歌の女神たちの天使 〜天使じゃなくてマネージャーだけど!?〜   作:YURYI*

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59.ふたり

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

〜絵里〜

 

 

 

 

 

 

みうと出会ってまだ数日。

私は彼女についてみんなよりは知っているが、まだまだ知らないことが多い。

 

しかし、別れが近づいているのもまた事実。

そう、ついに明日はライブの本番。

 

 

今回のライブは私たちにとってとても重要なもの。

もちろん、UTXの屋上でA-RISEと一緒にライブをするということも大きな理由だ。

でも、と言ったらなんだけど、最も重要なのは私たちの大切な人が関わっている。

そう、もしかしたら、みはねが戻ってくるかもしれない。でも、もしみはねが戻ってきたとしたら、みうはいなくなってしまうということになる。

 

 

「なかなか、難しいわね」

 

気持ちの整理がつかない、とでも言えばいいのだろうか。

もちろんみはねのことは大好きだし、愛してるといっても過言ではない。みはねは私にとってなくてはならない、絶対に必要な存在。

しかし、私の中でみうも大切なことに変わりはない。

はじめの頃こそは、真顔でツンツンしてて、手を出したら引っかかれてしまいそうな。そんな印象だった。まさに、希が言っていたように、周りと一歩距離をとった野良猫のような…ね。

 

今まで甘えることがなかったから、その分不器用で甘えるのが下手で。きっと彼女の心の中では誰かを頼ることが、すごく恥ずかしいことなんだと思っている気がするの。

 

本当は、頭をなでられるのが好き。

でも、素直に喜ぶことができなかったり。

手をつなぐことが好き。

でも、なかなか自分からはぎゅってできなかったり。

抱きしめられるのが好き。

でも、抱きしめられると、何を思ってか少し悲しみとも不安とも取れる顔をして、離れようとしたり。

 

つまり、私はみうのことがほっとけないの。

みはねとはまた違った好意。

 

この気持ちに名前をつけるなら、何になるのかしら。

ふと、そんなことを考える。

 

 

「絵里…その、帰らないの?」

 

あまり変わらないその表情にじっと見つめられる。

でも最近は、みうのそのちょっとの顔の変化がわかるようになってきた。それに、感情が激しく揺れ動いた時は、しっかりと反応してくれるようにもなった。

この顔は、ちょっと困ってる顔ね。

 

「少しぼーっとしていたわ。ごめんなさい、帰りましょうか」

 

そう言って、みうの手をそっと握る。

 

「手を繋がなくても、どこにも行かない」

 

「それも少しあるけど、本当はみうの手があったかくて安心するから…ね?」

 

「なにそれ」

 

みうは意味がわからないという顔をして、ため息をつく。

でも、私がお願いと手をぎゅっと握ると、しょうがないなぁと言いながら、嬉しそうに笑みをこぼした。

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 

みはねもとい、みうがいなくなってからというもの、彼女は毎日うちに泊まっている。

純粋に、μ'sメンバー全員がみうを一人にするのが心配だったというのもあるのだけれど。それよりもなによりも、あのみはねの部屋に入ってから、寂しい思いをさせたくない思いがあることが一番の理由なわけで。

ソファーの上で、ちょこんと体育座りをしているみうの頭を優しくなでる。

 

「なに?」

 

訝しげな目で私を見るみうがなんだかかわいくて、自然と自分の顔が緩む。

やっぱり、希が言っていたことは少し違うかもしれない。みうは、野良猫よりも、ちっちゃなかわいい子猫みたいね。なんて考えて、一人で納得する。

 

「ふふ、なんでもないわ」

 

「そう」

 

それだけ言うと、なぜだかみうは自分の腕に顔を埋めてしまった。

いつもなら、小言の一つでも言ってきそうだけど。

 

「どうしたの?」

 

どうもしない、と小さく呟いて私のお腹のあたりに顔を押しつけるように抱きついてきた。そのまましばらく頭をなでていると、みはねは抱きついたのはそのまま、顔だけをこちらを向けてじっと私のことを見つめる。

 

(何かを訴えているのかしら?)

 

 

理由もわからず無言で笑顔を返すと、何かを観念したかのように、ため息を一つ。

 

「絵里のその笑顔を見てると、なんかなにも言えなくなる。嫌とかじゃなくて、嬉しい?みたいな。心がぽかぽかってなるの。それが、自分が自分じゃなくなるみたいで、なんか、変な気分。でも、絵里の笑顔はもっと見たいの。どうすればいい?」

 

ところどころ、つっかえながら。

だんだんと弱々しく、いや、やわらかくなっていく語尾。

普段ほとんど自分のことを話してくれない彼女が、ここまで話してくれている。

その理由は、なんなのか。

 

 

 

私たちは、明日のライブでみはねが戻ってくると100%信じている。

最初のソロパートを二年生3人ではなく、わざわざ自分を入れてもらったことにももちろん意味がある。それは、私の気持ちを余すことなくみはねに届けるため。

 

そう。みうは明日私たちの前からいなくなるということだ。もちろんそれはみう自身もわかっていることで。

そっか、そうだったのね。

最後になるかもしれないから、きちんと自分の気持ちを伝えてくれた。そういうことなのよね、きっと。

巡り巡らされた思考が、一本の糸になるかのように繋がった。

 

「ハラショー…」

 

「へ?」

 

小首を傾げるみうを見て、途端に愛おしくなって。抱きしめたくなった。それと同時に、悲しさも込み上げてくる。

ちゅ、と、みうのおでこにキスを1つして。突然のことに、全然理解が追いついていないであろうみうを、包み込むように抱きしめた。

 

「絵里?どうしたの?」

 

「どうも、しないのよ。きっと」

 

ありがとうと、ごめんなさい。

好きって気持ちと罪悪感。

それら全部が私の中に溢れて、抑えられなくなって。

それは、涙となって零れ落ちた。つうっと頬を伝う一粒の雫がみうの首元に。そしてそのまま流れていく。

みうはそれにびくっと驚いて、ゆっくりと顔を上げた。

 

「泣いてるの?」

 

「そんなこと、ないわ」

 

がんばって笑顔をつくったが、それはもう、ひどい顔だったと思う。

見られたくなくて、みうから顔を隠すように彼女を抱き直した。

 

「そっか」

 

みうはそれだけ言うと、私の腰に腕を回してきた。

なんで、こういう時に限って。ずるいわよ。

普段は絶対に抱きかえしたりしてこない彼女が、今こうして私にぴったりとくっつくように抱きしめ返してくれている。

さらには、手を背中において、トントンと一定のリズムで叩いている。

ずるい。

なんで、こんなに愛おしいことするのよ。

離したく、離れたく、なくなってしまう。

 

 

「ごめんなさい」

 

思わず、そう口からこぼれ出てしまっていた。

ずるいのは私で。みうにとっては、私のしていることは卑怯なことなのかもしれない。それでも、みうと仲良くなりたくて、私のことを好きになってほしくて。それは、結果みうを傷つけることになるのはわかっているのに。

 

「なんでごめん?絵里が私に謝らなきゃいけないことなんてない」

 

なんでかまた込み上げてきた感情を抑えて、そうね、と唸るようにつぶやいた。

 

「私ね、みんなと会えて、みんなの優しさに触れられて、よかったなって思う」

 

今にも消えてしまいそうな儚げな笑顔。

こういう時ばかり、みうは私だけに色々な表情を見せてくれる。

 

「ならよかったわ」

 

「何にも知らない私に、嬉しいとか、楽しいとか。あと…寂しいとか、悲しいとかいっぱい教えてくれた」

 

「えぇ。もう、いいから」

 

これ以上聞くと、もうお別れのような気がして。聞きたくなくて、自らくっつけた身体を離そうとしたけど、離れることはできなかった。

みうが、離れてくれるはずなかった。

わかっていたけど。

苦しい。

 

「ありがとう。今、みんなに一番伝えたい言葉」

 

「そうね。きっと、喜ぶわ」

 

亜里沙にするように、頭をなでるとみうは顔を上げた。絡み合う視線。

少しでも気を緩めると、涙が出てしまいそうだ。

 

「でもね、絵里に一番最初に伝えたかった。ありがとう。私のこと、見つけてくれて。ずっとそばにいてくれて」

 

ありがとう、みうがもう一度呟いたそれは、ひどくかすれていて。

 

「みうの、そういう直球なところ、とても好きだけど少しだけ苦手だわ」

 

そう返すのが、精一杯だった。

 

「ん。ごめん」

 

みうは、私から目をそらすと、しばらくの間なにもないところを見つめていた。

 

「絵里。明日、さ?ライブの前に、ちょこっとだけ時間ほしい。みんなとは別に」

 

「え、えぇ。もちろんよ」

 

またこっちを見たみうの顔は笑顔で。少し戸惑いながらも、私もそれに答えるように微笑んでみせた。

 

 

その時、初めてみうとみはねが、重なって見えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




お読みいただきありがとうございます。


そしてそして、
明けましておめでとうございます!
すべりこみセーフ!よかった、間に合って。
本年もよろしくしていただけるとうれしいです。

皆さまの一年が良い年になりますように…!


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