歌の女神たちの天使 〜天使じゃなくてマネージャーだけど!?〜   作:YURYI*

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64.伝えること

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

正直、このことはずっと前から考えていた。

私が、みはねが、みうが。μ'sのみんなに対してどうあるべきか。どうすることが、一番いいのか。

今でも、答えは見つかっていないのかもしれない。今からみんなを言うことが、正しいとも思っていない。

でも、私は言わなければならない。

 

 

「みはね?どうしたん?」

 

今までずっと黙っていた希が、心配そうに私の頭をなでた。みうだった時は、みはねちゃんと呼んでいたのに…と、今さら気づく。

ちょっとしたことに喜びを感じて、この心地よい空間を壊したくないのも確かで。

でも、ここまできて言えませんなんて、かっこ悪いにもほどがある。

 

 

「ちょっと…ね。みんなに言わなきゃいけないことがあって……」

 

なるべく早くと気持ちが焦っていたのか、周りがちゃんと見えていなかった。

私の言葉を聞くなり、全員の顔から笑顔がなくなる。

今このタイミングで切り出すべきではなかったかもしれない。

 

「あのね…」

 

それでも私は話し続ける。

ライブ前に、みうがみんなの前で話した時のような緊張感。あの時は、みんなにありがとうを伝えようと思って。それと同時に、別れのことも、考えていて。

そんな、緊張感と同じにしていいのかはわからない。

でも………

 

しんと静まり返った空間で、みんなが真剣な瞳で私を見つめる。

 

「私ね、みんなとの関係を…一回リセットしたい」

 

みんなは、ただ何も言わずに、やっぱり私を見つめていた。

誰一人、目をそらす者はいない。

 

「この、恋人っていう今の関係をなくしたいの。こんなこと、言える立場じゃないんだけど…」

 

もう一度、はっきりと言い放つ。

私の言葉に最初に反応したのはことり。

 

「みいちゃん…やだよ。ことりは、どんな形でも、みいちゃんの彼女でいたいよ…っ」

 

ことりの声は震えていて。瞳は潤んでいた。

私が、こんな顔をさせている。

罪悪感が、少しずつ心に積み重なっていく。

泣いてしまったことりを抱きしめて、海未は私を見た。

 

「なんで、こんなことを…」

 

悲しげに揺れる瞳を、直視することは今の私には無理で。思わず視線をそらしてしまう。

 

「ごめんなさい」

 

するとにこが、腕を組んでため息をついた。

 

「こんな話をしてるってことは、あんたは絵里の言う"みう"じゃなくて、"みはね"なのよね」

 

しっかりと頷くと、にこは少し複雑そうな顔をした。

 

「前のみはねの時の記憶も、みうの時の記憶も、みんなと出会う前の記憶も…全部持ってる」

 

「…あっそ。それでもやっぱり、あんたの言ってること…にこには理解できない」

 

眉をひそめて静かにそう言う。

まだ何か言いたそうな顔をしていたが、後ろにいた凛が前に出てきたことによって、何も言うことはなかった。

 

「みはねちゃん、凛たちのこと嫌いになっちゃったの!?」

 

凛は今にも泣きそうな顔で私に抱きついてくる。

 

「ちがうよ!それは、絶対にない!」

 

すぐに否定できた。しかし、みんながその言葉を信じてくれたかは別で。

 

「でも、そういう好きは無くなっちゃったんだよね?」

 

凛の手を握って花陽は悲しそうに笑った。

凛が私から離れる。思わず、手を伸ばしてしまいそうになる。

ちがう。違うんだよ。そういうことじゃなくて…違くて。

懸命に言葉を探す。

 

「何も言わないのは、肯定って捉えられても仕方ないわよ」

 

真姫は呆れたようにそう言った。

 

「…ごめん」

 

「それは、何に対しての謝罪なん?」

 

思わず口から出た謝罪に、希は怪訝そうな顔をした。

どんどん悪い方向に転がっている。

 

 

「もう、違うの。言葉が…」

 

いつも優しく微笑んでくれる希。でも今は、冷たい目で私を見ている。この短時間で…そう考えると、すごく怖くなって。

心臓は、壊れてしまうんじゃないかってくらいにバクバクとなっている。

 

「みはねちゃん、何も言わないのはずるいよ。穂乃果、今、なんでこんなことになってるのかもよくわかんない」

 

穂乃果にも冷たくそう言い放たれると、一瞬目の前が真っ暗になった。

しかし、体が暖かく包み込まれたことによって、私に光が戻る。

 

「絵里…」

 

絵里に抱きしめられている。

それだけで、安心する。

 

「みんな、悲しいのはわかるけど、みはねを責めるのはダメよ。ちゃんと、理由も含めてみはねの話を聞きましょう?」

 

大丈夫よ。そう言って私の頭をなでて優しく微笑まれる。まるで、信じてると言われてるみたいだ。

深呼吸をして、もう一度みんなの方を向く。

 

「悲しい思いさせてごめんなさい。でも、私、今のままは良くないと思うの」

 

なんで?誰も言葉に出さなかったが、全員がそう思っているだろう。

 

「記憶がない時に、みんなにたくさん助けられて、好きって言われて。私もみんなのことが大好きで。その気持ちは、今でも少しも変わってないよ」

 

むしろ、もっともっと好きになってるくらいだもん。

絵里の手をそっと握る。少しだけ、私に力を貸してほしい。わがままでごめんね。

 

「でも、みんなと付き合ってから、この状況はすごく中途半端な気がしてて。誰の気持ちにも、真剣に向き合ってないように思えて。それでも、ちゃんとこのこと言えなかったのは、みんなの優しさに甘えてたんだと思う」

 

誰の気持ちにもちゃんと答えられていない。

みんなは真剣に私への気持ちを伝えてくれたのに、私はみんなの愛がほしくて、ズルをした。

 

「本当にごめんなさい。今、記憶も全部戻ってよくわかった。愛を知らない私に、みんなに愛をあげることはできないって。みんなにもらってばかりで、私にはしっかりと返すことはできないって」

 

そう。あの頃は、何者かわからない恐怖から、守ってほしかったのだ。私の居場所をなくしたくなかった。

でも今は違う。

私の居場所がなくなったとしても、もう、みんなのことを無意識に傷つけるのは、絶対にしたくない。

 

だから…

 

 

「しっかり考える時間がほしい。みんなの気持ちを真剣に考えて、ちゃんとした答えを見つけたい。でも、μ'sのマネージャーを辞める気もないし、みんなのそばにいたいよ。もし、みんながそれを拒むなら、私はみんなの前から消える。そのくらいの覚悟で言っているの…信じてほしい」

 

順番に、みんなと目を合わせていく。

最後に絵里。みんなが悲しい顔をしている中、絵里は余裕そうな笑みを浮かべている。

 

「いいわよ。みはね、別れましょう。その代わり、別れたことを後悔させるくらい、本気で落としに行くわよ?」

 

絵里の言葉がすっと私の中に入ってきて、なぜだか涙が出そうになった。

もちろん堪えたが、表情に出てしまったかもしれない。

絵里は、ゆっくりと私を抱きしめると、おでこにキスをした。

 

やだ。

今優しくされたら、我慢できなくなっちゃう。

 

「泣いてもいいのよ」

 

それだけで、全てが許されてしまうような気がして。そんなこと、あるはずないのに。

こういう時の絵里は本当にずるい。

 

 

「やだ…っ!」

 

だって、みんなを傷つけてるのは私なのに。

最初のひと粒がこぼれ落ちてから、もうボロボロと止まらなくなって。涙で視界が悪くなって、みんながどんな顔をしているのかもわからなくなってしまった。

 

「ごめんなさい。私…っみんなの、こと……大好きなのに…っ」

 

こんなに辛いのは、みんなのことが大好きだから。みんなのことを大切にしたい気持ちと、それ故に別れなければいけないという矛盾が、こんなにも胸を締めつける。

 

「もう…みはねはバカなんやから」

 

希がおでことおでこをこつんと合わせてきた。

 

「え…?」

 

突然のことに理解ができない。

すりすり、何回か押し付けてきた後に、少しいたずらっ子のような笑顔をして。

 

「みはねが、何でもかんでも我慢するから。少しだけお仕置きしようと思ってなぁ?」

 

それから、えりちに全部持ってかれちゃったけどなぁ、と。

 

「………なに、それ」

 

頭をひとなでされて、顔を上げる。

みんなのことを見回すと、誰一人、さっきみたいな顔をしている人はいなかった。

 

「なん、で…?」

 

「それは、みはねちゃんが何でも溜め込むからだよー。穂乃果たちは、みはねちゃんのどんな気持ちも知りたいの!」

 

穂乃果は太陽みたいな笑顔で、私に手を差し伸べてくる。

その手を取ると、ぐいっと前に引っ張られた。

 

「みはねがみはねじゃなくなった時も、私たちにはなにも言ってくれなかったですし…」

 

海未はいつものように穏やかな笑顔で。

 

「だ、だからって…でも……!」

 

「みいちゃんと恋人じゃなくなるのは、やっぱりつらいよ。でも、それがみいちゃんの本当の気持ちなら、私たちは受け入れたいの」

 

ことりの瞳はまだ濡れていたけど、表情は笑顔だった。

あぁ、なんて優しすぎるんだろう。

つまりは、さっきのは、私の本当の気持ちを聞き出すための演技で。私はまんまとそれに引っかかって…

最終的には、それを受け入れると。

 

「μ'sのマネージャーは、もう、みはねにしかできないんよ?」

 

さっきとは違う、胸の苦しさ。

うまく息ができなくて、はぁっとゆっくり吐くことだけで精一杯だった。

 

「私にしかできない…」

 

私の、居場所ーーー

 

 

 

 

「え、ちょっと待って。なんで私には教えてくれなかったのよ!すごく恥ずかしいじゃない!」

 

ぼけっとした顔で、私たちの話を聞いていた絵里が、突然そう叫んで私を後ろから抱きついてきた。

抱きついてくる意味が、正直よくわからないんだけど…

 

「絵里?」

 

なんのことがよく理解ができず、前を向くと、呆れた顔をした希と目があった。

 

「はぁ…えりち…」

 

ため息をつく希に、絵里はショックを受けた顔をする。

 

「そんな目で見ないで…え、なんで私だけ仲間外れにされてたの…?」

 

「えりち、たまにポンコツやから?」

 

めずらしく、希がめんどくさそうな顔してる。

 

「絵里はこういうの苦手そうよね。今回は希が正しいわ」

 

希、真姫とそれぞれに攻撃をされて、私の肩に顔を埋めている。もう、返す言葉もないようだ。

さっきまでのかっこいい絵里はどこに行っちゃったのかな。なんて、そんなかわいいところもいいけど。

 

みんなして、絵里のポンコツについて話し始める。

しばらくその様子を、笑いながら見ていると、絵里の腕に力が入る。

 

「どうしたの?」

 

「………」

 

「絵里?」

 

声をかけても、唸る声しか返ってこない。

 

「おーい?…エリーチカ?」

 

絵里の腕の中で体を反転させて、絵里と向かい合う。

 

「私…もう子どもじゃないわよ」

 

子どもの頃の愛称で呼ばれたことが不満なのか、ほっぺたを膨らませて怒っている。

こういうところが、子どもっぽいってことなんじゃないの?

なんて、言わないけど。かわいいし。

 

「呼ばれるの、そんな嫌じゃないでしょ?」

 

大好きなおばあ様に呼ばれてたんだから。

そう思っていたが、本人からしたら違うみたい。

 

「嫌よ。みはねには、絵里って呼ばれたいわ」

 

「なんで?」

 

「好きな人には、ちゃんと名前で呼んでほしいのよ!」

 

直球すぎる言葉。

絵里の綺麗なアイスブルーは悲しげに揺れていて。

 

「…どうしたの、ほんと」

 

なんでそんな顔するの。

さっきまで、余裕そうな笑顔浮かべてたくせに。

 

「どこにも行かないで…」

 

強められた腕とは裏腹に、ひどく弱々しい声だった。

 

「どこにも行かないよ?」

 

楽しそうに笑うみんなから離れた場所。

まるで、二人だけ世界から切り取られたかのようだ。

またしても、絵里は黙り込む。

今度は、私が一人ぼっちのよう。ただ、触れているところから伝わる熱だけが、私を安心させる。

 

「絵里」

 

「さっき言ったことは本心よ。あなたと別れても、また付き合えるようにがんばればいいだけだもの」

 

絵里は、私の肩に顔を埋める。

 

 

「ただ、それでも、恋人という繋がりが無くなることが…怖いの」

 

その声は、震えていて。

泣いてしまっているんじゃないかと。

 

「どこかに行っちゃいそうで、今みたいに抱きしめていないと、この熱を感じていないとって……っ」

 

絵里が顔を上げる。

それと同時に、触れ合わせた唇。でも、それは触れたのかどうかさえもあやしいほどで。

ただ、理性だけがギリギリのところで働いたことだけはわかった。

 

やっぱり、私はずるい。

別れると言っておきながら、こんなことをして。こういうことを、なくすためにって思っているのに。

 

「今…」

 

「ずっと一緒にいるから。悲しい顔しないで」

 

絵里の言葉をわざと遮った。

不安げな瞳で見つめられると、ぎゅっと胸が苦しくなる。

 

「本当に、いなくならない?」

 

そんなかわいい顔で見つめられても困るんだけど。

 

「もう…いなくならないよ。だってさ、9人もいるんだよ?逃げられっこないって」

 

誤魔化すように笑うと、絵里もつられて笑顔になって。

 

「ふふ、そうね」

 

最後にするから、と、絵里はゆっくり顔を近づけてくる。

何がしたいのかわかったが、わざとわからないふりをした。

 

「…んっ」

 

ちゅ、と音がなってから顔が離れる。

音でみんなにバレたのでは?と思ったが、みんなはまだ話しに夢中でこちらなど気にしていなかった。

 

「ごめんなさい…好きよ」

 

私はそれに応えることができない。

もう、ここから先は友だち…仲間に戻る。

 

「………」

 

「さ、みんなのところに行きましょう」

 

私を見る絵里の表情は笑顔で。

その笑顔があまりにもきれいで、一瞬息が止まった。

 

 

 

 

私は、絵里のことは好きなんかじゃない。絶対に。

絵里のこと、嫌い。嫌いなんだ。

 

μ'sみんなのことも、好きにならない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 





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