BLAZBLUE Conception Record(ブレイブルー コンセプションレコード) 作:└(∵)」
内容もあまり自信が無いですが、見ていただけるとありがたいです!
2人が教会に世話になり始めてから、少しの時が経った。
シィはサヤと仲良くなり、いつも一緒にいるようになった。
さらに、自分の方が歳上だからとでも思ったのか、シスターの手伝いを率先してするようになったようだ。
リオンも同じように、シスターの手伝いをしながら世話になっていた。
少し経ったからかラグナの警戒も若干は和らぎ、ジンもサヤもシスターも、家族のように接してくれているようだ。
賞金首でありながら、その身に血を浴びることを嫌う者。
彼の正義感とその行動力がきっと、信用を勝ち取り得るものなのかもしれない。
現にシィはラグナを説得したが、元々シィが彼を信用したのもそういうことではないだろうか?
ただ単に、助けてもらった恩なのかもしれない。
だが、彼女は人に対して只ならぬ憎悪を抱いているはずだ。あそこまで実験に使われ、苦しめられた彼女がそう簡単に人を信用できるはずが無い。
だが彼女は、それを信用した。
ただ一つの恩と言うだけではないだろう。
彼は、ぼーっとしていた。
何も思案することなく、ただ自然と空虚に佇んでいただけ。
空虚の理由など、本人にしかわからない。
ただ、自然とそこに佇んでいた。
「……リオン……?」
「ん?」
隣にいた少女が、リオンに声を掛ける。
それは不思議なものを見るような目で、彼に話しかけた。
「どう、したの……?」
「……ん、いや、何でもない……ただ、何か……あぁ、思い出せねぇ……畜生」
彼は、何かを思い出そうとしていた。
佇み、何もしていなかったのはこのせいだったようだ。
彼は時々、何時かもわからない風景を見る。
それが記憶なのか、それとも本当の未来予知なのかわからない。
だからこそ彼はぼーっとしていた。
「……昔の、お話?」
「そう……でも、何もかも抜けてて、分かりやしねぇ」
「……私は、昔……思い出したく……ない……」
その言葉を聞いて、彼は悪いな、と一言交わした。
シィは大丈夫、と静かに返事をした。
少し分かりづらいが、微笑みながら。
彼女が微笑み、謝りの言葉を放った時……
「……!」
彼は見た。
そう、初めてここに来た時と同じヴィジョンを。
今見えるものには、つんつん頭の少年……恐らく、ラグナと思われる少年が長い髪の少女……サヤを、庇おうとしているのだろう。
「……また……」
リオンがそう呟いた矢先、少女の叫び声が聞こえた。
それは、彼もよく聞いたことのある声。
大きく目を見開き、その足を大きく踏み出した。
焦燥が彼を駆り立てた。
シィもその声を聞き、即座に走り出す。
彼女も同じ焦りに、その足を奪われる。
彼は心の中で、静かながらも叫ぶ。
無事でいてくれ、ラグナ、サヤ。と。
「に、兄様…」
「大丈夫だ、サヤ…お前は俺が守るからな…!」
巨大な獣。
それが二人の元へと着実に歩み寄る。
敵意が剥き出しで、どこからどう見ても襲いかかろうとしている寸前の状態。
少年……ラグナはサヤを庇うような形で立ちふさがる。
今にも襲われそうだが、彼は引かない。
兄としてのプライドと、彼女を守ろうとする気持ちが、彼を引かせようとはしない。
その獣は、その大きな腕を振りかぶった時だった。
振り下ろされたはずの腕は、ラグナには届いてはいなかった。
”何か”が、つっかえているのだ。
ラグナが視線を落としていたが、そこには影があった。
見上げれば、つい最近に見た背中が。
「よう、意地っ張り……よく頑張ったな」
「……!」
その手に握られているのは、白い両刃の長剣に、黒い片刃の短剣。
つっかえていたのは、その白だった。
優しげなその声は、いつもと同じ。
軽くて、でも重い。
強い声が、彼を安心させる。
「適当にあしらってやるさ、サヤを頼むな」
「あ、ああ」
うろたえつつも、ラグナはサヤを抱えて後ろに下がる。
リオンは、その刃を巧みに回しつつ呟いた。
「適当に……つっても、どうしたもんか」
ぼそりと面倒そうに呟いた。
その声が獣からすれば頭に来たのか、即座に彼に向かう。
音を大きく立て、その咆哮が鳴り響く。
その凶腕が振り下ろされる。
彼はぼーっとしていた。
唖然と、気を抜いていた。
だが彼は、普通の人ではない。
「停滞(スロウ)」
刻を観る眼。
その力で、彼は相手の時間を遅める。
獣にそれを理解するほどの知能はなく、ただゆっくりと、振るった腕は獲物を捉えたと確信しているだろう。
だが、それは有り得ない。
なぜなら、彼の勝ちはもうほぼ確定している。
眼前から彼は消え、目を動かし探る。
気づけば、隙だらけの背後に彼が現れていた。
「悪いけど、眠っててくれ」
木を蹴り飛ばし、宙に舞う。
振り上げられたその俊脚は、瞬く間に高速で叩きつけられた。
刃を振るうまでもなく、彼は危機を脱する方法をもう既に見つけていたのだ。
そう、打撃……
気絶させれば良いと。
その頭蓋に強烈に叩きつけられた足は、獣の視界を暗くした。
すぐに獣は倒れたが、死んでいる訳では無いようだった。
何とかなったか、と少し呟いた。
「大丈夫か、お前ら」
彼には、その背中が何処か、居ないはずの兄の様な、そんな雰囲気を感じた。
その勇猛な佇まいに、憧れを感じたのか。
それとも、ただの感謝だけなのか。
ラグナには、分からなかった。
「おーい、聞こえてっかー?」
「あ、ああ。俺もサヤも大丈夫」
「そうか、なら良かった」
リオンは笑みをこぼす。
見える物に、相当な焦りはあったはずだ。
だからこそ、こぼれるものも大きいのかもしれない。
その場に座り込んで、疲れたかのように座った。
「リオン……ラグナ、サヤ……!大丈夫……?」
「おう、皆無事だ」
座ったはずのリオンは、いつの間にか寝転がって空を見上げていた。
ラグナは、アレがついさっきの勇敢な青年なのかと疑問に思ってしまったようだが、それがリオンという青年なんだと理解した。
「なぁ……」
「ん?どうしたよ」
「なんで、助けてくれたんだ?あんなに、急いで、疲れて寝転がる位にまでして」
ラグナは、消極的ながらも聞いた。
非人道的な人間ばかりがいた場所が普通だと思ってしまっているラグナにとっては、彼の行動理念が分からなかった。
「んなもん、決まってんだろ」
「決まってるって、何がだよ……」
リオンは分かんねぇか、と一言呟いた。
一つ間を開けて、彼は口を開く。
「……家族だからに決まってんだろうが、馬鹿野郎」
少し聞いてくれたことを嬉しそうにしながらも、察してくれなかったラグナに少しだけ腹を立てたのか、頭を指の関節を若干立ててグリグリしている。
硬いところでやられているからか、痛い痛いと言っている。
リオンが止めると、ラグナも自然に笑ってしまった。
「……家族だから、か」
「そうだよ、血は繋がってなくとも、家族は家族だ。新参者が何言ってんだって思うだろうけどよ」
彼は、その考えが羨ましいと思えた。
彼への感謝も強かった。
「……ありがとう、兄貴」
「ははっ、どう致しましてだ」
彼は、その時からリオンを『兄』として慕おうと思った。
シィの時もそうだった。
目の前にいる人物はきっと、本当の善人なのだと思えた。
あの忌々しい研究者たちとは違って、本当にいい人なのだと思えた。
その背を、追いかけようと誓った。