歌の女神たちの天使 〜天使じゃなくてマネージャーだけど!?〜 作:YURYI*
「みはね、あのね。今日、学院存続をお祝いしようと思うのよ」
私の目の前には我らが音ノ木坂学院の生徒会長様と副会長様の姿。なんとも眩しいものですね。
目がチカチカするよ。なんて、言い過ぎか。
絵里と希が揃って私の教室に来るのはとてもめずらしい。
どちらか片方がっていうのはたまにあるけど、2人と会うのはたいてい生徒会室か部活の時だけだ。
そもそも、3年生が1年生の階にくること自体がそう頻繁にあるわけではない。
「そうなんだ。よかったね」
うん。冷静に答えられた私を褒めてほしい。
なんでかって?
よく考えてみてほしいな…
3年生がくること自体なかなかないのに、絵里と希が1年の教室に来たんだよ?
あの、生徒会だしμ'sメンバーとして学校でも有名人の2人が…!
まぁ、それだけじゃないのだが。
とにかく、この二人揃うと人気者オーラがすごい。
にこでもいたら、また違うんだけどなぁ…
「だから、放課後みはねも集合してな?」
あぁ、周りの視線が痛い。このたくさんの人たちの中には本気で好きな人もいるんだろうな…
誰にも譲ってあげないけど。
「お〜い。みはね〜?」
てか、今日もかわいいなぁ。
「みはね?どうして黙ってるのかしら?」
絵里が私の目の前で手を振る。
あげくの果てにこちらに顔を寄せて至近距離で見つめられる。
「っは!?」
「お、戻ってきたみたいやね」
やばい。にこにこしてこっち見ないでいただきたい。
ちょっとしたことでも顔が赤くなってしまう。
「話聞いてなかったやろ?怒るよ?」
むすっとした希は珍しく、普段あまり怒らない希が怒っているのを少し見て見たい気もする。しかし、こんな周りに人がたくさんいる中で怒られるのはさすがにバツが悪い。
ここは素直に謝っておくべきだろう。
「ご、ごめんなさい」
「ま、怒るのは冗談やけどな」
素直に謝った私がばかみたいだ。くやしい…
希は口角をくいっとあげて、イタズラが成功したみたいな子どもっぽい笑顔を向けてくる。
さっきまでくやしさが勝っていたのに、そんなかわいい顔されたら得した気分になってしまう。
うぅ…反則だ…
「ま、とりあえず放課後迎えに来るから。ちゃんと参加してちょうだいね?」
「参加しなかったら…どうなるんやろなぁ?」
あ、何その黒い笑み。さっきまでと違ってとても怖い。
目が笑ってない。
絵里もちょっと苦笑いしてるし。
「そんな怖い顔したら、かわいい顔が台無しですよ?」
希の柔らかくすべすべとしたほっぺたを笑顔を作るようにつまむ。
目をぱちくりとして、頭から湯気が出たんじゃないかってくらいに顔を赤くさせた希。首まで真っ赤になってる。
「そ、そそそそんなことあるわけないやん!みはねのばか!」
「わぷっ」
私の顔を両手で押して顔を逸らそうとしてくる。いや、まって、痛いから。普通に顔も首も痛い。希が自分で顔そらせばいいでしょ!ねぇ!
てか、そもそも私は何も間違っていない。ばかでもないし、希がかわいいのはまぎれもない事実だ。
そんな希と私のやり取りを微笑みながら見ていた絵里は時計に目線を動かす。
「ふふっじゃあそういうことで」
時間になったのか、そんなことを言いながら絵里が近づいてきたと思ったらほっぺにキスされた。
きゃあっと悲鳴とも黄色い声ともとれる声が周りから聞こえる。
やばい。絵里のファンが…怒るよね。
「絵里…周りに人いっぱいいるのに」
私が少しだけ睨みつけると、絵里は肩をすくめながら悪びれもない顔をする。反省の色はまったく見えない。
「そうね。じゃあ…誰もいなかったら素直に喜んでくれるのかしら?」
「そ、そういうわけじゃ…」
私の否定の言葉を聞くなり絵里が悲しそうな顔をする。
今の言い方だと絵里にキスされて嬉しくないってことに…
「あ、ちがくて!周りに誰かいても嬉しいからってこと!」
「みはね…みはねぇ!!!」
ぎゅーっと抱きつかれる。
あぁ…尻尾と耳が見える…
絵里だったら狐さんみたいなふわふわの尻尾が似合うかな?もちろんきれいな金色の。
それにしても周りの方々写真撮ってるんですけど。
なにこれ。明日新聞でも作られてて私が殺されるとかそんなパターンじゃないよね?
「むぅ…えりち!もう帰るよ!」
「ちょ、希痛いわよ」
私から離れようとしない絵里の制服の襟を引っ張るようにして引き剥がす。あ、ダジャレみたいになっちゃった…
さすがに首がしまっていそうでかわいそうだ。
「あはは…希優しくしてあげて。待ってるからね」
「ん、しゃあないから迎えに来てあげるわぁ」
手をヒラヒラとさせながらお騒がせ三年生は去っていった。
さっきから思っていたけど、なんだかいつも優しい希と違って少しだけ態度が冷たい気がする。
希は実はツンデレなのかな?
いや、目指してるの?真姫ちゃんが、最近自分の気持ちをストレートに伝えてくるようになったと思ったら今度は希か。
素直にさせたいなぁ…
っていけないいけない!周りのみんなどうにかしないと!
はぁ…放課後早く来ないかな…
***
「存続が決まったということで、部長のにこにーから…思えばμ'sが結成され…どれほどの…」
『かんぱーい!!!』
「ってちょっと!最後まで聞きなさいよ!」
さすがにこ。ギャグ線高いわぁ。
それに花陽、めっちゃ笑顔でお米を差し出さないでほしいな。まぁ食べるけどね。あ、やばいこれおいしい!
ご飯を急いで口にかきこんで飲み込む。
なんだかんだ言いながらも、楽しんでしまっている自分がおかしくて笑ってしまう。
ちらりと夫婦感を醸し出して椅子に座っている絵里と希を見てみると何か話しているようだった。
「なーに話してんのっ?」
「あぁ、みはねか。今、えりちにμ'sやってよかったでしょ?って聞いてたんよ」
なるほど。μ'sやってよかった…ねぇ。
「どうなの?絵里」
「ん、えぇ。正直、私がいなくても結果は同じだったんじゃないかって…」
そんなこと思ってたのかポンコツめ。
「μ'sは10人。それ以上でもそれ以下でもダメやってカードは言うてるよ」
当たり前のようにμ'sは10人って言ってくれる希。その言葉を聞いて心がぽかぽかと温まる。
「そうだよ。絵里がいなかったら私はどうなってたんだろうなぁ…絵里にどれだけ助けられたか」
「そんな!私のほうがみはねに助けてもらってばかりよ!」
私はほとんど何もしてないよ。ちゃんとみんな自身の力でここまで来たんだから。
って否定しても、絵里や希にうまく言いくるめられてしまうだけだと思うので、あえて何も否定しない。
そういえば、最近の希の様子について聞きたいことがあったんだ。
「あ、そうだ希。あのさ…」
希に話しかけた瞬間に向かいの窓側にあるベンチに座っていた海未ちゃんが立ち上がる。
「すみません。突然ですが、ことりが留学することになりました。2週間後に日本を発ちます」
タイミングが悪かった。
ほんとにタイミングが悪い。なんでよりによってこんな時に。
驚くみんなをよそに、今度は海未ちゃんの隣にいたことりちゃんが話し出す。
「前から服飾の勉強したいって思ってて…ごめんね、もっと早く話そうと思ってたんだけど…」
ことりちゃんが沈んだ顔でそう告げる。
「戻ってこないのね?」
椅子から立ち上がり絵里は問いかける。
その言葉にことりちゃんは俯く。
「高校卒業するまでは…」
『高校卒業するまでは』ということはスクールアイドルはもう一緒にできないということだ。
周りのみんながざわつく。
そんな中一人だけ、高坂先輩がゆらりと立ち上がった。
「どうして…言ってくれなかったの。海未ちゃんは知ってたんだ」
部屋に少しの沈黙が訪れる。
その沈黙を破ったのはやっぱり高坂先輩で。
「どうして言ってくれなかったの…私と海未ちゃんとことりちゃんはずっと………
いなくなっちゃうんだよ!?ずっと一緒だったのに…」
「何度も言おうとしたよ。でも…穂乃果ちゃんライブやるのに夢中で……ラブライブに夢中で…」
聞いているこっちが涙が出てくるようなやりとり。高坂先輩の言っていることは今のことりちゃんにとっては悲しくなるだけだ。
何か言いたくてもいうことはできない。
幼なじみ同士でしか分からない話だとも思うから。
「聞いてほしかったよ、穂乃果ちゃんには。一番に相談したかった…っ」
この場にいるのが耐え切れなくなったのか、ことりちゃんは泣きながら飛び出してしまった。
「ずっと穂乃果を気にしてて…黙っているつもりはなかったんです。分かってあげてください」
海未ちゃんのそんな言葉を聞いても高坂先輩は目を見開いたまま固まってしまっている。
ことりちゃんのこと…追いかけなきゃ。
「高坂先輩の気持ちがわからないわけじゃないですけど…もっと他にかけてあげる言葉、あったんじゃないですか?」
厳しいようだけど今は仕方ない。
今は私の中ではことりちゃんが最優先だ。
私は出て行ってしまったことりちゃんを探しに部屋を飛び出した。
*
〜絵里〜
ことりとみはねがいなくなった今、この教室には静寂が訪れていた。
「高坂…先輩…?」
穂乃果は目に涙をいっぱい溜めてぽつりと呟いた。
前々から気になっていたことがある。それは全員が気づいていたけど、誰も触れてこなかったこと。
「穂乃果…こんな状況で聞くのもあれだとは思うんだけど。みはねと何かあったの…?」
ついに聞いてしまった。
学院祭のあたりからみはねの様子はおかしくなった。その当時、穂乃果は倒れていた。
そして、その後も二人が仲良くしているところを見た人はいない。
周りから見ると2人に何かあったのは確実で…
ちゃんと聞かないことには何もわからない。
「穂乃果ちゃん。ウチらには聞く義務がある思うんやけど?」
「うん。…あのね」
穂乃果はゆっくりと学院祭の前日にみはねと何が会ったのかを話してくれた。
「あんたねぇ…!」
「にこちゃん。落ち着くにゃあ!」
やっぱりいちばん仲間思いのにこが穂乃果につかみかかろうとする。しかし、隣にいた凛が止めてくれた。
今ここですべきことは穂乃果を咎めることではない。
「ほんとに、穂乃果はみはねがμ'sのメンバーじゃないって思ってるわけ?」
「ことりが、みんなが、みはねのこと迷惑だって言ったこと…ありませんよ。穂乃果はそう思ってたんですか…?」
「みはねちゃんは、一緒に踊ったり歌ったりしていたわけじゃないよ。でも、私たちのサポート…私たちじゃできないようなことまで、やってくれてました…」
真姫の言葉も、海未の言葉も、花陽の言葉もどれも今の穂乃果には重くのしかかる言葉だった。
「どうしよう…穂乃果…みはねちゃんにひどいこと…」
「今、穂乃果、あんたがあいつにどれだけのことを言ったのかちゃんと理解できた?」
今度は掴みかかろうとはせず、ゆっくりと穂乃果に近づくと穂乃果にハンカチを差し出した。その姿はやっぱり先輩そのもので、普段から一年生みたいだと言われているが、この時ばかりはお姉さん的なオーラが出ていた。
にこはやっぱり私たちの部長ね。
こういう時だけかっこよくなっちゃって。そんなこと言ったら本人に怒られるだろうけど…
「みはねは穂乃果にそんなこと言われたなんて一言も言ってなかったわ。むしろ、全部自分のせいにしてた…。たぶん…穂乃果と距離を置いてるのは自分が穂乃果の…」
邪魔なんだと思っているせい。その言葉は音にならずに消えた。穂乃果は私が言いたいことがわかったのか力なく膝から崩れ落ちた。
「ごめん、なさい…。それで、…っく、高坂先輩って…」
ついにぼろぼろ泣きだしてしまう。
「穂乃果。とりあえず今日は帰りましょう」
泣き止まない穂乃果を海未が立たせる。
「みんな、後片付けをしてお開きにしましょう」
不安そうな顔をしていたが、みんなちゃんと片付けはしてくれた。
みはねとことりはどうなったのだろうか。
みはねのことだからうまくやっているとは思うのだけれど。
みはね…あなたは周りに優しすぎるのよ。
そのくせ自分にはその優しさが全く向かない。
みんなそんなあなたのことが大好きだけれど、たまに思うの。なんでって。
どうしてそこまで…
もっと自分にも優しくしてあげてよ。
私はあなたからもらってばかり。私は何もあげられてない。
もっと私を…ううん。私たちを頼ってよ…
恋人としてでも仲間としてでも…なんでもいいから…
ついに穂乃果がみはねに言ってしまったことがバレましたね。
今回の話はどうしても矢澤先輩に活躍してほしくて…笑
穂乃果は結局あのハンカチ使ったのでしょうか?