BLAZBLUE Conception Record(ブレイブルー コンセプションレコード) 作:└(∵)」
File:0 もう1人の賞金首
[侵入者発生、付近の衛士は侵入者を排除せよ。繰り返す、侵入者発生、付近の衛士は……]
どこか実験室のような場所にて、一つの警報が鳴り響く。
カツカツカツカツと、響く音はかき消され。
警報の鳴る音はあまりに耳に響き、そこにいる者の不快感を煽り立てる。
それに対応するかのように1人、顔の半分を隠した青年はその毛羽立った青い長髪をたなびかせ、少し苛立ちも混じりながらその足音を早めた。
焦りも垣間見させる足音は、次第に音を増やす。
それは1人では足りない数の音が鳴り響く。
苛立ちは加速するが、彼はものともしなかった。
その先を、既に見据えていたからだ。
「いたぞ!侵入者だ!」
「チッ、あんなに警報ガンガン鳴らされちゃあ、さすがに逃がしちゃくれねぇよな…」
この施設の警備員であろう者達が、1人の青年に対して一斉に鋭く光るその得物を向ける。
侵入者。そう言われた人物は静かに、二つの紋章を脳裏に浮かべる。
複雑な、だがそれでいて対にて一つの美しい絵で。
それを浮かべ、手を掲げる。
「貴様、抵抗するつもりか?」
「ああ……悪いけどよ、俺もここまで来た以上手ぶらで帰るわけには行かねぇんだわ……少し、退いてもらうぞ!」
左手には紋章の一部分が象られた護拳付きの小さな黒刃。
右手にはこれもまた紋章の一部分が象られた標準的な白刃を。
『彼』は構える。
目の前には警備の者達が何十人。
だがこちらは1人。
普通のものなら確実に勝ち目はないであろうこの状況でも、彼は何時もの冷静なスタンスを崩さなかった。
奴らに対して、とある絶対的な自信を持っているのだろう。
「……せいっ!」
そう叫び、彼が刃を振り抜けば。
そこには神秘と芸術が組み合わさっているかの様とも思える、その軌道が浮かび鋭く牙を向く。
その一振りで一人。
その二振りで二人。
焦り、急ぎながらも確実に。
だが、その黒白の双剣から放たれる剣技は、まるで舞っているかのようにそれは見えた。
速く、そして正確な剣閃は、自らの目の前に立つ者達の武器を瞬く間に斬り壊していく。
こんな者達でも、この手に掛けるのは夢見が悪い物。
彼はそう思い、その刃だけを確実に屠る。
「っ……貴様、何が目的だ!」
「誰が聞かれて素直に答えるかよ……お前らには関係ねぇ事だってんだよ!面倒臭ぇ……」
「何をするつもりだ……!」
あまりにも埒が明かないと思ったのか、彼は1度振るう腕を抑えた。
そして、その次だ。
あまりにも不思議なことが起こったのだ。
「……刻を観る眼!」
それはあまりに一瞬。
彼の緑の右眼が青に染まり光ったかと思えば、その目には時計の紋章が映る。
彼にはもう一つのドライブ……特殊能力を持っていた。
それが時間を観て、それを小規模で操る。
『
「
ポツリと呟けば、彼と彼らの目に映る光景が変わった。
彼の目には、周りが鈍く。
彼らの目には、1人が鋭く。
常人では理解し得ない、『
そう、これは『事象』に向けて放たれた物。
つまりは、小規模な『事象干渉』である。
本来であれば、事象干渉は『観測者』のみが、その事象を観る事によって干渉を起こすのが事象干渉である。
彼は観測者なのか、それとも別の何かか……
彼は速く、振り抜かれる剣を縫い、そのまま消える。
神速の如く、彼は自らの目的としている場所へと向かった。
立ち塞がる者に刃を向けど、その身に刃は突き立てぬ。
そのまま彼は、その勢いを止めず突入した。
彼はとある場所へとたどり着いた。
彼の目に映るは、少女の姿。
それは、いつかも分からぬ記憶の中で、ずっともがき、苦しんで、「助けて」と訴えているその光景を見た彼にとっては、今最も『助けたい』人物だった。
そのために、身の危険も顧みずこの研究所を襲撃してまでも、救いたかった。
誰かもわからない少女を救うために、何故そこまでするのか?
彼の思考も、記憶の持ち主も、その感情も、彼自身すらわからない。
ただあるのは、助けたい、救いたい。
それが、ただの赤の他人だったとしても。
その言葉だけが、今の彼の心を表すだろう。
「貴様、あれだけの数の衛士を切り抜けたというのか……!」
「安心しな、別に殺してはねぇよ。ただ、自慢の得物は全部傷物にしちまったが、流石にそこいらは許してくれよ?」
少し薄ら笑いを浮かべるが、次の言葉が発される時には、その表情が形を潜め、鋭い視線が研究者を刺した。
「……その子を解放しろ、手前らの勝手で人苦しめてんじゃねえ、馬鹿が」
彼は脅し混じりのその声で、目の前に居るものを一喝した。
だが、怯えながらもそれは彼女を解放しようとはしなかった。
そうしているうちにも、彼女はまた苦しみ始める。
まだ、実験は行われていたのだろう。
「……チッ、人の声も聞こえないか……なら、無理矢理にでも救い出してやる」
「貴様、やめろ!何をしているのか分かっているの「五月蝿い!手前らの勝手で生み出した挙句、手前らの勝手で苦しめるか、このクズ野郎共が!」
少し彼は熱くなり始めている。
彼は考えなどはするほうではあるが、感情には勝てない。
故にそのお人好しという性格があるのだろう。
叫んだ彼にさらに怯えたか、相手は逃げ帰ってしまう。
未だ水槽の中にいる少女は、苦しんだ顔をしている。
どうやら、実験中か終わった後か……
そんなことは、どうでも良かった。
「……いつだったか。思い出せやしねぇけど、約束したのに遅くなって悪いな」
そう呟き、彼女を解放しようとしたその時だ。
更なる警報が鳴った。
[第8素体の状態に異常発生および、研究所内実験施設に異常発生、直ちに実験の中止を。繰り返す、直ちに……]
「っ!?嘘だろ、あの野郎、よほどやばい状態まで追い込んでたのかよ……!?」
異常発生を知らせるサイレン。
怒りは増していくものの、当てる所はない。
それよりも、早く彼女を助けなければという焦りだけが、彼を動かしていた。
知識が無いと動かせない、精密な機械を操作するが、何も知らない彼には手も足も出ない。
それでも諦めずにやっているが、それでも動くことはない。
「クソッ……悪ぃが手荒に行くからな!」
間に合わないと判断したか、彼は手に持っていた二刀で水槽を切り裂き、彼女を抱える。
まるで割れ物を扱うかのように丁寧に、彼女の心を落ち着かせるかのように。
だが、少々行動に移すのが遅かったようだ。
出入口には多数の衛士が性懲りもなく迫ってきていた。
不運なことに今彼女を抱えており、武器も使えそうにない。
魔素も異様に濃く、刻を観る眼も多用すれば自らの体力を激しく消耗してしまう、この状態は非常にまずかった。
「……ふざけやがって、そんなくらいで止められると思ってんなよ!」
彼女を抱えたまま、眼を発動させる。
自らのリスクを省みず、素早く、人の壁をその足で崩していく。
「っ!」
刃が掠る。
それは少しの傷だが、何度も斬られそうな瀬戸際で避ける。自らに傷を受けてでも、彼女を護り通そうとする意思は固かった。
眼が、自らの体力を奪っていく。
それでも彼は、逃げなければならなかった。
「はぁ……はぁ……邪魔なんだよ!」
強く蹴りを入れ、衛士達を掻き分ける。
数分間の逃走の末、彼は目を見開く。
ようやく、光が見えた。
これが後に現れる二人のSS級賞金首、
『死神』と対を成す、もう1人のSS級賞金首……
『
これは、更なる
全てを救いたい、願望であり、願望でない物が生み出した…
『蒼』『碧』に次ぐ、もう一つの『藍』の物語。
BLAZBLUE Conception Record(ブレイブルー コンセプションレコード)