ARMORED STRATOS 兎と鴉の唄   作:バカヤロウ逃げるぞ

5 / 32
自慢じゃないですけど、LRのラスジナは初見で倒してやりました(緑ライフル、リボハンで引き撃ち万歳!)。
むしろ中枢突入の最初の特攻兵器の通路の方が苦手です。


05 そして巨人は目覚める

 その施設一帯は相変わらず寒気と濃い霧に覆われている。

 その男は仲間と共に大型装置の管理室でコーヒーを飲みながら窓の外を見て溜息を吐く。コーヒーには砂糖もミルクも入ってはいない、所謂ブラックコーヒーなのだがそれが美味しいかと言われれば頷き難い味だった。

 男はどうして自分がこんな所に配置されたのか悩まずにはいられなかった。

 男はISが普及するまでは不満の無い生活を送っていた。国防関係の役職に就き恋人もいた。

 それが、ISが普及した途端女性だからという理由で手柄も実績の無い者たちがのし上がり、公にはなってはいないが実績を積み上げてきた自分たちを無能と見下してくる。

 恋人もそうだった。

 今迄信じていた恋人の性格を一変させてしまう、ISとは恐ろしい物だと認識すると同時に所詮その程度の女だったと愛想を尽かした。向こうから別れ話を持ち込んできたときは喜んで受け入れてやった。

 それがつい二ヶ月前のことだ。政府と軍の一部の者たちからこの装置の管理をするように言い渡されたのは。

 男は勿論この装置が何なのかを訊いたが極秘事項の一点張りでいったいどのような装置なのかわからないままだが、少なくとも普通の人が知ってはいけないものなのだろうと予想する。

 それはこの管理室にいる仲間たちも同じで、一人は何かヤバい研究所を守る為の装置なのではと口にしたが、その予想が強ち間違ってはいない気がしてしょうがなかった。

 この管理室にいる者たちはその男と同じ境遇だ。訳もわからず帰ることも許されずこの装置の管理をさせられている。

 理不尽だとは全員思っているが、少なくともこんな所に左遷させられた以上楽な死に方は出来ないなと男はコーヒーを啜りながら思った。

 ふと窓の外を見ていると雲と霧の中に巨大な影のような物が一瞬見えたが、そんな巨大な物など存在する訳がない、見間違いだ、と判断し特に考えることもせず仲間との愚痴り合いを続けることにした。

 後に男はその影が見間違いではなかった事を知ることが出来た。

 

 

 

 

 四六時中大型装置から発せられる特殊な光波のお陰で衛星から発見されることのない施設。そこは束の調査通り遺伝子操作を施した強化兵士を生み出す為の研究所だった。

 この研究所に集められた研究者たちは皆ISによって追いやられ、ISを憎み、再び自分たちが嘗ていた地位を取り戻そうと野心を抱く者や、ただ単純に人体実験を行いたいマッドサイエンティストだらけであった。

 彼らの目的はただ一つ。

 ISを生み出した篠ノ之束とその友人であり白騎士と認識されている現世界最強、ブリュンヒルデである織斑千冬を超える自分たちに完全に従順な兵士を生み出すことだ。

 その目的のため今日も人工子宮から次々と試験体を生み出すも要求されているスペックに達せなかった物を焼却処分していく。それがこの施設での当然の出来事だった。

 

「今回もまともな物が出来なかったか……」

 

 訓練所として機能しているであろう大型のアリーナを窓から見下ろす研究者は標的として投入されている戦闘用自立兵器に次々と蜂の巣にされていく試験体を見て落胆の溜息を吐いた。

 それは試験体が死ぬことに対しての後悔から来るものなどではなく、彼らが目指している物を創り出すことができなかった悔しさから来るものだった。彼のすぐ側に居る白色の研究者も同じく溜息を吐いていた。

 

「サンプルに問題があるのではないか?」

「やはりお前もそう思うか……」

 

 試験体が全滅したことが彼らの居る部屋のパネルに表示されたのを見るとお互いに思っていることを口にした。

 いくら人工子宮を作り出せても生命の根源を創り出すことは流石の彼らでも不可能だった。

 ならば質の高いサンプルの細胞をベースに改良を加えクローン化すれば良いではないかと彼らは思い付くと、極秘にドイツの遺伝子研究施設から遺伝子操作を受けたサンプルを入手、それをベースに開発を始めるが幾ら遺伝子操作を加えても彼らが目指す物へは到達しなかった。

 

「やはり欠陥品ではダメか。せめてブリュンヒルデの細胞を使わなければ……」

 

 銃弾によって肉体を引き裂かれ原型を殆ど留めていない試験体を回収用ロボットがせっせと片付けているのを見ながら愚痴を吐く。その研究者の考えをもう一人の研究者も否定することは無く黙って頷いた。

 

「無い物強請りをしても仕様がないが、ブリュンヒルデ、出来れば完成形の細胞さえあれば……」

「完成形、確かC-0037だったか。越界の瞳(ヴォーダン・オージェ)にも適応出来ない物なのだからそちらを寄越したっていいだろうに……」

 

 そう愚痴を吐くと突然施設全体を揺らす程の揺れが二人を襲った。その揺れは地震等からくるものではない。

 上の方から、地上から爆発音が地下に轟いている。

 その瞬間二人の頭にあり得ない予想が過る。何者かが施設を攻撃しているという予想が。

 

 

 

 

 それは揺れが起こるほんの少し前のこと。

 その施設の周りには武装しソナーまで装備した警備員が脱走者や侵入者が居ないよう隈なく警戒している。更に施設周囲に隈なく張り巡らされた対空レーダーと管制塔の高性能レーダーによって何者の侵入を許さないようになっていた。

 そのレーダー網に爆発的な勢いで施設に接近する何かが表示されると地上の部隊は直ぐに警戒体制をとり、攻撃用ヘリコプターの出撃準備と対空火器の準備も急がせる。

 いくら衛星から発見されない様になっていても目視で発見されたならば生かして返す訳にはいかない。

 それにこの施設は通常の旅客機や輸送船がルート上使うことのない一帯に設立されている。こんな所を通る船や飛行機自体が非常にグレーな存在であるのだ。以前もここを通過しようとした輸送機を撃墜したがそれはテロリストたちの輸送機だった。

 今回もその類と思われるがその進行速度がヘリや輸送機の類のものではない速度というのがわかると、地上部隊は警戒体制を最高レベルに引き上げようとした。

 そう。()()()()()のではなく()()()()()()としたのだ。

 管制塔が施設全体に警戒体制の伝達を行おうとすると同時に、管制塔に収束された光が襲いかかった。

 その光は管制塔にぶつかると凄まじい爆発と衝撃を起こし管制塔を蒸発させる。周囲に居た警備員たちはその衝撃に耐えられず爆風と共に吹き飛ばされた。

 いったい何がおこったのか。

 理解出来た者は居ないが光の襲撃が止むことはなく三、四同じ光が地上の施設を襲いかかる。

 この施設自体通常の建造物より頑丈に造られている筈だが、そんなことは関係ないとばかりに光は施設を消し飛ばしていく。

 やがて光の襲撃が止むと生き残っている者たちは直ぐさま残っている兵器を起動させる。

 そして、周囲に轟音が響くと明るい緑色の輝きと共に深く濃い霧の中から巨大な影が姿を現した。

 宙を浮いているその影は霧の中から出てくると施設の残骸をその二本の巨大な脚で踏み潰す。

 その影は灰色の巨人だった。

 しかし人の形こそしているが人とは違う。例えばその巨人は金色に輝く不気味な五つの目を持っていた。

 霧の中から突然現れた巨人を見て直ぐに状況を理解出来る者などおらず全員が自分の目を疑い、同時にその地域に伝わる伝説を思い出した。

 

―――霧より現れし巨人、その手の光により全てを破壊する―――

 

 嘗て存在したノストラダムスの大予言も、2012年に滅亡するという予言も全てが起こることなく外れていった。

 この伝説もその巨人が現れる日が偶々今日であったが、多くの者たちが現れるわけがないと断言していただけに突然本当に現れた破壊神にパニックを起こさずにはいられなかった。

 その様子を巨人、フォックスアイのコックピットから眺めているジャック・Oは束の計画が思う様に進んでいることが可笑しくて笑そうになるのを堪えていた。一方フォックスアイの映像を研究所から見ている束はジャックとは異なり堪える事なく笑い転げている。

(全ては彼女のシナリオ通りか)

 

 

 

 

 彼らのこの悪巧みは束が依頼を言い渡した日に遡る。

 依頼の内容を言い渡されたジャックはその施設や周辺地域に関する情報を束に求めた。

 束もジャックのことを学習したのか、そう言うと思っていましたとばかりに資料を手渡す。

 ジャックは手渡された厚めの資料を開きその施設の構造や防衛体制、決行日の周辺の気候を隈なく調べる。資料を読んでいると、ふと思う所があった。

「博士、幾ら霧が発生していると言っても日中に襲撃するのはどうかと思うぞ?」

 ジャックの疑問は当然なのかもしれない。

 奇襲を仕掛けるのであればレーダーの発達したこの時代であれ夜間又は早朝に行うのが定石だ。

 束はそう疑問を口にするジャックを見ると、そう言うと予想していたのかまた別の資料を手渡す。

 ジャックはそれを受け取り、表紙を捲り重要な部分として赤丸でチェックされている所を読む。

「まぁ、お芝居ってやつだよ。折角巨人も居るし、破壊の光もあるみたいだし」

 束は夜間に襲撃を行うよりも、伝説を本当に起こした方が敵に対する心理的ダメージが多いと判断して伝説通り昼間に襲撃するよう計画を企てた。

 ジャックも理由を知ると面白いと言わんばかりの表情を浮かべ、訂正する必要は無いと判断する。

 

「面白い事を考えるな、博士。だが……」

 

 ジャックは一旦口を閉じると無表情に戻り資料から目を離し、束を見る。

 

「博士であろう人間が、こんな施設を破壊する為だけに私を雇う必要性は無いと思うが?」

 

 ジャックはこの依頼を受け取った時に最初に思った疑問がこれだった。

 篠ノ之束はこの世界で唯一ISコアを生産出来る程の人間。彼女なら無人機でも作れるのではないかとジャックは予想した事もあった。

 そんな人間である束がたった一つの施設を潰す為だけにACを使う必要性があるのか?

 束ならISを使わずともこの施設を破壊する事は容易ではないかとジャックは疑問を抱かずにはいられなかった。

 

「やっぱり気付かれたかぁ~」

 

 まるで悪さをした子供が親にその事がばれた様な声を束は上げ回転式の椅子に座ったままグルグル回る。

 

「余計な話も必要無いと思うし単刀直入に言うとね、ACの稼働データが欲しいんだよ」

 

 束は現場のフォックスアイの解析率に不満を抱いていた。

 本来であればもう少し解析出来る筈なのに何故か進まない。まるで何かに引っかかっている様な感じがしていた。

 束は束なりにその原因を模索していると一つの結論にたどり着いた。

 それがフォックスアイの稼働データだ。

 やはり見るだけのデータと実際に動いているデータとでは雲泥の差があり、フォックスアイの稼働データを入手することが解析の加速化に繋がると彼女は判断したのだ。

 しかし、稼働データも無しにオーバーテクノロジーの塊であるACをたった二日で2%も解析したのは流石天才と言わざるを得ない。

 

「やっぱり実際に動いている新鮮なデータが欲しいんだよ。観察するだけで解析しろなんて最初から無理だったってわけ」

「……成程。研究施設襲撃はその為の建前と言うことか……」

 

 ジャックは漸く束の目的にたどり着く。

 束はISを扱えない自分を使うことによって強制的にACで出撃させ目障りな研究施設を破壊させる。同時にフォックスアイの稼働データを手に入れられ解析の加速化に繋がる。彼女にとって正しく一石二鳥だ。

 そういう風に頭が回る束を見てジャックは、何故昨晩チェスで負けたのか不思議に思わざるを得なかった。

 

(しかし、稼働データ欲しさに虐殺とはな……)

 

 同時に束の自己中心的で残酷な思考の狭間を覗いたジャックは特に恐れを抱くことは無く、この世界にも元居た世界の権力者の様に残酷な者が居ると知り逆に面白いと不敵な笑みを浮かべてしまう。争い事とは切っても切れぬ縁、レイヴンとしての性か、束の自己中心的な性格をジャックは改めて大いに気に入ってしまった。

 それに今回の襲撃は彼女にだけメリットをもたらすだけではない。

 もし彼女がある程度解析が進めばフォックスアイの予備パーツの作成も可能になるかもしれない。そうなればフォックスアイの整備もより効率的になり、行く行くは稼働率の大幅な上昇につながる。

 もう一つ重要なのがフォックスアイの右腕に握られているKARASAWA-MkⅡの威力を確かめる事だ。あの後も計器で色々とシミュレートしてみたが、結果は計測不能のままだ。

 この依頼は改めて言うが束にだけではなくジャックにも充分メリットがある依頼だ。それを彼が断わる理由は無い。

 

「私にも少ないがメリットはある。依頼を受けよう」

 

 ジャックが受諾の意思を束に伝えると束は嬉しそうに顔をパァっと明るくする。それを見たジャックは「だが……」と言葉を続ける。

 

「この輸送手段のニンジン型潜水艦は訂正の必要がある」

 

 その事を伝えると束は「えー」と不満の声を上げる。

 

「常識的に考えろ、博士。仮にこの潜水艦を発見されてみろ。こんな潜水艦を作るのは博士以外に誰かいるだろうか?」

「つまりジャックくんは束さんとの繋がりを察知されたくないってこと?」

「そうだ。まだ世界には我々の間に繋がりがあることを知られるわけにはいかない。篠ノ之束の発明品でもない正体不明の兵器。だからこそ生まれてくるメリットがある」

 

 ジャックの説得に耳を貸していた束は依頼を考えている時には別に繋がりがあることがばれても構わないと思っていたが、ジャックの言うとおり正体不明だからこそ生まれてくるメリットを考えると訂正した方がいいかなと思った。

 そうして輸送手段をニンジン型ではなく形を現役の潜水艦を模したものに変更するといった所を除いて殆ど変更することなく計画の結構に臨んだ。

 

 

 

 

「悪いが、仕事はさせてもらうぞ」

 

 ジャックはコンソールパネルを操作しフォックスアイのシステムを切り替える。

 

≪メインシステム、戦闘モード起動します≫

 

 頭部COMの男性風合成音声が戦闘用システムに切り替わった事を告げる。

 するとジェネレーターが戦闘用に切り替わり出力が向上し、ブースターの推力も瞬発的なものに切り替わる。そして機体の表面が強力な防御スクリーンに包まれたのをジャックはパネルで確認するとレバーについているトリガーを引いた。

 それに連動してKARASAWA-MkⅡの引き金をフォックスアイが引くと、出撃準備に入っていた戦闘ヘリ等が格納されている倉庫に向かってカラサワの銃口から収束されたエネルギーの塊が放たれた。

 放たれたエネルギー弾が倉庫に着弾するとエネルギー弾とは思えないほどの爆発を起こし凄まじい衝撃と爆風が倉庫周辺に居た敵性勢力に襲いかかる。

 今の光景を見ただけでジャックはこのKARASAWA-MkⅡが元々持っていたハイレーザーライフルを遥かに凌駕する性能を持っている事を察知した。

 因みにだが今回の出撃には左腕のグレネードライフルと両肩垂直ミサイルを外してきた。それはまだ実弾を精製する手段を束が有していないため弾薬の調達が不可能であることと、伝説をより忠実に再現するために手に持つ光であるカラサワだけにしたのだ。

 頭部パーツのレーダーが他の格納庫から増援の出現を告げていることにジャックは気が付くとペダルを踏みブースター吹かしフォックスアイを宙に浮かべる。

 そしてフォックスアイのコア、C04-ATLAS最大の特徴OB、『オーバードブースト』を起動させる。背中の装甲の一部が展開し大型のブースターが露出すると準備動作の為大きく呼吸をするかのように緑に輝く光を収束する。そして収束されきった光を大きく吐き出すと同時にフォックスアイは凄まじい勢いでその格納庫へと飛び向かう。

 格納庫上空に到着するとOBをカットしそのまま重力脚部、『LH13-JACKAL2』で格納庫の天井を踏みつぶす。ACの重量に耐えられなかった天井が突き破られフォックスアイはそのまま格納庫内部に侵入すると容赦なくカラサワのトリガーを連続して引き内側から文字通り吹き飛ばした。

 倉庫の爆発などACにとっては温い風に等しくフォックスアイは傷一つ付くことなく燃え上がる炎の中から再びその恐ろしい姿を地上に現した。

 施設の戦闘兵たちも漸く戦闘ヘリを出撃させるとすぐさまフォックスアイに対して攻撃を開始する。歩兵たちも極力攻撃を試みるが彼らが手にするAK-47の弾丸はフォックスアイの装甲に触れる前に防御スクリーンによって弾き返されてしまう。

 それは兵士たちにとってはまるでその巨人が超能力を使っている様に見えてしまいより絶望してしまう。

 その巨人を操るジャックはそんな歩兵たちに慈悲など与えるつもりなどなくカラサワの銃口を向け歩兵たちをその光で蒸発させた。

 機体後方に衝撃が走るのをジャックは感じるとフォックスアイを振り向かせ攻撃した主を確認する。そこには至近距離まで近づいている戦闘ヘリの姿があった。

 ジャックは攻撃する前にモニターに目を移しAPが微量だが減っていることを確認する。この世界でもACは最強だが破壊は不可能ではない存在であることをジャックは改めて認識すると、目の前の目障りな“ハエ”を重量脚部による踵落としで粉砕する。ヘリのパイロットはその凄まじい質量を持つ脚部によって痛みを感じる暇もなく一瞬でミンチにされヘリと運命を共にした。

 しかしジャックはヘリが地面に叩きつけられるよりも先にヘリの尾部を左腕で掴み取るとその残骸をもう一匹の“ハエ”にプレゼントする。ヘリのパイロットも突然の攻撃に対応出来るはずもなく残骸が機体を直撃し地面に叩きつけられ爆発炎上した。

 もしこの施設にISが配備されていればまだここまで一方的ではなかったかもしれない。

 しかしこの施設は世界の裏の顔ともいえる施設。そんなところに易々とISを配備すれば直ちに世界へこの施設の存在が露見してしまうだろう。そうこの施設を設立した者たちは判断したが、その判断が災いとなってしまっていた。

 

(施設の完全破壊を考えるとあまり遊んでいる余裕はないか……)

 

 ジャックの任務は施設の戦力の排除ではない。施設の破壊だ。

 それを考慮するとあまりカラサワのエネルギーを地上の戦力に使うのは得策ではないと判断すると、ブースターを吹かして再び空に舞う。

 そしてある程度の高度に達するとカラサワの出力を上げ先ほどよりも威力を高めた一撃を現存する全ての格納庫へと連射する。

 それは地上にいる兵士たちにとっては正しく地獄、ソドムとゴモラの滅亡はこのような光景だったのか、と爆風で身動きが取れず“光”が迫ってくるのをただ見ている兵士はそう思った。

 ジャックの判断は間違いとは言えない。

 カラサワの連射によって地上の戦力は一掃され、出撃していた戦闘ヘリもカラサワの爆風によって吹き飛ばされ操縦不能に陥り全て地面に叩き落とされてしまった。

 更に地上施設という触覚を失った地下は何が起こっているのか全く分からず混乱に陥っていた。

 ジャックはフォックスアイの右手に握られているKARASAWA-MkⅡの威力がどれほど凄まじい物なのか改めて実感する。同時に何故自分がこの兵器を持つことになったのか不思議でしょうがなかったが、今は任務を続行することだけを考える。

 地上の施設が一層されたことによって残るは地下の施設だけとなった。

 

≪ジャックく~ん、聞こえる?≫

 

 研究所にいる束から通信が入る。

 この通信も束の手によってISの機能であるコア・ネットワークのプライベート・チャネル(個人秘匿通信)をベースにAC用に開発したものに置き換えられているため傍受されることは理論無い。

 

≪後は地下のゴミ虫どもを片付けるだけなんだけど、今からデータ送るからそこを重点的に攻撃して≫

 

 するとフォックスアイのデータベースに施設の見取り図が送られて来る。

 それによるとこの施設は地下に存在する動力炉によってエネルギーを供給しているらしく、施設を隠すためのスクリーン発生装置の動力もこれによって賄っているらしい。

 つまり束によるとこの動力炉をカラサワでぶち抜けば連動爆発を起こし、地下施設は文字通り地下の瓦礫へと化すということだ。

 

≪それと動力炉が破壊されたらスクリーン発生装置のエネルギー供給も無くなるよ。因みに装置の予備エネルギーを考えると3分でスクリーンは無くなっちゃうからね≫

「つまり、破壊した後速やかに撤退せよ、と言うことだな」

 

 ジャックは簡単な説明を受けると直ぐにそれを実行する。

 束の見取り図と頭部のセンサーに従って動力炉の真上へと移動する。そして目的地に到着するとまずは一撃カラサワを放ち地上に穴をあける。そのあいた穴を左腕で無造作に掘り進め、少しだけ広くそして深く掘った。

 ある程度穴を広げると再び空に上がり先ほどよりも出力を上げたカラサワを穴に向けて撃ち続ける。

 カラサワの威力は絶大だった。採掘用のダイナマイトの塊を連続してその穴に向かって放り投げるよりも早く掘り進めて行き遂に動力炉が露出した。

 それをジャックは確認するとカラサワを最大出力に設定しOBを起動させ動力炉に向かって引き金を引く。

 引き金を引くと同時にOBが発動し動力炉からフォックスアイを遠ざけていく。いくら頑丈であるACでも施設の爆発に巻き込まれれば無事でいられる保証は無かったからだ。

 しかしカラサワの連続発射、OBの使用、それらがジェネレーター、KUJAKUに存在するエネルギーを食い散らかしエネルギー残量がレッドゾーン(緊急容量)に達している事を必死に告げていた。

 ジャックはエネルギーチャージングぎりぎりまでOBを使用し続けると直ぐにOBをカット、エネルギーを回復させていく。

 するとフォックスアイの音響センサーが凄まじい爆発音が入り、同時に機体を大きく揺らすほどの爆風が襲いかかる。ジャックは慌てることなく冷静に姿勢制御に徹し、フォックスアイをしっかりと立たせた。

 そして機体を振り向かせると大きなキノコ雲が動力炉があったであろう場所から上がっているのが見えた。

 

「任務完了か」

 

 ジャックは束にそう告げると束から待ったが入る。

 

≪待ってジャックくん……施設残骸から生命反応が一つだけあるみたい≫

 

 もしそれがあの施設の生き残りであれば生かしておくわけにはいかない。

 束が指示するよりも先にジャックはジェネレーターが回復したのを確認するとOBを使用して急いで施設跡に引き返した。

 

 

 

 

 動力炉の爆発は束の予想通り施設全体に連動したのか、地表が大きく抉り取られ地下に設立されていた研究施設跡が露出していた。

 ジャックはそこにフォックスアイを降ろすと脳内の高性能レーダーとセンサー、束からの情報を頼りに生存者を捜索する。だが先ほどの爆発と合わさりこんな状態になったのにもかかわらず生存しているとは一体何者かとジャックは疑問を抱いていた。

 

≪ジャックくん、北東500m先に反応あり!≫

 

 束からの通信に従いフォックスアイをその位置へと近づけ、センサーの感度を最大限にまで上げる。

 脳内のレーダーが生体反応を察知し、それによると地下ではなく地表に存在することを確認する。

 フォックスアイのカメラ感度を上げより映像をクリアにして探していると瓦礫に埋もれた生体反応を発する“何か”をジャックは発見した。

 ジャックはフォックスアイの左腕で慎重に瓦礫をどかしていきその“何か”を目にする。

 それはガラスのカプセルいっぱいに満たされた培養液に浸かっている全裸の少女だった。

 よほど頑丈なガラスで出来ているのかあの爆発の中に遭ってもガラスにヒビが入るだけで済み、中の少女にも目立った外傷が見られなかった。恐らくは培養液が衝撃を吸収したのかもしれない。

 ふとこの少女を見てジャックは束がこの施設は細胞を改造した強化人間を生み出す為の施設であることを思い出し、この少女が果たして生み出された強化人間なのか、それとも細胞のサンプルなのかと予想する。

 

「博士」

≪連れて帰ってきて≫

 

 ジャックはこの少女の処置をどうするか束に尋ねようとすると、フォックスアイを通して研究所からその様子を見ていた束は一言ジャックにそう告げる。

 ジャックは束がどういった理由でこの少女を連れて帰ってこいなどと言うつもりになったのか理解できなかったが、レイヴンは必要以上の事を知る必要など無い。特に依頼者の心情など理解する必要性など皆無なのだ。

 

≪作戦目標クリア。システム、通常モードへ移行します≫

 

 ジャックはフォックスアイを通常モードへ移行させ、束の指示通りそのカプセルをフォックスアイの空いている左手で掴むとスクリーン消滅前にその領域からOBを使用し全速力で撤退を開始した。

 通常モードは瞬発力こそ戦闘モードに比べて落ちるが、その代りジェネレーターの発熱が抑えられエネルギー消費が効率化されることにより長距離移動が可能になる。その為こうしてフォックスアイはOBによる長距離移動を行い、撤退用の潜水艦へと向かっていた。

 その左手には培養液が満たされたカプセルを大切に抱えながら……

 

 

 

 

 その後スクリーンは消滅、各国の衛星が破壊しつくされたこの施設を発見し、この施設が設置されていた国に対して各国は説明と言う名の脅しを仕掛けた。

 この事態に対して某国は知らぬ存ぜぬの一点張りの姿勢を続けていたがスクリーン発生装置の管理者たちが一部の政治家と軍人によって指示されたということを事情聴取で吐いてしまい、一気にこの施設の事が各国に知られてしまう。

 しかしこの施設での研究内容は世間一般に公開できるものではないと判断され内々に指示した者たちを処分する形で事なきを得た。

 それに何者かは分からないが施設に居た全ての人が死亡していたことと、国全体で研究をしていたわけではないためこれ以上の責任の追及が出来なかったということもある。

 

 因みにだが似たような研究をしていたドイツは上手く保身に走り被害を受けずに済んだらしい。




PS2版フォーミュラフロントにドップリ浸かっています。
KUBIRAとかタイラントεとかツヴァイハンダーとか見ていると感動してしまう。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。