BLAZBLUE Conception Record(ブレイブルー コンセプションレコード)   作:└(∵)」

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File:2 救った命

「…………う……ぁ…………」

 

男が唸りを上げる。

当たりは明るく、どこか、不思議な雰囲気があった。

建物のベッドに寝かされている男は、瞼ををゆっくりと開き、差し込む日を確かめた。

 

そう、きっと倒れたのだろう。

彼はそう頭を整理し、ここはどこかと考える。

でも、寝たままでは何をすることも出来はしない。

そのベッドから身を離そうとしたとき、突如として脱力感が彼を襲う。

痛み混じりで、本人の身体には堪えるものだろう。

 

高濃度の魔素の中、眼を長時間使っていればそうもなるか。

そう、青年は思った。

とにかく、ここから出よう。

それに、彼女がどうなってしまったのかも知りたいと頭に浮かべる。

倒れたせいで……いや、それは猫のおっちゃんが何とかしてくれたのか?

彼の脳内では、常に疑問が飛び交ってしまう。

寝たままでは、どれも解決出来やしない。

 

その時、扉が開く音がした。

 

「あぁ、目が覚めたのね……おはよう」

 

目の前に、修道服を着た優しげな女性が現れた。

手にはお盆を持っていて、食事の準備でもしていてくれたのだろうか?と彼は思った。

彼女は優しい声色で、心配したと言う。

ただいまいち、信用が行かない。

疑うのはどうかと思うが、そうでも無ければ何時斬られるかも分からない状態なのだと心で思う。

 

ただその疑いをかけた時、彼の脳裏に風景が浮かぶ。

 

 

 

(何処かで、会った……?)

 

昔のものかも分からない記憶がまた出てきた。

でも、青年は感じる。

懐かしさを、そして……悲しみを。

 

そこには、三人の子供もいて……

みんな平和に暮らして……

 

いつの記憶かもわからない。

寧ろ、自分の記憶かもわからない。

でも、何故……?

彼の頭には疑問は残るものの、一つの確証が生まれた。

 

彼女は、敵ではない。

 

「?どうしたの、ぽかーんとして……」

 

「いや、悪い……少しぼーっとしちまっただけだ」

 

考えても、出ては来ない。

今はこのような記憶があるということを覚えておくことしか出来ないだろう。

 

彼は思い出したかのように話す。

 

「そうだ、アイツは……!」

 

「大丈夫、君が抱えてた女の子の方もちゃんと治療して寝かせてあるから。ついさっき起きたから、後で挨拶に行ったらどう?」

 

「……そうか、そうさせてもらうわ」

 

安堵したように息を漏らす。

せっかく助けたのに、そのまま捕まるなんて最悪以外の何物でもない。

彼女が無事なことに安心した彼は、持ってきてくれた食事を口に運ぶ。

栄養はしっかり取らないと、とは目の前の女性の談だ。

 

扉の向こうから、子供たちの声が聞こえる。

……きっとついさっき浮かんできた光景の子供たちだろうか。

気になりはするが、まだおぼつかない足取りでは危ないだろうかと思い、彼はまだ立てない。

 

「……動かないでね、最後に治療させて」

 

「あ、ああ……」

 

女性は彼の体に触れ、手を当てる。

念を込めれば、触れられているところには綺麗な緑の燐光が漂う。

魔素にやられていた身体が癒える感覚がする。

彼の身体は、治ったのだ。

 

それこそ、彼の眼と似たような、不思議な力で。

 

この世界に『術式』と呼ばれる能力があるのは知っているのだが、術式では治癒は出来ないはずと考える。

ならば彼女の使ったものは……

 

「……『魔法』?」

 

「うん、治癒魔法を掛けさせてもらったの。これで動けるようになったはずよ」

 

「悪い、助かる……えーと……」

 

「シスター、でいいよ」

 

「分かった……ありがとよ、シスター。」

 

青年はシスターにありがとうと一言礼をいう。

言葉は荒けれど、その心は繊細だった。

何せ、助けてくれたものに対して礼を言わないなんて言うことは失礼であると彼は思っているからだ。

 

子供たちの騒ぎ声が大きくなってくる。

元気なことだと青年は若干のため息をつく。

それでも青年は、微笑みを隠せずにいた。

 

「ねぇ、立てるようになったなら、あの子に顔を出しに行かない?」

 

「……まぁ、そうだな……」

 

そう言い、青年はまだ覚束無い足取りで立ち、その部屋の扉を開けた。

 

一歩踏み出せば、三人の子供がいた。

 

そこにもう1人、彼が見たことのある顔が混じっていた。

白に近い水色の長髪、無感情のような表情で、何処か儚い雰囲気を出す少女……

そして胸には、『八』の文字が刻まれている。

 

「…………あ……」

 

子供たちに構ってあげていた少女が、遠くの青年の気配を読み取る。

気の抜けた声が出てしまうのも、無理はない。

話に聞いていた、彼女を助けた者が目の前にいるのだから。

 

彼は優しく、こう呟いた。

 

「良かった……」

 

彼自身も、胸をなで下ろす。

体を張って守り通した彼女が、回復していたのだから。

彼はシスターに、深い感謝を感じた。

 

だがそれと同様に、罪悪感も生まれた。

 

きっとあそこまで大きな事を起こせば、統制機構に目をつけられるのはどう考えてもわかるだろう。

ただその程度で、この人たちに、あまり迷惑はかけられない、と。

 

「この人が、貴方を助けてくれた人よ。私が代わりに遊んでてあげるから、話してらっしゃい」

 

シスターがそう、彼女に言うと彼女はとことこと青年に近づく。

少女は青年の顔の近くまで近づいて、じーっと顔を見つめる。

彼はじっと見つめられることには慣れていないのか、無意識に顔が赤くなる。

 

「……同じ…………」

 

「同じ?」

 

彼女は、同じ、と呟いた。

何が同じなのだろうかと彼は思う。

彼女と彼には、共通点など何も無い。

強いても言えないくらいに、同じものはなかった。

 

「……ありがとう……助けて、くれて……」

 

機械的な音とともに、人の声の音が耳に入る。

それは覚束無いけれど、感謝の気持ちが強く伝わってきた。

彼は思う。

素体だのなんだの、道具扱いをされてはいるものの、やはり人と変わらない、いや、むしろ人なのだ。

そのような思考が、彼の頭を埋めた。

 

「……構わない、偶然が重なっただけだ。……助けを求めていたやつがいるという記憶を持つ、その偶然がな」

 

その言葉に、彼女も反応する。

 

「……同じ、やっぱり……」

 

一単語一単語区切って言う彼女の口からはまた、同じという言葉が出た。

つい先程も言った、同じ。

一体何なんだ?と彼は口を開いた。

彼女は、その口調を変えず言う。

 

「見ました、夢を……同じ、人の……同じ、外見」

 

「夢……?同じ人、同じ外見……?」

 

青年はよく理解出来ず、首を傾げた。

一体誰のことを言っているのか、そこを聞けなければ何もわからない。

彼女の口調では、察することも難しいだろう。

彼が考えていると、彼女は指を指した。

その指が向いている先は……

 

「……俺?」

 

気の抜けたような声でポツっと呟けば、彼女は何も言わず、静かに1回頷いた。

彼女が見た夢は、誰かが助けに来てくれるという夢。

その中で、確かに助けを無意識に求めていたらしい。

その時の人物の容姿は確実と言っていいほど、彼に酷似していた。

 

「……奇遇だな、俺も何時か分からねぇ記憶の中で、全くお前と同じ見た目の奴が助けを求めてる光景があったよ」

 

「……偶然、?それとも、必然……?私には、解析不能……」

 

偶然か、必然か。

同じ夢を見た2人の間でも、予測がつかない。

それは起こるべくして起きたのか、それとも予定を外れた事象なのか。

ただし、普通ならばこう予測するはずだ。

『アマテラス』か、『タカマガハラ』がある限り、それは予定に沿った事象であると。

 

彼らはアマテラスとタカマガハラの存在を、詳しくは知らなかった。青年は一部の記憶がなく、その中にアマテラスとタカマガハラの機能に関しての記憶も入っている。

少女も同じように、その機能に付いての記憶が無くなっている。

 

「……どっちかなんて予想、付きそうもねぇな」

 

「同意、です……」

 

難しく、難解で複雑な疑問が飛び交い、沈黙が続く。

2人とも答えを導き出そうとしているのだが、その答えが即座に出るわけもない。

2人とも、同じタイミングでため息を吐く。

そんな偶然に、彼は頬を緩めてしまう。

 

「……偶然、なのかもな」

 

「……何故?」

 

少女は問う。

何の根拠もなく、そしてつい先程まで悩んでいたのに、彼は少し心做しか、笑って言っているように見えたからだ。

 

「ちょっとした事でも偶然というのならば、そのスケールを大きくしてしまったのが今……なんて考えられないか?」

 

「……ふふっ」

 

「何が可笑しいよ」

 

「……ないですよ、可笑しく……思った、です。確かに、って」

 

少女の方も、自然と笑みが零れていた。

少し抜けたようでありながら、無いとは言えないその答えに、少し共感とともに笑いが出たのだろう。

 

「……いい、ですか……質問……免じて、偶然に……」

 

「それ、言葉の使い方合ってっか?そこは乗じて、だと思うんだが……まぁ、いいか。んで、聞きたいことって?」

 

彼女は、忘れていたことを聞く。

どうでもいいようで、でも大切なことを。

 

「……名前、あなたの……なに?」

 

その言葉に、忘れていたなと彼は頭を掻く。

彼女ならば、別にいいだろう。

彼は、その名を口にした。

 

 

 

「リオン。リオン=S=アーヴェンティアル……それが俺の名前だ」

 

「リオン……記憶。覚えた、ちゃんと……」

 

彼女は無邪気な子供のように、ちゃんと覚えたと呟く。

頑張って記憶しようとしてる彼女を見て、くすりと笑う。

彼もまた、同じ質問を彼女に投げかけた。

 

「お前は?」

 

「名前……次元境界接触用第8素体、No.8-Θ(シータ-エイト)

 

「……おう、ありがとな……あまり、言いたくなかったろ」

 

彼……リオンが申し訳なさそうに言うと、シータは首を横に振る。

彼女なりの、気にしなくていいというサインなのだろう。

少しの沈黙が訪れる。

 

「2人とも!」

 

「うぉぁっ、シスター!?」

 

「……びっくり」

 

驚かせちゃった?と陽気にシスターは言う。

2人とも驚いたのは目に見えているのだが、シスターは気にも留めず、あることを提案した。

 

「この子をそのままの名前じゃなくて、愛称でも付けてあげない?」

 

「はぁ?そりゃまた唐突な……でも、確かにそのままだと少しな……」

 

「だから、シィなんてどうかしら?新しい名前として!」

 

シスターは思いついた名前を言った。

そんな安直な、と彼は思ったが当の本人の方は目を輝かかせて、いいねと言わんばかりな事を言っている。

また別の意味のため息を吐くが、まあいいかと彼は気を改める。

 

「それじゃあ、これからよろしくね、シィ!」

 

シィは頷いた。

彼女に、新しい名前がついた。

素体としてではなく、人としての名前を。

表に出していないけれど、その内心は嬉しいはずと彼は思う。

 

「……リオン、よろしく、お願いします」

 

「……あぁ、こちらこそよろしく」

 

彼女はまた、シスター達と話し始める。

微笑ましい光景を、彼は見た。




今回、あの3人がちょっとだけ出てきました。
次の回で大きく触れるかもしれないし、まだ少し時間が開くかも知れません。

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