ARMORED STRATOS 兎と鴉の唄 作:バカヤロウ逃げるぞ
それと活動報告でちょっとした募集を行っていますので、よろしければどうぞ。
一夏の専用機、コードネーム『白式』を倉持技研へ納品してから早数日。
束の研究所では住人である三人が、研究室へと集まっていた。
あの切羽詰った改修作業とは一転、のんびりした雰囲気が漂っている。しかしその中に緊張感と興奮が混じっていた。それはまるで、スポーツ観戦で試合が始まる直前に似た雰囲気だろう。
「さてと。今日は、いっくんのISデビューとなる日だね~」
束は大型スクリーンに映るIS学園のアリーナを見ながら、折り畳み式テーブルに乗せられ、皿に盛られている剥きエビを一つ摘み、チリソースが入った容器に二、三回入れてから口に運んだ。
エビはこの近辺の海で採れた新鮮なものが使用されており、瑞々しく、脂がのっている。チリソースは市販物ではなくジャックが作成したものだ。辛さにキレがあるも、しつこさが無く飽きさせない。このエビと上手くマッチングするようになっていた。
「あれだけ我々が力を入れたのだ。みっともない姿だけは見たくないものだな」
「私も、同感です」
クロエも束に続いてエビを一つ取り、チリソースを付けてから食べた。
テーブルには剥きエビのおつまみだけではなく、ミニピッツァやフレンチフライ、フライドチキンなどが並べられており、大きなボトルクーラーにはジュースをはじめ、お酒などが入っている。
これだけ見ると完全にスポーツ観戦のそれと変わりがなかった。
「正直あのようなことは二度としたくありません」
クロエはそう言いながら横目で束をチラリと見る。見られた束はただ苦笑を浮かべるしかなかった。
「それにしても、最初の相手が代表候補生になるとは、な……不足無しどころか、力不足ではないか?」
ジャックはボトルクーラーから瓶ビールを取り出し、王冠を栓抜きで外しながらそう言った。
IS学園一年一組でクラス代表決定戦が行われるのを知ったのは、白式を納品した後のこと。偶々束が潜入させていたカメラの録画映像を見ていたのを、ジャックとクロエがその後ろから覗き見したことで、その存在を知ることが出来た。
因みに束は、一夏を見下すかのような言動をするイギリス代表候補生セシリア・オルコットに殺意を抱き、行動を起こそうとしたところを二人に取り押さえられるという一騒動があった。
何だかんだ言って束の盗撮行為はIS学園の内偵にも繋がっており、ジャックもIS学園がどのような場所なのか、大まかではあるが把握することは出来た。
IS学園はジャックの予想とは遥かに異なり、軍事訓練施設ではなく文字通り学び舎としての側面が非常に強かった。それも日本で言うところの高等学校に相当しており、在学期間は三年で、在学生は16~18歳の女性に限っている。
たった三年間で何が出来るというのだ?
それが、ジャックがIS学園に抱いた最初の印象だった。
(まぁ、今はそんなことどうでもいい)
IS学園の内情など今は置いておくことにして、ジャックはスクリーンに映るISの特徴をビールを飲みながら観察する。
(背部にある浮遊ユニット。あれは、唯の
「あれは
ジャックが考えていた事をまるで見透かしていたかの様に、束はスクリーンに詳細情報を映しながら説明する。
「今はあんな感じに推進装置とくっついているけど、分離して攻撃する事が可能なんだよ」
「分離? という事は、
ブルー・ティアーズの説明を受けたジャックは、ACの武装に似たような兵器があった事を思い出し、それに準ずる兵器かと予想する。
ジャックが思い出したオービットカノンという武装は、発射後敵の周囲に小型自律兵器を発射、展開させ、レーザーで自動的に攻撃するという便利なものだ。
「ノンノン、それどころじゃあないよジャックくん」
束はピッツァを片手に、指を振りながらジャックの予想を否定する。
「あのブルー・ティアーズは、以降はBT兵器と省略致しますが、自動ではなくイメージ・インターフェイスを利用し、操作する事が可能なのです」
束から説明を受け継いだクロエはパネルを操作し、恐らく束がイギリスの研究施設から盗んだであろうブルー・ティアーズの映像をスクリーンに映し出す。
「BT兵器は第三世代ISの特徴でもある、操縦者のイメージ・インターフェイスを用いた特殊兵器です。ご覧になられている映像の通り、BT兵器は細かい操作によるオールレンジ攻撃を可能としています。また、主力武装として想定されているので、ジャック様の存じておられるオービットカノンのような微量のダメージでは無いと思われます。」
研究施設から盗んだ映像を再生しながらクロエは説明した。
「操縦者自体は動けないのか? 先程から止まったままだが」
ブルー・ティアーズの試験映像を見ていたジャックはそう呟いた。
映像の中のブルー・ティアーズはクロエの説明通りBT兵器を操作し的確かつ迅速にターゲットを破壊している。しかし親機であるブルー・ティアーズ自体は微動だにしていなかった。
「それが第三世代の弱点でもあります。イメージ・インターフェイスを用いる事で特殊な兵器を運用する事が可能になりますが、イメージ・インターフェイス自体が操縦者の大量の集中力を必要とします」
「だからあれは単純に、操作に手一杯で動けませんって言う状態。要は
束は食べたピッツァをコーラで流し込むと、クロエの説明に補足を付け足した。
「のくせに、代表候補だ、貴族だ、エリートの中のエリートだなんてのたまいやがるんだよ? 生意気だよね~この金髪ドリル。没落しているんならそのまま身売りになっちまえってんだYO!」
入学早々一夏に高圧的な態度をとり、更には一夏を誹謗中傷したことを未だに根に持っており、ジャックとクロエの制止が無ければ実力行使も辞さない構えをとっている。
このままだと確実に束の愚痴が続くと予想したジャックは、場の雰囲気を変えようと咳払いを一つした。
「しかし、BT兵器はそれ程の集中力が必要なのか? 不便に感じるのだが、どうなのだ?」
ジャックは別にBT兵器の全てを欠陥と決めているわけではない。
確かにACでの戦闘は基本的に直視出来る近距離での機動力戦闘であり、長距離からの狙撃というのは珍しいものだった。そんな戦闘環境下で足を止めるというのは自殺行為に他ならない。ならば自動的に攻撃する方が操縦者の負担も格段に減るだろう。
だが、もしもBT兵器の有効距離が果てしないものだったら?
そうであるならば、敵に見つかる事なく自身は遠く離れた所からBT兵器だけを使用して一方的に攻撃する事が出来るだろう。それは敵からすれば恐怖に他ならない。
「まぁ、この映像のBT兵器は稼働率がメッチャ低い状態だからね。そう思うのは当然かもよ」
束はそう言うとフライドチキンに手を伸ばした。
先程からおつまみを食べてばかりいる束にジャックは何か言ってやろうかと思ったが、自身が作った料理を残される事の方が嫌であり、それに束が幸せそうな表情を浮かべながら食べているということもあり、何も言わないことにした。
「稼働率が低い状態か。ならば、それが高くなるとどうなる?」
ジャックはまるで水の飲むかの様に瓶ビールを一本飲み干すと、ボトルクーラーから新しい瓶ビールを取り出し栓を抜く。栓が抜かれた瓶ビールは凝縮されていた炭酸がそこから抜け出て「キュポンッ」といういい音が研究室に響き渡った。
「はい、束様が
「レーザーを偏向? つまり、ミサイルの様に誘導させることが……」
「いやいや。そんな緩やかなカーブじゃなくて、レーザーが
束の補足を聞いたジャックは口につけていたビールを噴き出しそうになり、必死にこらえた。
「あ~あ。ジャックくんが噴き出すところを見てみたかったなぁ」
「今のは冗談か?」
「いえ……事実です」
ジャックがこらえている可笑しな表情と、普段のポーカーフェイスのギャップに、クロエは必死に笑わないようにする。しかし顔の動き一つで相手の思考を読み解くジャックにはバレバレだった。
「折れるレーザーか。それならば主力武装として採用されるだろうな」
偏向するレーザーと聞いて、ジャックは嘗て戦ったフロート型パルヴァライザーのことを思い出す。
あれも偏向レーザーを使用してきたがそれはエネルギーミサイルとも言えるものだったが、二人が言う
「それと腰部のあれも、ブースターやスタビライザーではないのだろう?」
ジャックは自身が作ったフライドチキンにがぶり付きながらそう言った。
「そうそう。あれは他の子機とは違ってミサイルで攻撃するBT兵器。あれだけが唯一の実弾兵器で稼働率にそこまで影響しないよ」
束はジャックの観察力に改めて感心する。
「しかし、ミサイルか……BT兵器にする必要性はあるのか? いや、そのミサイルがコンテナタイプならば分かるのだが」
「一応ブルー・ティアーズは実験機という扱いをされているので、様々な運用データの回収を目的としています。なのでミサイル型のBT兵器を搭載しているのかと……」
ジャックの呟きに対して予習を重ねていたクロエがフレンチフライをサクサクッと食べながら答える。
「なるほど、モルモットか。ということは今回の戦いは
ジャックは口内に残るフライドチキンの脂をビールの炭酸で剥がし、食道へ流し込みながら束に問いかける。
「あ~それね。確か
「はぁ?」
「本来ならばさっさと届くはずだったんだけどね、データを必死に吸い出そうとするも成長した束さんのプロテクトコードを前に悪戦苦闘、その結果届けるのが大幅に遅れました、とさ」
仮にも日本を代表するIS研究機関の失態にジャックとクロエは引いてしまう。
「そのせいでいっくんには申し訳ないけど、雪片弐型だけで戦ってもらうしかないね」
「なっ!? 待て! 何故EOが使えないという言い方をするのだ?」
束の呟きにジャックは口に付けようとしていたビールを離して、声を荒げてしまう。あれ程三人が苦労して作り上げたものが使えないと言われてしまっては無理ないだろう。
「だってEOなんて技術、有るってわかっちゃったら誰だって欲しくなるよね~束さんもその一人だけど。だから
フフンッと胸を張る束。
それに対して正論であるが故に言い返せないジャックは無言でビールを一気飲みし、ボトルクーラーから今度はウィスキーを取り出し、キッチンワゴンにしまわれているロックアイスとグラスを取り出した。
「あの、それでは、私たちの苦労は……」
「……いや、分からないよ。ひょっとしたら
噂をすれば何とやら、三人の手によって改修されたIS、白式を纏った織斑一夏がカタパルトから射出されると、束はスカートのポケットからリモコンを取り出し、すかさず録画ボタンを押す。スクリーンの右上にはレトロチックに「●REC」という赤い文字が表示された。
「……イギリス代表候補生とその新型機、そして世界最強の弟と我々が改修したISの実力がどれほどのものか、じっくり見させてもらおう」
何時の間にかウィスキーを注ぎ終えたジャックはそう期待を込めて呟くと、熟成されたアルコールの香りを嗜みながらグラスを傾けた。
◆
時は少し遡る。
世界で唯一ISを動かせる男性として大々的に報道され、そのままIS操縦者の育成特別学校『IS学園』に
ISに関する知識を一切持っておらず稼働時間も無いに等しい一夏は、IS学園で再会した幼馴染である篠ノ之箒が差し伸べた救いの手を頼りに特訓をすることになったのだが……
「なあ、箒。ISのことを教えてくれる話はどうなったんだ?」
「……」
アリーナのピットの中で己の専用機が届くのを待っている一夏は、箒にそう言って詰め寄る。
「目をそらすな」
一夏は追い打ちをかけるが、箒は目を合わせることはせずそっぽを向いた。
一夏が疑問を口にするのは仕方のないことだろう。
彼が望んだのは『ISに関する知識』や『ISの操縦方法』だ。そんな一夏に対して箒はひたすらに『剣道』を中心とした体力づくりをし続けたのだ。これでは一夏にこう言われても仕方ないだろう。
しかし完全に無駄なものだったかと言うと、それも少し違う。
IS操縦者はISによる補助があるとはいえ、やはり体が資本。一夏は中学三年間を帰宅部で過ごしてきたため学校で必要になる体育以上に身体を使う機会が減っており、身体を鈍らせていた。そのため箒によるスパルタ訓練(剣道は勿論、他にも箒が一夏に乗って腕立て三百回や箒がタイヤに乗ったまま一夏に引かせる等)によって必要最低限の体力を付けられたことは事実であり、一夏にどのような専用機が渡されても動かせないということは無くなっただろう。
「おっ、織斑くん!」
一夏が箒にさらなる問いかけをしようとしたところに、一夏のクラスの副担任である山田真耶が息を切らしながらピットの中へ入ってきた。続けてクラス担任であり一夏の姉である織斑千冬も入ってくる。
「と、届き、ました! ケホッ、織斑、くん、の、専用、IS!」
息切れと咳き込みでたどたどしいながらも専用機が届いた旨を一夏に伝える。
「遅れてすまなかったな、織斑。どうも
千冬はギリギリのタイミングで届いたことを理由をつけて一夏に謝罪する。しかし一夏はそれに対して不満の一つも言うことはなかった。
「織斑、アリーナの使用時間は限られている。やむを得まいが、ぶっつけ本番でやるしかないぞ」
「一夏、男たるものこの程度の試練、乗り越えてみせろ!」
千冬と箒が激励と言う名の無理難題を言われた一夏は流石に抗議しようとしたが、空気を読まずにピットの搬入用隔壁が開き始める。斜め式の重く厚い装甲で覆われた二重の隔壁が開くと、台座に乗せられた一夏の専用ISが四人の居る方へ滑るように寄せられた。
そこにあったのは、鈍色の角ばったデザインの、いかにも工業製品らしいISだった。
「これが織斑くんの専用機、『白式』です!」
その姿からは想像もできない名前に千冬と箒は一瞬戸惑うが、一夏はそんなことお構いなしに相棒となるISへと近づく。そしてISの前へ立つとそっと手を伸ばし、その装甲に触れた。
「っ!?」
ISに触れるも手から伝わる感覚に驚いた一夏は、飛び退くように伸ばしていた腕を引っ込めた。
「どうした! 大丈夫か、一夏!?」
一夏の異変にすぐさま箒が心配そうに駆け寄る。だが一夏は箒に応えずに触れた右手を見つめ、開いたり閉じたりを数回繰り返す。そしてもう一度ISへ触れた。
「一夏?」
「……大丈夫だ。問題ないぜ」
先程の感覚。試験会場で触れた時の、電流が走るような感覚は無かった。まるで自分の素肌を触れるかのような一体感に最初は驚いたが、そう認識しなおして今一度触れると驚きは無くなる。代わりに異常に馴染むことに驚いてしまうが、専用機は
「すぐに装備しろ。時間がないためフォーマットとフィッティングは実戦でやれ。わかったな?」
千冬にせかされ一夏はすぐにISの装備に取り掛かる。一夏の白式は通常のISの様に手足に装着する部分の他に、大型の胸部装甲があったため装着に少々手こずってしまった。
(凄え……まるで最初から俺の身体だった感じだ……)
≪搭乗予定者、織斑一夏を確認。
一夏は白式との一体感を感じていたところで突然女性の合成音声が流れ驚いてしまう。しかしそれは彼だけではない。周りにいた三人も同じように動揺している。
「ISが、喋った……?」
「AIが搭載されているの? でも、そんなの聞いたことは……」
「……」
白式が喋ったことに驚く箒。
まだ実用化されていないIS用AIが搭載されている可能性を予想する真耶。
無言だが眉間にしわを寄せる千冬。
三人の反応からして自身が搭乗しているISが特殊なものだと一夏はようやく認識した。それと同時に白式のハイパーセンサーが作動し、一夏の視界は解像度が一気に引き上げられよりクリアなものへとなる。
「……ハイパーセンサーは正常に作動していると見た。織斑、気分はどうだ?」
箒と真耶から見れば初めてISに搭乗した生徒に気をかける様に千冬は言うが、ハイパーセンサーを使用し、姉弟として幼い頃からずっと一緒だった一夏だからこそ分かる。今の千冬は一夏の身体に異変が起きていないかどうか、
「……ああ、問題ないぜ!」
心配してくれている
「それと、箒!」
「な、なんだ?」
突然声を掛けられた箒は少し緊張する。ハイパーセンサーを使用しているため360度全方位が見える一夏は、しかし、あえて箒の方へと顔を向けた。
「行ってくる!」
箒は思い返すとこの一週間、ISのことについて知りたがっていた一夏の意思を無視して体力づくりしかしてやれなかった。しかし、だというのに、目の前の
ならばこちらも、勇気づけて送り出さなくては。
箒は俯き小さく笑うと、顔を上げ一夏の目を見た。
「……ああ、
笑顔の箒に送り出された一夏は真耶の指示に従いゆっくりと歩きながらカタパルトへと進み、脚部を固定させる。その間に箒は教師二人に続いて管制室へと向かった。
≪織斑くん、準備は良いですか? シグナルがグリーンに変わり次第カタパルトから射出されます。射出を安定させるため膝を曲げて前傾姿勢になってください!≫
真耶からの忠告を聞いた一夏は天井に設置されているシグナルを見つめ、言われた通り膝を曲げて前かがみになる。
レッドシグナルが一つずつ消えていき、最後の一つが消えると同時にグリーンへ変わる。そして真耶の忠告通りカタパルトが起動し、一気に速度を高め出口へ推し進める。PICが機能しているため一夏は大してGを感じることは無く、カタパルトが最高速度に到達し脚部の固定器具が解放されると、その勢いに乗ったまま大空へと羽ばたいた。
初めて飛ぶ空。
密かに願っていたことを叶えられたことに、一夏は嬉しく思ってしまった。
「あら、逃げずに来ましたのね」
そんな物思いに更けている一夏を現実に引き戻したのは、先に出撃していたセシリアだった。
結構な時間を待たされたにもかかわらずセシリアは、苛立ちを見せず、微動だにもせず堂々と佇んでいる。だが、その眼だけは、ようやく現れた獲物を見つけた狩人のそれと同じだった。
≪対戦ISを確認。イギリス製第三世代機、ブルー・ティアーズと一致。狙撃型レーザーライフル及び、特殊自律無線型兵器を確認。中遠距離からの射撃戦をとると予想されます≫
白式は先程とは違い
「今ならまだ降伏を認めてさしあげましょう。貴方だって、
セシリアは両手に持つ全長ニメートルを超す大型レーザーライフル『スターライトmkⅢ』を弄りつつセーフティーを解除しながら、挑発するように一夏に降伏勧告をする。それを聞いた一夏は一瞬ムッとした表情になるも、目を瞑り深呼吸をして気持ちを落ち着かせた。
「ここまで来て逃げるようじゃあ、送り出してくれた人たちに見せる顔が無え」
「そう、残念ですね……」
心底残念そうにセシリアは呟き、試合開始の合図がアリーナに鳴り響くと同時に電光石火のごとくレーザーライフルの銃口を一夏へ向ける。その目にも留まらぬ一連の行動に一夏が対応出来るわけもなく、初弾が一夏の左肩に直撃した。
「うおっ!?」
シールドバリアーによって左肩を負傷することはなかったが痛覚が消えることは無い。一夏は撃ち抜かれた痛覚と衝撃に顔をしかめる。
白式のオートバランサーに振り回され体勢を立て直した一夏は、セシリアが居た場所を見る。しかしそこにセシリアは既に居なかった。
「何処を見ていらっしゃるの?」
回線を通して聞こえるセシリアの声。一夏は何処に居るのか索敵をする。
≪敵発見。上です≫
白式の声に従って上を見る。だがそれと同時に一夏は目を細めてしまった。
そこにあったのはブルー・ティアーズではなく、光り輝く
太陽
「無調整のハイパーセンサーで太陽を直接見たご感想はどうかしら?」
目を焼かれ手で目を押さえている一夏にセシリアはさらに挑発を加える。
ハイパーセンサーが調整され再び太陽を見ると、確かに太陽の中にセシリアは居た。距離を大きくとり、アリーナの上限ギリギリにいるため一夏にはセシリアが点に見える程小さく見えた。
「行きなさい、ブルー・ティアーズ!」
セシリアは高らかにそう言うと、ブルー・ティアーズのバックパックから自律兵器が分離し、凄まじい速さで一夏の周囲に展開した。
≪特殊武装、ブルー・ティアーズの使用を確認。注意してください≫
「注意しろったって、どうすれば……」
白式の警告に一夏は愚痴を吐いてしまうが余裕など無い。既に一夏を取り囲む様に四機のBT兵器が展開されていた。
「そうそう。忠告し忘れていましたが、わたくし、手心というものは出来ません。何故なら……」
言っている途中でセシリアはブルー・ティアーズに攻撃命令を伝える。それを受け取ったブルー・ティアーズは取り囲んだ一夏を全方位から一斉攻撃した。
「クッ!」
一夏の身体を狙って攻撃したのか四本の射線は一夏という一点に収束する。そのため素人の一夏でも避けられたが、セシリアはブルー・ティアーズを操作し逃げ出そうとする一夏への包囲網を崩さずに立て続けに攻撃した。それも一斉攻撃ではなくそれぞれの子機がバラバラに、タイミングをずらし、囮攻撃を混ぜ一夏のバランスを崩す。
攻撃される一夏からすればたまったものではない。確かに白式は
「がはぁっ!?」
突如背中に襲い掛かる衝撃と痛覚。
ブルー・ティアーズからの攻撃は掠りながらも避けているのに、何故? と一夏は動揺する。
≪警告。ブルー・ティアーズ本体よりロックオンされています。狙撃に注意してください≫
白式からの警告を受けハイパーセンサーでセシリアの姿を確認する。セシリアはブルー・ティアーズを操作しながらスターライトmkⅢを構え狙撃体勢を取っていた。
ここで漸く一夏はセシリアの戦術を大雑把ながらも理解する。
初撃で相手を牽制し距離を取り、相手の有効射程圏から外へ出る。続けてブルー・ティアーズを使用しその特殊性で相手を包囲する。そしてブルー・ティアーズの連続攻撃で相手の注意を奪い、そこに高火力のレーザーライフルによる狙撃を行う。
単純だが、しかし、理にかなっている戦術だ。
(ならば
「武器は?」
丸腰のままではマズイ、と思った一夏は白式に格納されている武装があるかどうか尋ねた。
≪現状で使用可能武装……ブレードのみです≫
「ブレードだけ!? ……でも、無いよりはマシか!」
一夏は直ぐに量子変換されているブレードを呼び出すと実体化した長剣を右手に握り、包囲網を突破するついでに本体へ攻撃せんと、出せる限りの推力を使ってセシリアへ急速接近する。
「うおおおおおおお!」
「ブレード一本とは、可哀想に……だからと言ってわたくしは手心を加えませんわ!」
ブルー・ティアーズの包囲網を簡単に突破するだけの速度が出せることに少し驚くも、セシリアは落ち着いてレーザーライフルで近づいてくる一夏を迎撃する。その一発一発は先程のブルー・ティアーズのものとは違い、必中と言える精度だ。あっけなく一夏はレーザーライフルの威力に撃ち落され、アリーナの地面へ叩き落された。
「何故ならわたくし、
「ゲホッゲホッ……チクショウ」
アリーナの地面から、空高く、未だに堂々と佇んでいるセシリアを見て一夏は自分の失態を吐き捨てた。
≪シールドエネルギー残量五十パーセント。機体ダメージが増大しています≫
状況は最悪だ。
戦闘開始時よりもセシリアとの距離は離されてしまっている。ブルー・ティアーズはもう包囲網を再構築している。おまけにこちらのシールドエネルギーは半分も残されていない。
それ以上にセシリアと自分の雲泥の差とも言える実力差を、マジマジと見せつけられてしまった。
しかし一夏は諦めを見せない。
この程度で諦めていては、自分を笑ったクラスメイトに、一週間訓練に付き合ってくれた
そう思うと一夏は口の中に残っている砂利を涎を含んで吐き捨て、空いている左手で唇を拭うと、今一度ブレードを構えなおした。
「これだけの攻撃を喰らっておきながら諦めないとは……いいでしょう、ならばそのまま無様な
再び始まるセシリアの猛攻。それに対して一夏は身構えた。
≪
セッシーが、血の気の多いキャラになっているのは没にした小説のセッシーが乗り移ったからだ!
正直ボスクラスの強さがあってもいいのに、ビット兵器使いなのに…