歌の女神たちの天使 〜天使じゃなくてマネージャーだけど!?〜 作:YURYI*
〜希〜
昨日は大変なことがあった。
ことりちゃんが留学しちゃう前にみんなでライブしようって思ってたのに、まさか穂乃果ちゃんがスクールアイドルやめるって言い出すなんてなぁ…
まぁ、えりちは穂乃果ちゃんともう一回しっかり話をしたいって言ってたし、まかせちゃって問題ないやろか。
カードがそういってるのかって?あははっまぁ、そうやね。
そんなことよりも…いや、そんなことで済ませちゃいけないのかもしれないけど…
「はぁあ…もう、なんなんよ」
そう。ウチ、東條希は少しばかり機嫌が悪い。
その原因はウチの、いや…ウチらの恋人さんなんやけど…
最近、こんなことばっかりが起きているせいでウチのこと全然見てくれない。いろいろな問題にかかりっきりなのはわかるけど、たまにはかまってほしい。
なんて、面と向かって言えないあたり、自分のせいでもあるんやけどね。
普段教室では凛ちゃんや花陽ちゃんと一緒にいて仲よーくしてるみたいだし、お昼休みは真姫ちゃんと音楽室で二人きり。放課後は、生徒会がある時はウチもいるのにずーっとえりちといちゃこらしてるし…
で、生徒会がない時はことりちゃんと一緒に帰ったり、にこっちの買い物に付き合ったり。
昨日は海未ちゃんと保健室に行った後一緒に帰ったみたいだし。恋人つなぎで歩いてるのウチは見たんやからね。
ウチだけ、最近みはねとなんもしてない。
恋人らしいことがしたいとかわがままは言わないから、ただ、一緒にいたい。二人きりの時間がほしい…
誰もいない放課後の教室に自分のため息の音だけが響く。
そろそろ帰ろうか、なんて考えていた矢先、突然ドアが開いた。
「あ、希!こんなところにいた」
なんで…
「靴がまだあったから昇降口でずっと待ってたのに全然来ないんだもん。学校内探し回っちゃったよ」
口調は怒っているのに顔はとても穏やかに笑っている。
なんで、ここにみはねがおるん…
それに今、ウチのこと探してたって…
「なんで何も言ってくれないのー?やっぱり…最近二人きりの時間取れなかったから…」
みはねは片手で口を覆いながら、気まずそうに視線を落とす。
二人きりの時間が取れなかったって気にしてくれていた…?
それになんでそんな悲しそうな顔するの?
「私のこと嫌いになっちゃった?」
「…っ!?そんなわけないやろ!」
あーもう、恥ずかしい。
普段だったらこんなこと言われても余裕を持って返事できてたのに、今はこんなに余裕のかけらもない。
「ん、そっか…よかった」
そんな幸せそうに笑わんでよ。
我慢できなくなっちゃうじゃん。あほ。
「何しに…来たん?」
「何しにって、希に会いに?」
「な、なんで」
わざわざ会いに来ることないやろ。
それに、ことりちゃんとかの問題はどうしたんよ。
「希に会いたかったから。それに、なんだか最近希素直じゃないし、私なにかしちゃったかなぁ?って気になって」
みはねが一歩、また一歩と近づくたびに、鼓動が高鳴っていく。
素直じゃなかった?ウチが?
…そっか。最近はみはねと会うと機嫌が少し悪くなってた…かも?そんなにあからさまに態度に出ていただろうか。
いや、でもそれは我慢するためで…
普段なら、みはねのことじゃなければ気づかれないようにうまくできるのに。
「素直じゃなくは、ないんやない?」
「そう?気のせいならいいんだけど」
「もう用は済んだ?そんならウチは帰るね」
話が終わったから帰ってもいいんかな?
これ以上いると離れられなくなっちゃいそうだし。
「え?」
鞄に持って帰るものを入れていると、ヘンテコな返事が返ってきた。
なぜか目の前のみはねが困惑している。
なに、このまま帰る流れちゃうの?
「どうしたん?」
「ご、ごめん…その、なんていうか…せっかく二人きりになれたのにすぐ帰るって言い出すなんて思ってなかったから…」
あからさまにがっかりしているみはねに少しの期待。
それは、ウチともっと一緒にいたいってこと?もし、もしそうなんだとしたら…
「ごめんね。帰る邪魔しちゃったかな…その、送っていくよ…?嫌だったら大丈夫だけど」
「嫌なんて思わへんよ。ただ…みはねはウチのこと恋人だって思ってないんじゃないかなって思ってたから」
そう言った瞬間、なんだかみはねの雰囲気が変わった。
変わったというか、怒ってるような悲しんでるような?
「その…一応、理由聞く」
むすっとして、なんだかちっちゃい子みたいな喋り方になっている。そんなところもなんだかわいく見えるのは、きっと相手がみはねだからだろう。
今なら、思っていること全部言える気がする。
「それは、ウチがいるのにえりちとは平気でいちゃついてるし」
「…う」
「ウチなんかそっちのけで他のみんなと放課後デートしてるし」
「ううっ!」
「しまいには、その…えりちがみはねが自分から告白してくれたって言ってたから…」
「そ、それは…」
「ううん。いいんよ、べつに」
「全然よくない」
後ろで組もうとしていた両手がみはねの温かい手に包み込まれる。突然のことに困惑して手を引こうとすれば、より力を込められてそれを阻止される。
「ごめん。やっぱり私がそんなこと思わせちゃってたんだね…」
そのままみはねは床に片膝をつき、どこかの物語の王子様がお姫様にするような姿勢になった。
「…言われてから気づくようなバカでごめんなさい。東條希さん、こんなバカでよかったら付き合ってくれませんか?」
下からじっと見つめられる。
なに、これ。かっこよすぎやろ。
「ウチのこと、好きでいてくれてるって思ってもいいん?」
「もちろん。言葉じゃ伝えきれないくらいに大好き」
「ウチ、みはねの彼女でもいいん?」
「そんなの、私がお願いしたいくらいだよ」
「私のこと、大切にしてくれる?」
思わずいつもの関西弁が抜けてしまった。
「今まで希だから大丈夫だって、心のどこかで思ってたんだと思う。本当にごめん。でも、これでもかってくらい希のこと大切にしたい。私だけのものになってほしい」
そういって手の甲にキスされてしまえば、ウチの顔は面白いくらいに熱くなり、緩みきってしまう。
なんなんそれ。ウチのこと大好きだって自惚れてもいいんかな。
いや、みはねのことを信じたい。信じてる。
「ウチ、みはねのこと大好きや」
「ありがとう。私も希のこと大好き」
立ち上がってしっかりと抱きしめられる。こんなにもみはねと近いのはいつぶりだろう?
なんだか、幸せやなぁ。
えりちもこんな気持ちだったのか。こりゃあ、自慢したくなるのも当然やんなぁ。
「みはね。今日、うちに来ない?」
「え、いいの?行きたい!」
「じゃあ、出発や!」
このままずっと一緒にいたいなんてわがままなこと考えて、先のことなんて考えずに自分の家に招待してしまった。
こんなん、すぐ考えればわかることやったのに。
*
「さ、上がって上がって〜」
「お、お邪魔します」
なんだか表情がかたい。もしかして…
「緊張してるん?」
普段はペースを狂わせられっぱなしだから、たまにはからかってやろう。
と、思っていたのはいいけれど…
「う、うん。好きな人の家だからね」
ちょっと頬を赤く染めてそんなことを言う姿に心臓がうるさくなってくる。
話そらさなきゃ。
「ひ、一人暮らしやから、そこまできれいじゃないかもやけど…」
「一人暮らし…なの?」
「あれ?言ってなかったっけ?」
「わかんないけど、たぶん今知ったかな」
一人暮らしってことは、いまさらだけど今日はみはねとずっと二人っきりってことやん!?
「と、とにかく座って」
「うん」
「なんや緊張してきたわ」
お茶を入れながら会話をしようと試みる。
「なに?意識してくれてんの?」
「なっ!?そんなわけないやろ!?」
「…だよねー。冗談だよ」
へらへらとした笑顔をして誤魔化そうとしている。
ウチは知ってる。無理してる時、わざと笑うこと。
「ほんとは…めっちゃドキドキしてる!」
なんでだろう。言うつもりなんかなかったのに、とっさにそう叫んでた。
「っありがと。うれしい」
さっきの顔とは打って変わって、満面の笑みを浮かべるみはね。
そうか…ウチ、みはねのこういう顔が見たかったんだ。無理した笑顔じゃなくてほんとに心から笑っている顔を…
「ウチな、みはねの笑顔好き」
「…」
あれ?なんか黙ってもうた。
なんか、顔を両手で隠してバタバタ暴れているし。
「みはね?大丈夫?」
心配になって近づいて手を伸ばしてみると、いきなり抱きつかれた。
「あーほんと疲れとか吹っ飛ぶ。希かわいすぎ。ほんと好き」
「い、いきなりなんなんよ!」
「いつも思ってるけどね」
もう、ほんとに振り回されてばっかり。
恥ずかしくなって離れようと思ったけど、離してくれなかった。
むしろ、もっと強く抱きしめられてしまった。
「みはねって、いつもみんなのこと甘えさせてくれるけど…甘えることも多いよなぁ?」
突然の問いにびっくりしたのか目を丸くさせている。
「うーん。自分ではやりたいようにやってるだけだからわかんないや」
や、やりたいようにやってるとか…
「天然たらしやん」
「えぇ!?ひどい!」
「ひどくない!もう、みはねなんか知らん」
「え、えぇ…」
あからさまにがっかりしている。
耳と尻尾が生えてたら…なんや、それ、かわいいわぁ。
それにしても、天然さんであんなことしてるとかもう…
ウチだってちゃんと頭では理解してるつもりだけど、みんなにやきもち妬いてしまう。
「今日は、ウチに甘えてみない?」
甘やかしてもほしいけど、甘えてくるみはね…見たい!
「へ?」
「だーかーらー、甘える?」
「えと、どう甘えればいいのかわからないっていうか…」
「はぁ…じゃあ、もうみはねの好きにしててや。ウチは普通に過ごすから。あ、そだ、そのうちお風呂はいっちゃってな」
「あ、う、うん。わかった」
なんだか、ウチのこと全然恋人としてみてないやろこいつ。
いらいらする。
こんなことしてるから素直じゃないって言われてしまうんだろうか。
ーーーウチだってみはねとイチャイチャしたいのに!
みはねはいつの間にかお風呂に入ったみたいだ。
「どうすればいいんよ」
とにかく、今日は泊まりに来た友達をおもてなしってことで考えよう。
うん。それがいい。
「ねぇ、希〜!」
お風呂場の方からみはねが呼んでいる。
なにかあったのかな?
「なぁん?どうかした?」
とりあえずお風呂場のドアの前まできた。
当然いまみはねは何も着ていないだろう。
って、何考えてるん!
「いや、ほら、着替えどうしようかと思って…」
あ、着替えとかそういうことまったく考えてなかった。
「適当に持ってくるから待っててな」
「んー。ありがと」
自分の部屋に逃げるように入る。
う、ウチいま何考えてたんよ。友達。友達が来てるだけや。
よし、大丈夫。
うーん。適当に動きやすいゆるい服を持って行くことにした。
「みはね。もってきた…よ!?」
目の前には何も着ていないみはねの姿。
「な、なななななんで出てきてるん!?」
「え?ダメだった?…あ、お見苦しい姿をお見せしました」
自分が何も着てないことに気づくと、タオルだけとってお風呂場に戻って行った。
めっちゃきれいやったな…
肌とかすべすべしてそうだったし。
って、だからほんとに何考えてるん!ウチ!
恥ずかしくなって服だけ置いてリビングに戻った。
しばらくするとみはねが出てきた。
「その…さっきはごめん」
「べ、別に平気やで」
「なんか、絵里とかことりちゃんとかは普通にお風呂はいってきたりとかしてたから。感覚おかしくなってるのかも」
苦笑しながらそんなこと言う。
それ、完全にウチが悪いやん。
友達同士だって思ってるんだから別に気にすることなかったのに。
ウチが意識しまくってるせい。
謝ろうと思って顔を上げると、髪がびっしょりと濡れているみはね。
「なんで髪の毛濡れてるん…?」
「あ、いや、急いでたのと、ドライヤーの場所わからなかったから」
「もう、こっち座って」
ドライヤーを用意して、みはねを無理矢理座らせる。みはねの髪をかわかしはじめる。
あ、髪の毛さらさらや。
感触を楽しむように乾かしているとみはねが嬉しそうに目を細めた。
「気持ちいい。もっと」
な、なにこの生き物!かわええ!乾かし終わったら今度は丁寧にとかしていく。
「はい、終わり。ご飯食べてはよ寝よ」
「んんぅ…もっと頭なでて」
終わったのに、ウチの手を無理矢理頭まで持って行って目を閉じるみはね。
そのかわいさに負けてゆるゆると頭を撫でる。
しばらくそうすると満足したみたい。
「ありがと。えへへ」
「ほら、ご飯一緒に作ろや」
「あれ?希お風呂は?」
「ウチいつも寝る前に入るんよ」
「…そうだったんだ。じゃあ、早くご飯作らないとね」
おうどんさんを二人で作って食べた。
他愛もない話をしながらご飯を作ったり食べたりするのって楽しいんやね。
今まで一人でやってたから全然知らなかった。
湯船につかりながら今日のことを振り返る。
今ならのんびりとなにも考えなくて済む。
一緒にいると、やっぱり大好きなんだなって思う。どんどんみはねに溺れていく。
そんな感じでぼーっとしていると、いつの間にか1時間も経ってしまっていたみたいだ。
みはね、もう寝ちゃってるかなぁ?
手早くドライヤーで髪の毛を乾かしてリビングを覗いてみる。
ありゃ、やっぱりいない。
今度は自分の部屋を覗いてみる。
「みはね〜?寝ちゃった?」
返事がない。
ベッドの上を見てみるが誰もいない。
「どこにおるん?」
部屋に入ってベッドの方に近づいてみる。
あ、床に寝てるやん。なにやってるんよ。ベッドで寝ていいって言うたのに。
「みはね。そんなとこで寝たら風邪ひくよ」
「んぅ…」
トントンと肩を叩いてみたが起きる気配がない。
今度は揺すってみる。
「ほら。起きろ〜!」
「の…ぞみぃ…?」
あ、起きた。
体を起こして、眠そうに目をこすっている。
「ベッドで寝ていいって言うたのに」
「んー?ベッドは、のぞみのばしょ」
「ウチも一緒に寝ればいいやん?」
「んーん。のぞみやぁでしょ?」
な、なに。やぁって。かわいすぎるんやけど。
「嫌やないよ。一緒に寝よ?」
ちょっとの沈黙。
考えてるみたいな顔をしている。
なに考えてるんやろ。
「ウチはみはねと一緒に寝たいなー?」
そう言うとぱぁっと花が咲いたような笑顔になった。
「ん。のんちゃんとねる」
「の、のんちゃん!?」
いつしか聞いたかわいいあだ名に大きい声を出してしまう。
そんな声を聞いてか不安そうな顔をされてしまえば、なんだか悪いことをしてしまった気分になる。
「いやだった?ごめんなさい」
しゅん、と小さくなるみはねに罪悪感はさらに大きくなる。
「い、嫌やないよ!」
「んぅ。よかった」
とりあえず立たせてベッドに寝かせる。
ベッドに入るなり、いい匂いするとか言ってるバカを放置して自分も入る。
「おやすみなぁ」
おやすみが返ってこない。不思議に思って隣を見てみると、なんとも複雑そうな顔をしたみはねがいた。
「のぞみ。ぎゅうしていい?」
「はぁ…お好きなように」
聞くなりぎゅっと抱きついてくる。
って、今ウチみはねに甘えられてる?
なんだか嬉しくなってみはねの頭をなでる。
「ねぇ、寝る前におやすみのちゅーしてほしい」
は!?なにいってるん!?
驚いて何も言えない私を見てみはねはまたもやしゅんと肩を落とす。
「したくないならいいけど。希ともっと近づきたい触れたいなって」
「ウチも…よ…」
恥ずかしかったけど、めっちゃ恥ずかしかったけど、みはねに触れるだけの小さなキスをする。
「ん…っありがと。おやすみ、希」
「ん、おやすみさん」
大好きよ。ウチの大切な彼女さん。
いつの間にかすやすやと寝てしまったみはねを起こさないていどに強く抱きしめる。
今だけは、あなたのそばにいさせてください。
誰よりも近くに…
閲覧ありがとうございました。
ねむい。