歌の女神たちの天使 〜天使じゃなくてマネージャーだけど!?〜 作:YURYI*
「えーと、海未?なにをしに行くのかな?」
「ええ、少し山を登りに行こうかと」
まぁ、そうだと思った。
後ろにいる凛と希の顔が死んでるけどいいのかな…
「そっか。いってらっしゃい」
「なんでとめないの!?」
「みはねはウチらを見捨てるんや!」
後ろにいた二人組が抱きついておいおいと泣いたふりをし始める。
わーわーわーなにも聞こえない。今海未を送り出さないと私まで巻き添えになりそうだもん。
「ほら、絆が深まるといいね?いってらっしゃい!」
「はい!いってきます!」
海未のはりきったようすにどんどん他の二人が沈んでいく。
「みはね…」
「ん?希どうしたの?」
希は私のそばまで来ると耳元に顔をもってきた。
「意地悪するなんてひどい。いってらっしゃいのちゅーしてくれへんと行かない」
自分で言ってて顔を真っ赤にしている希がどうしようもなくかわいい。
てか、海未と凛は気づいていない様子で首を傾げている。
「いいよ。一回離れて」
「う、ん…」
目と目を合わせるとぷいっと横を向かれてしまった。恥ずかしいならやめとけばいいのに。
「こっち向いてよ」
「い、いやや!」
全くこっちを見てくれない希の顔を両手ではさんで無理やりこっちを向かせる。
少し目が合うとふせてしまった。服の袖をギュッと掴まれるとそのかわいさに負けて反射的にキスをしてしまった。
「いってらっしゃい。ケガとかしないようにね」
もう一度だけ少しだけ触れるようにキスをすると、希に抱きつかれた。
「そんなんずるい」
「ははっごめん。気をつけてね」
頭をなでるとやっぱり恥ずかしかったのか、海未の後ろまでいって座りこんでしまった。
「み、みはね!破廉恥です!」
え、私が怒られるの。
「凛も凛も〜!」
凛は私に飛び込んで来ると同時にキスをする。あ、ほっぺにだからね?
私も凛のほっぺにお返しをする。
「いってらっしゃい。仲良くね?」
「もちろんにゃ!」
凛はやることだけやって希のところへ行ってしまった。
「海未はしないの?」
「し、しません!」
「そーだよねー。いってらっしゃい!」
「い、いってきます」
行ってくると言ったわりには全くいく気配がない。どうしたものかと思っていると海未が口を開いた。
「みはねのバカ…」
そう一言だけ言うと後ろを向いてしまう。なんだか今行かせたらどこか遠くへ行っちゃいそうで思わず腕をつかんだ。
「離してください。希たちが待っています」
「いやだって言ったら?」
「そんなの…んぅ!?」
こっちを振り向いた海未の唇を強引に奪って抱きしめる。
「ごめん。その…大好きだから、そんな顔してほしくない」
「私のほうこそすみませんでした」
「海未はなにも悪くないよ?ほら、笑って?」
笑顔でいってきてほしいから笑顔で送り出す。
「はい!みはねの笑顔は最高ですね。なんだかとっても癒されます」
そんな海未の笑顔のほうが最高じゃんか。
「ありがと。いってらっしゃい」
「はい!」
ユリ。白いユリの花。純白という言葉があの3人にぴったりだと思った。
自分を飾らない3人の魅力がもっと他の人にも伝わるといいのに。
まぁ、今以上に人気になられちゃったら少し妬けちゃうけどね。
*
はぁ…もう夜になっちゃったよ。こんなに暗いけど、絵里は大丈夫かな?なんて、心配しすぎか。
てか、どこにいるんだ!?
「こんな三年生のために曲作るなんてね」
ん?今のは真姫の声?
声の聞こえたほうを目を凝らして見てみると木々の間から光が漏れている。
あんなところにいたのか。
「やっぱそんなこと思ってたのね」
今度はにこの声。
近くまで来ると二人の様子がはっきりと見えた。絵里は…テントの中にいるようだ。
「曲はいつも、全員のためにあるのよ」
なんだかにこが先輩らしいことを言っている。
多分さっきのやり取りからするに、真姫がスランプになった理由はプレッシャーからだろう。三年生にとって最後のラブライブ。予選で落ちたらその道は絶たれてしまう。だから、どこよりもいい曲を作ろうと必死になったのだ。普段は素直になれないけど、音楽を通してなら素直になれる。そんな真姫がとても愛おしい。
私は真姫のところまで行くと後ろから抱きしめた。
「ゔえぇ!?みはね!」
「真姫。ほんとにかわいい」
「な、なによいきなり!」
だって、これは真姫のせいだもん。だから少しの間我慢してよね!
「あー、いちゃこらしてるのに悪いけど焼き芋焼けたから冷めないうちに食べちゃいなさい」
棒に刺した焼き芋を顔の前に押し付けられた。ほんとに空気読んでよね。
「じゃあ、私はちょっと絵里のとこでもいって来るよ」
「あっそ」
テントからは絵里が顔をのぞかせていた。
「みはね、ほら」
絵里は私がさっきまでいたふたりの方を指差す。振り向いて見てみるとにこに渡された焼き芋を真姫が半分にしてにこに渡していた。
「仲良しだね」
「そうね。中、入りましょうか」
テントの中に入って一息つく。
「絵里もあの中入ってくればいいのに」
「あら、みはねは私と二人きりはいや?」
「そんなこと…むしろ嬉しいよ」
二人見つめあって自然と唇を重ねる。
なんか…今日はいろんな人とキスしてる気がする…
「ふふっ好きよ」
「ん。私も好きだよ」
あぁ、なんか焚き火の炎でテントが照らされていてかなりオシャレかも。たまにはこういうのも悪くないかな、なんて思ってみたり。
しばらくして真姫とにこの話し声が聞こえなくなったと思ったら真っ暗になった。
「や、やぁぁぁああ!?」
耳がキーンとするほどの絵里の叫び声が聞こえたと思ったら前からすごい衝撃がきた。
お察しのとおり絵里が私に抱きついてきたのだ。
「絵里、落ち着いて!私はここにいるよ」
「みはね…みはねぇぇ…!」
涙声で私の名前を連呼する絵里の体をきつく抱きしめる。大丈夫、と耳元で囁きながらあやすように背中をポンポンと叩くと落ち着いてきたのか絵里も抱き返してくれた。
「ちょ、ちょっとすごい声が聞こえたんだけど!?」
「え、エリー?の声、よね?」
さっきの絵里の叫び声にびっくりした二人がテントに入って来る。すぐにランプの明かりがついて明るくなった。
「ごめん。いきなり暗くなってびっくりしちゃったみたい」
「みはね。もうちょっとこうしてて…」
甘えるように抱きつかれたらいやな気にはならない。それに、誰よりも絵里の暗所恐怖症を理解してる私に、絵里を無理に振りほどくなんて真似はできるわけがない。
「わかってる。大丈夫になるまでこうしてていいよ」
真姫とにこは顔を見合わせる。
「元生徒会長様は暗いところが苦手なんだ」
「絵里にもかわいいところあるのね」
ほら、ふたりとも面白がってるよ。いい加減離れないと。
それでもなかなか離れてくれない絵里。ふたりは寝る準備を始めていた。
仕方がないので私も絵里たちと一緒に寝ることにする。
「もう、寝よっか」
しばらくして絵里が寝たのを確認してから起き上がる。
外に出ると星がとても綺麗だった。
「みはね。起きてたのね」
「まぁね、ほら星がきれいだよ」
実は真姫は天体観測が趣味だったりする。他の人に言うのは恥ずかしいみたいだけど、とっても素敵だと思う。
「ええ。その、これから別荘に戻ろうと思うの。ピアノないと困るし」
きっと絵里やにこと話したおかげだろう。
「じゃあ、一緒に戻ろうか。きっと…今なら素敵な曲ができるよ」
笑顔で手を差し出す。真姫は何も言わずに手を取ったが、気持ちは私と同じだろう。
別荘に戻るとしばらくしてから海未とことりも戻ってきた。考えることはみんな同じ…だね!
スランプになっても助けてくれる仲間。すごく憧れます。笑