歌の女神たちの天使 〜天使じゃなくてマネージャーだけど!?〜   作:YURYI*

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67.わかっていること、わからないこと

 

 

 

 

 

 

 

 

二年生が帰ってくるのは明日。

ようやく、生徒会の仕事も目処がついてきた。

 

「これなら、穂乃果たちも帰ってきてからゆっくりできるかな?」

 

ぐーっと伸びをして、絵里と希のほうを見る。

2人はまだ終わっていないのか、パソコン、書類とそれぞれ目を向けている。

たくさん助けてもらったし、何かお礼…

そう思って席を立った。

 

 

「みはね。なにやってんの?」

 

「あ、にこ」

 

2人に飲み物でも買おうと、自販機の前で飲み物とにらめっこしていたら、不機嫌そうなにことばったり。

 

「何かあった?」

 

何が何だかよくわからないけど、とっさにそう口にしていた。

質問を質問で返すんじゃないわよ。そう言いながらため息をつく。

絵里にと思って入れたお金で飲み物を1つ購入してにこに渡す。

 

「いちごみるく…?」

 

不思議そうに私を見てくるにこの頭をくしゃっとなでた。

 

「にこの色だなって」

 

そのまま絵里と希にもそれぞれ飲み物を買って、にこと少しだけ中庭で話すことにした。

 

 

 

「ごめんね」

 

「なんで、みはねが謝るのよ」

 

だって、私のせいでいろいろ迷惑かけて。

みんなのことも振り回して。

ましてや、今回に至っては全然部活にも出れてないし。絵里と希のことも1人で独占して。

なんて、さすがに言えないけど。

 

「いろいろと、ね」

 

「あっそ。でも、あんたが悪いことなんていつものことだし」

 

ふっと顔を緩めたにこは、私のことをじっと見つめると、なぜか頬を赤らめた。

 

「惚れた弱みってやつ…よ」

 

「照れるなら言わなければいいのに」

 

何も言わずに、私からぷいっと顔を背けて、いちごみるくを飲み始めた。

 

「こういう所は、かわいいんだよなぁ…って、いたっ!」

 

殴られた。

すごく、痛いんだけど。でも、こんなやりとりも久しぶりだなって感じるのは、最近私の中でμ'sといる時間が短かった証拠だ。

 

 

「昨日、真姫と意見が割れて。それで、リーダーである凛に意見を求めて。凛のこと困らせた…ごめん」

 

「そっか。でも、気にすることないよ」

 

「何をもってそんなこと言えるのよ」

 

少しだけ、怒ってる声。

顔を見なくてもわかる。きっと眉間にしわを寄せて、私のことを睨みつけている。

 

「だって、まだ花陽からなにも相談されてないもん」

 

それって、きっと、そういうことだ。

もし花陽が本当に困ったときは、何かしらのSOSサインを出してきてるはず。

でも、今日1日過ごしていて、そんなそぶりは一度も見せなかった。

 

「だから、大丈夫だよ?」

 

笑顔を向けたつもりだが、なんだか変な顔になってしまった気がした。

にこは、そんな私を見てばつが悪そうな顔をする。

 

「なんであんたが、1番困った顔してるのよ」

 

困った…顔。

なんで、私が困るんだろう?

 

「なんでだろうね?」

 

「まったく。ほんとに世話が焼ける…」

 

「にこに言われたくない」

 

にこの肩に頭を乗せると、ぽんぽんと軽く叩かれた。なでられたわけじゃないから、余計に子供扱いされてるみたいで。

なんだか納得いかない。

頭をぐりぐりとにこの肩に押しつける。

 

「ちょ、なにすんのよっ!地味に痛い!」

 

「怒ってるんですよーだ」

 

変に優しくしないでよ。

にこに甘えたくなってしまう。

 

 

「ちなみに言うけど、にこは今あんたの彼女じゃないから。ついでに花陽も。そういう事じゃないの?」

 

そう、なんだけど。

頭ではわかってはいるんだけど。

困った時には頼ってほしいし、なんでも話してほしい。

今までは、もしかしたら、恋人って関係があったから頼ってくれてただけで。

たくさん私に話してくれていただけで。

そういう関係がなくなったら、私はただのマネージャーになってしまう。

そう思うと、すごく、こわい。

 

今の私は、前の私とか確実に何かが違って。

良いほうに変わったのか、はたまた悪いほうに変わったのか、わからない。

だって、比べるすべがないのだ。

何が良くて何が悪いのか私にはわからないのだから。

でも、それを誰かに聞くのはもっとこわい。

 

「それでも、私はみんなのマネージャーだから………だから」

 

たかがマネージャー。

そう思われたら。私がここにいる必要が、なくなってしまう。

 

「前にも言ったけど、私たちのマネージャーはあんたにしかできないのよ。少なくとも、私はみはねじゃないと嫌」

 

「にこ…」

 

ただ必要とされたいだけなのか。

 

「ほんと、めんどくさいわね」

 

「だって…」

 

「甘え方もよくわからないのに、人に甘えてもらおうってのが間違えてんのよ」

 

 

だから、もっと甘えていいわよ。

びっくりするくらい真紅の瞳が優しく見つめてくるものだから。もう、なんだか温かい気持ちが胸の奥からあふれ出してくる。

 

ぎゅーっとにこに抱きつくと、今度は頭を抱えるように抱きしめられて。そのままゆっくりと頭をなでられた。

 

「うちのチビ達よりも子どもっぽい」

 

「そんなことないもん」

 

「あーはいはい。大きい赤ちゃんね」

 

 

うるさいな。希みたいに胸が大きかったら、もっとこう、あれなのに。

そう、いろいろと。

 

「母性本能もなにもないよね」

 

 

思い切り頭を叩かれた。

すぐに反応するあたり、にこも意識してるのだろう。

 

「いったー…もうにこ嫌い…」

 

「今の、にこ悪くないわよね!?」

 

耳元で大きな声を上げられたせいで、頭にキーンと響く。にこ、声、高いよ。

 

 

「みはね!こんな所にいたのね」

 

ふくれっ面でそっぽを向くと、絵里と希が廊下からこちらを覗いていた。

 

「絵里ー!にこが叩いたー!」

 

少しだけ子どもっぽい、くだけた口調で告げ口をする。

 

「えぇ、何してるのよ」

 

「ほんま、2人は仲ええなぁ」

 

絵里は不安そうな顔をしたが、くすりと笑ってまったく…と肩をすくめた。

対する希は終始笑顔で、私たち2人を母親のように穏やかな表情で眺めている。

結局は、甘やかされるのだ。

ほんと、3年生には甘えてばかりな気がする。みんなは、甘えるの下手くそだっていうけど。そんなことないよ。

 

 

 

 

2人は、たまたま通りかかったのではなく、探していたのだという。

絵里に穂乃果たちから連絡があったと、部室まで連れられた。

 

「え、穂乃果たち帰ってこれないの?」

 

それでセンターなんだけど…と絵里は続ける。

 

「ファッションショーだから、センターで歌う人はこの衣装でって指定がきたのよ」

 

その衣装を見た瞬間、みんなの目がキラキラとする。女の子の、憧れの衣装。

 

「女の子の憧れて感じやね」

 

「これを着て、歌う?凛が?」

 

「穂乃果がいないんだから、今のリーダーは凛、あなたでしょ?」

 

「ははっ、ハハハ…!」

 

やっぱり思ってた通りの反応。

壊れているかののように笑ったかと思えば、変なことを言って教室から出て行こうとした。

 

「か、鍵っ!なんでにゃ!」

 

ドアをガチャガチャ開けようとする凛の背後から、にこがそーっと近づいていく。

 

「なんでだと思う…?」

 

捕まえるように飛びついたにこを、すんでのところでかわすと、凛は部屋の中を逃げる。

結局、私の背中にちょこんと抱きついてきた凛を。体の向きをくるりと変えて抱きしめることで追いかけっこが終わった。

 

「無理だよ。どう考えても似合わないもん…」

 

消え入りそうな声。

いつもの凛からは想像もつかないほどに弱々しいそれ。今は、頭をなでてあげることしかできなくて。

 

「そんなことないわ!」

 

真姫の大きな声の反論に、凛は体をびくりとさせた。

顔を上げた凛は、私から離れて真姫と向き合う。

 

「そんなことある!」

 

むすっとした真姫。

 

「だって凛…こんなに髪も短いんだよ…?」

 

不意に凛の手をとると、向こう側で希が微笑んだ。

 

「ショートカットの花嫁さんなんて、いくらでもいるよ?」

 

どこまでも優しい希の声に、凛は少しだけ瞳を揺らした。

 

「そうじゃなくて…こんな女の子っぽい服、凛には似合わないって話」

 

どうしたものか、とみんながため息をついた。

 

「じゃあ、別に無理して着ることないんじゃない?」

 

言い方がきつかったか、と思った時には遅かった。

凛は、一瞬困ったように眉を曲げて。

 

「いや、ほら、凛が着るとなると手直しも必要になってくるし。私は、誰が着ても似合うだろうなって思うし」

 

言い訳まがいな言葉。

実際ほんとのことなのだが、絵里の刺すような視線に一瞬たじろいでしまう。

いや、でも、これ以上凛に押し付けても。逃げられてしまうだけだと。

目で訴えるが、絵里はそういうことを言いたいわけじゃないらしい。

 

 

「そうなると、花陽ちゃんかな?」

 

希はあくまで優しい笑顔のまま続ける。

フォロー、してくれたんだよね。

 

「かよちんかわいいし、センターにぴったりにゃ」

 

安心した凛の笑顔。さっきの表情。

きっと、どっちの気持ちも正解なんだろう。

 

ーーーでも、いいの?

 

花陽のその言葉に一瞬クエスチョンマークを浮かべた凛は、すぐに大きく頷いた。

 

「いいに決まってるにゃ!」

 

「本当に?」

 

「もちろん!」

 

凛の笑顔は晴れやかで。本当に心の底からそう思ってるみたいで。

でも、なんていうか。今のままでは、凛は後悔することになる気がする。

私にできること。なんだろう。

わからないけど。

花陽の助けを求めるような視線。これは、花陽からのSOSだって思ってもいいのかな。

 

 

 

私にできることは、なんでもする。

 

 

ほんとに。

 

 

 

 

嘘偽りなくほんとだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

だから絵里、いい加減睨むのやめて…

 

 

 

 

 

 

 

 

 





かわいい凛ちゃんが見たいだけ。
それだけです。

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