ARMORED STRATOS 兎と鴉の唄   作:バカヤロウ逃げるぞ

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「週一更新を目指せ!」
「閣下、無茶です!」
「無茶なものか。一日に千字をノルマとすれば、週一更新で尚且つ七千字が狙えるではないか!」

の精神を目指したい。


19 クラス対抗戦、そして襲撃 中

「織斑くん!? 凰さん!?」

 

 IS学園のアリーナの管制室で真耶は声を大きくして通信を送るが、帰ってくる無線とアリーナの様子を映すディスプレイは無情にもノイズしか表さなかった。

 

「ダメです、通信妨害が施されています。それに、アリーナ内のカメラも機能を停止しています」

 

 真耶の隣でコンソールを操作していた教員が、後方に立っている千冬に振り返ってそう報告する。

 

「ちふ……織斑先生、教員のIS部隊はまだアリーナにつかないんですか?」

 

 特別に管制室から試合を観戦していた箒が千冬にそう尋ねる。

 

「無理だろうな、篠ノ之。これを見ろ」

 

 そう言って千冬は目の前にあるデスクのコンソールを操作し、二人の前にある小型空間投影ディスプレイにアリーナ全体の情報を表示した。

 

「こ、これは……!」

「おそらくあのISか、それともその協力者によるものだろう。アリーナどころか学園全体の遮断シールドのレベルが強制的に4に設定されている。おまけに、観客たちの出口まで封じているな」

 

 千冬の言う通りクラッキングによりアリーナだけではなく学園全体の警戒レベルが強制的に引き上げられ、通路を塞ぐための特殊装甲が使われているシャッターが全て閉じられていた。遮断シールドは時間を稼ぎ観客を逃がすための装置だが、今やそれは観客を閉じ込める軟な牢獄に変貌していた。

 

「相当難易度の高いクラッキングだ。学園のシステム班が手こずっている。おかげで、教員部隊の出撃にも時間が掛かっているな」

「それじゃあっ! このままでは一夏が!」

 

 それではアリーナで戦っている一夏の身が危ないと箒は目で訴える。

 

「騒ぐな、篠ノ之! 騒いで好転するならば私だって有らん限りの怒りを振りまいているぞ!」

 

 千冬はそう一喝して箒を黙らせる。その怒声は、作業をしていた教員たちの手も止めてしまったためあまりよくは無かったが、下手に騒いでいた箒を落ち着かせることが出来たため結果的には良かったのだろう。

 箒が落ち着いたのを確認した教員たちは直ぐにシステムの復旧に取り掛かり直し、千冬は紙コップを二つ取ると、コーヒーメーカーを使いそれら二つにコーヒーを注いだ。

 

「お前の気持ちは分かる。私だって一夏は心配だ。だが、私が動揺してしまえば更に学園は混乱する」

 

 復旧作業を行っている教員の耳に聞こえない程の小声で千冬は箒に心の内を吐露し、左手に握っているコーヒーを彼女に渡した。

 

「……すみません」

「なに。存外どうにかなるさ。例えば……」

 

 千冬は右手に握るブラックホットコーヒーを一口飲みながら、アリーナの情報に視線を移す。それにつられて箒もディスプレイを覗くと、校舎の至る所の隔壁と、アリーナの出入り口に異常事態発生のレッドマーカーが点灯していた。

 

「冷静に行動出来る生徒会や、あの面倒嫌いなクラスメイトが、な」

 

 

 

 

 どこか別の世界であれば管制室には箒と一緒にセシリアも観戦していたが、この世界では彼女は一般の生徒と同じようにアリーナの観客席で観戦していた。それが、吉と出た。

 

「やはりクラッキングで強制的に扉が閉められていますわ」

 

 出口に押し寄せていた生徒たちをかき分け、セシリアは何とか扉に辿り着くとその隣に設置されていたコンソールを試しにいじってみたが、全ての操作を受け付けずただ空しく『ERROR』の文字が浮かび上がるだけだった。

 シャッターで封鎖され、電灯も消え非常灯の赤い光だけが灯る空間に取り残された1年生たちは、シャッターの外から聞こえる轟音と揺れで落ち着きを失い始めていた。

 

「これ以上、ここに留まるのもまずいですわ……」

 

 今はまだセシリアの指示に従い扉から離れている生徒たちだが、もし彼女らが冷静さを失い一気に崩壊したりしたら……

 そう思うとセシリアは強硬手段に出ることにする。

 

(もしもあの侵入者が、わたくしのISを察知して攻撃してきたら……いえ、今はそんな最悪中の最悪の事態に雁字搦めにされても仕方ありませんわ!)

「みなさん、離れていてください!」

 

 セシリアはそう言うと腕部と新調したスターラートmkⅢを展開する。

 

「お、オルコットさん!?」

「まさか扉を……でも、その扉の装甲は遮断シールドと同じものだよ!」

「レーザーなんか反射しちゃうよ!」

 

 周りの生徒たちはセシリアがレーザーライフルで扉を撃ち抜こうとしているのではと予想し、その結果どうなるかを彼女に伝える。

 

「ご安心を。その程度、分かっていまして」

 

 そう言うとセシリアはレーザーライフルを扉に向けるが、引き金を引かなかった。どうしたのかと気になる生徒たちだったが、突然レーザーライフルの銃口から収束された一本のレーザーブレードが展開される。

 セシリアはそのままそのレーザーブレードを扉に突き刺すと、反射されることなくレーザーの刃によって扉の装甲は溶けてしまった。

 

「これで無理矢理扉を開けますわ」

 

 セシリアはそのまま扉を溶断してく。その光景を見ていた生徒たちは歓喜の表情を浮かべた。

 そこに、一人の生徒が走ってやってくる。

 

「ちょっと、道を開けて。あ、オルコットさん!」

 

 メガネを掛け髪を三つ編みにした3年生のリボンを付けた女子生徒がセシリアの傍に立った。

 

「あなたは?」

「私は布仏(のほとけ) (うつほ)! IS学園生徒会会計で、あなたのクラスにいる本音の姉よ!」

 

 手短に自己紹介をする虚にセシリアは扉を溶断しながら顔を向けた。

 

「やっと生徒会がいらしたのですね? それで、いったい何の用でして?」

「手短に言うわ。オルコットさんはこの扉を溶断したら西側の方に向かって。そして閉じ込められている扉をかたっぱしから溶断して行って!」

「生徒会からはISは出せないのですか? まさか、全部の扉を溶断しろと?」

「生徒会は会長しか専用機を持っていないし、会長は今別の場所で避難誘導中。それから専用機持ちの上級生はこのアリーナに居ないの。お願い、面倒が嫌いなことは知っているけれども、今はあなたが頼りなの!」

 

 何故自分にはこうも面倒極まりないことばかり降りかかってくるのか。セシリアは自分の人生の運の無さに内心嘆いた。

 

「……溶断した扉に生徒たちが殺到しないようにちゃんと誘導してくれまして?」

「それじゃあ!」

「確かに面倒な作業ですわ。でも、クラスメイトが死ぬのはもっと面倒でして!」

 

 そう言いながらセシリアは漸く一枚目の扉を溶断することに成功した。

 

「生徒会を中心に誘導をお願いします。わたくしは、このまま他の扉の溶断作業に移りますわ」

「お願いするわ、オルコットさん! 事態が収束したら生徒会から誠意を形で示すわ」

 

 セシリアはその口約を聞くと、そのまま他の扉の溶断作業へと向かった。

 

「みんな、慌てず落ち着いて! そう、扉から出たら急いでアリーナから離れて! ああ、本音! あなたはオルコットさんについて行って。そう、彼女が溶断した扉からの脱出の誘導をして!」

 

 虚はその場にいる生徒たちに聞こえる程大きいが落ち着かせる声質で誘導に当たった。その傍ら、妹の本音に別の扉で誘導をするようにと指示を出す。

 学園の緊急事態に対処するのは教員だけではない。学園の生徒を守る。それが、IS学園の生徒会であるのだから。

 

 

 

 

 セシリアと生徒会が必死の避難活動を行っている中、アリーナでは一夏と鈴が謎のISの相手をしていた。

 作戦通り一夏が前衛を務め、鈴が後方から龍咆とマイクロミサイルで支援砲火を行う。 単純な連携ではあるが、一つ問題があった。

 

≪ちょっと一夏! そこで突っ込まれたら誤射するじゃない!≫

「そう言ってもな!」

 

 2人の連携は稚拙なもので鈴が龍咆を撃とうとした所で一夏が割り込んだり、一夏が斬りかかろうとする所で鈴の支援砲撃が入ったりと、全くと言って良い程息が噛み合っていなかった。寧ろ個人で挑んだ方が良いのでは? と思える程である。

 謎のISはそんな稚拙な連携をさも当然の様にいなし、近接戦闘を仕掛ける一夏にはライフルで、遠距離から攻撃を仕掛けてくる鈴にはミサイルで反撃をする。

 

≪ああ、もう! ミサイルが鬱陶しいわ!≫

 

 鈴は龍咆を砲撃しようとするタイミングで狙ったかのようにミサイルを放たれ続けられ、いよいよ苛立ちが許容の範囲を超えようとしていた。

 

≪一夏! あんたの装備にミサイルは無いわね?≫

「え? あ、あぁ」

 

 鈴からの突然の問いかけに若干戸惑うも、一夏は雪片を振るいながら答える。その回答を聞いた鈴は量子変換していたある補助兵装を実体化させた。

 

「試作段階だからいまいち信用できないけど、お願い! ちゃんと動いてね!」

 

 そう呟きながら鈴は、鍔迫り合う一夏が謎のISから離れた瞬間を狙って龍咆を構える。するとまたしても砲撃させまいと謎のISは鈴に向けて底なしの装弾数とも言える何回目かのミサイルを撃ち放った。

 

「鈴!」

 

 一夏は鈴に向かって押し寄せる大量のミサイルを見て思わず悲鳴に近い声を上げてしまう。

 鈴は押し寄せてくるミサイルを見ると、急ピッチで作成されたそれを起動させた。一つはバスケットボールの様な丸い機械を、もう一つは腰部に展開したミサイルポッドを。すると大量のミサイルが狙いを鈴から球体へと変わったのか其方に押し寄せ、残りの本来の標的へ飛翔するミサイルに対しては腰部のミサイルが迎撃に当たる。

 先程までは龍咆で無理矢理回避していたのを見ていただけに、一夏はその光景に見とれてしまう。

 

≪何ボケっとしているのよ、一夏!≫

 

 一夏は鈴からの喝でハッと我に返ると謎のISからアサルトライフルを向けられていることに気が付き、急いで回避行動に移る。セシリアから教わった無反動旋回(ゼロリアクト・ターン)三次元躍動旋回(クロス・グリッド・ターン)を織り交ぜる。粗削りな機動ではあるが、それでも一夏は短期間の訓練でそれらの基本をモノにしていた。

 

(完全な回避は出来ないか!)

 

 分かっていたとはいえ敵からの乱射を完全に掻い潜ることが出来ないことを一夏は悔しがる。

 今のままでは、()に追いつけないと思いながら。

 

≪これでミサイルは封じたわ!≫

 

 鈴の嬉しそうな声が聞こえるとライフルを乱射してた謎のISに龍咆が直撃し、一夏への射撃が止んだ。

 ミサイルが通用しないことを理解した謎のISは、一夏と距離が取れていることを把握すると今度はキャノンを起動させた。

 

「させるか!」

 

 鈴に直撃すればただでは済まないことは想像出来るし、もし鈴が避けた場合その砲弾が観客席に着弾したら?

 悪すぎる予想をした一夏は慌てず急いでスラスターにエネルギーを充填し、瞬時加速を発動させる。しかし充填までの時間が少なかった影響で雪片が届く距離まで詰めることが出来なかった。

 だが、そこで空振りするような一夏ではない。

 

「なら、これでどうだ!」

 

 雪片が届かないと分かるとすかさず格納していたEOを展開する。

 

「キャノンを狙ってくれ!」

≪ROGER≫

 

 口頭での指示だがそれでも白式に搭載されたAIはそれを理解し、EOの狙いを敵IS本体ではなく展開が完了したキャノンへと向ける。

 短い発射間隔で放たれるEOの弾丸を受けたキャノンは激しく火花を散らし、徐々にその装甲に傷が付き、黒煙が上がり始める。いくら頑丈に作られていたとしてもそれは砲撃の際の衝撃に耐えられるぐらいだった。

 謎のISはEOからの銃撃を受け紫電が走るキャノンを本体から切り離した。しかし、それだけでは済まさない。小爆発を起こし始めるキャノンの砲身を掴むと、それを一夏に向かって投擲した。

 

「なっ!?」

 

 まさか武装を武器として使うという突然の行動に、距離を詰めていた一夏は対応しきれず直撃してしまう。そしてその衝撃が引き金となり、キャノンは装填されていた砲弾と合わさって大爆発を起こした。

 

≪一夏!≫

 

 

 

 

 一夏と鈴が謎のISの相手をしている最中、彼女もまた戦っていた。

 

「あと、何枚、残っていまして!?」

 

 声を荒げ愚痴を吐きながら、セシリアは封鎖された観客席の扉の溶断作業を継続していた。出入り口の扉だけではなくブロックを区切る扉も溶断しなくてはいけなく、しかも扉の1枚1枚が厚いため溶断するのに時間が掛かっていた。

 加えて先程からシャッターの外から響き渡ってくる轟音、おそらく一夏と鈴があのシャッターが閉じる一瞬に見えた謎のISを対処している戦闘音、が、ただ扉が溶断されるのを待つしかない生徒たちの恐怖心を駆り立てていた。

 

「そ、外はどうなっているの?」

「まだ、まだ開かない?」

「早くしてよ!」

 

 溶断作業に尽力しているセシリアからすれば彼女らの催促はたまったものではない。

 

(そうは言われましても!)

 

 スターライトmkⅢが発生させているレーザーブレードは通常のレーザー弾より威力は高いものの、白式の零落白夜と比べれば雲泥の差があった。せめてこの場に一夏が居れば、もっと容易に溶断出来るのに、とセシリアは無いもの強請りをしたくなる。

 

「専用機持ちならさっさと開けられるでしょ!? いい加減にしてよ! 私たちを殺す気なの!?」

「……」

 

 セシリアの背後から遂に恐怖心で冷静さを失った一人の生徒が、必死の作業をしている彼女に心無い暴言を吐いてしまった。それは苛立ちを抑え、必死に作業を続けていたセシリアの堪忍袋の緒を切るのには十分なものだった。

 セシリアが扉の装甲に刺さっているスターライトmkⅢから手を離すと、そのレーザーライフルはエネルギーとレーザーブレードを失い床へ落ちてしまった。

 何故作業を中断したのか分からなかい生徒たちだったが、振り返ったセシリアの、見る者を氷付かせるような瞳に怯えてしまう。

 

「今、余計なことを、言ったのは……」

 

 ブルー・ティアーズを纏ったセシリアは、暴言を吐いた生徒に近づくと左手で胸倉を掴み、自分の高さまで持ち上げる。

 

「あ、な、た、でして?」

「ひっ……」

 

 突然持ち上げられた痛みに苦しんでいた生徒だったが、セシリアに無理矢理視線を合わせられ、その痛みも忘れてしまう。

 セシリアの怒りは表情にこそ出ていないが、その瞳は間違いなく……

 

 人殺しの眼。

 

「ダメよ、セシリアちゃん。無力の生徒に暴力を振るっちゃ」

 

 右手の拳を持ちあげていた所で、突然扉の向こう側からそんな陽気な声が聞こえてくる。

 何事か? と、セシリアは暴言を吐いた生徒を降ろし振り返ると、先程までの自分よりも遥かに早く扉が切断されていた。

 

(これは……水?)

 

 扉が枠に沿って切断されると、それは引っ張られるように倒される。そしてそこには救助に来た教員と、ISを装着した水色の髪の毛を持つ少女が佇んでいた。

 

「でも、あなたたちも、セシリアちゃんが頑張っているのにそういうこと、言っちゃだめよ?」

 

 セシリアへの指摘と同じように周りにいる生徒たちにもそう注意をする。

 

「あ、あなたは……」

「生徒……会長……」

 

 そう言われるとその少女はISのアームで器用に扇子を持ち、顔の前で広げる。そしてそれには『会長参上』と書かれていた。

 

「そうよ。IS学園生徒会会長、更識(さらしき)楯無(たてなし)、参上」

 

 そう言うと楯無の傍らに居た教員たちは避難の誘導に当たり、当の楯無は床に転がっていたスターライトmkⅢを拾うとセシリアへと近づいた。

 

「私たちが来るまでの救助活動、ありがとうね」

 

 今度は左手で扇子を広げる楯無。そしてそこには『御苦労様』と書かれていた。少しばかりふざけた労いに、セシリアは青筋を立てた。

 

「全くですわ。会長さんは、今迄、どこをほっつき歩いていまして?」

 

 差し出されたスターライトmkⅢを少々乱暴に受け取りながら、セシリアは皮肉交じりにそう言う。

 

「そういわれても、仕方ないわよ。私はさっきまで、学園の方の救助活動に当たっていたのだから」

 

 全棟の救助を終えてね、と付け加える楯無。セシリアはハイパーセンサーに表示されている時刻表を見ると、侵入者による攻撃から直ぐに救助活動に当たっていたとすれば、恐ろしい速さでアリーナ以外の救助を楯無は終えたという事を理解した。

 

「扉の切断作業は私に任せてちょうだい」

「? 一人よりは、二人の方がいいと思いますが……」

 

 楯無が突然扉の切断作業は自分が担当すると言い出した事にセシリアは自然とそう言ってしまう。すると楯無は広げた扇子で笑みを隠しながらセシリアに近づき、耳打ちする。

 

「私のISの方がこういう作業には慣れているし、最も、面倒嫌いなあなたの中に溜まっている苛立ち、外の無礼者にぶちまけたくない?」

 

 楯無からの提案は今のセシリアにとっては堪らなく良いものだった。悦びを隠せず引き攣った笑みを浮かべるセシリアに、楯無はアリーナ出口までの経路をブルー・ティアーズに転送した。

 

「ちょっと距離はあるけれども、やってくれるわね?」

「……全く、あなたという人は……」

 

 避難している道を行かなければならないため、見ただけでもグラウンドに辿り着くまで時間が掛かることがセシリアにはわかり、それを分かったうえで経路を転送した楯無の人の悪さに、更に苛立ちが募った。

 

(これは、もう操縦者もISごと木端微塵にしなくては、気が済みませんこと!)

 

 セシリアはそう思いながら、楯無からもらった経路を辿りグラウンドへと向かった。背後で彼女に手を振る楯無を振り返ることなく……

 

 

 

 

≪一夏、大丈夫? 一夏!≫

 

 キャノンの自爆に巻き込まれた一夏は、白式の制御を失い勢いを殺せずにグラウンドへ叩きつけられた。身体に伝わる衝撃による痛みで意識をかき乱されるが直ぐにISが持つ操縦者保護機能が作動し、鎮痛と応急処置が施される。

 白式に助けられたことで一夏は意識を取り戻すと、上空から迫ってくる謎のISの姿を視認した。

 

「やられてばっかりじゃ、ないんだよ!」

 

 ライフルとミサイルを撃ちながら左手に握る鉈を構える謎のISに対して、一夏は避けずにある程度の被弾を無視しながらも突撃していく。肩部のミサイル迎撃装置は故障してはおらず正常に作動し、的確に壁の様に押し寄せてくるミサイルを撃ち落とす。そして相手がライフルを連射しているのと同じように、EOを展開し直して雪片を握りなおした。

 

「鈴! 援護を!」

≪! こっちの事情も考えてよね!≫

 

 無事だった一夏からの急な支援要請にきつめの言葉で返す鈴だが、実は彼が無事だったことに対する照れ隠しだった。

 すかさず龍咆にエネルギーを充填させ、甲龍に内蔵されているマイクロミサイルで謎のISの逃げ道を塞ぐ。

 謎のISはこのままではミサイルが全弾直撃すると判断すると、接近してくる一夏に全速力で向かい振り上げてくる雪片を鉈で受け止め、すかさず振り返り、迫りくるミサイルをライフルで撃ち落とした。

 

「なんつう器用な……っ!」

 

 果たして自分がこんな判断をして、実際に行動することが出来るだろうか?

 

 一夏は素直に敵ながら天晴と内心褒めてしまった。

 

≪もらったわ!≫

 

 一夏が雪片を使って足止めをしたのは無駄にはならず、鈴は龍咆を鍔迫り合いで動きが止まっている謎のISに向けてフルチャージで撃ち放った。

 ハイパーセンサーで龍咆を感知したのか逃げようとするIS。しかしそれを一夏がそのISの左腕を掴むことで取り押さえた。

 

「逃がすかよ!」

 

 必死に振りほどこうとする謎のISの右肩に龍咆が直撃する。そこである異変が起きた。

 謎のISの右肩が、龍咆の衝撃によって吹っ飛んだ(・・・・・)

 

「あっ……」

 

 ISに必ず搭載されている絶対防御。しかしそれが全く作動していないのか、鈴は謎のISの右肩が吹き飛んだことに驚きを隠せない。

 そしてもう一つの異変に一夏は気付く。

 

「な、何だ、これ?」

 

 間近にいた一夏だからこそ気付けたこと。謎のISの傷口には肉体は存在せず、代わりに無数のコードや金属の繊維のようなものが詰まっていた。

 そこから素人の一夏であっても導き出せた答えは……

 

「こいつ、無人機か!?」

≪そんな馬鹿な!?≫

 

 常識から外れた存在に戦闘中であるにも関わらず、二人は驚きを隠せず声を荒げてしまう。その隙を見逃さなかった無人機は人間では(・・・・)出来ない関節の動かし方をしながら左腕を掴み続ける一夏に浴びせ蹴りをくらわす。

 金属の塊をもろに頭部に受けた一夏は脳震盪を起こし失神してしまった。もしもシールドバリアーが無ければその衝撃は緩和されず、首の骨が折れるか、頭蓋骨が粉砕され脳味噌を巻き散らしていただろう。

 無人機は失神した一夏など目に留めず、今度は鈴へ鉈を振り上げながら襲い掛かる。機体は軽くなったのは分かるが、バランサーをこの瞬時に修正したのか、先程以上の機動力で迫り来る無人機に対して、鈴は双天牙月を再度展開して迎え撃つ。

 火花を激しく散らしながらぶつかり合う鉈と双天牙月。質量であれば明らかに鈴が勝っているはずだが、無人機はそんなことお構いなしと彼女が持つ巨大な青龍刀を押し込んでいた。

 

(一夏、こんなのを相手に鍔迫り合いをしていたの!?)

 

 甲龍は烏大老の梃入れによって実戦的なISとして再設計され、燃費を高めながらも機動力と馬力も強化されたISである。そのパワータイプでもあるISが、両手で青竜刀を構えているにも拘らず左腕と自分の武器よりも小さな鉈に押し込まれていることに鈴は驚きを隠せない。

 だがそれでも慌てず焦らず、周りの状況を確認する。

 一夏はグラウンドに落ちて失神したままで無防備な状態だが、無人機は何故かこちらを相手にしていた。

 

(一夏が狙われていないだけでも御の字、ね……)

 

 もし自分がこの目の前の無人機の立場であれば、無力化された敵に止めを刺しているだろう。何時復活するのか分からない敵を放置する程、彼女は愚かではない。では何故この無人機は一夏を無視したのか?

 

(そんなことを考えるのは、終わってからでもいい。今は、こいつをどうするか、ね!)

 

 鍔迫り合う鈴はまた動きが止まっている無人機に至近距離ではあるが龍咆を撃つ。だがそれを無人機は瞬時に身体を傾けて回避し、鈴と数歩分距離を取った。ミサイルが対策されているためそのまま距離を取られては不利と無人機は判断すると、手首を高速回転させ何時、どこから斬りかかるか読ませないように攪乱する。

 

「鬱陶しい!」

 

 鈴は守ってばかりではらちが明かないと考え、双天牙月を連結させて突撃した。連結された青龍刀を大きく振りかぶると、そこに出来た胴体への隙を逃さず無人機は突きを放つ。だが鈴はそれを読んでいたのか連結を解除し、双天牙月の刀身を盾の様に扱い防御する。

 

「甘いわね!」

 

 そして残っている振りかぶった部分を、無人機の頭部に向かって振り下ろす。がら空きの頭部に吸い込まれるように双天牙月は振り下ろされ、無人機の頭部を叩き割った。

 

「どうよ!」

 

 だが、鈴は失念していた。相手は無人機、機械であるという事を。何も人間の様に、頭部にメインCPUを装備する必要などどこにもないという事を。

 頭部と右肩を失った無人機は倒れ掛けの姿勢のまま機体の随所に内蔵されているスラスターを使い、鈴の腹部に横蹴りを入れる。

 

「ゲボッ!」

 

 内臓を揺らされ込み上げる吐き気。そんな鈴を待たず無人機は踵落としを彼女の頭部へと下ろした。

 衝撃そのままにグラウンドへ落下する鈴。完全に無防備な彼女に対して無人機は鉈を逆手で持つと、瞬時加速で鉈を構えたまま彼女に突き立てようとする。

 高速で接近する無人機。そして鈴の無防備な背中に鉈が突き刺さろうとした。

 

 しかし、その瞬間、無人機の左腕がまるで押し潰されるかのように爆散した。

 

「だか……ら、甘い……つーの」

 

 鈴は龍咆の特徴である無限の射角(・・・・・)を利用し、ハイパーセンサーとリンクさせ視線を向けることなく砲弾を無人機にぶち当てたのだ。

 

 ―――視線を向けずに標的に龍咆を当てる—――

 

 それは彼女の恩師である烏大老から嫌と言うほどやらされた訓練の賜物であった。

 だが無人機は、それでも戦闘行動を停止する気配を見せず、鈴に向かって突撃してくる。

 

「ま……だ、やる……気?」

 

 揺れる頭にハッキリしない意識。正直言えばこんな状態で龍咆を当てられただけでも奇跡だというのに、これ以上追撃されては対処しきれないと鈴は迫り来る無人機を見て悲観した。

 

 しかし、運は彼女を見捨てはしなかった。

 

 白い影が、無人機に一直線に向かっていったのだから。

 

「やらせねえ……俺の、仲間を!」

 

 白式の操縦者保護装置によって早く意識を取り戻した一夏は、無防備になっている鈴に無人機が突撃しているのを見るとすかさず雪片を両手で握り、下段の構えをとり瞬時加速を使った。相手が無人機、機械であるのであれば殺す心配は無い、とある意味安心してその行動に移れた。

 一夏は瞬時加速の勢いのまま無人機の胴体に雪片を横一門に振るうと、その装甲を用意に引き裂き、文字通り一刀両断した。

 

 上半身と下半身とで分断されグラウンドに叩きつけられた無人機は、漸く活動を停止した。

 

「済まない、待たせたな、鈴」

≪……ホント、待たせてくれたわね≫

 

 謝る一夏に苦言を垂らす鈴。しかしその表情には疲労と、達成感があった。

 

≪それにしても、いったい何なの、こいつ。無人機なんて、聞いたことないわよ≫

 

 鈴と一夏はグラウンドに着地すると残骸となった無人機を観察した。

 これまでの常識として、ISは操縦者、女性が居なければ起動させることは出来ないものである。しかし目の前のこれは、明らかに人が搭乗しておらず、どこからどう見ても機械の塊であった。

 

「全くだ。なんで俺たちを狙ったんだろうな……」

 

 一夏の疑問に鈴はハッと気が付く。

 

≪そう言えばそうね。IS学園を標的とした攻撃なら、私たちじゃなくて観客席に攻撃すればいいはずよ≫

 

 物騒なことをはっきりと言うものだと一夏は思うが、確かにその通りだと改めて思う。だがそれも確認する術は今の二人にはない。

 

≪とりあえず、これで収束したのだから、あとは先生たちに任せればいいわね≫

「そうだな……山田先生、聞こえますか?」

 

 鈴の言葉に促され、一夏は全てが終わったことを報告するために管制室に通信を入れる。

 だが、帰ってくるのは変わらないノイズだけ。

 

「先生? 山田先生!?」

≪一夏、どうしたのよ?≫

「それが、まだ通信がつながらないんだ」

≪そんな!? だって、無人機はもう壊れたはずよ!?≫

 

 二人はまだ非常事態が続いていることに焦りを見せる。

 

―――その時―――

 

≪上空より巨大なエネルギー反応。危険、危険≫

 

―――白式のAIが新たな熱源を伝え―――

 

「!? 鈴!」

 

―――それに促され一夏は鈴を抱えて残骸から離れ―――

 

≪ちょっと一夏、いったい何を……て、な、なによ、あれ!?≫

 

―――その残骸に巨大なエネルギー弾が着弾した―――

 

「……」

≪……≫

 

 あの無人機のキャノンよりも明らかに大きな威力を持ったエネルギー弾により、グラウンドに巨大なクレーターが作られ、無人機の残骸は、コアらしいものを残して蒸発した。

 

≪何時から、襲撃者は一人だけだと言った?≫

 

 燦々たる光景に開いた口が塞がらない二人に、加工された音声による通信が入る。

 

≪だ、誰よ!?≫

「鈴、上だ!」

 

 一夏が先にその正体を発見し、お姫様抱っこをしている鈴にも上空を見るように促す。彼女も上空に視線を移すと、漆黒のそれ(・・)は居た。

 

≪あの程度の前菜(戦力)では、お前たちにはやはり不十分だったな≫

 

 先程の無人機よりも明らかに大きなサイズ。そしてその両腕は、その躰に対しては明らかに不釣り合いなほど巨大だった。

 その新たな襲撃者がクレーターの中央に降りると、頭部にある赤い5つのセンサーを宙に浮かんでいる二人を睨みつけるかのように不気味に輝かせた。

 

≪お前たちには悪いが、仕事なんでな……≫

 

 そう言うと、新たな襲撃者は両腕に内蔵されているビーム砲を二人に向けた。

 

≪死んでもらおう……≫

 

 放たれる高出力ビーム。

 それが第二ラウンドのゴングとなった。




三次元跳躍旋回のふりがなである、クロス・グリッド・ターンを

“クソル”・グリッド・ターン

と書き間違えたが……

こっちの方が強そうだ!

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