歌の女神たちの天使 〜天使じゃなくてマネージャーだけど!?〜   作:YURYI*

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65.にこのかぞく

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「っていう夢を見たんだよ!!!」

 

穂乃果の声が部室に響く。

今日は、ラブライブ予選の結果発表があるということで、部室に集まっているわけだけど…

 

 

「あ、ごめん。全然聞いてなかった…なんの話だっけ?」

 

なんか、穂乃果が長いこと何かを説明していたが、途中で飽きてしまって聞いていなかった。あくびをしながらみんなのほうを見ると、呆れた顔で返される。

 

「μ'sがMutant Girlsで予選突破できなかった話っ!」

 

「ちょっと!縁起でもないこと言うんじゃないわよ!」

 

穂乃果の言葉が終わるなり、にこがパコッと頭を叩いた。

痛いよー、なんて言いながら、穂乃果は私にくっついてくる。

 

「で?結果はどうだったの?花陽」

 

「なんでみはねちゃんは、そんなに冷静なんだにゃ?」

 

凛は首をかしげて私を見つめてくる。

じーっと見つめ返すと、凛はさらに首をかしげる。

 

「信じてるからだよ」

 

にこっと返すと、凛はほっぺたを赤く染めた。

 

「ず、ずるいにゃー…」

 

その反応を見て、ひとりで満足する。

 

 

 

 

「4位…」

 

いつの間にか、3位まで言い終わっていて、次が最後のひと枠となっていた。

 

「…………みゅ、μ's!」

 

全員から、安堵の息が漏れる。

 

「や、やったー!!!」

 

 

穂乃果の声を横で聞きながら、黙って喜びを噛みしめる。

 

1番喜んでいたのは、たぶん私。

声には出さないけど少し、ほんの少しだけ、泣きそうだった。

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 

あんなことがあった後でも、私を普通にマネージャーとしてくれているみんな。

今の私にできることは、余計なことは考えずに、全力でμ'sを支えることだけだ。

 

 

 

 

「よし!それじゃあ、練習始めよう!!!」

 

予選突破もあって、みんなにやる気がみなぎっている。絵里や海未から今後の練習について軽く触れた後、いざ練習を始めようと言う時に問題は起きた。

 

「待って、誰か足りないような…」

 

ことりがぽつりと呟く。

しかし、他のメンバーはぽかんとしている。

明らかに、一人足りない。

 

「にこ」

 

私の一言で全員がハッとする。

声にならない驚き。

 

 

屋上から下を見下ろすと、昇降口からにこが出てくる様子が見えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「どこ行くの、にこ」

 

後ろから声をかけられて驚いたのか、にこはびくりと肩を揺らした後、ゆっくりと振り返った。

 

「今日はちょっと、用事があるの」

 

少し離れたところで、眉間にしわを寄せながらそう言う。

みんなはもちろん不審がっていて。

 

「本当に?」

 

たまらず聞き返す。

 

「…っ!ほんとよ。じゃあ」

 

一瞬、驚いた顔をして、そのまま早歩きで門を出ていってしまった。

こんなタイミングで隠し事なんて、不安でしかない。

 

 

 

みんなのほうを見ると、意見は一致しているみたいで。

あとをつけるなんて、ほんとは良くないんだけど。今回ばかりは仕方ないよね。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

にこが最初に向かったのは、とあるスーパーだった。

まぁ、学校帰りに買い物するのは誰にでもあることだが。にこが周りを気にしながら入っていったことがとても気になる。

さすがに店内まで尾行するのは、お店側にも迷惑なので、入り口のところで待つことにした。

 

「…何やってるんだろう」

 

穂乃果の質問は、なにを期待しているのか。

 

「いや、普通に買い物じゃないの?」

 

どう考えても、これしかないだろうに。

 

「まさか……バイト…?」

 

「だから、買い物」

 

「大切な人が来てるとか!?」

 

「みはねちゃんがいるのに!?にこちゃん、すぐ乗り換えちゃったの…?」

 

「はぁ…もう、なんでもいいよ」

 

私の話、聞いてくれない。

勝手に盛り上がっている面々をよそに、絵里と希は私の腕を引っ張る。

 

「にこっちのことやから、裏から出てくるんやない?」

 

「だから、裏口にまわりましょう」

 

私の返事を聞く前に、二人は私をぐいぐいと引っ張って歩く。

 

「…あ、にこだわ!」

 

絵里が指差すほうににこの姿。

にこは私と目が合うと、一瞬悲しげな顔をした。

 

今のは、なに?

 

手を伸ばせば届く距離にいたのに、一瞬ためらってしまった。

そうこうしているうちに、希と絵里からうまく逃げて、にこは走り出す。

私もそれにつられて走り出すが、後ろから来た他のメンバーに抜かされてしまった。

 

 

みんなのことも見失ってしまい、たどり着いたのはにこの家の近く。

近くにあった階段の隅っこに腰をかけて、ぼんやりと考え事をする。内容は、まぁ、察しがつくだろう。

μ'sが予選が突破できて、すごく喜んでいたはずのにこ。

でも、今大切にしているμ'sの練習を休んでまでやらなきゃいけないことがあって。

そして、そのことを誰にも相談しない。

 

「うーん…」

 

なにか、理由はあるんだろうけど。

それってやっぱり、本人から聞くしかないよね。

 

「みはね…さん?」

 

家に行こうか、なんて思って立ち上がったら、急に声をかけられた。

 

「…はい」

 

少し間があいてしまったのは、目の前にいたのがにこにそっくりな女の子だったから。

 

 

「あ、もしかして…」

 

「はい!はじめまして。矢澤にこの妹の、矢澤こころです」

 

丁寧なお辞儀をした後、にっこりと笑う姿はとても愛くるしい。

思わず抱きしめたくなってしまった。

にこから話は聞いていたけど、本当に妹なのだろうか。

 

「はじめまして。桜みはねです」

 

「お姉さまから、お話はたくさん聞いていますっ。お姉さまの、こんやくしゃ?なんですよね!?」

 

ん。あれ。それは違うなぁ。

いや、聞き間違いかもしれない。

 

「にこが婚約者って言ってたの?」

 

「はい!」

 

うん。おかしいね。

それに、今は恋人ってわけでもないので、とりあえず訂正しておこう…

 

「ごめんね。私、婚約者じゃなくてマネージャーなんだ」

 

「お姉さまのマネージャーになれるのは、こんやくしゃで特別なみはねさんだけだって言ってましたよ?」

 

そんなに純粋な目で見られると、反論しづらいというか。そもそも、こころちゃんに反論したところでなにも解決しないし。

 

「…私のこと、さん付けしなくていいよ」

 

 

結果、無理に話をそらすことにした。

 

「…っ!?みはねぇさま…でも……」

 

目をキラキラさせて、上目遣いで。いつのまにか、袖まで掴まれていて。

予想以上の食いつきに、びっくり嬉しい。

 

「いいよ」

 

どんな呼び方とか関係なしに、ふにゃりと顔の力が抜ける。

 

 

「あーっ!みはねちゃん!」

 

「凛!と、花陽と真姫。みんなも」

 

みんな考えることは同じだったようだ。

続々と集まってくるメンバーに、思わず笑みがこぼれる。

 

 

「あっ、お姉さまのバックダンサーのみなさんですよね?」

 

掴まれたままだった袖を、くいっと遠慮がちに引っ張られる。

その言葉に、驚きを隠せないままこころちゃんの顔を見ると、すごく純粋な瞳。

 

「みはねぇさま?」

 

「う、うん。これ、どうしようか」

 

引きつっているであろう顔でみんなを見ると、表情は様々で。

なんだかよくわからないまま、こころちゃんに案内されて矢澤家に行くことになった。

 

 

「みはねぇさま!こっち、こっちに座ってください!あ、こたろう」

 

弟君、かな?モグラ叩きをしていたようだが、私に気づくとそばまで来た。

しゃがんでこたろうくんの頭に手を置く。

 

「はじめまして。お姉ちゃんの友達の、桜みはねです。お邪魔してもいいかな?」

 

こたろうくんは一瞬じーっと私のことを見つめた後、こくりと大きく頷いた。

 

「ありがとう」

 

今度は小さく頷いた。

そして、私の袖を掴むと、ようやく部屋に上がってきた他のメンバーを指差した。

 

「バックダンサ〜」

 

一瞬にして固まるみんな。

こたろうくんはそれだけ言うと、またモグラ叩きをしに座っていた場所に戻った。

よく見てみると、モグラにμ'sのメンバーの似顔絵が貼られている。

ことりはそれに気づいたようで、若干ひきつった笑顔をした。

 

「落ち着いてね、ことり」

 

「う、うん。大丈夫だよ」

 

ことりは、怒っているというよりかは困っているようだ。

絵里と海未は完全に怒った顔してるけど。

しばらくすると、絵里は携帯を取り出した。

少しの間の沈黙。

たぶん、にこに電話をかけているのだろうが相手が出る気配はない。

切れてしまったのか、絵里の顔がより不機嫌になった。

 

「あなたのバックダンサーの絢瀬絵里です」

 

いや、声低すぎだし。

なんだか怖くなって、他のメンバーがいるところに逃げることにした。

しかし…

 

「これ、μ'sのポスターだよね…?」

 

穂乃果は目をパチクリさせている。

視線の先には、確かにμ'sのポスターが何枚か飾られていた。

しかし、明らかに違和感がある。

そう、センターである穂乃果の顔とにこの顔が入れ替わっているのだ。

穂乃果からしたら、なんとも言えない気持ちだろう。

しかし、穂乃果よりも海未の顔がこわい。

 

「海未」

 

「なんですか」

 

その顔のままこっちを向く。

 

「顔、こわいよ?」

 

指摘されると、少しだけ眉を曲げた。しかし、怒った顔は変わらず。

 

「すみません、今はちょっと」

 

そう言って、私から顔を逸らそうとする。

 

「だめ。こっち向いて」

 

ほっぺたを掴んで無理やりこっちに向ける。

 

「海未は、怒ってる顔よりも、笑顔のほうがかわいいよ」

 

なんて、ベタなセリフで機嫌が直るのか。

 

「しかし…みはねっ」

 

駄々をこねる子どものように、私の制服を掴んで揺すってくる。

 

「気持ちはわかるけど、にこのことも考えてあげよう?まだなにも、わかってないし」

 

まだ何か言おうとする海未の手をとって、リビングへと戻った。

 

 

 

 

 

 

 

 

あの後、家に帰ってきたにこを捕まえて事情を聞くことになった。

しかし、にこが詳しく事情を説明することはなかった。

隣の部屋にはこころちゃん、こたろうくん、そして、にこが帰ってきたときにちょうど帰宅してきたここあちゃん。

三人は、モグラ叩きで遊んでいるようだ。

 

帰り際、下までお見送りに来てくれた3人は、にこのグッズを自慢げに見せてくれた。

 

 

 

 

帰り道、みんなの顔は難しい顔をしている。

今の、私にできること。

 

「ねぇ、にこって、お姉ちゃんじゃん?」

 

誰も、何も答えてはくれなかった。

 

「それでいて、忙しいお母さんの代わりに家事もやってるし」

 

それは、みんなもわかっていること。

それがどれだけ大変なのかは、実際やっている本人にしかわからないこと。

 

「一年の頃からスクールアイドルやっててさ。まぁ、結果その時はうまくいかなかったみたいだけど」

 

希の顔が、少し泣きそうになった。

絵里の顔は、何かを後悔しているような。

 

「またこうして、今度はみんなとスクールアイドル…μ'sをやってる」

 

今のにこの笑顔は、いつみても輝いていて。本当に、アイドルが好きなんだなって思う。

 

「でも、こころちゃんたちにとっては、ずっとアイドルだったんだよ。μ'sを始める前から。だから…」

 

ファンのためにも、どんな手を使ってでも、自分のアイドル像を崩してはいけなかった。

 

 

「わかってるよ」

 

穂乃果は、優しい笑みを浮かべて私にピースを向けていた。

 

「にこちゃんは、家ではずーっとアイドルだから。教えてくれなかったこと、ちょっと寂しかったけど。でも、言えない状況作ってたのかもなぁって、穂乃果思うんだ!」

 

穂乃果の隣には、ことりと海未が寄り添うように立っていた。

少し視線を右にずらせば、一年生3人の姿。

この3人は、本当ににこに懐いていると思う。凛と花陽は頷く。

真姫は、照れ隠しからか肩をすくめた。

今度は反対に目を向ける。

 

希。

 

「にこっちは、がんばり屋さんやし。ずっと前から、にこっちのこと見守ってたけど…でも、見守るだけじゃなんも解決しないやん」

 

希の瞳がキラリと光る。

 

「希が支えてくれてたから、今こうしてみんなでμ'sになれたんだよ」

 

私の言葉にこくりと頷いて、絵里は希のほうを向く。

 

「そうよ、希。希は私と違って、自分よりも他の人のことを気にしてしまうから…」

 

絵里の後悔は、今でもまだ消えてはいない。

きっと、責任感の強い彼女だからこそだと思う。でも、アイドル研究部をそのままにしていたのは、絵里が優しかったからだ。

 

「それはちゃう!えりちのほうが、優しいよ」

 

希はそれをわかってる。

 

「どっちも優しい。それでいいんじゃない?」

 

私が声をかけると、ふたりは困ったように笑った。

そしてこう言う。

なんだかんだ言って、一番優しいのはみはねだと。

そんなこと、ないんだけど。

むしろ私は、自分のことしか考えてなくて。誰にも嫌われないようにズルをして。

 

「今なら、私たちなら、にこのことを助けてあげられるかしら?」

 

絵里は、もう答えを持っているらしかった。

 

 

 

 

 

「穂乃果、ちょっといいこと思いついたかも」

 

 

にんまりと笑った穂乃果は、もう、μ'sのリーダーの顔だった。

 

 

 

 

***

 

 

 

 

次の日、穂乃果は学校にこころちゃん、ここあちゃん、こたろうくんを連れてきた。

その他のメンバーは、屋上で準備をしていたり、被服室にいたり。

 

つまり、にこのライブをするのだ。

スーパーアイドル矢澤にことしての、最後のライブ。

 

 

妹たちは悲しげな顔をしたが、にこは言ってのけたのだ、これからはμ'sと一緒に宇宙No.1アイドルを目指すと。

もちろん、バックダンサーという誤解もといてね。

 

 

 

 

 

私は、にことこころちゃんたちを家まで送ることにした。

 

「今日は、ありがと」

 

「私はなんもしてないよ。お礼は、明日みんなにね」

 

「…っ、それでも、あんたにも感謝してんの」

 

「はいはい」

 

私の右手にはにこ。左手にはこたろうくん。

こころちゃんとここあちゃんは、少し先を歩いている。

 

「昨日、家で反省してた。みんなのこと、頼らなかったこととか。今回、すごく迷惑かけたし」

 

「ふーん」

 

「あんた、興味ないわよね!?」

 

「ないよ。だって、これからは頼ってくれるんでしょ?」

 

「う、うるさいっ!」

 

顔を真っ赤にしているあたり、照れているだけだろう。

 

「そんな態度取るんだ。私のこと、婚約者…とか家で言ってたのは、どこの誰だったかな…?」

 

ジト目でにこのことを見ると、気まずそうに目をそらされる。

なんか、ごにょごにょと言っているが、何を言ってるのかさっぱりだ。

 

「なぁに?」

 

「そのくらい、みはねのこと本気で好きだって言ってるのよ」

 

うわ、ずるい。

 

「結婚したいくらい?」

 

「ーーーっ!そう!」

 

耳まで真っ赤にしてそう言い放つもんだから、眠そうにしていたこたろうくんが驚いてにこのことを見る。

 

「今こっち向いたら怒るからね」

 

絶対、私の顔も赤くなってる。

こたろうくんにすらバレるのが嫌で、こたろうくんを抱きかかえる。

やはり眠かったようで、すぐに眠りについてしまった。

 

今、家族っぽいかも、とか思ってる私を誰かぶん殴ってほしい。

 

 

 

 

 

 

 

「みはね、顔真っ赤じゃない」

 

 

もう、こっち見るなって言ったのに。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 





お読みいただきありがとうございます。


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