歌の女神たちの天使 〜天使じゃなくてマネージャーだけど!?〜 作:YURYI*
部活の時間は終わり、帰る時間となった。まぁ、部活というほどのことはしていなかったけど。
いつもならみんなを家まで送るという任務があるのだが、今日はお昼にことりちゃんと約束をしたので二人で残ることになった。
みんなは少しだけ不満そうな顔をしていたが、今一番気になるのは、ことりちゃんが少しばかり元気がないということだけだ。
「みいちゃん、ありがとう」
「ううん。どうかしたの?元気ないように見えるけど…?」
「みいちゃんは優しいね…あのねーーー」
暗い表情と重い口。何度も言おうとするが、何かをためらっているようにまた閉ざす。
ことりちゃんは何度かそれを繰り返すと、震える手を握りしめてゆっくりと息を吐いた。
「私、留学するの」
私の鼓膜をことりちゃんの甘いかわいらしい声が揺らす。
「りゅ、うがく…?」
全く予想もされていなかったその言葉に動揺する。留学ということは、ことりちゃんは遠くに行ってしまうってこと、だよね。
信じたくない。そんなことあるわけない。そう思いたいが、返事もせずただ悲しい顔をすることりちゃんを見てしまえば、本当のことなんだと痛感させられる。
「まぁ、まだ行くかな行かないか決まっていないんだけど…ね」
決まっていないと言っても、そんな顔で言われたら、行くって決めているかのように錯覚させられてしまう。
いや、もしかしたら行きたいけど私たちのことがあるから踏み出せていないだけなのかも。
「いつから言われてたの?」
「合宿のちょっと前くらい…」
「このこと知ってるのは…?」
「今のところお母さんとみいちゃんだけだよ…」
「…そっか」
ことりちゃんはどうしたいのだろうか。私にできることはなんだろう?
「その…穂乃果とかには相談しないの?」
「本当は一番に穂乃果ちゃんに相談したかったんだ…」
「ん、そっか。その…私にできることとかあったらなんでも言ってね?」
「…なんでもいいの?」
「う、うん。いいよ」
ことりちゃんが少しでも元気になるのなら…
そんな恥ずかしいセリフは言えなかった。
って、なんかことりちゃんがにこにこしながら近づいてくる。
え、え?
「こ、とりちゃん?」
かわいい子にましてや好きな子に接近されるとさすがにドキドキするわけで。
ぎゅっと私に抱きつくと、耳に息を吹きかけられる。
「みいちゃんと、キスしたい」
顔を離して首をかしげるその仕草さえも、わざとやっているんじゃないかってくらいに思えてくる。
それほどまでに本気モードで言ってきているようだった。
「へ?」
ワンテンポずれて、返事ともいえないようななんとも間抜けな声を出す。なにやってんだ私。
「だめ…?ことりたち恋人同士だよね?」
「そ、そう…だよ?」
その問いかけに肯定はするが、はっきりとしたものにはならなかった。
恋人同士って言っても、ついさっきなったばっかりなんだが。てか、μ'sのみんなと付き合うことになったしね…
「じゃあ…」
「いや、でも!」
「初めてはみいちゃんとがいい」
「な、なおさらだめでしょ!?」
「なんで、私の一番をもらってほしいの。みいちゃんは、初めてじゃ…?」
少しだけ期待をした目でこっちを見つめてくる。
そんな顔で聞かれてしまえば嘘をつくことなんてできない。
あぁ、絵里ちゃんと2回もしてるんだよなぁ…
「は、初めて…ではないです…」
その言葉に目を見開くと、ふーんと少しだけ拗ねた顔をする。そういう顔も、可愛らしくて困ってしまうのだが。
「みいちゃん?誰としたのかな?」
顔をもうほんとに唇が触れてしまうんじゃないかってくらいに近づけてそんなことを聞いてくる。
威圧感が…すごい。
これ、言わないほうがいいんじゃーーー
「言わなかったら、どうなるかわかってるよね?」
ですよね。
もうどうにでもなれ…!
「え、り…ちゃん、です」
「ふぅん。絵里ちゃんと…」
目が合っているはずなのに、さらにその奥をのぞかれているかのような感覚。
実際にことりちゃんには見えているのかもしれないな、と少しだけ怖くなる。
「え、絵里ちゃんは悪くないからね!?悪いのは私だから…!」
「え?そんなのわかってるよ?…とにかく、ことりともキスしなさぁい」
わかってるんかい。
「え、えと、私なんかでーーーんんっ!?」
いいの。その言葉は言えなかった。
「ん、っちょ、ことりちゃ…んぅ」
心の準備ができていなかったせいか、心臓が張り裂けてしまうんじゃないかってくらいにばくばくと鳴る。
何秒かわからないくらい長い間触れ合っていた気がする。
しばらくすると、満足したようだ。
「ぷはっ…はぁ、はぁ、続きはまた今度するんだからね!?」
いや、満足はしていないらしい。そんな言葉を私に浴びせると赤くなった顔を隠すかのようにプイッとそっぽを向いてしまう。
「じ、じゃあ、帰ろうか?家まで送っていくよ」
手を差し出すと、当たり前のように握ってくれて。
なんだか、恋人っぽいかも?
「みいちゃん、ありがとうっ」
あぁ、私この笑顔に弱いんだよなぁ。
*
昨日は本当は何もなかったんじゃないかってくらいに平和な今日。
びっくりするくらいにこれといったこともなく、もう部活の時間になってしまった。
「そろそろ学園祭だし、ラブライブに出場できるか決まるだいじなときだから、張り切って練習するぞー!」
穂乃果のテンションメーターがこれでもかってくらいにふりきれている。
練習も少しやり過ぎてるし、ことりちゃんの話を聞ける感じでもなさそうだ。
「無理しすぎちゃダメだからね?」
って言っても聞かなそうだけど…
「大丈夫、大丈夫〜」
ほら、まったくもう…
そのあと、誰も怪我することなく無事に練習は終わった。あとは着替えるだけですね。
「みんな、早く着替えちゃいましょう」
絵里ちゃんのその一言でみんな着替え始める。
かなり気まずいんだよね…この状況。
私はマネージャーの仕事だけだから着替えないし。目のやり場に困っていると、まだ着替えている途中のことりちゃんが口パクでこっち来て、と言ってきた。
そんなこと言う前に早く制服着てよ…
心の中でそんなことを言いながらもちゃんということは聞く。
「ど、どうしたの?」
「………」
無視ですか?え?私さっき呼ばれたよね?しかも目もあってるよ?いや、見つめられてるけど…
「こ、ことりちゃん?……ん!?」
ことりちゃんにいきなり口を塞がれた。…ことりちゃんの口で。
あぁ、なんか昨日も同じことあったような気がする。もう私は動揺するどころか冷静だ。
「ことり!なにしてるんですか!?」
ほら、海未ちゃんも驚いてるよ。
しかも、海未ちゃんの声が大きかったせいでみんなの注目の的になっちゃったし…
てか、息できない!
「はぁ…はぁ…ちょ、ことりちゃん!」
とにかく酸素を求めて口を離す。
「ダメだよ?ちゃんとキスしてくれなきゃ…ね?」
「で、でもみんな…」
「みいちゃんおねがぁい。今だけ…」
うぐっかわいい。
しかも、留学のことも考えると…
あぁ、私どんだけ甘いんだよ…
ことりちゃんの耳元に顔を近づける。
「…どうなっても知らないからね?」
あ、耳真っ赤になった。
はぁ…本当は恥ずかしいのに、たぶん昨日言ったこと気にしてるんだろうな…
絵里ちゃんとキスしたって言ったあとのあの表情を思い出す。
ことりちゃんがちらちらと絵里ちゃんのほうで盗み見ていることで確信する。ことりちゃん、やきもち妬いてるのかも…
もしほんとにそうだったら、かわいすぎる。
まぁ、あの表情は決してかわいいなんて言えるレベルじゃなかったけど。
触れるだけのキスをする。それだけなのにことりちゃんは顔を真っ赤にして目をぎゅっと閉じている。そんな顔されちゃったら本当に我慢できなくなる…
「んっ、……んぅ」
息継ぎをさせてあげる余裕もなく続けた結果、ことりちゃんは足りなくなった酸素を求めて顔を離そうとする。
…そんなの許さないんだから。私にこんなことさせといて。それに、さっきちゃんとしなきゃダメって言ったのは誰だったっけ?
「んんっ…あっ」
腰を抱いて逃げられないようにしてしまえば私からのキスを受け入れるしかない。
もう今の私たちにはお互いのことしか考えることができない。
周りにみんないるとか、この後どうするとか、そんなことは少しも考えられない。
前言撤回。
ことりちゃんから甘い声がもれると全身に寒気が走る。あ、やばい。もうこのあと死ぬんじゃないかな。
あとが怖いのでそろそろやめなきゃ。いや、まぁ、すでに手遅れなのだが。
ちゅっとリップ音を鳴らしてからキスをやめると、ことりちゃんはへなへなとその場に座り込んでしまった。
「さ、早く着替えてね?」
「みいちゃんずるいよ…」
「ずるくないよ。誘ったのはそっちでしょ?まったく、着替えてくれないとみんな帰れないよ?」
「わかったよぉ。みいちゃんのばか」
はいはい。なんとか着替えてくれる気になったようだ。
あたかも何もなかったかのようにことりちゃんに着替えを促す。
「みはね?なにしてるのかしら?いや、なにをしていたのかしら?」
肩をがっしりと掴まれて思い切り引っ張られれば、そこにはにっこりと微笑んだ絵里ちゃん。
怖い…
その後ろでは他のメンバーが顔を真っ赤にさせていたり、私を睨んでいたり。
「え、えと、ごめんなさい…?」
そういった瞬間すんごい冷たい目で睨まれた。絵里ちゃんをどうにかしなければならないな。
こういう時はどうすれば…
あ、そうだ!
「え、絵里ちゃん」
もちろん返事はしてくれない。
絵里ちゃんの腕をこっちに引っ張る。
突然のことにびっくりしてか、うまい具合にこっちに倒れこんでくる。
「今日…久しぶりに泊まりに行っても、いい?」
恥ずかしかったのもあって、耳元で周りに聞こえないように囁いた。
それを聞いた瞬間、絵里ちゃんは顔を真っ赤にさせた。
「しょうが、な、いわね」
いいと答えてくれた。
いいんだ。よかったけど驚きで自分が言い出したにも関わらずなにも答えることができなかった。
閲覧ありがとうございます!
そろそろティッシュが手放せない時期になってきましたね。
私は花粉症じゃないので問題ないですけどねー
友達が机の上に箱ティッシュを置いているのを見ると、大変そうだななんて思いながらも笑ってます。笑うとそれで叩かれる…笑