ARMORED STRATOS 兎と鴉の唄   作:バカヤロウ逃げるぞ

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ISACを多く見かけたので自分もその流れに乗って。書いてしましました。
後悔はそこそこしてます。


01 全ての終わりと始まり

「これで、人類の未来は……」

 

 男は目の前の光景を見ながらそう呟いた。

 

 

 

 

 半年前、ある者たちが起動させた旧世代の遺物によってもたらされたのは繁栄ではなく、世界の破滅だった。

 その日、死をもたらす大量の"雨"が全世界に降り注ぎ大きな傷を残し、更には永久に成長を繰り返す後にパルヴァライザーという自律型兵器までもが姿を現した……

 男は必死になりながら旧世代の遺物を消し去る方法を模索した。時には今一度人の手で支配することも考えたが、確実性が無く諦めざるを得なかった。

 打開策が思い浮かばず途方に暮れていた彼の目にふと、書斎の片隅で埃を被っているある一つの論文が止まった。それは何年も昔に一人の学者が提唱したが、誰からも相手にされることはなかったものだった。

 ドミナント

 先天的に戦闘適正に優れた者、つまり()()()()()()()()()()()()()()。イレギュラーの中のイレギュラー。

 発表された時にはその男も何を馬鹿げたことをと他の者たちと同じく見向きもせず、論文をゴミ箱に捨てるのも億劫になり書斎の片隅に投げ捨てていた。しかし、今改めて読み返してみると確かに思い当たる節があある。

 

 例えば―――地下世界の管理者(DOVE)を破壊し地上への道を切り開いた者。

 

 例えば―――未知の領域(SILENT LINE)に足を踏み入れた者。

 

 例えば―――短期間で力を身につけランク一位のジノーヴィを倒し、旧世代の遺物の起動を阻止しようとした者。

 

 彼らが皆ドミナントだとすれば、ドミナントはレイヴンの中にいるのでは? と男は考えこの仮説に一縷の望みを託すことにした。

 まず初めに彼は、ドミナントを探し出すためにレイヴンによる新しい秩序という建前で「バーテックス」を結成、今の世界の秩序である「アライアンス」に宣戦布告をする。こうすることで生き残っている全てのレイヴンを無理矢理戦いに引きずりこませるのだ。

 そして天才、実力者、ベテラン、新米、俗物、大物、小物、ありとあらゆるレイヴンたちを魔女の大釜の中に放り込み煮詰めることで、その具材の中に混じっているドミナントを彼の計画を遂行するに相応しい力を身につけさせる予定だった。更にレイヴンの数を急速に減らすことでパルヴァライザーに交戦させる機会を減らすという利点もあった。

 そして彼の目論見通りその中に彼が求めている物があった。人類の希望とも言える者、ドミナントが。それも()()も。

 しかし一人はアライアンスに肩入れしているらしく手懐けることが出来ず、更にバーテックスにスパイとして参画していた実力派レイヴンであるエヴァンジェをそいつが撃退したという情報を耳にした時、もし彼が私の手中に収められればとこれ以上ない程悔やんだ。幸いにももう一人のドミナント、ジナイーダが依頼を聞き入れてくれるだけでも御の字だった。

 そしてバーテックスが予告したアライアンス襲撃まで残り一時間となり、バーテックスのレイヴンがその男、ジャック・Oを残して全滅すると計画の実行を決意した。

 

 バーテックス本拠地の地下に存在する旧世代の兵器を生産し続ける施設、インターネサインを破壊する為に。

 

 本来であれば二人のドミナントを使い片方にインターネサインの破壊を、もう一人にパルヴァライザーの撃破を依頼する予定だったが、生憎手元にいるのはジナイーダのみ。それでも計画実行を決意したのはとある情報を得たからだ。

 アライアンス戦術部隊とその司令官、エヴァンジェに自身の居場所が知られ、自分を抹殺する為にもう一人のドミナントを送り付けてくるという情報を。

 もし仮に自分がパルヴァライザーの相手をして倒されたとしても、その後にやって来るドミナントが弱ったパルヴァライザーを倒すことなど造作でもない。そう考えたジャックはジナイーダにインターネサイン中枢の破壊を依頼し、自身はパルヴァライザーの相手をすることにした。

 

 

 

 

 結果はジャックの思惑通りに進んだ。

パルヴァライザーはその形態をフロート形態にはしていたものの、戦闘データが少なかったのか思ったより苦戦せずジャックでも辛うじて相手をすることが出来た。そしてジナイーダからのインターネサイン破壊の報告。ジャックはその報告を受けると攻撃の手を一気に強める。

 

 パルヴァライザーは進化と再生を繰り返す悪魔の様な存在だ。例え撃破したとしても僅かな時間で再生しより強力な兵器へと成長し、やがて誰も倒すことが出来なくなる存在になるだろう。

 

 しかしそれは、インターネサインがあればの話。

 

 インターネサインは特攻兵器などの旧世代の兵器の生産だけでなくパルヴァライザーの統括機構としても機能している。パルヴァライザーが破壊されると、そのリアルタイムで送られてきた戦闘データを基に改良型を短時間で生み出す。それが不死身と呼ばれる所以。だがこれには致命的な欠点があった。

 

 それは―――現存のパルヴァライザーが破壊されなければ再生されないというもの。

 

 そのことに気がついたジャックはあえて再生しない程度にダメージを与えておき、ジナイーダがインターネサインを破壊したと同時にパルヴァライザーにトドメを刺すように耐え凌いでいた。

 ジナイーダがインターネサインを破壊するまでパルヴァライザーの攻撃を耐え凌いたが重量機である彼の愛機、フォックスアイでは機動力による回避は限界があった。とはいえ、重量機故耐久力は非常に高い。現に左腕を失ったが機体自体は健在、問題無く機能している。

 パルヴァライザーはインターネサインの機能が停止した影響からか機動に乱れが生じていた。この絶好の機会を逃すジャックではなかった。

 彼はすかさずWB18M-CENTAUR(両肩垂直ミサイル)CR-E92RM3(エクステンション連動ミサイル)を起動させる。それと同じくしてFCSがミサイル用の物に切り替わるのをジャックは確認するとサイトの中にパルヴァライザーを収める。

 ジャックは強化人間特有のロック時間の短縮能力をフル活用し僅かな時間でロックオンを完了させる。操縦棒のトリガーを引きミサイルを8発同時発射するとすかさず右腕武装用にFCSを切り替え、フォックスアイの右腕に握られたレーザーライフルの傑作 WH04HL-KRSW(カラサワ)の銃口をパルヴァライザーに向けた。

 8発のミサイルがパルヴァライザーに着弾しその威力と爆風でパルヴァライザーの姿勢が乱れ、それに伴ってパルヴァライザーの姿勢制御機能が作動したためか動きが止まった。

 

「逃がすか!」

 

 ジャックはその最大のチャンスを逃すことなくカラサワのトリガーを引いた。

 カラサワの銃口から収束された青白く巨大なエネルギーの塊が吐き出される。そのエネルギーの塊は動きの止まったパルヴァライザーに吸い込まれるように着弾した。

 着弾すると同時にエネルギーの塊は凄まじい爆発を起こし、それがパルヴァライザーへのトドメになった。カラサワによる一撃によってパルヴァライザーの機体負担が限界を越し、パルヴァライザーの各所から紫電と煙が上がる。遂には大爆発を起こし地面へと落下していった。

 

 ジャックは爆散するパルヴァライザーの炎を見つめると自然と身体から力が抜けていった。それに伴って愛機であるフォックスアイも膝をついた。

 強化人間はACとコネクターで結びつくことで通常のACには不可能な人間に近い動きを可能にしていた。それはパイロットの身体状態にも連動するためこうしてフォックスアイは膝をついたのだ。

 これで全てが終わった。旧世代の遺物を駆逐した今、世界と人類の未来は救われた。

 しかしジャックは、本来の目的を達成したにもかかわらず晴れた気持ちにはなれなかった。

 ふとコックピットの片隅に置かれてある拳銃を見つめる。本来であれば目的を達成した時自決する為に置いておいたのだが、今のジャックは自決する気にはなれず言いようのない哀しさが、彼を包んでいた。

 

 

 

 

 

 それは突然だった。

 彼の脳内に埋め込まれているレーダーが敵性AC反応を察知したのは。

 このタイミングで誰が、とジャックは思ったが考えてみれば1人しかいなかった。

 ACがエレベーターを使って此方に降りてくるのがわかる。やがてエレベーターの駆動音が止まり、ゲートが開く。

 ジャックにはそれが変に長く感じた。例えるならば、今か今かと目的のものが自分の前に差し出されるのを待つあの感覚に似ている。

 それしゲートが開きACがこの空間に入って来る。そこでジャックはフォックスアイの上半身を上げモニターにACの姿を映した。

 

(やはり来たか……)

 

 ジャックは歓喜のあまりに口を吊り上げてしまった。

 目の前にいるのはジャックの予想通りもう1人のドミナントだった。

 そのドミナントのACはOB搭載型コアを中核に、クレストとミラージュのお互いの長所を活かした中量二脚機だった。

 右腕にはクレスト製ライフル、右肩にはミサイルを装備し左肩には大型グレネードランチャーを装備している。

 そして左腕にはブレードの傑作、WL-MOONLIGHT(月光)を装備していた。よほどの自信があるのかブレードを金色に染めている。

 今の時代、ACのFCSが改良と発展を繰り返し左腕に銃火器を装備させることが可能になり、両腕に火器を搭載させるアセンブリが一般的になりつつある中、ブレードを装備する者は余程の強者でなくては生き残ることは出来なくなっていた。何故なら、単純に近づく前に両手に銃火器を搭載したことで火力が引き上げられたACに撃ち負けてしまうから。

 だからこそブレードは強者の証、という認識が広まっていた。それはエヴァンジェしかり、ドミナントであるジナイーダしかり。

 ジャックはドミナントの頭部を見つめる。その頭部は嘗てアークに所属し、左腕に自分と同じくカラサワを装備させていたタンク型AC乗りが使っていた頭部パーツだった。ご丁寧にその頭部だけそのレイヴンが使用していた時のままのカラーリングを施されている。

「遅かったじゃないか……」

 ジャックは漸く現れたドミナントに向かってそう言う。まるで待ち合わせに遅れてやって来た恋人に向かって言うように。

 レバーを引き、傷つき膝をついているが尚も健在な愛機をゆっくりと立たせる。

「目的は既に果たしたよ、彼女がな」

 ドミナントは微動だにせず空電だけをジャックに返した。恐らく自身が言っている事の意味が分からないのだろうとジャックは思う。

 ジャックはエヴァンジェは勿論、他のバーテックスの者たちにもインターネサインの情報を何一つ教えなかったのだから、アライアンスがジャックの真意を知っている訳が無かった。

「すべては私のシナリオ通り。残るは憎まれ役の幕引きだ……」

 ジャック・Oと言う男は陰謀家であればこの世界の歴史に名を残すことが出来るだろう。それほどの偉業を彼は成し遂げたのだ。たとえ狂人とも罵られても構わない。世界を、人類の未来を救ったのは他ならぬ彼なのだから。

 しかし、彼は満足していなかった。むしろ悔いしか残していない。

 ジャックは確かに陰謀家としては成功を収めた。大成功と言ってもいい。しかし、レイヴンとしては何を残せたのか?

……何も残せていないのだ。

 それが、ジャックが自決に踏み出せなかった最大の理由。

 彼は陰謀家として死にたくはなかった。最期はせめて(レイヴン)として羽ばたきながら死にたかった。

 しかしだからと言ってタダでこの首を差し出すつもりはジャックには毛頭もなかった。

「私が生きた証を……レイヴンとして生きた証を、最後に残させてくれ!」

 そう言うとドミナントに向かってカラサワの銃口を引く。

 収束されたエネルギーの塊がドミナントのACに向かって行くが、ドミナントは僅かに機体のブースターを吹かしただけでそれを回避する。その無駄のない動きはこの24時間を運だけで生き延びてきたのではなく、実力で生き延びてきたことを証明していた。

 通信回線からドミナントのオペレーターが、こんな状態で戦いを挑むなんて自殺行為だと言っている。だからと言ってジャックは戦うことを止めない。例え自殺行為呼ばわりされてもジャックは負けるつもりは無かった。

 

 ドミナントはそのまま機体を宙に浮かせるとライフルのトリガーを続けざまに引く。重量機であるフォックスアイでは弾速の速いライフルの弾を避けるのは非常に厳しい。

 だが、ジャックはそれを、OBを使用することで回避してみせた。

 重量機の最大の弱点、それは何と言っても機動力と運動性能の悪さだ。

 最大積載量が増え高性能な武器を装備出来る様にはなるが、当てられなければ意味が無い。つまり、中量機であろうと軽量級であろうと当たらなければ重量機など恐れるに足らずという事だ。

 逆に重量機には無い機動力で回り込んでしまえば旋回性能の劣悪な重量機を一方的に嬲ることが出来る。

 よって重量機は上手く周り込まれない様に立ち回るか、その重装甲を活かして正面から撃ち合い回り込まれる前に倒さなければならない。

 しかしこのジャック・Oという男は重量機であるフォックスアイで見事な機動戦をしてみせていた。

 それは嘗てレイヴンズ・アークで上位に位置していた時の片鱗でもあった。

 

「この感覚、久しく忘れていたな……」

 

 OBによって一瞬にして600km/hを超える。その高速移動下でジャックはミサイルを起動させる。残弾数は心許ないが使い惜しんで負ける方が余程惜しい。機体制御が困難な高機動下でジャックはドミナントのACをサイトに収めた。

 しかしドミナントのACもOBを使用することでロックオンを外し、フォックスアイに肉薄する。ジャックはドミナントの狙いは左腕のブレードだと予測するとミサイルを停止させカラサワに変更、すかさずOBをカットし重量脚部でブレーキを掛ける。足元から激しい火花が飛び散りドミナントのACを追い抜かせた。その凄まじいG作用も強化人間であるジャックなら難なく耐える事が出来た。

 しかしドミナントは慌てる様子もなく反転しライフルのトリガーを引いた。撃ち出された弾丸がフォックスアイの装甲に当たるが、ジャックは動ずる事もなくドミナントのACの着地予測地点に向かってカラサワを2発程撃った。1発はすかさずブースターを吹かし予測地点をずらした事で外れてしまったが、着地した際の衝撃で動けなくなっている所に遅れて撃ち出されたエネルギーの塊が襲いかかる。

 直撃弾だ。

 誰もがそう思う。

 だが、相手は伊達にこの過酷な24時間を生き延びた訳ではない。瞬時に上半身を左に傾ける事で直撃を避け、右肩を焦がすだけにとどまらせる。

 

(やはり、ただでは当てさせてくれないか)

 

 ジャックはそう思うとドミナントのACがカラサワの爆風に紛れて見えなくなっている事に気づき舌打ちをする。その時、コックピットにロックオンアラートが鳴り響いた。

 その爆風の中でドミナントは左肩に装備されたグレネードランチャーを起動させ砲撃体制をとり、爆風が残っているうちにフォックスアイに向けて放った。

 グレネード弾は高温を纏いながらフォックスアイ目掛けて襲いかかった。

 奇襲ともとれるこの攻撃、通常のパイロットならよけられなかっただろう。

 だがジャックはグレネード弾を目視すると同時にレバーとペダルを操作し、グレネードの直撃だけは避けてみせた。しかしグレネード弾は右脚部を掠めた際に信管が作用し爆発を起こしてしまう。

 その爆風による圧倒的熱量で周りの空気が一瞬にしてプラズマ化する。幸いにも脚部に損傷は無く、機体も搭載されている高性能ラジエーターが緊急作用し温度を急速に下げた。

 強化人間であるジャックの体は臓器の殆どを人工の物に置き換えられている。今の攻撃も神経系を光ファイバーに置き換えられていなかったら、機体そのものとコネクターで繋がっていなかったら、その常人を超す反射神経で直撃を避ける事は出来なかっただろう。

 

(何というレイヴンだ……)

 

 肩武装を使用する際にACに砲撃姿勢をとらせるということは、そのドミナントは強化人間ではないということを示していた。

 力が必要なこの時代。その最適な方法は強化手術であるとされている。だのに目の前のドミナントは、ただの人間でありながらこれだけの力を持っていた。

 もう1人のドミナント、ジナイーダでさえ強化人間だというのに。強化されていない体でありながらドミナントとしての素質を持つ。

 

(彼こそ、本物のドミナント、最強のレイヴンだな)

 

 そんな者が自分の、レイヴンとしての最後の相手になっているとはとジャックは思うと、ドミナントが中途半端なレイヴンである自分の相手をするのは役不足だなと思ってしまう。

 

(……?)

 

 ふとジャックは自分の口元が吊り上っていることに気が付く。

 それに身体が熱い。まるで血が沸騰しそうな程に。

 

「……そうだ。私はレイヴンだ。それ以上でも以下でもない」

 

 陰謀家として生き過ぎたか、とジャックは嘲笑を浮かべる。

 ジャックは思い返せばアークのトップランカーになっている時には既に陰謀家としての方が長く活動していた。

 ジャックはまだ自分が青かった頃、レイヴンとして生きていた頃に感じていたこの感覚を呼び起こせた事を嬉しく思っていた。同時にこの感覚を呼び起こさせてくれたドミナントに感覚の念を覚えた。

 ジャックは砲撃姿勢を解除しているACに向かってカラサワを撃った。

 だがドミナントは高くジャンプし今度はキサラギ製5発同時発射式マイクロミサイルをフォックスアイに向けて放つ。それに対しジャックは腕部内臓武装、インサイドであるデコイを撃ち出すとOBを起動させる。5発のマイクロミサイルはデコイへと吸い込まれフォックスアイに当たることはなかった。

 OBによる瞬間加速で今度はジャックがドミナントのACへカラサワを乱射しながら突撃する。無数の高威力のエネルギー弾がドミナントのACへ放たれ、ドミナントは堪らずOBを起動、フォックスアイの頭上を飛び越し回り込む体制をとる。

 

(甘いな!)

 

 ジャックはミサイルとエクステンションを起動させるとフォックスアイの左脚部をまるで杭の様に無理矢理地面に押し付けブレーキを掛けさせた。左膝部分から悲鳴が上がり脚部過負担のアラートが鳴り響く。その左足を軸にフォックスアイを急旋回させる。先程よりも凄まじいGだ。流石のジャックも今のは堪えた。

 そして機体に揺られながらも切り替わったFCSのサイトに宙を浮いているドミナントのACを収めミサイルを発射する。ドミナントはOBを使った事で相当のエネルギーを使っている。これ以上ブースターを使えばエネルギー切れを起こしジェネレーターはチャージングを起こし暫く動けなくなってしまう。

 ドミナントはこれ以上ブースターを使うことは出来ない。

 ジャックはそう読んで今の無理のある行動をとったのだ。更に着地地点にカラサワを放つ。

 

 今度こそ当たる!

 

 だがドミナントは着地すると同時に左腕のブレードを使った。

 ブレードを正面した事によって短距離ではあるがブースターやOB以上の瞬間移動が出来るのだ。

 ブレードダッシュによる瞬間移動でほんの僅か、紙一重でミサイルをかわすとブレードを使用し姿勢が低くなった事でカラサワのエネルギー弾を左肩アーマーが消し飛ぶだけで済ませ、そのままブレードを大きく振りかぶった。するとブレード「月光」の青白いエネルギー状の刀身がフォックスアイ目掛けて飛び掛かった。

 今の一連の行動に呆気をとられていたジャックはその光波を避けることが出来なかった。

 コア部分に光波が直撃し爆発を起こす。その爆発によって機体が揺れる。頭部COMがコアに損傷が発生した事を伝える。アラートがけたたましく鳴り響いているのを確認すると、モニターに機体温度が700℃を越え熱暴走を起こしていることを伝えていた。

 

(打つ手無しか……!)

 

 今の行動、間違いなく完璧な筈だった。しかしドミナントはこの攻撃を回避してみせたのだ。

 

(……だが!)

 

 ジャックの目から闘志は消えていなかった。

 うざったらしいアラートを全て切り、すかさずもう一度ミサイルを撃ちミサイルコンテナの残弾数が0になるとエクステンションごとパージし、ジャックは勝つために(・・・・・)損傷を負ったフォックスアイのOBを起動させる。

 軽量化されたことで性能が100%ではないものの先程よりOBの速度が上がっていた。

 ここからはカラサワ一丁による機動戦となる。ジャックは精神を研ぎ澄ませ集中力を高め、1発1発の狙いをより正確なものにさせる。先程まで当たらなかったカラサワの光弾が空中の高機動下であるにも関わらずドミナントのACに当たり始めた。

 そしてドミナントのACが機体を揺さぶりFCSの予測射撃機能を掻き乱している所に、ジャックはマニュアル制御に切り替えたカラサワの引き金を引く。その1発はドミナントのACの右腕部をライフルごともぎ取った。

 その際姿勢制御に異常が起きたのか動きが止まる。すかさずもう1発トリガーを引く。漸くドミナントに直撃を与えることが出来た。

 頭部を吹き飛ばされたドミナントのACが地面に落ちて行く。空中戦を制したジャックはFCSを起動させトドメの一撃を用意する。

 

……嫌にトリガーを引くまで長く感じる。

 

 おかしいとジャックは思い始め、その嫌な予感は的中することになった。

 ドミナントは着地する寸前にOBと左肩武装を起動させ、着地と同時に砲撃体制をとりグレネードランチャーをフォックスアイに向けて放った。

 甘い機動をとっていたフォックスアイは直撃を受け、動きを止めてしまう。ドミナントはグレネードランチャーと右肩のマイクロミサイルをパージし軽量化すると、準備作動をしていたOBが発動しフォックスアイ目掛けて凄まじい勢いで飛び掛かる。そして左腕部の月光から青白いエネルギー状の刀身を発生させた。

 ブレードは地上で使うとブレードダッシュによって脚部に余計なエネルギーが掛かりその威力が弱まってしまう。しかし空中で使うことでリミッターがなくなり本来の倍以上の威力を発揮することが出来る。

 

 本来であれば射撃戦に用いる大型グレネードランチャーの今の一撃は……

 

 強化人間でさえただでは済まない今の一連の行動は……

 

 全て、()()()()()()()()()()()()()()()()、だったのだ。

 

 ジャックは結論に辿り着くと諦めの笑いを浮かべるしかなかった。

 

(これが、ドミナントの力か……)

 

 最早ジャックにこの最強の一撃を避けることは出来ない。

 月光がフォックスアイを切り刻む。

 その凄まじい破壊力によって右腕部が引き千切れカラサワが大爆発を起こす。その威力と反動で機能する筈の対Gスーツが機能しない程コックピットが激しく揺れ、ジャックは対Gスーツに押し潰され口から大量の血を吐き出した。肋骨が折れ肺に刺さったのだろうか。そうなれば強化人間と言えど最早助かる術は無い。

 モニターは機体各所の破損とラジエーター破損の警告とジェネレーターの熱暴走の警告で真赤に染まっていた。

 宙から吹き飛ばされたフォックスアイは地面に叩きつけられ……ということは無く、最後の意地を見せ着地し膝を着いた。

 しかし機体各所からスパークが上がり、機体内温度がみるみる上昇し機体負担が限界を越していた。フォックスアイはこれ以上戦うことは出来なくなり、擱座する。

 コックピットの中でジャックは痛みを感じなくなり始め、徐々に意識が遠ざかっていくのがわかった。

 

「これで、全てが終わるのか……」

 

 声にならない声でジャックは呟く。

 自分が死ぬのがわかった。

 だが悔いは全く無く、むしろ清々しい気持ちだった。

 

 これで、レイヴンとして死ねる。

 

 だが、ここまで自分をレイヴンたらしめてくれた、己の限界を越させてくれた目の前のドミナントに何か言わなくてはとジャックは気が付くと、最後の力を振り絞り機体を持ち上げドミナントのACをしっかりと見つめる。

 何を言おうかと考えたが一つしか無い事に気が付き思わず苦笑してしまう。

 そして通信回路がイかれ、ノイズが混じってしまったが、自身の血で詰まった喉から擦り声になってしまったが、しっかりとドミナントに向かって言い放った。

 

 

「礼を言う……」

 

 

 ジャックはそう言い残すと意識を手放し、すかさず主に続くかの如くフォックスアイは倒れ遂に内装が暴走を起こし爆散してしまった。

 

「釈然としない結末だけど、それを語る相手はもう……」

 

 生き残ったドミナントのオペレーター、シーラ・コードウェルはドミナントにそう呟くがドミナントは何も言わず、ただその場に立ち尽くしていた。

 このバーテックスによる反乱の真相、ジャックの本当の狙いを知っているのはジナイーダのみとなったが、ジナイーダはその生涯を終えるその時まで決して公然する事は無く、結局真相は闇に葬られてしまった。

 こうして世界を混乱の渦に巻き込み、全てを欺きながらも世界と人類の未来を救い、最期はレイヴンとして、ジャック・Oは散った。

 

 

 

 

 その地震は突然だった。

 彼女がいるその小さな島は大陸プレートとはあまり関係の無い場所故地震は滅多に発生しない。仮に発生したとしても研究所一帯に張り巡らされているバリアーによって振動は吸収されるだろうから、揺れることはまずなかった。外部から攻撃されたとしても同じ結論に辿り着く。

 となると研究所内にその原因があると彼女は予測した。

 

「もー、いったい何だって言うのさ!」

 

 その女性、まるで不思議の国のアリスの様なエプロンドレスを着、金属製のウサギ耳の付いたカチューシャを着けているこの研究所の主、篠ノ之束は機嫌の悪そうな声でそう言った。

 

「せっかく面白いこと閃いたっていうのに、いまの振動でわすれちゃったよ、もう!」

 

 彼女はそう言うと施設全体の警備システムをチェックする。どうやら不要物廃棄倉庫にその原因があるらしい。

 

「ひょっとして捨てるのが面倒臭くて山になっていたのが崩れたのかな?」

 

 だがそれにしても今の振動は尋常ではなかった。

 

「……ひょっとして、これは何かの始まりなのかな?」

 

 ある意味結論に辿り着いているのがこの天災の恐ろしいところでもある。

 原因がわかると束は椅子から立ち上がり倉庫へと向かった。普段ならガードメカに任せるだろうが興味が湧いたからだ。

 

 

 

 

「何、これ……」

 

 天災であっても絶句する他ない。

 倉庫にある不要物は物の見事に散らばっていたが問題はそれではない。

 目の前に10m以上の鋼鉄の巨人が仰向けで倒れているのだ。

 

「な、なんだろ〜。なんだろ〜これ」

 

 何時もの様に振舞っているつもりだろうが、明らかに動揺し、興奮していた。

 ISを創り出した自分は天才と思い、それ以上の物を創り出す者が現れず退屈な毎日を送っていた彼女の元に、彼女ですら開発出来ないであろう鋼鉄の巨人が現れたのだ。新しく刺激的な物を見て束は思わず子供の様に興奮してしまった。

 束は取り敢えず巨人の周りを歩き、ちょうど胴にあたる部分に辿り着くとあることに気が付く。

 背中の部分から何か解放されている。

 束は取り敢えず脚部にだけISを起動させると、宙を浮いてその解放されているブロックの中を覗き込んだ。

 

「きゃあっ!?」

 

 束は驚き思わず落ちてしまいそうになるが、すぐさま姿勢を直しもう一度ブロックの中を覗く。

 驚かざるをえなかっただろう。何故なら巨人のコックピットにあたる部分に、血塗れの男が座り込んでいるのだから。

 

「どうしよう……?」

 

 普段ならその男を見捨てるところだが、未知の巨人を操っていたという事を考えるとこの巨人の事について詳しく知っているであろうと束は思う。そうであればこの男を見殺しにするのは勿体無いと結論付ける。

 

「面倒は嫌いだけど、助けようかな」

 

 天災と謳われる科学者、篠ノ之束と最狂と呼ばれた陰謀家、ジャック・Oはこの様にして出会った。それは新しい混乱の幕開けでもあった。




よくここまで読んでくれた
残念だが、
次話なんて初めから無い

だまして悪いが、
作者の落書きなんでな
諦めてもらおう


本当のことを言うと戦闘描写を練習したかっただけというのと、ゲイヴンではないカッコいいジャック・Oを書きたかっただけです。





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