ARMORED STRATOS 兎と鴉の唄   作:バカヤロウ逃げるぞ

20 / 32
前回の後書きの
クソル・グリッド・ターン
への反応が多くて思わずホッコリ。


20 クラス対抗戦、そして襲撃 下

 新たに現れた襲撃者のISの両手に装備されているビーム砲が、二人に向かってビームを放ったことにより新たな戦いが始まった。

 

「なんだ、あの出鱈目な出力は!?」

≪一夏、いい加減離しなさいよ!≫

 

 一夏は鈴を抱きかかえたまま襲撃者からのビームを掻い潜り続ける。それが出来るのも兎と鴉による改修があったからこそ。しかし抱きかかえられている鈴は、恋心を寄せている少年と密着している恥ずかしさからそう言い、少し乱暴に離れた。

 一夏はセシリアとの対戦経験もあって、エネルギー兵器の威力をある程度は把握していた。だが、あの襲撃者のISが、彼女のIS(ブルー・ティアーズ)のレーザーライフルを凌駕する出力を持っていることに一夏は驚いてしまう。

 

「さっきの無人機のキャノンなんか、比にもなりゃしないじゃねえか!」

 

 先程の戦闘で消耗している状態であのビームを浴びれば、奴の言う通り死ぬ恐れがあることを一夏は理解した。

 

≪どうした? 逃げてばかりか?≫

 

 高出力ビームを連射しながら逃げ惑う鈴と一夏に向かって、襲撃者はそう挑発した。

 

≪代表候補生と雖も、所詮はガキだな。それとも、貴様を鍛えた者が、その程度の者なのか?≫

≪なんですって!?≫

 

 鈴は襲撃者からの挑発に激怒し、逃げることを止めて双天牙月を構える。彼女に向かって放たれたビームをアクロバットで回避すると、残りが半数を切ったミサイルを使って襲撃者へ突撃した。

 

「鈴! よせ!」

 

 素人の一夏であっても、襲撃者の罵倒は自分たちの冷静さを欠かせるための挑発だと理解していた。だからこそ彼は、挑発に乗せられた鈴を抑制しようと通信を入れる。

 しかし鈴は彼の忠告を無視し、放たれるビームを旋回機動で回避しつつ襲撃者との距離を縮めた。

 

 鈴とて代表候補生、挑発に乗るような馬鹿な真似はしないよう訓練されている。だが、それでも彼女がこの襲撃者の挑発に乗ってしまったのは、代表候補生である自分を馬鹿にされたからではなく、恩師(烏大老)を馬鹿にされたからであった。

 

≪くらえ!≫

 

 距離を縮めた鈴は、有効射程距離に入った龍咆を撃つ。出力の高い貫通設定で放たれた砲弾だが、襲撃者のISには大したダメージどころかビクともしていなかった。鈴はそれを見ても驚かず、頭に血が上った状態で双天牙月による斬撃を選択した。

 

≪じゃあ、これなら!≫

≪甘いな≫

 

 襲撃者は振り下ろされる双天牙月に対して、巨大な腕で対抗する。だが、金属同士がぶつかり合った甲高い音はアリーナに響き渡らなかった。

 

≪え?≫

≪この程度、想定出来ないのか?≫

 

 鈴が振り下ろした双天牙月の片方は、襲撃者のISの腕に内蔵されているビーム射出装置から収束されているビームブレードによって切り裂かれ、蒸発していた。

 

 想定外の武装による対処でフリーズしてしまう鈴。

 

 それを見逃す襲撃者ではなく、両腕に生やしたビームブレードを彼女に向かって振り下ろした。

 空中で粒子が拡散してしまい威力が減衰してしまうビームを、ブレード状に収束することにより理論上最高の威力を叩き出すことが出来ていた。

 そんな、異常な威力のビームブレードを、鈴は直に受けてしまった。

 

≪ぅああああああああ!!≫

 

 シールドバリアーを一瞬で掻き消し、絶対防御を発動させる。だがビームブレードの熱を押させることは出来ず、鈴は赤く熱せられた鉄棒を押し付けられているような激痛に襲われる。

 絶対防御の発動、更に先程の無人機との戦闘による消耗も加わって、甲龍に装填されているシールドエネルギーは凄まじい勢いで減少していき、遂にレッドゾーンに突入した。

 一度離されるビームブレード。鈴は身体の前面が焼け爛れると錯覚するほどの痛みを受けたことで、意識が朦朧としてまともな反応をすることが出来ず、襲撃者の前で無防備な姿を晒した。

 激痛により涙腺が崩壊し、鈴は流れ続ける涙で視界が封じられている中で赤い閃光が走るのを見た。その直後に背中で何かが爆発し、まともに制御出来ずグラウンドに叩きつけられた。

 

 龍咆のユニットの一つを斬られたのか。

 

 鈴は全身の痛みに苦しんでいる中で、爆発の原因を何となく理解する。だが、それも目の前で腕部内臓ビームの砲口を向けている襲撃者を見て、無駄なモノだと諦めてしまう。

 

≪まずは、貴様から死んでもらおうか≫

 

 慈悲も見せず、淡々と、作業の様に襲撃者は彼女にそう告げる。死の宣告を受けた鈴は、目の前が徐々に暗くなっていった。

 

「やらせるか!!」

 

 一瞬で瀕死にさせられた鈴を救うべく、一夏は何度目かになる瞬時加速を使用して倒れている鈴を拾い上げ、上空へ逃げた。

 その直後に、鈴が倒れていた場所に向かってビームが放たれ、凄まじい爆発を起こす。

 間一髪のことだった。

 

「鈴! しっかりしろ! 鈴!!」

 

 目を閉じたままの鈴を見て、一夏は揺さぶりながら声を掛ける。シールドバリアーがエネルギー僅かだったためまともに作動していなかったのか、彼女の唇と頭部から血が流れていた。

 

「……い、いち……か……?」

 

 未だに意識が朦朧としている中でも、鈴は抱きかかえて声を掛けてくる人物が一夏だと断定した。

 

「ごめん、一夏。やられ……ちゃった……」

 

 まだ身体中が痛むだろうに、鈴は悔し涙を流し、笑顔を浮かべながら自嘲した。

 

「鈴……馬鹿野郎!」

 

 そんな痛々しい幼馴染の姿に、一夏はなぜもっと早く駆けつけてやれなかったのかと後悔してしまう。

 

≪おい。臭い三文芝居は終わりか?≫

 

 慈悲もなく、一夏と鈴に向けて襲撃者は肩に装備されている連射型ビームを撃つ。放たれたビームはまるで嵐の様に彼女らに向かって襲い掛かった。

 一夏は雪片を量子化すると、鈴を両手でしっかりと抱えて回避行動に移った。武装関連に消費していたエネルギーも全て機動力に回す。反撃は出来ないが、今、もしも鈴にビームが当たればどうなるか? 想像もしたくない事態になると彼は判断していた。

 

≪逃げてばかりか……ならば、こちらから行かせてもらおう!≫

 

 襲撃者はグラウンドに立っているだけなのは飽きたのか、遂に宙へ上がる。そしてそれと同時に機体の随所に装備されているスラスターを利用して、目にも留まらぬ、白式にも勝るスピードで一夏たちとの距離を詰めた。

 

「なに!?」

≪逃げられると思うなよ、小僧……≫

 

 連射型ビームで牽制し、一夏の行動範囲を狭め、そこに両腕の掠っただけでもかなりのダメージを与える高出力ビームを撃つ。計算されたかのように精密な行動で、襲撃者は着実に一夏を追い詰めていった。

 

(どうする……どうすれば!)

 

 EOによる反撃もする暇もなく追い詰められていく一夏は、必死にこの状況を打開する策を頭の中で練っていた。

 

 

 

 

 戦いをしているのはアリーナに居る一夏と鈴だけではない。その管制室でもまた、静かではあるが激しい戦いが繰り広げられていた。

 

「学園のセキュリティプログラムの奪還はまだか!?」

「学生寮、本館のセキュリティの奪還作業が85%を超えました! まもなくセキュリティシステムの鎮圧に成功します!」

 

 管制室にいる千冬は、他のオペレーティングを務めている教員が伝えてくる情報を聞き、学園全体を襲っているクラッキングによるセキュリティシステムの奪還を指揮していた。

 

「アリーナとIS格納庫はどうなっている!? そちらを優先的にと言ったはずだ!」

 

 千冬はシステムの奪還に際して、襲撃者が暴れているアリーナとそれを鎮圧するためのIS学園教導隊のISが格納されている倉庫のシステムの奪還を最優先とするよう指示を出していた。しかし入ってくる情報は、アリーナから物理的に離れている場所のセキュリティの鎮圧情報だけであった。

 

「それが、アリーナ及び格納庫に対するクラッキングが非常に強固なものになっているんです!」

 

 説明を要求された教員はそう言いながら、現在その二つの場所がどの様になっているのかという情報を千冬の近くにあるディスプレイに転送する。それを見た千冬は飲み干した紙コップを一瞬で握りつぶした。

 

「ダメです! IS格納庫、機能は依然停止! 鎮圧部隊の派遣、出来ません!」

「アリーナ外部のシールドバリアー、出力最大! 搬入口も封鎖させたままです!」

「おのれ……襲撃者め!」

 

 アリーナに居る者たちが逃げられないようにし、増援が派遣できないよう格納庫の機能を停止させ、アリーナはシールドバリアーの強度が最高にして外部からの侵入を拒ませ、搬入口も封鎖するという襲撃者の手際の良さに、千冬は苛立ちから歯を軋ませた。

 依然アリーナ外部の情報が入ってこず、戦っている一夏と鈴がどうなっているか分からない不安が、更に彼女の苛立ちを掻き立てる。

 

「これは……織斑先生!」

 

 突然自分の名前を呼ばれた千冬は冷や水を被ったかのように冷静さを取り戻し、声を掛けてきた教員の顔を見る。

 

「アリーナに閉じ込められていた生徒たちですが、セシリア・オルコットと更識楯無、および生徒会によって救出されたようです!」

 

 届いたのは吉報。それを聞いた教員と千冬は安堵の表情を浮かべる。

 

「ただ、隔壁を無理矢理ISで切断したようです」

「構わん。生徒の命が無事であれば、追加予算ぐらい勝ち取ってみせよう」

 

 そう豪語はするものの千冬は内心、また政府の役人と面倒くさい交渉をしなくてはならないのかと溜息を吐く。

 

「先生! 救出された整備課がセキュリティシステム奪還の協力を申し出ていると、生徒会から通信がありました!」

 

 あまり関係の無い場所のセキュリティ奪還は無駄なモノではなかった。

 IS学園の整備課に属する生徒たちは、プログラミングに関しても精通している者が多い。特別講習として行った、外部からの不正アクセスに対する防御方法が活きるかもしれないと千冬は判断する。

 

「今は少しでも手が欲しい。整備課からの協力の申し出を許可し、奪還作業に尽力するよう通達しろ!」

「了解!」

 

 千冬の指示に従って教員は生徒会を通して整備課に整備課からの要請を許可するよう伝えた。

 少しずつではあるが事態はこちらに好転している。しかし、と千冬は油断せず状況を再確認した。

 

(観客の救出には成功したが、アリーナの事態は未だ把握しきれず。鎮圧部隊は事実上無力化……生徒会は救助作業で手が回らず楯無の増援は出来ず、ケイシーとサファイアはアリーナ外部に居るため侵入は不可能、か……)

 

 改めて確認してみると、まるで解決できていないことを千冬は思い知らされた。

 

(観客に被害が出ていないとなると、一夏たちが襲撃者を抑えているのか?)

 

 高性能なISが与えられたが、それでも実戦経験が浅すぎる一夏には荷が重すぎると、千冬は唯一の肉親の無事を祈る。

 

「織斑先生! 整備課の協力によって、アリーナのカメラ及び通信機能の奪還が出来そうです!」

 

 身内の心配をしていた千冬にとってそれはどの吉報よりも嬉しいものだった。

 

「よし。アリーナのカメラを復旧させ、織斑と凰に対して通信を試みろ!」

「わかりました!」

 

 二人への通信を担当していた真耶は素早い手つきでコンソールを操作していく。他に居た教員もアリーナのカメラ類の復旧を行った。

 

「カメラ復旧! 映像、ディスプレイに映します!」

 

 カメラの復旧を担当していた教員はそういうと、大型空間投影ディスプレイにアリーナ内部の映像を映し出した。

 

「お、織斑くん! 凰さん!」

 

 そこに映し出されたのは、スポーツ(競技)ではなく戦場であった。

 アリーナの至る所にISバトルでは出来ない損壊があり、グラウンドに至ってはクレーターが無い部分を探す方が難しい。カタパルト部分は破壊され、装飾として設置されていた物は悉く破壊しつくされていた。

 

「一夏……」

 

 映像に映し出されている一夏は鈴を抱きかかえながら、迫り来る漆黒のISからのビーム攻撃を必死に回避していた。その表情には焦りが見て取れる。

 

「せ、先生!!」

 

 アリーナ内部のISの情報分析を務めている教員の一人が悲鳴のような声を上げ、泣きそうな顔で千冬に向かって振り返った。

 

「どうした!」

「ふぁ、凰さんのIS、甲龍のダメージレベルがC+を突破! また生体維持機能が停止しています!!」

「なんだと!?」

 

 もしその報告が確かであれば、操縦者の生命を守るための機能が悉く停止しているという事にもなっている。

 それはISに遭ってはならないこと。ISが最強であるための条件が、失われていることを意味しているからだ。

 

「凰の状態はどうなっている!」

「全身に火傷と打撲、頭部及び口内から出血! 他複数個所に負傷が見られます!」

「甲龍、シールドエネルギー残量僅か! シールドバリアーも出力が安定していません!」

 

 もし今の状態で鈴にビームが当たってしまったら……絶対防御は一瞬作動するかもしれないが、連射されるビームの雨を受けて蒸発してしまうだろう。

 

「くっ……織斑に通信を回せ! 今すぐ!」

「は、はい!」

 

 怒鳴るような千冬からの指示を受けた真耶は、急いで復旧した通信回線を一夏と鈴に繋がせる。

 

 この時、誰もが復旧と救出に必死になっていた。そのため誰も気付くことが出来なかった。

 

―――管制室から、箒が姿を消していることに―――

 

 

 

 

≪よくここまで生き延びたものだ≫

 

 余裕を見せる襲撃者は尚もビームを乱射しながら一夏を追い詰めていた。

 先程からのビームの嵐によって白式のシールドエネルギーは徐々に削られていき、切り札とも言える瞬時加速も、零落白夜も使えるかどうか怪しい範囲になりつつある。

 

「クソ!」

 

 反撃する暇をまるで与えない襲撃者の攻勢に一夏は悪態を吐いてしまう。

 

「一夏……」

 

 痛みでまともに動けない自分を抱えながら必死に逃げ続ける幼馴染の姿に、鈴はある決断をしようとした。だが、そこに通信が入る。

 

≪……くん! ……さん! 織斑くん! 凰さん!≫

「!! 山田先生!?」

 

 漸く繋がった回線に一夏は声を大きくしながら応えた。

 

≪聞こえるか、織斑?≫

「千冬姉! 鈴が……鈴が!!」

 

 鈴が非常にまずい状態にあることを一夏は何とか伝えようとする。

 

≪慌てるな。凰の容態は既に把握している。いまから指示を出す。落ち着いて聞け≫

 

 いつも通りの無茶な要求ではあったが、回線が繋がっていることに一夏は安心し回避行動をとりながら通信に耳を傾ける。

 

≪凰のISのエネルギー残量は残り僅かだ。おまけに生体維持機能が作動していない≫

「それは分かっているよ!」

≪いいか、ここからよく聞け!≫

 

 通信越しに聞こえる姉の凛とした声。それが焦り、熱くなっている一夏の頭を冷やした。

 

≪お前のISにもエネルギー転送プラグが内蔵されている。それを使うんだ≫

「使うって、どうすれば……」

 

 初めて聞く機能に一夏は戸惑う。

 

≪白式のハイパーセンサーを使って念じるように指示を出せ。プラグの位置と転送準備に入る筈だ≫

「えっと……、あ、あった!」

 

 千冬の指示に従って行動すると、ハイパーセンサーに転送プラグが腰部の裏にあることが示され、エネルギー転送を許可するかどうかの選択が表示される。

 

≪エネルギー転送か? させてもらえるとでも?≫

 

 転送しようとしているところで襲撃者は瞬時加速を使用し、ビームブレードを展開する。

 振り上げられる腕。だが、一夏は焦らなかった。

 

「EO、展開!」

 

 ビームブレードが振り下ろされようとしていたところで、一夏はカウンターとしてEOの展開の指示を出す。すかさず展開されるEO。そして脅威と判定された腕部のビーム砲に対して銃撃した。

 ある意味無防備な状態の襲撃者はEOの攻撃を腕部に受けてしまい、左腕の砲口が集中して被弾し、爆発を起こす。襲撃者は黒煙に塗れ、左腕のビームブレードは消滅した。

 その隙に一夏は距離を取ると、腰部から伸びた接続プラグを甲龍に接続する。

 

「コアバイパス、解放!」

 

 一夏がそう言うと、白式はエネルギーの流出の許可を受けて残っているシールドエネルギーの2割弱を鈴のISに転送した。

 

≪やってくれたな……≫

 

 空中にもうもうと舞う黒煙の中から、赤い光の帯が二人に向かって放たれる。

 鈴はエネルギーを得た甲龍を動かし、一夏が回避しやすいようにした。

 

「鈴!」

≪大丈夫……大丈夫よ≫

 

 まだ息は荒いが、鈴はまだ戦えるアピールをした。

 

≪凰、無茶はするな……織斑!≫

「あ、はい!」

 

 千冬からの通信に一夏は応える。

 

≪残念だが、ピットの隔壁がまだ解放されていない。それまで凰の援護をしてやれ。出来るか?≫

 

 ハイパーセンサーに表示されているエネルギー残量を見て、余りにも絶望的な状態ではあることを認識する一夏。

 

「出来るも何も……やらなきゃいけないんだろ!?」

 

 しかし、それでもやらなければ鈴の身が危ないのは分かっているため、一夏はそう返答した。

 

≪一夏。あんた……≫

「守ってやるさ、お前の事」

 

 チラリと後ろに居る鈴を見ると、一夏は雪片を展開した。

 

≪一夏≫

 

 襲撃者に立ち向かおうとしたところで千冬が一言通信を入れる。

 

≪死ぬなよ≫

「千冬姉……」

 

 千冬が身内(・・)として心配していることに気付いた一夏は、なにがなんでも死ぬわけにはいかないと心に誓う。

 

≪逃がすものか≫

 

 未だにもうもうと舞っている黒煙を、全て吹き飛ばすほどのビームが一夏に向かって放たれた。それを見て何とかすかさず避ける一夏。

 

「……お前も無人機か!」

 

 黒煙が晴れると、そこには左手をパージし内蔵されていた大型ビーム砲を向ける襲撃者の姿があった。

 

≪二人ともまとめて、あの世へ送ってやろう≫

 

 続けて照射されたビームは鈴に向けられていた。

 

≪バカにしないでよね!≫

 

 鈴は痛む身体に鞭を打ち、照射されたビームを屈み横にスライドして回避する。そのスピードを保持したまま地上へ降下する。

 

≪……拾わせるか!≫

 

 襲撃者は鈴が何故地上に降下しているのかを理解する。

 

 彼女が向かう先にあるのは……落としてしまった片方の双天牙月。

 

 すかさずビーム砲を鈴に向ける襲撃者だが、そこに横やりが入る。

 

「やらせるかよ!」

 

 雪片を手に握り、接敵しながらEOで攻撃する一夏。手に握られたそれは実体ブレードではなく、刀身部分が展開されエネルギーブレードに変わっていた。

 間近に迫っていたことに気付いた襲撃者は、鈴に向けていたビーム砲を引っ込め振り下ろされた雪片を間一髪で回避する。

 

「まだだ!」

 

 躱されることに慣れ始めた一夏は、空振った勢いを、PICを駆使して何とか殺すとそのまま横一門に雪片を振るう。それに対して襲撃者は瞬時に残っている右腕のビームブレードを展開して、雪片のエネルギーブレードを抑えた。

 エネルギー同士のブレードがぶつかり合ったとしてもすり抜けるはずだが、何故か鍔迫り合いが発生する。

 

「このっ……!」

≪腕が笑っているぞ、小僧≫

 

 襲撃者はそう言いながら、鍔迫り合いで動きが止まった一夏に向けて肩と、左腕のビーム砲を向けた。

 

≪やらせないわよ!≫

 

 足元から声が聞こえる。

 襲撃者はハイパーセンサーで足元を見ると、双天牙月を拾った鈴が猛スピードで接近していることに気が付く。

 襲撃者が直ぐに回避しようとするも既に遅く、接近時のスピードを活かして振り上げられた青龍刀は襲撃者のISの左脇に入り込み、その質量を活かして火花を散らしながら斬り飛ばした。

 鍔迫り合っていた一夏は襲撃者のバランスが崩れたのを見ると、ビームブレードを右下にいなし、突きを放った。だがそれはすかさずバランスを取り戻した襲撃者の本体を捉えることは出来ず、右肩に装備されていた連射型ビーム砲を破壊するだけに留まる。

 

≪やるな≫

 

 機体の正面に取り付けられた無数のスラスターを使用して、襲撃者は一瞬にして二人から距離を取った。

 

≪惜っしいー、あとちょっとだったのに!≫

 

 鈴は下を打ちながら悔しそうに悪態を吐いた。

 

「仕留め損ねちまった。エネルギーは……あと少しか」

 

 ハイパーセンサーに表示されているエネルギー残量を見て、一夏は先程の攻撃で止めを刺せなかったことが、非常にまずいことだと考えてしまう。

 

≪織斑くん! 凰さん! 生徒たちはアリーナからの避難が完了しています! だから、逃げてください!≫

 

 真耶が何か言っているが、それは一夏と鈴の耳には入っていなかった。

 二人が考えていることは同じ。

 

―――もし自分たちが逃げたら、学園はどうなる?―――

 

 アリーナは無事であったとしても、シールドバリアーを平気で突き破るビーム砲を備えたこのISを、野放しには出来ない。

 距離が離れており話し合いをしていないにも拘らず、二人とも目の前にいる襲撃者を倒すことを決意していた。

 

≪一夏、提案があるわ≫

 

 一夏に鈴からプライベート・チャネルで通信が入る。

 

≪あたしが先行して、やつの動きを止めるわ。そこに一撃ぶち込んでやりなさい!≫

「り、鈴!? 正気か!?」

 

 鈴からの提案に一夏は思わず訊き返してしまう。

 

≪少なくともダメージを負ったあたしの甲龍よりは、一夏の白式の方があいつに対して確実にダメージを与えられるわ!≫

「で、でも!」

≪それにあんたのそれ、零落白夜が使えるらしいじゃない。ならほぼ決まりよ≫

 

 鈴の言う通り、確かに一夏の白式が装備している雪片ならば襲撃者のISを撃破することは容易である。だが、その為に満身創痍の鈴が囮になることに、一夏は決断することが出来ずにいた。

 

「鈴、本気なんだな?」

≪あんた、もうエネルギー残り少ないんでしょ? 一発で仕留めなきゃいけないんだから尚の事よ!≫

 

 そう言いながらサムズアップする鈴。それを見た一夏は、もう鈴の決意を揺るがす気事は出来ないと悟り、彼女の作戦に乗ることにした。

 

「なら、頼むぜ、鈴!」

≪任せなさい!≫

 

 鈴は甲龍の残り僅かなエネルギーを使って、襲撃者に向かって高速で接近する。

 

≪死に損ないが……死に来たか?≫

 

 右腕のビームを放ちながら同じく接敵する襲撃者。

 鈴は体を捻らせてビームを紙一重で回避する。背中が焼き焦げるような痛みを感じるが、そのままの速度で双天牙月を両手で握り突撃する。それに応えるように襲撃者はビームブレードを展開して、鈴に突撃した。

 鈴はこの一撃が作戦の成否を左右すると再認識すると、精神を極限まで研ぎ澄まし集中する。すると不思議な感覚が彼女を襲った。

 

(何もかもが遅く感じる……)

 

 今際の走馬燈ではなく、何時か烏大老から聴かされた達人の境地の様に、呼吸や瞬きすらもはっきりと意識して感じられるほど、時間の流れが遅く感じていた。

 とりわけ驚くこともなく、鈴はその遅くなった時間を最大限利用して襲撃者に立ち向かった。

 

≪終わりだ≫

 

 突き出されるビームブレード。先程までならば避けることは出来なかったその攻撃を鈴はさも当然の様に躱し、手に握った双天牙月を右肘に叩き込もうと振り下ろした。

 

≪やられたよ≫

 

 だが右腕を斬り落とすことは出来なかった。

 襲撃者は突き出した右腕をすかさず引っ込めて、その巨大な掌で双天牙月を鷲掴みにしたのだ。

 

≪先程とは別人のようだな。何が貴様を変える? 祖国の名誉の為か? 個人の保身の為か?≫

 

 襲撃者は素直に感心した、同時に鈴に向かってそう挑発する。

 

「そんなもんじゃないわよ……」

 

 双天牙月を握られたまま鈴は小さく呟く。

 

「こんなにやられっぱなしだとね、あたしを救ってくれた大人(ターレン)に……烏大老(ウーターロン)に顔向け出来ないのよ!」

≪!?≫

 

 襲撃者は初めて動揺を見せる。鈴はその隙を見逃さず後方で待ち構えていた一夏に通信を入れた。

 

≪一夏、今よ!≫

「応!」

 

 鈴からの合図に待っていましたと言わんばかりの返答をして、一夏は雪片にありったけのエネルギーを送り込む。そして、スラスターを吹かして襲撃者に止めを刺そうと……

 

≪一夏ぁっ!≫

 

 ―――あり得ない―――

 

 一夏と鈴の脳裏にその言葉が過る。

 一夏はハイパーセンサーを使い、アリーナの中継室を見て絶句してしまう。

 

≪男なら……男なら、それくらいの敵に勝てなくてなんとする!≫

 

 そこには何故か、篠ノ之箒の姿があったからだ。

 

≪し、篠ノ之さん? なにやってんのよ!? あぐっ!!≫

 

 足止めしている鈴も中継室を見て思わずそう叫んでしまう。そこで出来た隙を今度は襲撃者が逃さず、双天牙月から手を離すと右手で鈴の頭部を鷲掴んだ。

 頭が割れそうな圧力に鈴は双天牙月を落としてしまい、ただ空しく掴んでいる右手を殴り続けた。すると襲撃者は手に持っている鈴を、停止している一夏に向かって放り投げた。

 

≪きゃあっ!≫

「うわっ!」

 

 お互いにぶつかり合い悲鳴を上げる鈴と一夏。もみくちゃの状態から何とか姿勢を直した一夏は、襲撃者の行動に目を見開いてしまう。

 

≪何の真似だ? 貴様≫

 

 襲撃者は残っている右腕のビーム砲を、中継室に向けていたのだ。

 

「や、やめっ!!」

≪死ね≫

 

 ただ無慈悲に、襲撃者がそう言うと、一条のビームが、吸い込まれるように中継室に向かって照射された。

 

「あ……あぁ!!」

 

 爆発を起こす中継室に、一夏は絶句してしまう。

 

≪篠ノ之! 篠ノ之!!≫

 

 その光景が、

 

≪馬鹿が、死に来たか? 否、馬鹿だから死んだのか≫

 

 その中傷が、一夏の怒りを解き放つ切欠になるのには、十分だった。

 

「お前ぇ!!」

 

 一夏は何も考えず、怒りに任せて襲撃者に向かって突撃する。

 

「雪片、リミッター解除!!」

≪ROGER≫

 

 エネルギー残量を計算した戦い方など今の一夏に出来るはずもなく、怒りに任せてスラスターの出力を最大にまで上げ、雪片のリミッターを解除した。

 襲撃者に向かって振り下ろされる雪片。ビームブレードでそれを受け止める襲撃者だが、先程とは余りにも違う出力に押し込まれてしまう。

 

≪なんと言うパワーだ≫

「お前が、お前が箒を!!」

 

 一夏は涙を流し、怒りの形相のまま雪片を大きく振るい、襲撃者をアリーナのシールドバリアーへ突き飛ばした。

 アリーナのバリアーに叩きつけられる襲撃者。しかし無人機であるためそれは大したダメージにはならなかった。

 

「エネルギーが……」

 

 一夏は肩から呼吸をしながら、ハイパーセンサーに表示されているエネルギー残量を見る。既にレッドゾーンを迎えており、これ以上の戦闘は操縦者に危険が及ぶと警告が表示されていた。

 それでも一夏は戦うことを止めない。何故ならあの襲撃者は幼馴染(篠ノ之 箒)を殺したから。

 何かいい手は無いかと一夏は考えると、ふと、ある事を思いついた。

 

「鈴、龍咆はまだ撃てるか?」

≪え?≫

 

 一夏からの尋ねに鈴は素っ頓狂な声を出してしまう。

 

「龍咆はまだ撃てるのかって訊いているんだ!」

≪う、撃てるけど、一発が精々よ!≫

 

 鈴からの返答を聞いて、一夏は己の作戦が上手く行くと確信する。

 

「いいか、鈴。俺に(・・)向かって龍咆を撃ってくれ」

≪ちょっ! 一夏!?≫

 

 鈴は、何故フレンドリーファイアをしなくてはいけないのかと一夏の提案に混乱してしまった。

 

「いいから! 俺の言う通りにしてくれ、鈴! 早く!!」

 

 突き飛ばされた襲撃者が体制を整えて、ビームを照射しようとしている姿を見た一夏は鈴に向かってそう強く催促した。

 

≪~~~っ! どうなっても知らないわよ!≫

 

 催促された鈴は一夏の指示に従って、最低限動けるだけのエネルギーを残して龍咆を起動させる。そして言われた通り、背中を向けている一夏に向けて龍咆を撃ち放った。

 

 一夏は千冬から教わった瞬時加速の原理について理解していた。ならば、瞬時加速に使用するエネルギーは外部からの物でも良いことも知っていた。だからこそ、こんな無茶苦茶な指示を鈴に出したのだ。

 加えてこの龍咆に使うエネルギーは、先程白式から転送したもの。ならば白式にそのエネルギーが還元されるのでは? という応用も一夏は思いついた。

 

 そしてその二つの仮定は、見事に的中する。

 

 龍咆から放たれたエネルギーが白式のスラスターに当たると、瞬時加速の準備中だったそれは砲弾エネルギーを吸収し、圧倒的な推力を生み出す。更にハイパーセンサーに表示されているエネルギー残量が、レッドゾーンを少し超える程度ではあるが回復した。

 そして、嬉しい誤算があった。

 

≪報告。巨大なエネルギーを感知。単一仕様能力『零落白夜』の封印を解除。使用可能です≫

 

 白式のAIが、零落白夜の使用が可能になったことを告げた。一夏は躊躇うことなく、それを作動させた。その途端、白式全体を黄金の光が包み込んだ。

 

「くらえ!!」

 

 一夏は鈴に後押ししてもらった瞬時加速を発動させると、スラスターから光の翼が生え、先程までとは比べ物にならない推力で襲撃者に斬りかかった。

 

≪突っ込むだけではな≫

 

 襲撃者はそう言いながらビームを一夏に向けて照射した。しかし照射されたそれは、一夏を包み込む黄金の光によって掻き消されるどころか、白式のエネルギーとして還元された。

 

≪光化学兵器を無効化するとは……!≫

 

 そうであれば最早襲撃者に零落白夜を止める術はない。眼前にまで迫った一夏は威力最大の雪片を左から振り下ろし、袈裟斬りを放つ。受け止めようとしていた襲撃者の右腕を蒸発させ、右肩に刃がめり込むと、そのまま左腰に向かって溶断する。

 胴体を右斜めに斬られた襲撃者は、ISとしての機能が停止したのかグラウンドへと落ちていった。

 

≪感情に左右される力か。幼いが、それなり……に、力……は……≫

 

 最後まで言い切れず、襲撃者の残骸はグラウンドに叩きつけられて漸く機能を停止した。

 

「ハァ、ハァ、ハァ」

 

 襲撃者の言う通り、怒りに任せた結果が普段以上の力を振るうことが出来たことに、一夏の心の中には後悔の念が渦巻いていた。

 果たしてこれが、正しい力なのだろうか? と。

 

「箒……」

 

 黒煙を上げる中継室を見ながら、一夏は再び涙を流してしまう。

 あの時、直ぐに攻撃していれば……

 

 その中継室に向かって、一機のISが向かっていた。それは鈴の甲龍だった。

 鈴は溶けたガラス窓から黒煙の上がる中継室へと入っていく。中がどうなっているのか、一夏に悲惨な光景を見せないためにも進んで行動したのだ。

 

「ちくしょう……」

≪一夏! 篠ノ之さんは、生きているわよ!≫

 

 鈴からの通信に一夏はハッと顔を上げる。ハイパーセンサーを使って中継室に視線を戻すと、鈴に抱きかかえられながら、箒が出てくるのを確認した。

 

「箒……!」

 

 箒は煤塗れだが目立った外傷は無い、奇跡が起きたと言っても良い状態だった。

 鈴の甲龍が降りていく先に合わせて、一夏も降りて行った。

 

「い、一夏……よくやったな!」

「箒……」

 

 一夏は箒が無事だったことと、襲撃者を倒したことを再度認識して安堵の表情を浮かべるが、直ぐに顔を強張らせる。そして右腕を白式のアームから抜くと、箒の左頬に向かって平手打ちをした。

 平手打ちされたことに動揺する箒。それをさも当然の事の様に鈴は見ていた。

 

「何やってんだよ、箒!?」

「なっ!?」

 

 一夏からまさか平手打ちをされるとは思わず、そう言われるとは思えず、箒は固まってしまった。

 

「なんであんなことしたんだよ! 死ぬとは思わないのかよ!!」

「わ、私は……」

 

 大粒の涙を流しながら、必死にそう訴えてくる一夏を見て、箒は己がどれだけ愚かな行いをしたのかを、少しずつ理解していった。

 

 

 

 

 その頃、束の研究所では。

 

「なんか、いっくんからめちゃくちゃ怒られていない? 箒ちゃん」

「当然だ」

 

 戦闘が終わった後のアリーナが映るスクリーンを見ていた束は、箒が一夏に怒られている様子を見てそう言う。それに対してジャックは当然のことだと言い張った。

 

「戦場という異常空間に無防備に現れ、あのような行動をしたのだ。生きているだけでも御の字だと思え」

 

 ジャックはスクリーンを見ながら辛辣な言葉を箒に向けて言った。

 

 今回の襲撃の犯人は、まごうことなきこの三人によるものだった。

 束はスクリーンでの観戦、ジャックは手にマイクを持ち、クロエはヘルメット型H(ヘッド)M(マウント)D(ディスプレイ)とグローブ型コントローラーを装着していた。

 つまり二機目の無人機はクロエのISコアとの同調能力を利用した遠隔操作型無人機である。因みに戦闘中にあった襲撃者の発言は、全てジャックがスクリーンで戦闘の様子を見ながら声を吹き込むという、即興アフレコの様なことをしていた。

 その演技力の高さから束に俳優への転身を勧められたのは、また別の話。

 

「でもジャックくんからの突然の提案は、流石に肝が冷えたよ。一発ぶっぱなせだなんて」

 

 先程の箒に向けたビームの照射はジャックによる指示で、短時間ではあるが研究所内で一悶着起きていた。

 

「ああでもしなければ理解出来ないだろう、と思ってな」

 

 戦場に無防備な姿であの様な行動をとった箒に対して、ジャックは戦場が無慈悲な場所であることを思い知らせるために攻撃するよう、クロエに指示を出した。その際束の顔面が珍しく蒼白になり慌てて指示を取り消させようとしたが、ジャックに説き伏せられて阻止することは出来なかったのだ。

 

「本当、もう二度としてほしくは無いな」

「なんだ? 天災である己が作ったISの性能であれば、あの程度容易ではないのか?」

 

 椅子に座り込みグッタリとしている束に対して、ジャックはそう言った。

 

「いやぁ、モノには限度があるでしょ? ジャックくん」

 

 軽度な言い争いを続ける束とジャックだが、肝心の無人機を操作していたクロエはその輪に入ろうとせず、ヘルメットとグローブを装着したまま俯いていた。

 

「だからさぁ……って、くーちゃん? どうしたの?」

 

 そんなクロエの様子に最初に気が付いたのは束だった。

 未だに俯いたままのクロエの様子に束は疑問を抱き、声を掛けるがクロエからの返答は無い。

 ただの疲労にしてはおかしいと、ジャックもそう思い始める。

 

「クロニクル、どうした?」

 

 ジャックは俯いたままのクロエに近付いていく。

 

「……ない。私は……」

「?」

 

 何かをボソボソと呟いていることにジャックは気が付く。

 

「何がないのだ、クロニクル?」

「くーちゃん……?」

 

 二人からの声にまだ気付いていないのか、クロエは呟き続ける。すると、急に顔を上げた。

 

「……負けてない。私は、まだ、負けてない!!」

 

 突然そう叫ぶクロエにジャックと束は驚いてしまう。すると束とジャックの手元にあったディスプレイに無人機が再起動したとの情報が入り、隠し玉として搭載している口部ビーム砲が展開され、リミッターも解除されたという情報が表示される。

 

「クロニクル、よせ!」

「くーちゃん!? ダメ!!」

 

 しかしクロエは二人からの静止を完全に無視し、一夏に照準を合わせた。

 

「負けたくない!!」

 

 

 

 

 一夏は目の前に佇んでいる箒の眼をただじっと見ていた。それに対して箒は叩かれた左頬を抑えながら、自分の行いがどれだけ愚かなことだったのか、そして一夏がどれ程自分の身を案じてこう言ってくれているのかを認識し、深く反省していた。

 

「……すまない、二人とも」

 

 箒は専用機が無い自分に何が出来るかと考えた結果があの愚行だったことを、二人に顔を見せないように俯きながら恥じ、涙を流した。

 

「無事だったからで全てが済むとは思わない方がいいわよ」

「鈴……」

 

 鈴は俯く箒に追い打ちをかけるようにそう言い、一夏は反省している様子を見せているのにそれは無いだろと咎めた。

 

「例えば、反省文原稿用紙五十枚二万字とか」

 

 悪戯っぽい笑みを浮かべながら鈴はそう付け足す。一夏は彼女なりの慰め方なのだろうと考えた。

 

≪警告、ロックオンされています≫

 

 いきなり白式のAIからロックオンを受けていることが告げられる。一夏は顔を上げると、斬り捨てたはずの無人機が、胴体だけ浮遊させていることに気が付く。

 

「あいつ、生きていやがった!」

 

 一夏が叫び指さす方向へ鈴と箒は振り向くと、無人機が復活している姿に愕然とする。最早戦うエネルギーなど残されていないというのに、まだ襲撃者は戦おうとしているのかと。

 

≪私は、まだ、負けていない!≫

 

 先程とは声質の違う叫びが通信で聞こえてくるが、そんなことはその場にいた三人にはどうでもいいことだった。ただ分かるのは、口部装甲がパージされ人の口を模した部分に大きな鋭い牙と一門のビーム砲が備えられており、既にエネルギーが充填されているという事だ。

 ロックオン対象は一夏。最悪なことに、その射線上に箒が立っていた。

 

「箒ぃ!」

 

 抱えて逃げることは叶わないと一夏は判断すると、素早く箒を庇うように回り込み、背中を盾にした。

 そこにビームが着弾すると、先程よりも出力が高かったのか、白式のスラスターを消し飛ばし、大爆発を起こした。

 

 爆風が収まると、肉が焦げたような臭いが周囲に漂い、箒の盾となっていた一夏は気絶してしまったのか、そのまま受け身を取ることなくグラウンドへ倒れ込んだ。

 

≪い、一夏!?≫

「一夏ぁ!」

 

 箒が直ぐに駆け寄ると、エネルギーが尽きたのか白式は量子化格納され待機状態のガンドレッドになってしまった。

 

≪負けたくない! 私は!!≫

 

 次の標的は自分か、と鈴はロックオン警告を見ながら苦虫を噛み潰したかのようになる。

 このまま襲撃者に三人とも殺されるのかと、考えてしまう。

 

 だが、運命の女神は彼女らを見放してはいなかった。

 

 口部ビーム砲に充填されたビームが今まさに照射されようとしたところで、青いレーザーがその砲門を貫き、行き場を無くしたエネルギーによって頭を吹き飛ばした。

 

≪……え?≫

 

 通信から漏れる襲撃者の素っ頓狂な声。

 

≪往生際が悪すぎまして≫

 

 レーザーが照射された方を鈴が見ると、そこにはカタパルト部分に立ちブルー・ティアーズを身に纏うセシリアの姿があった。

 

「セシリア……」

≪さっさと逝きなさい。わたくしは面倒が嫌いでして≫

 

 セシリアはそう言うと両手で構えているスターライトmkⅢの引き金を引き、精密に襲撃者のISを貫いた。エネルギーが余程あるのか、それとも何かあったのか、少なくとも四十発近く撃ったところでセシリアは漸く射撃を止めた。

 

≪やり過ぎましたわ≫

 

 そう言うと遂に機能を停止した無人機は、地面に叩きつけられてバラバラに散った。

 

「ふぅ……あの猫女、全く面倒なことを」

 

 楯無に渡された経路を辿って来たセシリアだが、その経路と言うのがIS格納庫を通過する寄り道のある物だった。しかしISが展開できるセシリアによって強引に格納しているISの拘束具を破壊し、教導隊が活動できるようにした。加えてピットを遮断していた隔壁も無理矢理溶断することによってアリーナとの道を繋げることにも成功したのだ。

 それらの作業が全て楯無に計算されたものだとしても、面倒なことを押し付けられたことに対してセシリアは後日生徒会に謝意をそれ相応の形で示してもらおうと決意する。

 

「……遅かったですわ。もう少し早く着けていれば」

 

 グラウンドに居る三人、特に鈴と一夏は重症を負っていることをセシリアはハイパーセンサーのスキャニングで知ると、もっと早く行動すればよかったと考えてしまう。

 そうセシリアが思っていると、溶断された隔壁から漸く教導隊のIS部隊が到着した。

 

「襲撃者は排除しまして。それより、救護部隊を早く送ってください!」

 

 セシリアがからの報告を受けた教導隊は急ぎ救護班の要請を行い、鈴と一夏のISにエネルギーを転送するべく三人の元へと向かった。

 セシリアはただ一夏に応急処置が施される光景をカタパルトから眺め、もう自分がすることは無くなったと判断するとブルー・ティアーズを格納し、翻ってその場から去って行った。

 

「全く、面倒なことになりましたわ……」




戦っているのは、現場や表舞台だけではない。


書き終わってから、色々とぶっ壊し過ぎた気がしてきた。

それと一言…
箒は嫌いではありません。
今のところ当たりが強いですが、
彼女も成長させるキャラに入っています。

意味のないアンチにはしない、したくないです。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。