第1話
召喚実験場に魔力が吹き荒れる。
吹き荒れる魔力は次第に渦と化し、一つに収束していく。
「立香ちゃん。召喚されるサーヴァント全員が善人とは限らない。注意はしておいてね」
「わかりました」
ドクターの注意を有り難く受け取る。
密度の濃い魔力の渦が弾けた。魔力の残り香がキラキラと輝き、一種神秘的な様子を醸し出す。
「サーヴァント、アーチャー……抑止の代行者として現界させてもらった」
赤銅色の髪に、少し焼けた肌。真っ赤な外套を身に纏った者が、そこに居た。
「先輩、この方って……」
「マシュ、それ以上はいけない」
なんとなく察した。この人、苦労人だ。
「衛宮士郎だ。擬似サーヴァントだが、きっと力になれると思うよ。よろしく頼む、マスター」
「疑似サーヴァントだって!?」
ロマンが叫んだ。何が驚くことだったんだろうか。
「え? あっ、うん、そうだが」
困惑気味のアーチャー。
「もしかして君は、どこかで人体実験をされたりしたのかい?」
ダ・ヴィンチちゃんがロマンの代わりに聞いた。
「人体実験……まぁ、似たようなことはされたかな」
「具体的には、どんなことを」
ロマンが食い入るように聞いている。
「俺は過去に聖杯戦争に参加していたんだが、その時にハンターのサーヴァントから心臓を貰ったんだ。人間の心臓とは出力が違うから、慣れるのに大変だったよ」
「ハンターのサーヴァントから心臓を貰っただって!? そのサーヴァントの真名は!?」
えぇ……ダ・ヴィンチちゃんも興奮しちゃってるよ。
「自分から、クラス真名共にハンターだって言ってたよ」
「うわぁ……正真正銘本物だったのかぁ」
手で顔を覆い、天を仰ぐダヴィンチちゃん。
「ねぇロマン。ハンターって、そんなに凄いの?」
ハンターはたしかによく聞くけど、イマイチ凄さが分からない。
「あぁ、凄いとも。ヘラクレスやアーサー王、ハンターはどこでも知名度が高いだろう? だが、問題はそこではないんだ」
「……と、言うと?」
「真名ハンター。ちょくちょく他の神話や伝説にも現れる、正体不明の流浪の民。数多の幻想種を屠り、その血肉を喰らい続けた者。その身体は最早人の物ではなく、幻想種と変わりない」
「ドラゴンみたいな?」
「あぁ、そうだね。こう言ったら分かりやすいか。ジークフリートっているだろう?」
「うん」
「竜の血を浴びたことで、背中以外は不死身の肉体を手に入れただろう?」
「うん」
「ハンターは全身が不死身の肉体で、尚且つ、弱点が無いんだ。身体そのものが幻想種と化してるからね」
「……なにそれ」
それ、人間やめてるよ。最早人間じゃないよ。
「ハハハ。驚きのあまり、声にならないようだね……で、だ。アーチャー、君はその心臓を使いこなせるのかい?」
「あぁ、大丈夫だ。この心臓があれば、マスターからの魔力供給量が少なめでも現界できる」
「それは凄いな」
「魔力供給……粘膜接触……ウッ、頭が……」
「先輩? 大丈夫ですか? 頭が痛いのですか?」
大丈夫よ、私の可愛いなすびちゃん。いつも通りの、急に襲ってくる原因不明の頭痛だから。後で運営にクレームをつけてやるわ。
「ところで士郎くん。君は一体、何が出来るんだい? アーチャークラスだから狙撃は任せられるだろうけど」
「一応、白兵戦も出来る。後は宝具を投影して、
「宝具を投影……だって!? それじゃあまるで、特異点Fのアーチャーじゃないか!」
ロマンの発言で、アーチャーが苦虫を噛んだような顔をした。
「もしかしてだが……そいつは、褐色肌で、白髪で皮肉屋で、宝具を投影して、
「あぁ、そうだ。彼には苦しめられた」
「あー……その、言いにくいんだが……」
「士郎くん、まさか……」
「ええと、その……そいつは、俺の未来の可能性の1つで、俺の力になったサーヴァントって言うか、なんて言うか……」
「……」
「あ、あははははは……」
このあとメチャクチャ魔力供給(食事)した。
▽▽▽
舞台は神代。レイシフトして早々に女神に絡まれたり魔獣に襲われたりしたが、いつも通りである。運良くエルキドゥに助けられ、幸運にも案内してくれるらしいのでホイホイついて行くが、ウルクとは逆方向にある杉の森に辿り着いてしまった。視界も全然良くない。どう考えても騙されてるとしか思いつかない。
「どう考えても逆方向に進んでるんだけど、これ、合ってるの? 大丈夫? 方向音痴だったりしない? むしろ私が道案内しようか?」
「いいえ、この道で合ってますよ。この先の川に波止場がありますから、そこに残っている舟に乗って、後は川を下ればいいだけですから」
そう言って微笑を浮かべるエルキドゥ。
その笑顔、プライスレス。
そして、ジェンダーレス。
「お疲れとは思いますが、頑張って。この森を越えてしまえば、それで終わりです」
「えぇ〜? 本当にござるかぁ〜?」
イマイチ信じられないなぁ。
「マスター。そんなに悪い顔で煽るな。さすがのエルキドゥでも怒るって」
えぇ〜。士郎君は堅いなぁ。もっとこう……フレンドリーに話しかけるべきだと思うなぁ。
「先輩。親しき仲にも礼儀あり、というやつですよ?」
「エルキドゥ、私が悪かった。すまない……」
マシュの言葉で私に罪悪感というものが生まれた。人に謝る時のコツとしては、本当にすまなさそうに、尚且つ猫背で、謙虚さが染み出すように、すまない……と、言うことだ。
「おいマスター。俺との対応が違いすぎないか?」
「いいことを聞いたぞ! この先に波止場があるとは知らなかった! やぁこんにちは、驚かせてすまない! 怪しい者ではないから、まず話を聞くといい」
ってどっから出て来たんだよ白ローブ! 唐突過ぎるわ! ビックリして心臓が止まるかとおもったわ!
「いやいやどう考えても怪し──」
「我々は遭難者。この通り、慣れない獣道で迷ってしまってね」
おい、怪しいローブ2人組。どれだけ自己主張が激しいんだ。士郎くんの言葉を遮ってまで話すとは、貴様ら中々にやるなぁ。いや、真っ白なローブが煩いだけか。
「これはもう魔獣たちのエサになるしかない、と悲観していたが、やはり私は運がいい!」
「ねぇ士郎。あれって変質者?」
「シッ。マスター、世の中には言っていいことと悪いことがあるんだ。心の中で思うだけに留めておけ」
「はーい」
「ほら、そうだろうアナ?私についてきて正解だっただろう? 今回は運悪く目的地に辿り着けなかったが、こうして道を知る現地人に出会えたんだ」
おい白ローブ。黒ローブがメチャクチャ迷惑そうにあんたを見てるぞ。
「待てば海路の日和あり、一歩進んで二歩下がる。まさか魔獣の女神のお膝元で、人間に会えるとはね!」
「先輩、あの白いローブの方、どこかで……」
「私としては、女の子の方が気になる」
『マスター』
『……なに?』
アーチャーが念話をするなんて、本気になった証拠だ。
『気を抜くなよ。そろそろ流れが変わる』
『了解』
やりとりを簡潔に済ませる。
「迷い人ですか、それは災難でしたね。僕たちはこれからウルクに向かいますが、同行しますか?」
こんな不審者にも丁寧に接するエルキドゥ。
すごい、本当に聖人君子だ。暴君であるギルガメッシュも少し丸くなるワケだ。
「もちろん、断られてもまとわり付くとも。もう3日も歩きづめで、足が棒になる寸前だった。でも、うーん……名前も知らない人に同行するのは怖いなぁ」
どう見ても不審者なあんたらの方が怖いわ。
「そこのお嬢さん方、名前をお聞かせ願えるかい? あぁ、私は故あって名は名乗れない。この娘も同じだと考えてくれ」
「怪しいを通り越して信用できないわ!」
「まぁまぁそう言わずに。というか、さっき聞こえてきたんだけどね。藤丸立香ちゃんだろう? で、お隣のお嬢さん方は?」
「マシュ・キリエライトと言います。髪の緑色の方がエルキドゥさんです」
「えぇ〜? エルキドゥ〜? エルキドゥと言ったのかい? あれれ〜? おっかしぃなぁ〜? すっごくおっかしぃぞぉ〜?」
うわっ、煽りスキル高っ。凄く腹が立つ。マシュも驚きのあまり目を見開いている。マシュの教育上、よろしくなさすぎる!
「……僕に、何かおかしなところでも?」
ほらぁ。エルキドゥも半ギレだよ。表情筋がピクついてるよ。マジでキレる3秒前だよ。むしろ殺っちゃってください。
君子危うきに近寄らず。ささっ、マシュ。エルキドゥから離れようか。近くに居ても、良いことはないからね。
「いやぁ。君がエルキドゥだと、私の記憶がついにおかしくなったのかな? という疑問が出来てしまう。今ウルクで戦線を支持しているギルガメッシュ王は、不老不死の霊草探索から戻って来た後の王様だ。つまり──」
『なっ──待った、それはおかしい! この時代がギルガメッシュ王の不老不死探索の後だとしたら、辻褄が合わない!』
ドクター、いいツッコミだ。褒美にターキーをやろう。
『友であるエルキドゥが死亡したことにより、ギルガメッシュ王は不老不死の探索を始めるんだ。それが終わった後なら、エルキドゥはとっくの昔に死亡している! サーヴァントとしてならともかく、現地人として存在する筈がない!』
『マスター、いつでも動ける』
どうやら、狙撃ポイントまで移動したようだ。
「ふ、ふふふふふふふふふふふ!」
とうとう本性を現したか、エルキドゥ。
「まぁそうだよね。あっさりバレなくちゃ嘘だよね、こんな即興の芝居はさ!」
空気が変わった。いつもの、絶望を与える側の空気が私を襲う。
「こんにちは、藤丸立香。こんにちは、カルデアの無能たち」
まったく、本当に嫌になるよ。信じた相手に裏切られるってのは。
「あぁ──でもたいへん惜しかった。あともう少しで面白い見世物が見られたのに!」
「まぁ、大体は予想がつくわ。死ぬ前に、一つ質問いいかな?」
「えぇ、いいですよ。未練は断ち切っておかなくてはね」
「君は、本当にエルキドゥなの? サーヴァントでないなら、エルキドゥは死んでいるはず。死んでいないのならば、君は一体誰なの?」
私の質問に対し、エルキドゥは笑いながら応えた。
「ははは、面白い質問をしますね。もちろん、エルキドゥの様に語り、エルキドゥと同じ性能を持つ以上、ボクはエルキドゥ本人だ」
「なるほどね、わかったわ。見た目も性能も同じだけど、中身は別ってことね」
「……どうしてそう思ったんだい?」
──重い。
ただ、一言。どうしてそう思ったか問われただけ。だが、ただそれだけで、重力がある何倍にも膨れ上がったように感じられる。立っている事すら辛い。息も浅くなり、冷や汗が止まらない。
「エルキドゥ本人なら、きっとそうは答えなかった。もっと違う答え方をする、そう思ったからよ」
どうにか言い切った。伝え切れた。
私にとっては何十秒にも、何分にも感じられる沈黙の後、エルキドゥは「そうか」と漏らした。
「……まぁ、この際どうでもいいか。本当なら生きたまま連れて帰る予定だったが、母上には首だけ持って帰ればいいだろう」
「ッ! 先輩! 敵個体エルキドゥ、戦闘態勢に入りました! ですが……私たちは、彼の戦闘能力を知っています。私たちでは、とても──」
──敵わないだろう、きっと……
そう、マシュが口に出すことは無かったが、私たちは察していた。
「あはは。人間って本当に脆い。なぜキミたちと戦ってあげたか、分かるかい?」
──あぁ、悔しいけど、分かるよ。
「旧型の人類はこんなにも性能が低い。そう、自覚して貰う為さ。だから、死ねばいい。
──来る!
「ッ! 先輩! 指示を!」
「へいへーい! エルキドゥビビってるー!」
「っ! 誰だ!」
なんだこのシリアスをぶち壊す空気は。
「なんだかんだと聞かれたら、答えてあげるが世の情け」
『この声……まさか!』
『知ってるのかアーチャー!』
「世界の破壊を防ぐため、世界の平和を守るため。愛と真実の悪を貫く、ラブリーチャーミーな敵役」
『あぁ。俺の師匠にして導き手であり、俺が参加した第5次聖杯戦争に参加していたサーヴァント』
『それって、あの、心臓を渡した?』
『あぁ、そうだ』
「姿を表せ!」
「とうっ!」
「上から降って来たぁぁぁぁぁ!!??」
『そう、彼の名は──』
「人呼んで、モンスターハンター! 気軽にハンターと呼ぶが良い! そこのオレンジ色の髪のかわいこちゃんは、気軽にお兄ちゃんと呼ぶがいい!」
『──ハンターのサーヴァント。真名、ハンターだ』
『士郎くん! それはおかしい! なぜなら──』
『──あぁ、分かってるさ。ハンターは、生きてる』
「ふむ、偽エルキドゥの言ってることはまったく分からないし、ハンターが出て来たことによって状況は混沌としたが、大体理解した。アナ、ハンターならエルキドゥに対抗できるだろうが、念のため手伝ってあげなさい。」
「……分かりました。契約外ですが、あの人たちを守ります」
〜〜〜
「くぅっ!」
エルキドゥの口から、苦悶の声が漏れる。
「フハハハハハハ! お前とは生きてる年月が違うのだよ! 俺に勝ちたかったら、後5年は修練を積むのだな! ハハハハハハハハハハ!」
「非常に不本意だが、撤退させてもらう」
そう言い残し、エルキドゥは飛び去っていった。
「ふぅ、疲れた疲れた」
さーて。こっからどうすっかねぇ。
「君は、噂に名高いハンターだね」
ゲッ、マーリン。岸辺露伴の声にしか聞こえねえ。
「そういう君は……って誰だお前」
俺ならこう返す。だって、ゲームでは知ってても、現実で知ってる訳じゃあないからな。
「ははは、そうだったね。君は私のことを知らないね。申し遅れた。私の名前はマーリぐぶぇえっ!!??」
あっ、フォウ君がタックルかました。
地面に倒れ、白ローブが土で汚れる。
「なんて事するんだこの凶獣! 長年世話してやった恩も忘れて! この! この!」
「フォウ! フォーウ!」
これはヒドイ。なんて低レベルな争いなんだ。
「あぁ、思えばこんな悪獣を引き取るんじゃなかった! キャスパリーグ! 恐るべき災厄のネコよ! その愛らしさで何人の肉球愛好家を誑かしたんだ! ただ可愛いだけでご婦人たちに可愛がられるとか、日頃の苦労がバカみたいじゃないか! この私に悪いと思わないのか!?」
「──」
「フォウ君と、同レベルの争いをしてる……」
ぐだ子達もひっどい反応をしてる。
そうだよね。こんな光景見せられたら、言葉にならないよね。
「マーリン。自己紹介の最中に奇行痴態をするなんて、やはり信用に値しない存在ですね」
いいツッコミだ、黒ローブ。
「あぁ、すまないね、アナ。こんなことをしている場合じゃなかった。申し遅れた。私の名前はマーリン。サーヴァントと呼ばれる存在だ。こちらの少女はアナ。彼女もサーヴァントだ。亡霊が肉体を得て活動していると考えてくれ」
「な……るほど?」
大体合ってるけど、初対面の人にするような説明じゃないぞこれ。
「私のことは気軽にマーリンお兄さんと呼んでくれたまえ。 アナは? どう呼ばれたい?」
「……別に。アナでいいです」
あらら、やっぱり素っ気ない。
「ご、ご丁寧にどうも。先ほどは助けていただきありがとうございました、アナさん、ハンターさん」
うむ。やっぱりマシュマロは可愛い。
「さんは要りません。アナでいいです……それと、人間は嫌いです。出来れば近寄らないで下さい」
「さんは要りません。ハンターでいいです。気軽にハンターお兄さんと呼んでくれたまえ。それと、気配遮断してる奴は嫌いです。出来れば近寄らないで下さい」
「……ハンターさんも嫌いだと、付け加えておきます」
「これは手厳しい!」
「まあ、アナのスタンスは気にしないでくれ。本当に人間が嫌いなだけで、別に裏とかないからね。それとハンター君。私の真似をするとは、いいセンスだ」
「だろう?」
「それより──」
あっ、スルーされた。
『って、待ったーーーーーー!!!』
「申し遅れた。気配遮断をしていたのは俺だ。衛宮士郎だ……まぁ、気軽にシロウ、と呼んでくれ」
……は? え? ん? なんやて? なぜに腕士郎っぽい士郎がここに? ふぁっつ?
「あ、うん。よろしく」
『って待ったーーーーーーーーーーーー!!!』
ロマン。2回目だぞ。
『あまりの事にモニターの前で凍りつき、ようやく解放されたボクからの渾身の待ったー! がスルーされたので2回目の待ったー! だ!』
「なんやねんこいつ。新手の妖精か?」
「ええ、ロマンという甘ったるいゆるふわ系の妖精ですよ。気軽にロマンと呼んであげてください」
ぐだ子……お前、中々に毒舌やな。
『この際、立香ちゃんの辛辣な態度は置いておこう。マーリン!? マーリンだって!? ブリテン島の大魔術師、夢魔と人間の混血、世界有数のキングメーカーにして最高峰のろくでなし! あのマーリンが、そこにいるのかい!? しかもサーヴァントとして! 世界の終わりまで死ねない筈の
解説王、解説ありがとう。耳がキンキンするぜ。
「ふはははは! 予想通りの紹介ありがとう! ロマ二・アーキマン! そう、私はグランドキャスター・マーリンお兄さん。魔術師の中の魔術師だ! いやまあ、実際はグランドの資格があるだけで霊基は普通だから、ただのキャスターなんだけどね?」
「あーりーえーなーい!」
2人だけの世界だな、これ。
「ヘイヨー立香ちゃんそのファッションセンスいーねー!」
カルデア制服いいねぇ。おっぱいが強調される事に定評のあるカルデア制服礼装。控えめに言って大好き。可愛い。
「ヘイヨーオタクのファッションセンスいーね!」
俺が? これが良いのか? どこら辺がだよ。
「緑の外套身に纏い、ちらりと見える白髪がいい味してるぜー! イェーイ!」
「イェーイ!」
なんだこれ。やめよう。ボキャブラリー壊れる。
「んで、おたく。どっから来たのよ。ここらじゃあ見かけない格好だが」
「未来から来ました」
「はぁ〜未来ねぇ。俄かには信じ難いなぁ」
「ふっふっふ。今のは嘘だ」
「知ってた」
「でしょうね」
『ところで、ハンター……さん』
「気軽にハンターと呼んでくれって何度も言ってるだるぉぉん? もしもまた同じことしたら、今度からお前の名前は『マロマロマロンちゃん』だ」
『す、すみません。では、ハンター。聞きたいことがあります』
「はいなんでしょう。答えられることなら答えますよ」
『……君は、世界が滅びると言ったら、信じるかい?』
「……まぁ、あり得るよな。神様の気まぐれで滅ぶし」
メソポタミアはヤベェからな。何度も滅びかけてる。
『今、世界が滅びようとしている。誰の手によってかは分からないが、滅ぶ事は確実なんだ。君の力を借りたい。貸してくれるかい?』
「まぁ、そういうことだったら、貸さないこともないかな」
『ありがとう。君に感謝を』
ロマン、いいってことよ。この特異点、マジでヤバイからな。
「ふむ、どうやらお喋りが過ぎたらしい。アナの忠告を聞かなかった報いかな、団体さんがやってくる」
マーリンの声で周りの空気が引き締まった。
あ〜、なるほど。ワイバーンの群れか。今日は久しぶりのご馳走になりそうだな。
「しかし、いい機会だ。私には言ってみたいセリフがあってね」
「どんなセリフだい?」
「みんな、気をつけて! ワイバーンがやってくるぞ!」
「似てる! すごいなお前!」
「ハハハ。かのハンターに褒められるとは光栄だよ」
『僕からも100点をくれてやる! よーし、立香ちゃん、頼む! 戦闘のどさくさに紛れて、そのろくでなしを1発殴ってくれ!』
「イェッサー」
ひっでえ。
とまあ、お遊びはこのくらいにして、そろそろ頑張りますか……って、え?
「カラドボルグ! カラドボルグ! カラドボルグ! カラドボルグ!」
ひっどい。何がひどいって、士郎がカラドボルグをバカスカ撃って、纏めてワイバーンを撃ち落としてるところ。まだこっちに近づいてくる途中なんだぜ? こんなの酷いよ。
「もうやめて! 俺の夜ご飯がなくなっちゃう!」
「これはすまない」
申し訳なさそうに、士郎はカラドボルグをやめた。
「あぁ、もう1匹しか残ってない……」
悲しいけど、ここ、特異点なのよね。
「傷は最小限にしなきゃな」
道具袋からお手製の弓を取り出す。番えるは魔力の矢。
「……シッ」
掛け声と共に矢は放たれ、寸分の狂いなく脳だけを抉り取って行った。
「よし、回収するか」
ある程度引きつけてから撃ち落としたので、そう遠くはない。
「やっぱり、ワイバーンは美味いんだよなぁ」
「そうだよね、美味しいよね」
おお、立香は食ったことがあるのか。
「俺は、やっぱり喉が好きだな。結構鍛えられてて美味いんだよな」
「だよねー。いっつもアーチャーが作ってくれるんだけど、すっごく美味しいんだよ!」
ニパァと笑う立香。その笑顔、100点。
「それはそれは、是非ともアーチャーの料理を食べてみたいもんだ。未来の料理ってのも気になるしな」
「じゃあこっちはアーチャーに頼んでおくね。行ってらっしゃい」
「おう、回収してくらぁ」
フッ、可愛い正義の味方さん。お手並み拝見と行こうじゃあないか。
次回更新「きっと来月」