歌の女神たちの天使 〜天使じゃなくてマネージャーだけど!?〜 作:YURYI*
〜ことり〜
中庭で大事な人とお話をしているであろう幼なじみにメッセージを送ったらすぐに返信がきた。
【わかった!ことりちゃん、ファイトだよ!】
文面だけでも穂乃果ちゃんって感じが出てて、少しだけ微笑む。
きっと穂乃果ちゃんはちゃんと伝えられたんだろうな。私もがんばらなくちゃ!そう意気込んで目的の場所へ急いだ。
「みいちゃん!」
「あ、ことりちゃん」
律儀に動かずに待っていたのか、はたまた普通にのんびりしていただけなのか、みいちゃんはベンチに座っていた。
「待たせちゃったかな?」
「そんなことないよ。穂乃果も言ってくれればよかったのに…」
「あれ?聞いてなかったの?」
「うん。そこにいてねって嵐のように走り去っていったから」
その様子を思い出してか、くすくすと楽しそうに笑うみいちゃん。
最近本当によく笑うようになったな、なんて思いながら私も一緒に笑った。
お母さんが女の子を背中に乗せて帰ってきたときは何事かと思った。
その子の苦しそうな悲しそうな顔を見たとき、思わず自分が面倒をみると口にしていた。
やっと目を覚まして、初めて目があったときその綺麗な瞳に釘づけになった。そして、とても整った顔をしていて宝物を見つけたときのような嬉しさがこみ上げてきたことをよく覚えている。
みいちゃんは覚えていますか?あの目と目があったときのことを。
三日間眠る姿を見ていただけなのに、会話をできたときの嬉しさは一生忘れることなんてできないと思う。それくらいだったんだよ?
みはねちゃん。とても素敵な名前だと思った。私が自分の名前を言ったとき、お似合いだって言ってくれたよね。それも本当に嬉しかったの。
よろしくって微笑んだのは少しぎこちなかったけど、それも含めてとてもかわいらしくて思わず抱きしめちゃいそうになったの、みいちゃんは知らないでしょ?
それから、お母さんと一緒にこれからのことについて話した。
みいちゃんは迷惑をかけたくなかったみたいだけど、本当は最初からみいちゃんをうちに迎えるつもりだったんだよ。
一緒に暮らさないって言ったときは少し寂しかったけど、それから一週間はずっと一緒にいたよね。最初の頃は何を考えているのかわからないことが多かった。でも徐々に自然な笑顔を見せてくれるようになって、毎日みいちゃんと過ごすのが楽しくて仕方がなかった。
みいちゃんが音ノ木に入学して初めて学校で話したとき、ことり先輩って呼ばれたのは本当に悲しかった。少し距離が遠くなっちゃったような気がしたの。
でも、ほんとはそんなことなかった。
穂乃果ちゃんがスクールアイドルを一緒にやろうって言ったときは断ってたけど、マネージャーをやるって言ってくれた時はその場で飛び跳ねちゃいたいくらい嬉しくて。
それからは、いろんなことに協力してくれて、一緒にいる時間も増えたよね。
まだ出会って半年も経っていないのに、頭の中はみいちゃんのことでこんなにいっぱいなの。みいちゃんは私がこんな事になってるってやっぱりわからないよね。
学校でみいちゃんの近くにいるときは余計に不安になった。
なんでかって?そんなの、周りがみいちゃんに向ける視線を一緒に感じていたからだよ。
みいちゃんの優しさは知っていたし、絶対にこうなることもわかっていた。だから、余計に嫌だった。
いつみいちゃんが他の人にとられてもおかしくないって状況で一緒にいるのはすっごく不安なの。
昨日、あんなことがあって心配にならないわけがないよ。
みいちゃんは、私のそばにいてくれるって思ってたけどそれはわからないよね。だって、周りにはいっぱい人がいる。いつ誰にとられちゃうかなんてわからない。
「みいちゃん…っ」
「こ、ことりちゃん?どうしたの?」
優しく声をかけられると、涙が出そうになるくらいに胸が苦しくなるの。
「あのね、好き…なのっ」
みいちゃんは何も言わずに悲しそうな顔をしていた。
そうやって見つめられるだけでも、身体中が熱くなるの。
こんな気持ち、困らせるだけだってわかってる。でも…
「ごめんね。好き」
みいちゃんを独り占めしたいって思っちゃうの。
そんな私を何を思ってか抱きしめてくれるみいちゃん。
その優しさが、辛いの。うれしいのに辛いんだよ。こんなのおかしいよね。
「ことりちゃん。なんでそんなに泣きそうなの?なんで謝るの?ことりちゃんは何も悪いことなんてしてないじゃん」
だから大丈夫、そう言って背中を小さな子をあやすように一定のリズムで優しく叩かれる。
「ありがとう。ごめんね」
「ほら、落ち着くまでこうしてるから」
もっとこうしていてほしい。落ち着くまでじゃなくて、好きな時に好きなだけこうしてもらいたい。
私だけを見て。私のそばにいて。
言いたい。気持ちだけが焦っていく。
「みいちゃん」
「どうしたの?」
「…みいちゃんっ」
「ことり…ちゃん?」
今はこれ以上を求めてはいけない。
みんなと約束したんだもん。だから、今は我慢しないと。
こんなの、
「苦しいよ…」
そう呟くと、勘違いしてみいちゃんはぱっと手を離す。
「ご、ごめんね!そうだよね!」
その様子はやっぱりいつものみいちゃんで。かっこいいのにかわいくて、かわいいのにかっこよくて。誰にでも優しくて自分のことには鈍くて。そんなみいちゃんが大好き。
だから、もっとって抱きついた。
どうしたらいいのかわからないみたいであわあわと手を動かしていたみいちゃんに、ちゃんと気づいてほしくて。
「好きなの」
もう一度呟く。そうしたら、みいちゃんは私の背中に手を回してくれた。
「今日は甘えんぼなの?ふふっ私も好きだよ」
「みいちゃんが悪いんだよ?」
こんなに好きにさせるから。
この想いはどんなことがあっても消えない。誰にも負けない。
だから、正々堂々と勝負するの。
みんなに負けないくらいに、好きが伝わりますように。
そんな気持ちでより強く抱きしめた。
二つの鼓動が重なって一つになっていくのが、心地いい。
「みいちゃん。放課後にね、大事なお話があるの」
「わかった」
ことりの番はもう終わり。そろそろもう一人の幼なじみに譲ってあげないと。
名残惜しく思いつつも、ゆっくりとみいちゃんから離れる。
「次は弓道場に行ってね。海未ちゃんがいるはずだから」
「わかった」
笑顔を向けて手を振るみいちゃん。
走り去って行く彼女の背中を見ていると、また胸が苦しくなってくる。
胸に手をあてながらも、笑顔でみいちゃんを見送った。
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