ARMORED STRATOS 兎と鴉の唄   作:バカヤロウ逃げるぞ

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「(前回投稿から1年以内に)間に合ったか!」
「この時期(前回投稿から7ヶ月)に戦場に着いて(ハーメルンに投稿して)、個人の功(投稿したことに対する優越感)を誇るのか?」
「残った艦隊(プロットのアイデア)は一隻(一話)残らず、我が艦隊が討ち取るぞ(執筆投稿するぞ)!」


1万字は厳しいので数回に分けて投稿します。


18 クラス対抗戦、そして襲撃 上

 IS学園クラス対抗戦。

 それは新学期が始まり二週間が経過した頃に行われる、その名の通り各クラスの代表者によるISバトルトーナメントのことである。全学年でこのISバトルが行われるがそれぞれの学年によってその意味合いは異なる。

 1年生は入学したばかりでクラスの代表ではあるが、その年の新入生がどれ程の質かを推し量るものである。2年生は1年間で磨いた技術がどれ程伸びているかを認識する機会でもあり、昨年まで無名だった生徒が代表になっていれば自分の名前を知らしめる機会でもある。3年生に至っては最後の年ということもあり、各クラス代表は各国のIS関連事業のスカウトに対するアピールにもなる。

 兎に角このクラス対抗戦というものは、6月に行われる学年別トーナメントに先駆けてその学年と代表者の実力を内外に知らしめるいい機会でもある。

 

 そのクラス対抗戦であるが、今年の1年生は例年とは異なっていた。

 

 

 

 IS学園のアリーナ。

 ISバトルを行うことを想定して設計されたこのアリーナは観客席周囲には勿論、アリーナの周囲にも流れ弾が外部へ出ないようにIS以上のシールドバリアーが展開されている。また緊急時には観客席の防御をより強固なものにするためを用いたシャッターが展開され侵入者からの攻撃を防ぎ、観客が無事に逃げるだけの時間を稼ぐことが出来る。

 

 閑話休題。

 

 大勢の観客が席に座り試合を待つ最中、グラウンド中央には既にクラス代表の一人が浮遊しながら待機している。先にアリーナで佇むのは、黒と赤紫のツートーンで両肩に浮遊型の攻撃ユニットを装備、その右手には両端に刃を備えた翼形の青龍刀『双天(そうてん)()(げつ)』を持っていた。

 

―――中国製第3世代型IS「甲龍(シェンロン)」―――

 

 その甲龍の操縦者である1年2組のクラス代表、鈴こと(ファン)鈴音(リンイン)は対戦相手である1年1組のクラス代表が出てくるのを今か今かと待ち構えていた。

 少しの時間を置いて、遂に反対側のカタパルトから一機のISが打ち出されて来る。それは真珠の様に美しい純白のIS。天才と陰謀家によって改修された、特別な機体。

 

―――日本製第3世代型IS「白式」―――

 

 その搭乗者である織斑一夏は指定された試合開始位置へと向かい、そして浮遊し試合開始のブザーが鳴るまで待機する。

 

≪やっと来たわね、一夏! ギッタギタにしてやるから覚悟しなさいよ!≫

 

 出てきた一夏に対して待っていましたとばかりに煽りにかかる鈴。

 

「お前、怒っていたんじゃないのか?」

 

 一夏は妙に明るく振る舞う鈴に対して思わずそう尋ねてしまう。彼の記憶が確かであれば鈴が転入してきた際に彼女との約束の食い違いから喧嘩に発展し、更に先日、彼女のコンプレックスである『貧乳』を口にしてしまい烈火のごとく怒らせてしまったはずである。

 だからこそ、目の前のフレンドリーに接してくる彼女が、少し妙に感じてしまう。

 

「怒る? ……え、ええ。怒っているわよ! 私の勇気を肩透かしにされて、おまけに言っちゃいけないことを言ったことにね!」

 

 一夏は、やはりこの間の事を気にしていたんだと少しだけ安心するが、約束を覚えていたが何が間違っているのかはまだ理解していなかった。

 

「んで、なんで約束を覚えていたのに怒ってんだよ。間違っていないだろ?」

≪だーかーらー! 何が『おごってやる』よ!≫

 

 まだプロポーズまがいの告白を文字通りの意味で捉えている一夏に苛立つ鈴。『酢豚』などと言うアレンジを効かせず素直に『味噌汁』と言えば伝わる可能性は0と言い切れなかったであろう。

 

「それじゃ、俺が勝ったらどういう約束なのか、教えてもらおうじゃないか」

≪生意気ぃ! 返り討ちにしてやるわ!≫

 

 試合前の煽り合いが終わるまで空気を読んで開始の合図をしていなかった審判が、やっと終わったかとため息をつきながらアナウンスを入れる。それによりアリーナに設置された特大ディスプレイにそれぞれのISの状態と試合開始までのタイマー、残りシールドエネルギーが表示される。

 両者のハイパーセンサーにも試合開始までのタイムが表示される。少しずつ減っていくカウント。1秒1秒が普段の生活以上に長く感じる一夏は、展開している雪片弐型を握りなおす。残りが0秒コンマに入り、一夏は試合0開始のブザーが鳴る直前に強襲斬撃の準備を取る。そして試合開始のブザーがアリーナに響き渡った。

 

 一夏も鈴もスラスターにため込んでいたエネルギーを爆発させ、各々が握っていた武器で斬りかかる。雪片弐型と双天牙月がぶつかり合ったことにより大きな火花が飛び散り、激しい騒音が鳴り響く。そのまま鍔迫り合いになると細身の雪片弐型と巨大な双天牙月とでは力の差が出てしまい、一夏は徐々に押されてしまう。このまま押し倒されてしまえばマズくなると分かった一夏はすかさずEOを起動させた。

 

≪やっぱり使ってきたわね!≫

 

 鈴はそう言うと鍔迫り合うのを止め雪型弐型を払いのけるとすかさず一夏との距離を取る。

 鈴は今日の試合の為に、先日行われたクラス代表決定戦の映像で一夏の機体と戦術を学習していた。その映像を見ていたからこそEOの脅威を認めており、至近距離での戦闘は危険だと理解し距離を取ったのだ。

 距離を離すも襲い掛かってくるEOの弾丸。それら全てが、自分が移動する方向に降りかかってくるのを、鈴はこの短時間で理解していく。

 

≪噂通り厄介な武装ね!≫

「褒め言葉として受け取っておくぜ!」

 

 一夏は距離を取り逃げていく鈴に追撃をするべく追いかけていく。機動力であれば現存する全てのISでトップに君臨できる白式の機動力ならば、甲龍に追いつくことは造作でもない。

 

≪でも、あたしだってやられっぱなしじゃないわ!≫

 

 背を向けて逃げていた鈴は、ハイパーセンサーで背後にいる一夏との距離がある程度縮まると突如彼の方に振り返る。何故振り返ったのか分からなかった一夏だったが、突然腹部に襲い掛かって来た衝撃に吹き飛ばされてしまう。

 

「うぐっ……!?」

 

 内蔵が直接揺さぶられ吐き気が込み上げてくるがそんなことはお構いなしにともう一発、今度は頭部に衝撃が襲い掛かって来た。

 

(な、なにが起こって?)

≪警告。敵新武装。危険度、大≫

 

 白式のAIがこの衝撃が鈴のISの武装によるものだと告げる。

 

≪解析完了。敵武装、第三世代型武装『龍咆(りゅうほう)』と特定。空間に圧力をかけた透明な衝撃砲です≫

 

 白式のAIはすかさず新武装が龍咆だと特定し、一夏にその情報を伝える。

 

(目に見えない砲撃ってことか。それはキツイな!)

 

 セシリアのブルー・ティアーズと違い、今回は透明な衝撃砲。避けようにも目に見えない以上苦労することは一夏でも容易に想像できる。

 

≪今のはジャブ。本番はこれからよ!≫

 

 先程の攻撃はシールドエネルギーの消費は少なかったものの、操縦者へのダメージは大きかった。今度はそれ以上の攻撃が来ると言われてしまえばさすがの一夏も嫌な気持ちになってしまった。

 

「冗談キツイぜ!」

 

 それでも負ける気は無いと一夏はEOを格納して様子見と対策を練ることに必死になった。

 

 

 

 

「いったい何が起こっているの?」

「何々? 中国の第三世代兵器?」

 アリーナの観客席で試合を観戦している1年1組の生徒、谷本癒子と夜竹さゆかは一夏がいきなり吹き飛ばされたのを見て戸惑い、そう呟いていた。

 

「その通り。中国の第三世代兵器『龍咆』ですわ」

 

 戸惑う二人に答えを言い渡すように、アリーナ観客席側面にある階段からセシリアが降りてきた。

 

「あ、オルコットさん!?」

 

 突然現れたセシリアに癒子とさゆかは驚く。そんな二人の驚きなど全く気にしない様子のセシリアは、癒子の隣に空いていた席に上品に座った。

 

「あれ、そういえば試合開始前は居なかったね。何処に行っていたの?」

 

 試合開始前にアリーナの観客席にその姿が無かったことを思い出したさゆかがセシリアに何処へ行っていたのかを尋ねた。

 

「この間のクラス代表決定戦で破損した武装の受領の手続きを。全く、本国の役人には困ったものですわ。少し改造しただけなのに慌てふためいて書類を複雑なものにしたのですわ。本当、面倒は嫌いですわ」

「ははは……それは、ご苦労様」

 

 癒子は苦笑いを浮かべながらセシリアの愚痴を聞き、労いの言葉をかけた。

 因みにではあるがクラス代表決定戦終了後、セシリアの誠意あるクラスメイト達への謝罪をきっかけに彼女らの交流は盛んになり、今となっては良い友達と言える関係にまで修復していた。

 

「それでオルコットさん、さっき言っていた龍咆ってどんな兵器なの?」

「空間自体に圧力をかけ砲身を作り出し、その余剰で生じる衝撃を砲弾として打ち出すものですわ」

「つまり、空気砲ってこと?」

 

 セシリアの説明を聞いた癒子が簡潔にして訊き直した。

 

「そうですわ。ハイパーセンサーを使えば圧力が掛けられた空間を察知することは可能ですから認識することは出来ますけれども……砲弾は勿論、砲身すらも透明ですから何処に狙いを定めているかが分からない代物ですわ」

「それって、織斑君からすれば相当不利じゃないの?」

 

 彼女らがそう言うのももっともな話である。

 

「ですが、対処法が無いわけではありませんわ」

 

 セシリアの呟きに二人は彼女の顔を覗いた。

 

「いくら砲身と砲弾が透明だとしても、結局は狙いを定める際に標的に視線を向けますわ。そうすれば自ずと視線の先に砲弾が撃ち出される。織斑さんがそのことに気付ければあれは、ただの見えない(・・・・)大砲に成り下がりますわ」

「な、なる程~」

 

 セシリアが咄嗟に言った龍咆の攻略法に癒子とさゆかは感心したように声を漏らし、そしてアリーナの試合展開に視線を戻した。

 

(もっともそれは、相手が龍咆の扱いに慣れていない場合の話ですわ……)

 

 一夏は龍咆の攻略の糸口を探す為か、それとも龍咆の砲撃能力に恐れたのか鈴から距離を取っていた。最初は避け方が分からずすっ飛ばされていただけだったが、距離を離したおかげで砲弾に掠る程度にまで被害を抑えられてきた。

 

「そういえば織斑君、あのEOとかいうやつ使わないね」

「いくら精密射撃が出来るとはいえ、補助兵装並の装弾数。おまけにリロードが利かない武装であれば、使い時を見極めて使わなくてはいけませんわ」

「え? 織斑君、何時の間にそんな使い方を学んだの?」

「いえ、それはわたくしの指導の賜物ですわ」

 

 そう自慢げに話すセシリアの顔は、弟子が素直に自分の教えを聞いて成長した姿を見る師匠のものだと後に語られる。

 

(とはいえ、このままでは織斑さんにはジリ貧ですわね)

 

 セシリアの独眼で指導したEOの使い方とは『攻め時に使い、一気に止めを刺す』という非常に攻撃的なものだった。

 訓練の最中に見せてもらったEOの装弾数は計350発。ISの火器としては余りにも心許無い装弾数であることが分かり、そこからこのEOは牽制や射撃戦をするための兵器ではなく、攻勢時に火力を足すための極めて攻撃的な補助兵装ではないかとセシリアは推測した。

 その推測を基にEOの使い方を実戦形式で彼に叩き込んだわけだが、それがかえって今の彼を苦しめているのではと彼女は思った。

 

(確かに先程は一気にケリをつけようと思って使っていたのかもしれませんけれど、それだけに固執しては……)

 

 このクラス対抗戦が始まるまでセシリアは一夏の訓練に付き合ってきた。その中で彼女は、一夏は非常に飲み込みが速い反面、その教えに固執する面もあることを薄々感付いていた。そしてその予感が今更確信に変わってしまった。

 加えてクラス代表決定戦の試合は録画記録されているため2組のクラス代表(凰 鈴音)にもEOの弱点がばれているかもしれない。

 

(ならばもう少し柔軟な使い方をさせるべきだったかもしれませんわね。面倒ですわ……)

 

 今更そう後悔しても遅いとは分かっていても、セシリアはそう思わずにはいられなかった。それもまた彼女にとっては面倒なことである。

 

「織斑君、頑張れー!」

「負けるなー!」

 

 近くに座っているクラスメイト達の声援を他所に、試合風景を眺めながらセシリアはブルー・ティアーズのヘッドギアのみを展開して甲龍についての情報を集める。すると以前公開された情報には無いものがあった。

 

(低消費であれだけの出力、ISの稼働率が恐ろしく高いですわ。それに無駄が無くて拡張性が高い……それに上手く擬装していますが、誘導性の高いマイクロミサイルですわね。龍咆の命中精度が下がる遠距離用の武装とは……中国め、この短期間でどれ程学習していまして?)

 

 数年前まで中国のISは揃って滅茶苦茶なコンセプトで安定性など存在しないハリボテばかりであり、大国でありながらISに関しては全くの後進国としてみなされていた。だが約2年前から突然、実用性を重視したISの開発に方針を変更したのは、セシリアの記憶の中でも新しい方である。

 

(噂では経歴不明の将校が喝を入れたからなどと言われていますが、あの中国がそんな簡単に……ん?)

 

 心の中でぼやいていたセシリアは、アリーナの空を舞う一夏と鈴の更に上、遥か上空に何かあるのをハイパーセンサーで察知した。

 

(学園警備隊のIS? いえ、何かが違いますわ……!? 何かが光って……)

 

 その物体が光ったのとセシリアが確認したと同時に、アリーナの天井が割れた(・・・)

 

 

 

 

「いったい、何が起きたんだ!?」

≪何……! ……が起……た……!?≫

 

 それは余りにも突然の出来事だった。

 

 試合の最中、二人のハイパーセンサーが突然頭上に警戒せよという警告が表示されると同時に、アリーナを覆っていたバリアーがまるでガラスの様に叩き割られ、光の物体がグラウンドに落ちた。するとその光は凄まじい爆発を起こし、爆風と砂塵の嵐を巻き起こした。

 その爆風に煽られた二人はISの姿勢制御系を最大稼働させ、何とか身体を落ち着かせる。何が起こったのか訳が分からず叫ぶが、あの光の爆発によって発せられたプラズマの影響か、二人の通信にはノイズが入り混じってしまう。

 

≪警告、所属不明機、上空より接近。危険、危険≫

 

 白式のAIが上空から何者かがやってきているという事を警告する。それにつられて一夏はハイパーセンサーを使って頭上を見た。

 

(なんだ、あれは……)

 

 頭上から物凄い速度で人型の何かがこちらに向かってきている。

 それはIS学園にもあるラファール・リヴァイヴの様ではあるが違う何か。肌を全く見せない、全身装甲型(フルスキンタイプ)のISのように見える。だが、ISにしては手足のパーツが人間のそれと変わらぬ長さで、大抵は存在する背中のユニットまで無い。

 

≪警告、所属不明機、急接近≫

「え?」

 

 AIが助言すると同時に所属不明のISが一瞬(・・)で一夏の眼前にまで迫り、左手に握る巨大な鉈を振り上げていた。

 

「うぉわ!」

 

 一夏は咄嗟に雪片弐型でその斬撃を受け止めるが、その勢いを合わせた斬撃だったためいなすことが出来ず突き飛ばされてしまう。最もAIの助言が無ければあっさりと叩き切られていただろう。

 

「い、瞬時加速(イグニッション・ブースト)だと!?」

≪……夏っ!≫

 

 そうでなくては今の瞬間移動に説明がつかない。だがそんな一夏の推測を敵ISが許すわけもなく追撃の斬撃を振るった。

 先程の鈴の双天牙月もかなりのパワーがあったが、目の前の敵は異常だ。何故なら、自分は両手で何とか対処しているのに、相手は左手だけで押し込めるほどの力があるからだ。

 いくらISのパワーアシストがあるとは言え、それにも限度というものはある。

 

(クソ、どうにかならないか!?)

≪一夏、離れて!≫

 

 鈴からの通信を耳にした一夏はスラスターの推力を利用して何とか敵のISを突き返飛ばす。そこに鈴の龍咆による支援攻撃が入り、敵ISと何とか距離を取ることに成功する。

 

「サンキュー、鈴。助かったぜ!」

≪お礼は終わった後にしなさいよ!≫

 

 何とか鈴と合流した一夏は、改めて所属不明ISの方を向いた。

 

「お前、何者だよ」

「……」

 

 一夏はそう問いかけるが、相手からの返答は無い。しかしそれによって出来た間によって、漸く相手の姿が確認出来た。

 装甲は一般的なISの様な流線形ではなく角ばった工業製品らしいフォルムをしており、頭も角ばったヘルメットにマスクが付けられ、何故かモノアイであり赤い光が一つアイマスク部分に灯っていた。

 全身はラファール・リヴァイヴの様なネイビーグリーン。

 武装は先程一夏に振るっていた巨大な鉈に、右手に握られているアサルトライフル、そして背中には四角い箱の様なモノと、折りたたまれた何かが接続されている。

 

「知らないISだ」

≪それはあたしもよ。古そうだけれども、こんなIS、見たことが無いわ≫

 

 鈴の言う通り、どことなく第一世代型ISを彷彿とさせるフォルムを持ちながら、しかし代表候補生である筈の鈴すらも知らない謎のISであるという事を一夏は理解した。

 

≪織斑くん! 凰さん! 今すぐアリーナから脱出してください! 直ぐに先生たちがISで制圧に向かいます!≫

 

 山田真耶からの通信で二人はハッと我に返る。今はISの鑑定をしているのではない、戦場になりかけているという事を思い出した。

 

「―――いや、先生たちが来るまで俺たちが食い止めます」

 

 一夏は真耶からの指示を拒否する。この時彼は目の前のISが自力(・・)でアリーナのバリアーを突き破ってきたのではないかと予想していた。

 

 もしも自分たちが逃げて、このISを放置したら?

 

 アリーナの観客席を守るための遮断シールドは意味もなく突き破られ、無防備な生徒たちが犠牲になるのではないか?

 

≪お、織斑くん!? 何を言っているんですか!≫

≪でも先生! 一夏の言う通り、あたしたちが居なくなってこいつが暴れ出したら、観客に被害が出るかもしれません!≫

 

 鈴も目の前のISが異常なまでの危険性を孕んでいることに気が付き、一夏を擁護した。

 

≪ふ、二人とも!? ダ、ダメですよ! 生徒さんたちにも……≫

「先生? 先生!?」

 

 突然真耶からの通信がノイズまみれになり、一夏は声を出す必要もないのに声を張り上げてしまった。

 

≪一夏、聴こ……る!?≫

「少しノイズが入っている! ひょっとして……」

 

 一夏は謎のISに視線を向ける。

 

「お前が通信を妨害しているのか?」

 

 一夏の質問に答えるかのように、謎のISは少し姿勢を落とし右側に背負っている四角い箱を展開する。その中にはギッシリとマイクロミサイルが詰め込まれており、それらが一一夏と鈴に向けて斉射された。

 

「迎撃!」

≪ふざけんじゃないわよ!≫

 

 一夏は白式の迎撃機構を作動させ、鈴は龍咆を連射し弾幕を形成することでマイクロミサイルを迎撃した。

 しかし休む暇もなく、効果が無かったことを察知した謎のISは右手に握るライフルを連射する。精密射撃ではなく乱射による弾幕であるため全てを避けることは出来ない。

 

≪しつこいわね!≫

 

 それに苛立った鈴はお返しにと脚部と背部に内蔵されていたマイクロミサイルを発射した。高速かつ誘導性能の高い高品質モデルのミサイルだ。

 だがそのミサイルを謎のISは慌てる様子もなく、一発一発冷静かつ的確にライフルで撃ち落としていく。

 

≪貰った!≫

 

 迎撃されたミサイルによって生じた爆風を利用し、鈴は双天牙月を振るい襲い掛かった。しかし振り下ろされるそれを、謎のISはさも当然の様に鉈で防いだ。

 

≪な、読まれていた!?≫

 

 奇襲を完全に防がれたことに驚き鍔迫り合っている鈴は気付けず、それを後方から見ていた一夏は謎のISの異変に気が付いた。そいつが左肩に背負っている折りたたまれた何かが起動し、筒の部分が接続される。

 それは、ISが装備するには巨大な砲。

 

「鈴!」

 

 直ぐに何をするのかを理解した一夏はスラスターを全力で吹かし、鈴を抱きかかえるとそのままグラウンドに墜落した。そして先程まで鈴が居た場所を巨大な光が襲い掛かり、幸いにも観客席とは全く関係のない場所に着弾した。

 だがその光は、アリーナに張り巡らされているバリアーを簡単に無効化し、建造物を破壊してしまう。

 

「これでハッキリわかったぜ。最初の爆発も、この通信妨害も、全部あいつの仕業だったんだな!」

 

 しかも一方的な敵意を向けくることもわかり、最早和解の余地はなく完全な敵対関係であることも一夏は理解した。

 

≪ちょ、ちょっと! 早く離れなさいよ!≫

「え? あ! ご、ごめん!」

 

 鈴に言われて漸く一夏は彼女を庇うためとはいえ、彼女に覆いかぶさっていることに気が付きすぐさま離れる。

 

「一応、この距離なら通信は使えるな」

≪まだそれが救いね……一夏、大丈夫かしら?≫

 

 鈴は一夏の目を見ながら忠告をする。それだけで彼女が何を言いたいのかを一夏は理解した。

 

「やるしかないんだろ? だったらやってやるさ!」

≪……ほんと、昔から変わらないわね!≫

 

 幼馴染であるからこそ彼の長所でもあり短所でもあり、自分が惚れた部分を理解している鈴は最早彼を止めることは出来ないと悟る。

 

「ん? これは……」

≪あたしのIFFデータ。EOでの誤射なんて、まっぴら御免よ≫

 

 一夏は鈴から転送されてきたデータをAIの指示に従いながら直ぐにインストールし、敵味方の識別信号を更新する。

 

≪あの大砲をまともに喰らえばタダじゃ済まないわよ。いい? あたしが龍咆とミサイルで支援するから、あんたは突っ込みなさい。あんたの武装じゃ、それが順当でしょ?≫

「ああ。助かるぜ、鈴!」

 

 そういうとグラウンドから立ち上がり、彼らの頭上で佇んでいる謎のISに攻撃を仕掛けた。




お久しぶりです。

昨年末から先日まで本業が忙しかったため手を付けられませんでした。
更に書き直したりで時間を食ってしまいましたが、漸く投稿することが出来ました。

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