歌の女神たちの天使 〜天使じゃなくてマネージャーだけど!?〜   作:YURYI*

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62.ユメノトビラ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ユメノトビラずっと探し続けた

君と僕との

つながりを探してたーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「みう?A-RISEのライブが始まるわよ」

 

絵里に声をかけられて、意識が現実へと一気に引き戻された。

 

「ん、見る」

 

 

約束。守らなきゃ。

 

ライトがチカチカと光り、曲が流れ出す。

後ろを向いていた三人が踊りながら前を向く。後ろからライトが当たっていて表情がよく見えないが、それがまたさらにかっこよく見える。

 

 

「すごい…」

 

誰かがぽつりと呟いた。

その言葉に素直に頷いてしまった。

 

 

 

ーーー誰かのためじゃない

 

ツバサと目があって心臓が跳ねた。

その瞬間、さっきの言葉が思い出される。

 

“これからのライブ、あなたのためだけに歌うってことはできない”

 

あの真剣な瞳。ツバサは、スクールアイドルとしての意志をしっかりと持っている。

スクールアイドルの頂点に君臨している彼女は、誰か一人のために歌うことはない。それはわかっている。でも…

 

 

ーーー自分次第だから

 

“でも、あなたを魅了できるくらい本気で歌うわ”

 

あんなこと言われたら、自惚れてしまう。

今、ほんの少しでも私のこと考えてくれてたらなんて思ったり。みはねじゃなくて、私のことを。

…自分の都合のいいように考えるのはダメだ。

 

 

ーーー主役は自分でしょ?わかるでしょ?

 

下を向こうとした時、またツバサと目があった。しっかりと私のことを見つめて、ウインクをひとつ。

もう、本当に、かっこいい。

 

そこからは、一度もツバサから目が離せなかった。

曲が終わり、A-RISEの三人がステージから降りてくる。そのまま、まっすぐと私のところへ来た。

 

「みはねちゃん♪…もう、ツバサと英玲奈は本番前に会ったのに。私とは会ってくれなかったのは何でなの?」

 

あんじゅは笑顔でこっちまで来たかと思ったら、すぐに拗ねた顔をした。

 

「その、もともと会うつもりじゃなかったっていうか…。ご、ごめんなさい」

 

最初の言葉でツバサの眉間にシワが寄った。英玲奈はそれに気づくと、やれやれと首を振る。

 

「まぁ、今回はこれで許してあ・げ・る♪」

 

あんじゅは私の頬にキスをした。

 

「な、あ…!?」

 

なぜか驚いたのはツバサで。咳払いをひとつすると、ツバサはそっぽを向いた。

 

 

「はぁ…ステージチェンジまで少し時間があるから、ゆっくりしていてくれ」

 

英玲奈はとうとうため息をつくと、あんじゅの手を引いてその場を離れていった。

この状況はかなり気まずい。

隣にはなぜか怒っているツバサ。この状況を救ってくれる人は誰もいない。

ここは、自分で切り抜けるしかないと言うことだ。

 

 

「ツバサ…?なんで怒ってるの?」

 

「………怒ってないわ」

 

声がいつもより低いし、こっちを向いてくれない。ツバサが怒っているなんてわかりきっているのに、なんでわざわざ否定するんだろう。

 

「ふーん」

 

これ以上何を言っても、同じことを繰り返すだけな気がして。私も視線を横にずらした。

しばらくすると、隣からの視線を感じて、思わず顔をしかめた。最初から、私のこと見てくれていたらよかったのに。

 

「好き。初めてなの、私が誰かのことを追いかけるなんて」

 

ツバサは突然そう呟いた。

好き。その言葉に胸の奥が熱くなる。

ゆっくりとツバサに目を向けると、案の定じっと見つめられていて。

 

「え?」

 

ツバサの腕が首元に回ってきたかと思ったら、そのままぐいっと引き寄せられた。

心臓に悪いにもほどがある。

 

「だから、私から目を離そうとなんてしないで」

 

視界いっぱいに広がるツバサのきれいな顔。恥ずかしくて目をそらしたいけど、もちろん少しも目線をずらせない。

だって、ツバサの顔、すごく必死だから。

 

「ははっこれじゃ、近すぎて逆によく見えないよ」

 

なんだか急におかしく思えて、ついつい笑ってしまった。

 

「もう、ここ笑うところじゃないのに。このまま恋に落ちるところよ。まったく」

 

そのままツバサは私から離れて顔をそらした。

 

「ツバサから目を離してる」

 

「そ、それは、べつにいいのよ」

 

照れてるのか、顔を赤らめて両手で顔を隠してしまった。こういうのを、ギャップ萌え?って言うんだろうか。

でも、だからってなんでも許してしまうわけではない。顔を隠されているのが腑に落ちなくて、ツバサの腕をつかむ。

 

「ツバサもちゃんと私のこと見て」

 

「ど、どこからそんなセリフ覚えてくるのよ。μ’sから?ねぇ?」

 

真っ赤な顔で睨まれても、少しも怖くない。

またまた込み上げてくる笑い。しかし、今度はそれをこらえる。ほっぺをつんつんと叩くと、ツバサは覗き込むように私を見た。

 

「思ったことを言ってるだけだよ」

 

思っていた以上に自分の声が優しくて、びっくりしてしまった。

 

「はぁ…あなたには勝てる気がしないわね。負けなんて絶対に認めないけど」

 

ふっと目を細めて、本当に楽しそうに。

きゅんってしたなんて、今は内緒にしておこう。私も、ツバサには負けたくはないし。

なんだか急に恥ずかしくなって、逃げ道を探す。

 

「そろそろ、準備できたみたい。戻ったほうがいいかもよ」

 

「そうね。そうするわ」

 

少しだけ名残惜しそうな顔。

罪悪感を感じながらも、身を守ることに徹する。だって、もう、どちらにせよこの時間はおしまいだから。結果的には、ツバサを守ることにもつながるから。

 

「じゃあ、また」

 

そんなことを考えている自分に違和感を感じながらも、ツバサに手を振った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ツバサが行ってから、時間が経つのは早かった。いや、もしかしたら、遅かったのかもしれない。ほんの一瞬、一コマ進むのがスローモーションに見えて。この時間が続けばいいのに、とか。まだもう少しだけ、なんて。そんなことを考えて、私は自分の中の時間を遅らせようとしていた。

悪あがきにもほどがある。

決心なんて、とっくについていたと思っていたが、言い聞かせていただけだったのかもしれない。

 

 

 

めまぐるしく動いていたスタッフさんたちも立ち止まり。さっきとは真逆と言っていいほどのシンプルなステージにμ’sのみんなが立った。頭には花かんむりをつけ、ふんわりとした水色を基調とした衣装に身を包んでいる。

それはまるで妖精のようで、私もみんなから目が離せなくなった。

 

曲が流れ出すと、時間がゆっくりと流れているように感じられる。

穂乃果、海未、絵里の三人が真ん中にいて。残りのメンバーが、その三人の周りをゆっくりと円になって一歩ずつ歩く。

 

最初は穂乃果。

 

「ユメノトビラずっと探し続けた」

 

次に海未。

 

「君と僕との」

 

きっと、この君はみはねで、僕はμ'sのことだ。

最後は絵里。

 

「つながりを探してた」

 

"つながり"

私が一番欲しくなかったもの。

でも、もう、たくさんのつながりを持ちすぎて。みんなからもらいすぎて。最後には、自分からつながりを持とうとしてしまった。

 

曲が一気にアップテンポになると、みんなは笑顔で跳ねるように踊りはじめた。

目をそらしたいのに、そらせない。これはみはねのための曲。それなのに、どうして、こんなにも惹かれるんだろう。

ふと、自分が紙を握りしめていることに気づいた。

 

「そうだ…絵里の、気持ち」

 

まだ見ていなかったことを思い出す。

これは今、私が持ってる、一番強い絵里とのつながり。さっきはこわかったんだ。

つながりを形にされてしまったことが。絵里の気持ちを受け取ることが。そして、それらすべてを失うことが、こわかった。

でも、今は違う。絵里の気持ちをちゃんと受け取らないと、諦めがつかないから。

 

紙を開くと、上の行から順番に目を通していく。半分を過ぎたあたりからが、絵里の言っていた2番の歌詞だ。

 

 

 

 

 

"Chance! 自分の想いがみんなの想いが 

重なり大きくなり 広がるよ"

 

突然いなくなってしまったみはね。それによって、もっともっと、みんなのみはねに対しての想いが大きくなった。それは、あの時の私にも感じられていて。羨ましいような、でもどこか温かい気持ちになった。

 

"Chance! 期待の波へと身を任せてみよう

素敵さ…どこまででも続くPower"

 

このライブで、みはねに気持ちを届けると決めたあの時のこと。みんなのあの自信に満ち溢れた顔は、本当に眩しかった。

 

 

"瞳はレンズ僕の心へ 君の笑顔残そう

やがて思い出へ変わるのかい?

そんなことは今は考えないで"

 

なぜか、この部分だけ二重丸で囲われている。疑問に思ってよく見てみると、矢印が引っ張ってあって、その横にも何か書かれていた。

 

『みうの笑顔、大好きよ。消えるからとか、みはねじゃないからとか、そういうのなしでもっと笑ってほしい!』

 

絵里…

どこまでも優しくて。一緒にいると安心できて。ほんとに、本気で、大好き。

紙の上に、ぽたりと雫が落ちる。

まだ全部読み終わっていないから。涙なんか、出てほしくないのに。止まらない。

 

「ふっ…う、絵里…っ」

 

困らせてばかりだったことを、今さら後悔する。ごめんなさい。

 

 

"キボウノユクエ 誰にも解らないね

確かめようと見つけようと走ってく

キボウノユクエ きっと追い続けたら

君と僕にもトビラが現れるよ"

 

"ユメノトビラ 誰もが探してるよ

出会いの意味を見つけたいと願ってる

ユメノトビラ ずっと探し続けて

君と僕とで旅立ったあの季節

青春のプロローグ"

 

 

曲が終わると同時に読み終える。なんだか、くらくらする。そろそろ、終わりの時間だろうか。さよならは、やっぱり悲しいよ。

目の前にどこからか光が現れる。光の中に、扉が見える。まるで、歌詞の通りになったみたいに。

 

「みはね!?」

 

一気に体の力が抜け、私はその場に崩れ落ちた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「みう!そろそろ起きて」

 

ぺちぺちと頬を誰かに叩かれる。

なに。今、私、機嫌悪いんだけど。

 

「機嫌悪くてもいいから、目を開けてよ」

 

は?なんで?喋っていないのに。

ゆっくりと目を開けると、目の前には私がいた。

 

「み、はね…?」

 

「うん。ちょっとぶりだね、みう」

 

ふんわりと微笑む彼女。

あの時の、絶望的な顔をしていた時のことを思い出して、少しだけほっとする。

 

「もう、大丈夫でしょ?早く戻って」

 

少し、ぶっきらぼうになってしまった。みはねはそんな私をみて、ふふっと笑みをこぼす。

 

「あのね、その事について、少し話があるの」

 

「なに」

 

 

 

 

 

 

「私たち、一つにならない?てか、もともと一つだったしね」

 

 

 

突然のことに、一瞬頭が真っ白になる。

 

 

 

「な、に…言ってんの?みんなが待っているのは…!」

 

さっき、ちゃんと諦めようって。

私は、もともとみんなと一緒にいたわけじゃないし。今さら、そんなこと…

 

「落ち着いて。そのね、絵里にはもう言ってあるよ。もちろん、賛成してくれた」

 

「いつの間にそんなこと!ちょっと待って、全然追いつかない」

 

だって、みはねはずっと私の中で眠っていて。いつだ。いつーーー

 

「…っまさか」

 

「うん。今日の朝だよ」

 

そうか、だから起きた時あんな状況になっていて。部屋を出るときの、あの絵里の表情にも納得がいく。

 

「もうちょっと言うとね、もうだいぶ私たち一つになり始めてる。いや、もう新しい私たちって言ったほうがいいかも。完全になるんだよ、これで」

 

少しだけみはねの言っていることが分かる気がする。私自身、自分の言動に驚く場面もいくつかあった。

 

「だって、でも…」

 

「いいでしょ?お願い。私、ちゃんとした桜心羽になりたい」

 

それは、私の希望でもある、か。

手を伸ばされて、なんとも言えない気持ちがこみ上げてきて。でも、ゆっくりと手を伸ばすと、絡めるとるように繋がれた。

触れている部分がじんわりと温かくなっていく。お互いの記憶とか、気持ちとか、全部が溶けて絡み合っていく。

再び現れたトビラに、二人で歩いて行く。

もう、迷いなんて少しもない。

 

私たちは、きっと、一緒じゃなきゃ意味がない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




お読みいただきありがとうございました!

ユメノトビラ歌うまでが長かった…


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