神魔の素質を持つ者も異世界から来るそうですよ? 作:リフェア
フォレス・ガロとのギフトゲームに十六夜と覇瑠徒が出ないと言ったあとジンは先に自分のコミュニティに帰った。
そして黒ウサギが”サウザンドアイズ”でギフトを鑑定すると言った。
「サウザンドアイズ?コミュニティの名前か?」
「YES。サウザンドアイズは特殊な瞳のギフトを持つ者達の群体コミュニティ。箱庭の東西南北・上層下層の全てに精通する超巨大商業コミュニティです。幸いこの近くに支店がありますし」
「ギフト鑑定というのは?」
「勿論、ギフトの秘めた力や起源などを鑑定する事デス。自分の力の正しい形を把握していた方が、引き出せる力はより大きくなります。皆さんも自分の力の出処は気になるでしょう?」
同意を求める黒ウサギに四人は複雑な表情で返す。思う事はそれぞれあるだろうが、拒否する声はなく、黒ウサギ・十六夜・覇瑠徒・飛鳥・耀の五人と一匹は”サウザンドアイズ”に向かう。
道中、十六夜・覇瑠徒・飛鳥・耀の四人は興味深そうに街並みを眺めていた。
商店へ向かうペリベッド通りは石造で整備されており、脇を埋める街路樹は桃色の花を散らして新芽と青葉が生え始めている。
日が暮れて月と街灯ランプに照らされている並木道を、飛鳥は不思議そうに眺めて呟く。
「桜の木……ではないわよね?花弁の形が違うし、真夏になっても咲き続けているはずがないもの」
「いや、まだ初夏になったばかりだぞ。気合の入った桜が残っていてもおかしくないだろ」
「……?今は秋だったと思うけど」
「通常世界には帰って無かったからなこんな所で桜を見られるとは、といっても花に興味は無いな。」
ん? っと嚙み合わない四人は顔を見合わせ首を傾げる。黒ウサギが笑って説明した。
「皆さんはそれぞれ違う世界から召喚されているのデス。元いた時間軸以外にも歴史や文化、生態系など所々違う箇所があるはずですよ」
「へぇ?パラレルワールドってやつか?」
「近しいですね。正しくは立体交差並行世界論というものなのですけども………今からコレの説明を始めますと一日二日では説明しきれないので、またの機会ということに」
曖昧に濁して黒ウサギは振り返る。どうやら店に着いたらしい。商店の旗には、蒼い生地にお互いが向かい合う二人の女神像が記されている。あれが”サウザンドアイズ”の旗なのだろう。
日が暮れて看板を下げる割烹着の女性店員に、黒ウサギは滑り込みでストップを、
「まっ」
「待った無しです御客様。うちは時間外営業はやってません」
………ストップをかける事も出来なかった。黒ウサギは悔しそうに店員を睨みつける。
流石は超大手の商業コミュニティ。押し入る客の拒み方にも隙がない。
「なんて商売っ気の無い店なのかしら」
「ま、全くです!閉店時間の五分前に客を締め出すなんて!」
「文句があるならどうぞ余所へ。あなた方は今後一切の出入りを禁じます。出禁です」
「出禁⁉これだけで出禁とか御客様舐めすぎでございますよ⁉」
「確かに閉店五分前に来たのが悪かった、だが今この店に用が有るのも事実――だからこの店に入れさせてくれ」
キャーキャーと喚く黒ウサギに何とか店に入るために頼みこむ覇瑠徒、だが店員は冷めたような眼と侮蔑を込めた声で対応する。
「なるほど、”箱庭の貴族”であるウサギの御客様を無下にするのは失礼ですね。中で入店許可を伺いますので、コミュニティの名前をよろしいでしょうか?」
「………う」
一転して言葉に詰まる黒ウサギ。しかし十六夜は何の躊躇いもなく名乗る。
「俺達は”ノーネーム”ってコミュニティなんだが」
「ほほう。ではどこのノーネーム様でしょう。よかったら旗印を確認させていただいてもよろしいでしょうか?」
ぐ、っと黙りこむ。黒ウサギが言っていた”名”と”旗印”がないコミュニティのリスクとはまさにこういう状況の事だった。
だが、覇瑠徒は限界だった、礼儀で自分達が悪かったと言ったにも係わらずここまで自分達を入れさせないかと怒りが頂点に達した、そして反撃を開始した。
「俺達ノーネームには名も旗印も無い、故店には入れないと?じゃあ仕方ない俺は壁を乗り越え先に進むことにしよう、覚悟しろ壁=目の前にいる女性店員」
「いいでしょう完膚なきまでに叩きのめしてやろう、若造が‼‼」
黒ウサギ達は呆れた、言葉でどうにかしようとしていた覇瑠徒がいきなり喧嘩上等とばかりに女性店員に喧嘩を挑んだ、ましてや言葉巧みに自分達を追い返そうとした女性店員も喧嘩上等のようだ。
何がとは言わないが多分壁と言う言葉に悪意があったからだと思う。
今二つの悪と悪がぶつかろうとしている?