歌の女神たちの天使 〜天使じゃなくてマネージャーだけど!?〜   作:YURYI*

29 / 73
28.真姫ちゃんとふたりきりで

〜真姫〜

 

 

学校内を探し回り、みはねの姿を探す。

雨降ってるし外には出てないと思うんだけど…

あくまで冷静を装っているが、内心はかなり焦っている。

 

 

「あ…」

 

屋上へのドアの前に座り込んでいる少女が一人。

こんなところにいたのね。

 

「みはね…」

 

私の声に反応してぱっと顔を上げる。

目からは涙が溢れていて、その体は震えている。

ねぇ、あなたはなにに怯えているの?

 

「みはね」

 

目をそらしてしまった彼女の名前をもう一度呼ぶ。今度はさっきより強めに。

 

「ま、…っ。にしき、のさん」

 

「…っ!」

 

最初にいつも通り真姫ちゃんと呼ぼうとしたのかわからないけど、苦しそうな顔をして西木野さんと呼ぶ。

なにそれ。私のことは西木野さんって呼ぶの?

 

「ふざけんじゃないわよ…」

 

「っごめんなさい。ごめん、なさい」

 

「やめて!」

 

「…っ」

 

「もう、謝らなくていいから」

 

こんなみはねを見て涙が出そうになる。

この子は何に怯えているのだろうか。

安心してほしい…そう思いゆっくりとみはねに近づいていく。

みはねは両手で顔を覆って、いやいやと頭を横にふる。

みはねの手を優しく掴んで顔を見ると、やっぱり泣いていて。

 

「みはね。大丈夫だから」

 

「や、私…ひっく」

 

大丈夫、そう言って正面から両腕でみはねを優しく包み込む。

ん?みはねの体、熱い。

おでこに手を当てるとやっぱり熱い。

 

「今日、うちに泊まりなさい」

 

私は嫌がるみはねの手を無理に引いて自分の家に向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

家に着くと誰もいなかった。

そういえば、ママが今日は家に帰れないって言ってたわね。

そのほうが好都合か、と思いながらみはねの手を引いて自分の部屋に入る。

みはねは入ろうとしなかったが無理やり引いて部屋に入れる。

 

「座って」

 

ベッドに座るように促すがやっぱり座ってなんかくれなくて、怯えたような目で私を見てくる。

仕方がないから無理やり座らせる。

おとなしく座っていることを確認しながらあるものを探す。

 

「あった。ほら、熱測って」

 

「な、んで…?」

 

「いいから。はやく」

 

みはねはおずおずと体温計を脇に挟む。

数分したら測り終わったみたいで、私に体温計を渡してくる。

 

「えーっと、38.2℃!?ばっかじゃないの!」

 

は?この高熱のなかでずっといたわけ?

前の怪我のこともそうだけど、もう少し自分の体を大切にしなさいよ!

お説教は後でいいから、とにかく今は休ませないと。

制服を着替えさせてベッドに寝かせる。もちろん無理やり。

 

「いろいろ持ってくるわね」

 

返事なんか返ってこなかったけど、苦しそうに顔を歪めるみはねを見たら怒りなんか吹っ飛んでしまった。

 

急いでリビングに行って必要なものを探す。

冷えピタ、お水、風邪薬…はこれでいいわね。食べ物…は後ででいいか。

あれこれと考えているうちにかなり時間が経ってしまっていた。

手にいろいろ持って部屋に戻るとみはねは寝ていた。よかった、ちゃんといるわね。

とりあえず冷えピタをはらなきゃね。

 

「ぅ…ん。きらい、に…なっちゃ、やあ」

 

みはねが涙をこぼしながら寝言を言う。

なんだか、これが心の声だと思うと怒りがこみ上げてくる。

…誰がいつみはねのことを嫌いになったのよ。でも、不安にさせてる私たちも悪いわよね。なんで不安になったのかはわからないけれど…

汗でくっついてしまっているみはねの前髪を横に流すようにそっと撫でる。

 

「大丈夫。みはねのこと大好きよ」

 

おでこにキスを一つ。

なんだかいけないことをしてる気がしてきたわ…

うん。冷えピタはりましょう。

 

「ん、あれ、ねちゃって…」

 

起こしちゃったみたい。

ま、ちょうどいいし薬でも飲ませようかしらね。

 

「みはね、薬用意したわよ」

 

「…なんで」

 

「は?」

 

「なんで…わたしなんかにそこまでしてくれる、んですか」

 

やっぱり予定変更。さきにお説教ね。

 

「なんでって、好きだからに決まってるじゃない」

 

「う、そ…」

 

「嘘じゃないわよ。私の気持ちを勝手に決めないで!」

 

「ま、あ…」

 

「ちゃんと名前で呼びなさいよ。前みたいに普通に話してよ。傷つくんだけど?」

 

「ごめ、ん…なさい」

 

横になっているみはねの手を引いて体を起こさせる。

びっくりしているみはねをよそに、そのまま抱きしめた。

 

「理由はわからないけど。不安にさせてごめんなさい。私がみはねのこと嫌いになることなんか絶対ないんだから」

 

ぎゅうっと強く抱きしめる。

苦しくても我慢してよね。今、どうしようもなくこうしたい気分なのよ。

 

「くる…しいよ」

 

「やだ。まだ離さない」

 

「ん、もっとぎゅってして。真姫ちゃん」

 

な、なによそれ。かわいすぎるんですけど。熱のせいか、はたまた泣きそうなせいか目が潤んでいるみはねの破壊力は抜群だった。

みはねと出会わなかったらこんな感情知ることもなかったのかも。

 

「あのね…」

 

「なに?どうしたの?」

 

「わたし、こわいの。みんなのじゃまに、めいわくになってるんじゃないかって」

 

「はぁ…やっぱりそんなことだろうと思った。そんなわけないじゃない」

ことりの予想は的中していたようだ。まぁ、なんでこんなに不安になったかの理由はわからないけどね。

 

「でも…」

 

「でもじゃないの。私にはみはねが必要だし、迷惑なわけないでしょ」

 

みはねの目からぽろぽろと涙が溢れてくる。

その涙を人差し指ですくって、おでこに、ほっぺたに…唇にゆっくりと口付けていく。

 

「くすぐったいよ。真姫ちゃん」

 

「こら。逃げないの」

 

そのまま二人してベッドに倒れ込む。

お互い引き寄せられていく。そして、どちらからともなくもう一度唇を重ねた。

 

「大好きよ。みはね」

 

「真姫ちゃん。だいすき」

 

そのまま強くみはねのことを抱きしめた。

 

 

 

 

 

 

「ねえ、真姫ちゃん。その…おなかすいちゃった」

 

しばらく経ってから、みはねは恥ずかしそうにそう言った。

 

「ん、じゃあ、何か食べるもの持ってくるわね」

 

ベッドから降りようとすると、体が後ろに引っ張られる。振り返れば下を向いて私の袖を掴んでいるみはねがいた。

 

「ちょっと、取りに行けないじゃない」

 

おとなしく待ってて、と言ってまた歩き出す。が、さらに強く腕を引っ張られる。

 

「もう!どうしたのよ?」

 

「いっちゃやだ。やっぱりいっしょにいて」

 

今度は上目遣いで、しかもさっきよりも目を潤ませて見つめられる。

熱のせいかいつもよりふわふわしているし。

か、かわいすぎるでしょ。ばかじゃないの!?

 

「何か食べないと、薬も飲めないじゃない」

 

「真姫ちゃんがいっちゃうならのまなくていい」

「だめよ。すぐ取ってくるから」

 

「ほんとに?ちゃんともどってくる?」

 

戻ってくるって…それじゃまるで私が逃げるみたいな言い方じゃない。

こんな弱ってる子置いてどこに行くってのいうのよ。まったく。

まぁ、弱っていなくてもみはねから離れるなんてことできないんだけど…

そんなばかなこと考えているみはねの頭を撫でる。

 

「ほんとにすぐ戻ってくるから。おとなしく寝てなさい」

 

おでこにキスをするとみはねはおとなしくなった。

 

「…ん。まってる」

 

その言葉を聞いてから部屋を出て、ダッシュで階段を駆け下りてリビングへ。

冷蔵庫を開けるとヨーグルトがあった。

 

「これでいいわよね」

 

ヨーグルトとスプーンを取る。

そのまま急いでみはねの待つ自分の部屋へ急ぐ。ドアを開ける前に息を少し整えて、何もなかったかのような顔で部屋に入る。

ベッドまで近づくと、みはねが前のめりになって抱きついてきた。

 

「ちょ、っと」

 

ヨーグルトが落ちるから、置くまで待って欲しいんだけど…

 

「ほら、すぐ帰ってきたでしょ?」

 

「ん。でも、真姫ちゃんいなくてさみしかった」

 

ぎゅうっとさらにくっついてくる。

みはねって、実は寂しがりやで甘えん坊なのかしら?いや、確実にそうね。

ってことは今まで無理させちゃってたってことじゃない!

はぁ…気づけてよかった。

 

「ほら、ヨーグルト持ってきたから食べて?」

 

こくりと頷く。その姿が小さい子みたいでかわいい。

ヨーグルトをスプーンですくうとみはねの口元まで持っていった。

 

「え、じぶんでたべれるよ」

 

「いいから。ほら、あーん」

 

今日はみはねをぐずぐずに甘やかすって決めたの。

他の人にならこんなこと絶対にやらないけど、みはねには…ね。

おとなしく口を開けるみはねにヨーグルトを食べさせてあげる。

 

「真姫ちゃんがたべさせてくれたから、おいしい」

 

ふにゃりと笑ってそんなことを言ってくる。

あぁ、もう、ほんとずるい。

みはねのかわいさに悶えながらも、最後までちゃんと食べさせることができた。

 

「じゃあ、薬飲んでね」

 

あとは薬を飲ませて寝かせるだけ。なんだけど…みはねはなかなか薬を飲もうとしない。

さっきからみはねの視線は薬と私を行ったり来たり。

 

「みはね…?」

 

「ね、このおくすり。にがい?」

 

薬を私に押しつけるようにしてそんなことを聞いてくる。

そりゃあ、薬ってほとんど苦いものでしょ?

 

「当たり前じゃない…って、なんで?」

 

「いや、その…」

 

「まさか、苦いのがやだとか言わないわよね…?」

 

そう言った瞬間、目をそらすみはね。

なるほど、とことん子どもってことなのね。

 

「ちゃんと飲めたら。今日はずっと一緒にいてあげるけど?」

 

「ほんとう?」

 

「嘘なんか言わないわよ。ずーっと…ね」

 

みはねは私が言い終わらないうちに薬を口に放り込むと水をゴクゴクと飲んだ。

その様子を見て少しだけ笑ってしまう。

 

「真姫ちゃん!のめたよ!」

 

キラキラとした瞳でそんなことを言うもんだから、一瞬思考が止まってしまった。

 

「みはねはえらいわね」

 

頭をなでてあげると嬉しそうに目を細めた。

かわいい。本当にかわいい。

あぁ、これは、私がみはねから離れられないわ。

 

 

 

 

次の日、みはねの熱は下がっていて一緒に登校した。

一緒の時間に出ていつもの私の通学路を通って音ノ木坂へ。そんな単純なことなのにこんなに恥ずかしくて嬉しいのは、絶対にみはねのせい。

 

だって、いくら周りに誰もいないからって手を繋ぐなんてありえないじゃない?

 

しかも、恋人繋ぎで。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




閲覧ありがとうございます!

μ'sメンバーで看病とかしてくれそうなのって、私の中では真姫ちゃんと希ってイメージなんですよね。


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。