歌の女神たちの天使 〜天使じゃなくてマネージャーだけど!?〜 作:YURYI*
〜希〜
放課後の始まりのチャイムが鳴る。
今日は特別な日。たぶん、ウチとえりち以外の他の人はもう特別なことが終わって、ウチらのことを待っているんだろうけど。
次はウチの番。その次はえりちな。
たしか、えりちは生徒会室って言ってたから…ウチはみはねのことをそこまで連れていく、で、ウチの想いも伝えると。
これからの行程を頭の中で確認していると、少しだけ不安そうな顔をしたえりちがウチの席まで来た。
「私は先に生徒会室に行ってるわね」
「了解や。じゃあ、また後でな」
そんなやりとりをして、ウチはみはねの教室、えりちは生徒会室へ向った。
みはねが教室にいなかったらどうしよう。なんて考えが頭をよぎるが、みはねの教室を覗いてみるとみはねは自分の席でうつ伏せになっていた。よかった。
みはね。みはね。と心の中で何度も言葉を練習してから声をかける。
「みはね、寝ちゃってるん?」
「ん、んぅ…のぞみ?おはよう」
ほんとうに寝ているとは思っていなかった。
へにゃりと力のない笑みをこちらに向けてくるみはねは、いつにも増して幼く見える。もしかしたら、高校生には見えないかもなぁ…なんて、それは失礼か。
「おはようさん。もう、寝癖ついとるよ」
みはねの髪をすくようになでる。
そんな言葉は口実で、本当はみはねを見て顔が赤くなってしまっているだろう自分の顔を見られないようにするためと、みはねの頭をなでたいという気持ちから。でも、そんなことにも気がつかない鈍感なみはねは、ありがとうともう一度こちらに笑顔を向けた。
「珍しいね?希が一年生の教室に来るなんて」
"希"
まだ言われ慣れていない呼び方にいちいち照れてしまうのは、惚れた弱みということだろうか。
昨日決めたことなのに、前から呼んでいたかのように自然にそう呼ぶみはね。ウチは名前を呼ぶだけであんなに緊張してたのに、なんて少しおかしくて笑ってしまう。
「そ、そうやね。あのなぁ、今日は部活に行く前に生徒会室に来てほしくて…」
「わざわざ呼びに来てくれたの?ありがとう」
「どういたしまして。ほな、行こか」
みはねと二人きりで廊下を歩くのはそこまでめずらしくはないが、今日ほど緊張しているのは初めてかもしれない。その原因はどう考えても昨日のせいだ。
自分でもなんであんなことを言ったのかわからない。たぶん、みはねと少しでも距離を近くしたかったから…なんかなぁ。
"じゃあ、私のことも呼び捨てにして?"
ウチの後にみはねもほおを赤く染めながらそんなことを言ってきて。びっくりして、嬉しくて…やっぱり照れてしまって。そんなん言われるなんて思わないやん。
あぁ、もうほんとに、かわいいにもほどがある。
「みはね」
意味もなくその名を呼ぶ。少し前を歩いていた彼女はこっちをみてなに?と首をかしげた。
期待していた反応と違って少しむっとなってしまう。
「…みはね!」
今度は少しだけ強めに。それでも彼女は首をかしげるばかり。
もう、そういうことじゃないんよ。
「どうしたの…?」
「みはねのあほ!鈍感!ウチの気持ちちっともわかってくれへん」
「え、えぇ…そんなんじゃわかんないよ…」
みはねはウチの理不尽な八つ当たりに眉をきゅっと下げて困った顔をしてしまう。そんな顔もかわいいと思ってしまうウチはそうとう重傷だ。
こんなにかわいいから、こんなにも好きだから、困らせたくないけど困らせたくなってしまう。
「だから、みはねって…言ってるやんか」
「うーん…」
その場に足を止めて考え始めてしまう。そんなみはねをよそにウチは先を行くことにする。
背後からあ、と漏れた声が聞こえたと同時にウチの体は後ろに引っ張られた。
「わっ!なんなん!?」
「希!」
「な、なに?」
「のーぞーみー!」
みはねは突然ウチの名前を連呼し始める。ほ、ほんとになんなん!
いきなりすぎてどうすればいいのかわからなくなってしまう。
「希。希ちゃん?希さんっ…のぞみん。のんちゃん!」
「い、いきなりどうしたんよ」
いろいろな呼び方でウチの名前を呼ばれる。
の、のんちゃんって…ちっちゃい子じゃあるまいし。
「あれれ?のんちゃんの時だけすっごい反応してなかった?」
なんでそんなに鋭いのか、新しいおもちゃを見つけたかのような眩しい笑顔でそんなことを言ってくる。
「そ、そんなわけないやん?」
「そっか。あ、どれがいい?」
「は…?」
「だから、今言った中でなんて呼ばれたいかなって」
そ、そんなこと考えてたんやね。ウチが思っていたこととやっぱりちょっと違ったけど、それでもなんだか心がほっこりする。名前、呼ばれてうれしいとか…絶対言えないなぁ。
「ど、どれでもええ…よ」
「うーん。じゃあやっぱり希でいいか」
そのまま、また歩き始めるみはね。
今度はウチがみはねの制服の袖を掴んでその邪魔をする。
自分でもなんでそんなことをしてしまったのかなんてわからない。
「どうしたの?生徒会室行くんでしょ?」
そうだ、生徒会室に行かなくてはいけない。
でも、生徒会室についてしまったら…今度はえりちの番になる。ウチはまだ伝えられていないのに。早く伝えないと。みはねに、ウチの気持ちを知ってもらいたい。
そんな自分と心の奥にいる臆病な自分が対峙する。
何度も伝えようと口を開くがその度に臆病な自分が邪魔をして…
ただ口をパクパクと動かすのみで、伝えたい言葉は音にならずに消えてしまう。
苦しい。見つめられているだけで身体中がじんじんと熱くなる。鼓動はどんどん速くなり、うまく息ができない。
「そ、その…っ」
シワになってしまうんじゃないかってほどにみはねの制服を握りしめる。言わなきゃ、言いたい…言えない。どうしよう。
「…うぅあ、え…と……」
どうしたの?大丈夫?
目の前にいるのに声が遠くから聞こえたかのような感覚。
もっと、もっと近くで。ウチは大丈夫だから。
「ウチは、その……みはね、の…こと」
言わないと。ちゃんと言葉にして伝えたいーーー
「…好きなん」
「う、え…っと…ごめんっ」
自分の気持ちが言葉になった瞬間にウチが見たのは、みはねの困った顔だけで。謝罪が聞こえたと思ったら、その後すぐに視界からみはねが消えた。
ふわりとみはねの匂いがする。ウチは今、みはねに抱きしめられている…?
「み、みはね?」
びっくりしてトントンと背中を軽く叩くが、まだ離してはくれないようだ。
「もうちょっとだけ…」
より強く抱きしめられてそんなことを言われてしまえば、こっちが離れたくなくなってしまう。
前の時だってそうだ。椅子から落ちたウチを受け止めてくれたあの時も。強く、優しく抱きしめられたら誰だって好きになってしまう。
きっとそれだけじゃないのはわかっているけど、引き金はたぶんあれだったんだと思う。
「好き。迷惑じゃ…ない?」
「迷惑なわけない。私も希のこと好きだもん。うれしいよ」
「そっか…そっか」
肩に顔を埋める。今は廊下に誰もいないから、なにも気にすることはない。
うれしい。伝えてよかった。そんな気持ちで胸がいっぱいになる。
もしかしたら、引かれてしまうかもしれない、今までのように仲良くできなくなるかもしれない、なんて考えてた自分がばかみたいだ。
みはねがそんな人じゃないの知ってるのに。
「はは、希くすぐったいよ」
「みはねがもうちょっとって言ったんやん」
「そうだね」
さっきと違ってみはねの声が直接頭の中に響いて聞こえる。それだけ近くにいる。そう思うだけできゅうっと胸が苦しくなる。
あぁ、もう逃れられないんやろうなぁ。
お互い離れればいつも通りに戻ってしまって…
二人並んで、えりちの待つ生徒会室に急いだ。
閲覧どうもです!
今回は希の告白でした。みはねがうらやましいですね…
希にぎゅってされたいなって思ったり笑
次は絵里のターンです!!!