歌の女神たちの天使 〜天使じゃなくてマネージャーだけど!?〜 作:YURYI*
どんどん学院祭へと日が進み、μ'sの練習にも力が入ってくる。そのため、曲の仕上がりも今まで以上にレベルの高いものになってきていた。
今日は練習を早めに切り上げてもらい、部室に集まってもらった。
本当はこの場でことりちゃんに留学の話をしてもらえたらと思っていたんだけど、本人が今はみんなに学院祭に集中してほしいからって遠慮してしまった。学院祭が終わったら絶対に話すと約束したので大丈夫だとは思うけど。
だから、今日は私の話を聞いてもらうだけ。
「ごめんね。大事な時に時間とってもらっちゃって」
突然のことにもかかわらず、みんなは快く承諾してくれた。これから話すことは、まだ理事長とことりちゃんと絵里ちゃんしか知らない。
付き合うことになったわけだし、誰かが知っていて誰かが知らないというのはあまり良くないと思う。
「いえ、最近は練習がハードだったのでちょうど良かったです」
「海未ちゃん、ありがとう。そう言ってもらえると助かるよ」
こんな私の勝手なことにみんなは笑顔でいいと言ってくれる。
そんなみんなにだからこそ、隠し事はしたくない。
そこまで重要なことではないが、少しだけ言うことがためらわれる。私は今更なにを怖がっているんだ。
記憶がないのはどうしようもないことだし…
いや、これから先迷惑をかけてしまうかもしれない。やっぱり言うべきだ。
私が話し始めるのを真面目に待ってくれているみんなを見て、少しだけ安心し緊張がほぐれる。
「その、ね。私、ここに入学する一週間くらい前以前の記憶がないんだ。それだけ伝えておきたくて」
「記憶が…ない?」
穂乃果はきょとんとしている。まぁ、突然こんなこと言われても意味がわからないよね。
「それって、病院で診てもらったりしたの?そもそも、なんで?」
「真姫ちゃん。みいちゃんはね、本当になにもわからないんだよ。知っていたのはみはねって名前だけ」
「音ノ木坂学院の前で倒れていたところをことりちゃんのお母さんに助けてもらったんだ。突然こんなこと話してごめん。困るよね…」
「困らないわよ」
真姫ちゃんは力強くはっきりと言った。その真剣な眼差しに思わず息を飲む。
「そもそも、それって何か関係あるのかにゃ?みはねちゃんはみはねちゃんでしょ!」
「凛の言うとおりよ。あんたの記憶がないからって、私の気持ちは変わらない」
凛とにこの言葉に少しだけ涙が出そうになる。変わらないと、私は私だと言ってくれる。その言葉が温かくてじわりと心にしみわたっていく。
「…ありがとう。あ、そうだ、ことりちゃん。あのことも言ってもいいかな?」
首をかしげることりちゃんの耳元で学校に住んでること、と言えば少しだけ困った顔をされる。
これは理事長とことりちゃんと私だけの秘密。
でも、伝えておいたほうがいいと私は思うんだけど…
「…うーん。言ってもいいとは思うけど、お母さんにも伝えておかないとね。私から言っておくね?」
「ううん。私も一緒に言うよ。約束破っちゃうわけだし」
「…わかった」
ことりちゃんが頷くのを見てからみんなのほうを向く。
「私、実はここに住んでるの。このことは本当は誰にも言っちゃいけないんだけど。みんなにだけは、伝えておくね」
「みはねちゃん、だからいつも朝早いんだ…」
「花陽がアルパカのお世話をしているところ、いつも見てるよ」
「そ、そうだったんだ」
少しだけ恥ずかしそうに笑う花陽がかわいくて思わず笑みがこぼれる。
「今度、また手伝いに行くよ」
「うんっ」
驚きつつも普通に接してくれていることにひどく安心する。
私はなにを恐れていたんだろう。
「そうだったのね。みはね、いつも送ってもらっちゃってごめんなさい」
絵里ちゃんはなにを思ってか謝ってくる。絵里ちゃんが謝ることなんてないと思うんだけど。
「私が好きでやってるんだから気にしなくていいんだよ。それに、謝られるより…」
「ふふっそうね。いつもありがとう」
か、かわいい。
上目遣いでもじもじとお礼を言う絵里ちゃんはいつもの凛々しさとはまた違ってとてもかわいらしい。
みんながいるときにこんな顔するのって珍しいような…
あ、もしかして昨日のこと…いや、そんなことないか。
昨日の私の告白を思い出し、それが原因かと考えるがそうだったとしてもそうじゃなかったとしてもどちらでもいいかなと思い直し、目の前のことに集中することにした。
「その、このことは誰にも言わないでほしいんだよね。私が勝手に話したことなのに、面倒かけてごめん」
座りながらで申し訳ないが、できる限り頭を深く下げる。
「それだけウチらのこと信用してくれてるってことやんな。嬉しいことやん」
顔をあげれば希の慈悲深い翡翠の瞳で穏やかに微笑まれる。
「それに、もっとみはねのこと教えてほしいんやけど」
予想外のことに私は少し驚くが、周りのみんなはうんうんと頷いて希に賛同している。
「え、私のことって言われても…」
「じゃあ、はいはーい!穂乃果聞きたいことがあります!」
「は、はい。どうぞ」
穂乃果は元気よく手を上げる。そんなことしなくても、普通に聞いていいんだけどね。まぁ、そこがなんとも穂乃果らしい。
「えっとね。好きな食べ物は?」
がくっ
きっと、部室にいる全員が私と同じことをしただろう。
あんだけ勢いよく手をあげるものだから、勝手に誰も聞かないようなすごいことを聞くものだと思い込んでしまっていた。
好きな食べ物…か。
「んーっと、手料理…かな。気持ちがこもってるものが好き」
これは、質問の答えになっていないかもしれない。
でも、こう、誰かが自分のために作ってくれてるものってすっごくおいしいよね。心もポカポカするし。
「みはねらしいわね。じゃあ、得意なことは?」
今度はにこが興味なさげに聞いてくる。いや、確かに流れ的にそんな感じだけど、興味ないなら乗らなくてもいいよ。
スタートが穂乃果のせいで、自己紹介の時の質問タイムみたいだ。
「得意なことかはわからないけど、記憶力がいいこと。だから、暗記?とか?」
「聞かれてもわからないわよ!まったくもう」
いや、私にもわからないんだからしょうがないじゃん。そんなつまらないものを見るような目で見ないで!
「じゃあ、好きなタイプとか?」
いや、真姫ちゃんも適当に聞かないでよ。
とかなんだかんだ言いながら、答えを真面目に考えている私を誰か褒めて。
好きなタイプって結構難しい。うーん。
「す、好きになった人…です」
「ふーん。逃げるなんてずるいわね」
「嘘は言ってないからいいの!」
だって、他に思いつかなかったんだもん。好きになった人が好きなタイプって当然のことだもん。別に逃げてないし。
みんなも少しだけ不満そうな顔をしているが、ここはなんとか見逃してほしい。
「じゃあ、私も質問しちゃおうかしら」
「ん?いいよ」
絵里ちゃんはいつものおきまりの考えるポーズで考え始める。その姿はなんだか生徒会長をやっている時のようだ。
「そうね…今一番好きなものは?」
真剣な面持ちでそんなことを聞いてくる。
その質問は周りも興味があるようで、じいっと全員に見つめられる。
この質問は考えるまでもない。答えはもうすでに決まっている。
「ものじゃないけどいい?」
「え、えぇ。もちろんいいわよ」
「えっとね…みんなだよ。μ'sのみんなが今私の中で一番好きで、一番大切」
しんと静まり返った部室に私の声が無駄に大きく響く。
みんなは動きが完全に止まってしまっている。全くと言っていいほど無反応だ。
「え、なんかごめんなさい」
なんだか恥ずかしいやら悲しいやらで心が折れそうになってきた。
少しも反応してくれないとか…本当に辛い。
「ねぇ、なんでみんな無反応なの?ごめんね?謝るから普通に戻ってよ…」
もう本当に心からそう思う。何か悪いことしちゃったならいくらでも謝るから勘弁してほしい。
そろそろ泣きそうになってきた頃、質問をした張本人の絵里ちゃんがいきなり席を立った。そのまま無表情で私のところまで来ると、なんの前触れもなく抱きついてきた。
「なによそれ。そんなの反則よ」
私も好きよ、ともっと力を込められた。結構きつく抱きしめられているはずなのに、壊れ物を扱うかのように優しくて不思議と嫌じゃない。むしろ、ずっとこのままでいてほしいくらいだ。
「あ、絵里ちゃんばっかりずるいよー!」
そう言って今度は穂乃果が。
まぁ、御察しの通り最終的にはみんなに抱きつかれた。
もう何が何だか分からなくなって、それでも嬉しくて楽しくて、なにもかもなんでもいいやって思っちゃったりして。
本当はみんなに自分のことを話して、この心の暗闇から救い出してほしかったのかもしれない。
今私の心をやさしく照らしてくれているμ'sという名の光を、手放したくないというのは私のわがままだろうか。
いや、もう本当に今はなにも考えたくない。
この幸せな時間がずっと続けばそれで十分だ。
閲覧ありがとうございました!
更新速度がどんどん落ちている…
そして話はふらふらと迷走中…
…がんばります。はい。