い」

 

 時雨の時とは違い繰り返したりはしない。提督の声を子守歌のように吸収しながら深い眠りへとつく。

 

「……寝たか?」

 

 川内の様子を見る。反応が無いので本当に眠ったのか分かりにくい。

 

(ならあれを試すか)

 

 何事もない振りをして机を漁り、一枚の紙を取り出す。

 

「そう言えば、要請の中に夜戦の話があったな。此処からだと少し離れている場所なのだが危険な海域らしい。私としては、最も信頼している川内に旗艦として行ってもらいたいが……断ろうと思う」

 

 川内をジッと見る。変化はない。川内の大好きな夜戦。それも危険な物となれば気分が高揚するだろう。

 

「編成に関しては、川内の意見を取り入れるつもりなんだけどな?」

 

 変化はない。

 

「新装備も支給されるとか?」

 

 変化は――ある? なんだか僅かに身体が動いた様な? 気のせいか?

 

「川内、起きているのなら要請を受けるか決めてくれないか? 早急に返事をする必要があるんだ。それこそ今すぐに」

 

 最後の揺さぶり。近づいて見る。ジッと見る。

 

「……本当に眠っているのか?」

 

 頬っぺたを指でツンツンする。反応はない。

 

「どうやら成功のようだな」

 

 さて、ここからは私の時間だ。念の為、部屋の鍵は閉めておく。先ほどは助かったがこちらのペースで行われてさえいれば問題はない。邪魔が入ると困る。

 

「据え膳食わぬは男の恥とも言うしな。頂くとしよう。川内、飢えた獣である私の下に来てしまったお前が悪いのだ」

 

 今の川内は、誰かに起こされるまで眠っているはず。多少の事なら問題はないはず。

 

「前回は、フットマッサージで様子を見たんだったな」

 

 仮に起きてもいいように足のマッサージを行ってみた。上手くできたかどうかは分からないが少なくとも起きたりはしなかった。ただ、時々声が漏れていたのがエロかった。

 

「しかし、こうして見ると間違いなく美少女だな。これで化粧などはしてないのだから驚きだ。それに普段の元気な川内もいいが、お淑やかな川内も悪くない。普段からも物静かであれば、常に傍に置いておきたいぐらいだ」

 

 普段の川内とは違い今目の前に居る川内は静かだ。だからこそ川内の顔をマジマジと見る事ができる。ん? 気のせいか少し顔が赤いな。

 

「困ったな。これから夜勤があると言うのに風邪か? しかし、先ほどはそんな感じには……あぁ、なるほど」

 

 おそらくだが布団の中が暑いのだろう。おっさんである私と違い、川内は若い。体温に差があると思われる。

 

「少し布団を捲っておくか。熱が外に出れば少しは快適になるだろう」

 

 気持ち程度布団を動かす――見える。川内の身体が。右半身が僅かに顔を覗かせる程度だがそれがいい。特に足の方が素晴らしい。

 

「健康的で綺麗な足だな」

 

 まっすぐに伸びた染みやたるみなどはない素晴らしい足だ。思わず触れて見たくなるが我慢だ……いや、少しぐらいなら?

 

「ちょっと触るぐらいなら……バレんだろう」

 

 周囲を警戒する。誰も居ない。此処には、私と川内だけ。鍵も施錠はしてある……いける。

 

「今度、何か詫びの品でも贈ろう。だから今だけは許せ。いや、許せなどとは言わぬ。だが、今の私は止まる事はできないのだ」

 

 ゆっくりと川内の足へと手が伸びる。その色白の綺麗な肌に触れたい。今はそれだけが頭に――

 

「くしゅん」

 

 静寂の中で聞こえた音に全身が硬直する。

 

「……起きたのか?」

 

「…………」

 

 どうやら起きてはいないようだ。

 

「ただのくしゃみか。やはり諦めよう。部下の安全が第一だ」

 

 あと少しの所だったがやむを得まい。川内の事だ、多少の不調程度なら気にもせずに任務に出てしまうのだろう。己が欲の為に川内を失う訳にはいかない。

 

「すまなかったな、川内。今は休め。確かにいろいろと問題のあるお前だが、私は誰よりも夜戦に関しては信頼している。危険な任務であっても川内が居れば安心してお前達を任務に行かせる事ができるからな」

 

 布団を掛け直し、川内の顔を見る。

 

「頼りにしているぞ、川内」

 

 それからは邪魔にならないように静かに本を読んで過ごした。川内の事について書いてあるページを読んだのだが、催眠効果を高める為に添い寝をしてあげると良いと書かれていた。しかし、共に寝てしまえば起こす者が居ない。

 

「いずれは、添い寝をしてみたいものだな」

 

 川内を抱き枕にしながら眠りにつく自分を想像しながら時間は過ぎていく。いつになるか分からないが必ず果たしてみせる。そう願いながら。

 

「起きろ、川内。時間だ」

 

 川内を起こす時間。声を掛け、肩を軽く叩く。

 

「……もう時間?」

 

 眠気眼をこすり、川内が身体を起こす。

 

「どうだ、よく眠れたか?」

 

「……まぁ、少し物足りないけど良かったよ」

 

 なんだか不満気な目で見られる。催眠術パワーは上がっているのだろうが、それでも本があるとは言え独学に近い。不満を言われても困る。

 

「ねぇ、提督。私、頑張るからね」

 

「そうか。期待している」

 

「じゃあ、行ってくるから」

 

 そう言うと川内は部屋から出て行く。その足取りは軽い。

 

「……少し横になるか。なんだか私も眠くなってきた」

 

 提督は、周囲を確認してから言い訳をしてベッドへと潜る。

 

 まだ温かく、川内の匂いが残るその場所に。

 


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