歌の女神たちの天使 〜天使じゃなくてマネージャーだけど!?〜 作:YURYI*
「それで、これからどうするー?」
穂乃果はみんなに向けて、笑顔で首をかしげた。それは、なんのことを指しているのか。
「どうするもなにも、とりあえずはライブに向けて練習です」
「そうやねぇ。次のライブは新曲やし…な?」
希はこっちを向いて微笑んだ。
なんで私の方を向くの。
希に向かって、むっとした顔をすると、海未はどうしたのですか?と。
希は、何事もなかったかのように隣にいる凛にちょっかいをかけている。
「なんでもない、よ」
「そうですか」
にっこりと微笑んだ海未を見て、少しだけ恥ずかしくなった。
「あ、そうだ!」
穂乃果は突然机を叩いて立ち上がった。
「どうしたの?穂乃果ちゃん」
ことりが隣から穂乃果の顔を覗き込む。
それににいっと笑って返すと、穂乃果はいいこと思いついたの!と私たちの方を向いた。
「ライブでさ、私たちの想いを届けたらいいんじゃないかな」
突拍子もない提案。
全員の頭の上にはてなが浮かぶ。
「…なにが?」
そんな穂乃果の提案に、思わず口に出してしまっていた。
「ほら、みはねちゃんだよ!私たちの好きって気持ちとか、楽しいよって気持ちを伝えられたら、もしかしたら戻ってくるかも!なんて」
ビシッと指を指させれて。
みんなからの視線も集めて。
やっぱり、こういうのは苦手だ。
「中にいるみはねのことだよね?うん、まぁ、ありえなくもないと思う」
ありえなくもない、なんて回りくどい言い方をしたが、実際はそれで戻ってくると思っている。いや、確信している。
まぁ、みんなの気持ちが本物なら。
みはねのみんなへの気持ちが本物なら。だけどね。
「でも…そしたら今のみはねちゃんは、どうなっちゃうのかな?」
花陽は眉を下げてぽつりと呟いた。
「それは、まぁ、そのときにならないとわからないし。そもそも私は、みはねとはまったくの別人だしね」
だから、今はみはねが帰ってくることだけを考えよう。
そう言った言葉は、ちゃんと音になっていたかどうかわからなかった。
「でも、あんたも私たちμ'sのマネージャーで。私たちの、友達でしょうが」
にこに軽くチョップされる。
痛い、けど痛くない。
「やめて」
「ふんっやめないわよ!」
にこは目をそらしたが、絵里と希がその様子をみて頷いた。
希はにこに、不器用やなぁと言ってからかっていたが、絵里は私のそばまで来て。
「そうよ、みう。少しは自分のことを大切に考えてあげて?」
そう言って、今度は絵里に頭を優しくなでられた。
「はぁ…もう、ほんとに優しすぎるんだから」
ため息をついてみたものの、めんどくさいとか、本当にやめてほしいなんて思っている自分が見当たらない。
私、かなりめんどくさい。
謎の話し合いは新曲の練習を頑張ること、その新曲のステージでみはねに気持ちを伝えるということでまとまった。
*
μ'sの練習。
マネージャーになってしまった?私はもちろん参加しなければならない。
正直、全くこんなことになるなんて予想してなかったわけで。なにをすればいいのかもわからない。こんな私なんかになにができるって言うんだ。
そんな感じで、隅に体育座りをして、さっきから前を睨みつけているわけだけど。
「…ひま」
言葉に出すと、余計に意識してしまい、だんだんとイライラしてきた。
「ふぅ…一旦休憩にします」
その海未の一言でそれぞれが休憩を始めた。
絵里は水分を取るとすぐさま私のところへ歩いてきた。
「ねぇ、みう」
少しバツの悪そうな、困った顔をしている。
「…なに?」
不機嫌な私はぶっきらぼうに返事を返す。
と、同時に横からやわらかい衝撃。
「みはねちゃん。さっきから眉間にシワがよりっぱなしやで」
希は私に抱きついたまま、頭をわしゃわしゃとなでてきた。
「髪、ボサボサになったじゃん」
ペリッと無理やり剥がすと、なにが面白いのか、おかしそうに笑った。
「やーん。シワ取れなくなっちゃうよ?」
「そうなったら希のせい」
今度は確かに、なんて頷いている。
にひひっといたずらっ子のような顔をする希に呆れてため息をひとつ。かわいいとか、思っていないから。絶対に。
そんな希を横目に、絵里に話しかける。
「で、絵里はどうしたの」
「あ、えっと…なんだか、機嫌が悪そうだったから」
バレていることに驚くと同時に、少しだけうれしい気持ちになる。
………うれしい?
なんでだろう。
「べつに」
「そう…」
ならいいのだけど…と、絵里は静かに私の隣に腰を下ろした。
「あんまりえりちを困らせたらあかんよ?」
絵里とは反対側にいた希にほっぺを軽くつままれる。
希の顔は笑っていたが、声はとても真剣だった。なんだかそれすらも気に入らない。
前をぼうっと見つめたまま、隣にあるであろう絵里の手を探す。
あった。
探しだして、そのまま握りしめると、隣からどうしたの?と。
「その、ひまだっただけだから。だから、ごめんなさい」
言いたいことが伝わったのか、絵里は優しく微笑んだ。
「ふふっいいのよ。気にしないで」
握り返された手に視線を移すと、少しだけ気持ちが軽くなった。
「ありゃ、みんなもみはねちゃんと仲良くしたいみたいやね」
希が指差す方をみると、残りのメンバーが表情それぞれに私たちのことを見ていた。
「べつに、私と一緒にいても、楽しくないと思うんだけど。ほんと、みんなよくわからない」
そう呟くと、絵里が手にぎゅっと力を込めた。
「あ、わかった。みはねちゃん、野良猫さんに似てるんや」
そう思わん?
唐突な希のその問いに、絵里は小さく笑って、そうねと呟いた。
「ねぇ、私のことバカにしてるでしょ」
「ふふっちゃうちゃう。褒めてるんよ。かわいいってことやん?」
そんなふうに取り繕っても、バカにしているのは目に見えていて。ジロリと見れば、希は誤魔化すようにほっぺたをいじってきた。
「なんかな、野良猫であるみはねちゃんを、ウチらがかわいがりたくて、懐いてほしくて必死になってるん。ほら、なんか想像できるやろ?」
言われるままに想像して、なんだか少しおかしいなって。
「私は、誰にもなつかないし」
なんて、ちょっと怪訝そうな顔をしてみて。
私は、誰かを好きになる気持ちなんて知らなくていいし、知りたくもない。
「いや、えりちが一歩リードしてるなぁ」
「そうかしら?まぁ、私はみうのこと大好きよ」
絵里は私のほっぺたにちゅっとキスを落とす。
そうすれば、遠くで見ていただけの他のメンバーがやってきて。
「ちょっと、そうやってすぐ天然タラシをするのやめなさいよ!」
「みはね、こっちにきてなさい」
私はなぜか真姫を中心に一年生グループに保護されて。
絵里はにこにすごい剣幕で怒られて。絵里は少ししょんぼりしてて。
希は隣で見て笑って。
「またですか」
「海未ちゃん。今日は許してあげよう?」
「そうだよ。みはねちゃんも楽しそうだしさ!」
海未は休憩の時間を過ぎていると最初は怒っていたが、ことりや穂乃果に上手く言いくるめられて、しょうがないですねと。
って、
「私、楽しそうになんかしてない」
穂乃果の言葉を否定する。
「ううん。すっごく楽しそうだよ。穂乃果にはわかる!」
なんて、どっからの自信なのだろう。
私ももうすっかり諦めて、わいわいと騒がしくなったこの場の行方を見守ることにした。
きっと、そのうち誰かが練習をしなければいけないと気がつくだろう。
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