Hunter/ganbara night   作:カルガモ大将

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第5話

第5話

 

時は、士郎へ凛がガンドを連射し、士郎がライダーに痛めつけられた日へ戻る。

 

「それで、ハンター。なぜ、私にすぐ連絡しなかったのかしら?」

 

「いや、ほら……ね? ランサーは俺を殺したと思ってた訳だし、リアリティを求めるならキャスターにも生存報告しない方がいいだろ?」

 

石畳の上で正座してるなう。キャスター怖い。

 

「……まぁ、そうね」

 

「それにほら、ライダーも仲間にしたし、ね? 魔力供給は俺がするから! ねね? いいでしょ?」

 

「犬を飼いたいとねだる子供のように言うのはやめなさい」

 

「チェッ」

 

「……ん? ちょっと待ちなさい」

 

「なにか?」

 

「あなた……魔力供給って、どうやってするつもりなの?」

 

「どうやってってそりゃあ、粘液による供給に決まってるやん」

 

「……い、一応聞くのだけれど……粘液って、何を使うのかしら?」

 

「んなもん決まってるだろ? 俺の血だよ」

 

「……そう。血ね、血……血?」

 

おっと。ここでキャスター、何かに気づいた様だ。そんなことより正座やめたい。石畳だからメッチャ痛い。

 

「貴方、呼吸するだけで魔力を生み出せたわよね」

 

「あっ、はい」

 

「その身体、半分くらいは幻想種で出来てる訳よね」

 

「まぁ……そういうことになりますかね」

 

「じゃあ、最後に一つ聞くわ」

 

「なんなりと」

 

「貴方が居れば、聖杯を呼び出せるのではなくて?」

 

「……君の様な勘のいい魔術師は苦手だよ」

 

気づいてしまったか。

 

「あなた、いつからこの茶番のカラクリに気づいていたのかしら?」

 

「そうだな……割と早い段階だ。聖杯はサーヴァントを構成する魔力で以って満たされるが、要は魔力を溜めればいいだけの話だ。俺が魔力を生み出すのに徹すれば、簡単に聖杯は手に入るだろう。だが、ここで問題がある」

 

「聖杯が汚染されているのね」

 

「そうだ。放っておけば、この街に甚大な被害をもたらすだろう。俺には見過ごせん。だが、お前ならどうにか出来るだろう? 稀代の魔術師、王女メディア」

 

「……知っていたのね」

 

「まっ、そこは年長者の勘ってやつさ」

 

嘘でーす。原作知識でーす。

 

「聖杯の欠片はアインツベルのマスターに埋め込まれている。だが、ここでもう一つ罠がある」

 

「罠?」

 

「あぁ、そうだ。御三家が一つ、間桐桜の身体にも聖杯の欠片が埋め込まれている。オマケで蟲も寄生してる」

 

「……なんですって?」

 

「本来ならアインツベルの方に英霊が取り込まれるわけだが、これだと、どちらに取り込まれるかまったくわからない」

 

黒桜になったら酷いことになるぞ。

 

「俺としては、間桐桜の身体から聖杯の欠片と蟲を取り出せば話はまとまると思うぞ」

 

「……そうね。聖杯の欠片さえ手に入れば、もう聖杯を手に入れたも同然ね。で、蟲……とは?」

 

「元々は世界の悪を滅ぼそうと頑張ってた魔術師が、その目的を達成するには寿命が足りないことに気づいて延命措置を取る度に魂やらなんやらが腐って、結果的に文字通り人間を辞めた魔術師。不老不死になるのが今の夢らしい」

 

「目的と手段が入れ替わってしまったのね」

 

「そんな魔術師が祖父のせいで、孫2人は壊れてしまった訳だ。間桐桜は蟲に凌辱され、間桐慎二はそんな環境で育ったせいで根っこから歪んでしまった」

 

「……なるほどね」

 

平静を装うキャスター。だが俺には分かるぞ。メッチャ怒っているのを。

 

「聖杯戦争のルールを知ってるのなら分かるだろう。御三家には必ず令呪が配られる……そう。ライダーのマスターは、間桐桜だ。召喚したサーヴァントはメドゥーサ。縁召喚だ」

 

「……まさか」

 

「『周囲の悪意による被害者であるゆえに、次第に怪物へと歪んでゆく』という点で近い境遇にあったのだろう」

 

ここまで話せば、メディアちゃんは手伝ってくれるはずだ。

 

「……いいわ。あなたの提案に乗ってあげましょう」

 

「ありがとう、キャスター。君の恋路は応援するよ」

 

「んなぁっ!?」

 

「聖杯にかける願いも、どうせ受肉だろ? だったら幸せになって貰わなきゃあ困るぜ。生前はあんなんだったしな。今世では幸せを掴み取れよ」

 

「あっ、あっ、あなたねぇ!」

 

やべ、顔真っ赤にして恥ずかしがりながら怒ってやがる。

 

「詳しいことは明日話すからよろしく!」

 

肋骨が飛び出そうで怖い!

霊体化して逃走!

 

 

 

……というのが昨日の話。

 

さて、セイバーとアーチャーとの戦いも終わり、今日も今日とてキャスターに正座させられてる。

 

「あなた、本当にハンターなのかしら?」

 

「いやぁ、お恥ずかしながらハンターです。人外としか戦ってなかったもんで、対人戦は苦手なんですよ」

 

「……そう。で? どうやって間桐桜を誘拐するのかしら?」

 

「それについては簡単だ。俺の言う通りにすれば、簡単に誘拐できる」

 

 

 

▽▽▽

 

 

 

「誘拐なう」

 

まずはライダーに鮮血神殿を展開させ、一般生徒を気絶させる。あんまり吸わないようには頼んであるから大丈夫だろう。

士郎は桜の教室へ向かい、桜が生きてることを確認した。その後はシンジを探しに教室を出る。つまり、教室には誰もいない。

 

「誘拐なう」

 

桜をお姫様抱っこの状態で運び出す。教室の窓を開けて抜け出し、雑木林へと向かう。

 

その間にキャスターの竜牙兵が多数展開され、セイバーとアーチャーのマスターを追い詰めていく予定だ。

この鮮血神殿、内と外は完全に遮断されている。死にたくなければ、令呪を使うしかない。

 

……おっと、魔力の高まりを感じたぞ。セイバーを呼んだな。

 

だが、足止めには十分な時間だ。雑木林へと辿り着いた。

 

『ライダー、鮮血神殿を解いても大丈夫だ。後は適当にシンジと離脱してくれ。宝具を使ってもオケ』

 

『わかりました』

 

いやぁ、念話って便利だわぁ。離れてても連絡をとれるって、最高だね。

 

俺は今雑木林の中だから、そう簡単には見つからない。見つけたとしても、ここへ来るには時間がかかる。そのお陰で、これを使える。

 

「モドリ玉!」

 

地面に球状の物を叩きつけると、緑色の煙に包まれた。そして、視界が晴れればいつもの山門に居る。

 

いやぁ、本当に便利だわぁ。

作っといてよかったモドリ玉。

 

きっと今頃、士郎たちは桜がいないことに大慌てなんだろうなぁ。んで、キャスターが犯人だと決めつけ、こっちへ向かって来るんだろう。

 

あぁあ、これから面倒だなぁ。

 

嫌な考えを振り払おうと空を見ると、何かがこちらへ向かってとんでもない速度で向かってきていた。

 

あー、ライダーは宝具を使ったのか。

向かってくる速度が段々と遅くなり、俺の前でピタリと止まった。

 

「作戦成功しました」

 

そう言ってライダーはペガサスから降りた。ペガサスの方も消えていった。

 

よし、これでライダーとランサーは死んだと偽装できたわけだな。流石はキャスター。幻術もお手の物ってことだ。

 

「とりあえずほれ、魔力が減っただろ。補充するぞ」

 

片腕をライダーに近づけ、斬らせて傷をつけさせる。深めの傷だったのか、結構痛いし血がダバダバ出て来る。

 

「あんまし血飲むなよ。これでも俺は貧血なんだ。立ち眩みとか酷いんだからな」

 

「えぇ、気をつけます」

 

全然気をつけてないやんけ。傷口から血をガブ飲みしてるやんけ。

 

「うぅ、足に力が入らんくなってきたわぁ。あんまし飲まれたら、このまま桜を落としそうだわぁ」

 

「それは……困ります」

 

ライダーは、そっと傷口から離れた。

 

「さて、これから忙しくなるなぁ」

 

「……ええ、そうですね」

 

「ところであんた、聖杯には何を望むんだい? もしも平和に暮らせたなら……なんて事とかを考えてたりするのか?」

 

「……あなたには、関係のないことです」

 

あっ、やべ。怒らせたっぽい。

 

「あー……気を悪くしたならすまない、謝る。ごめん」

 

「……いえ、気にしてはいません」

 

ふぇぇ……そのジト目で蔑まれながら罵倒責めされたいでふ。

 

 

 

▽▽▽

 

 

 

「どういう、ことだ……」

 

「どうしたの? 衛宮くん」

 

茫然自失と言った声に、凛が反応した。

 

「桜が、居なくなっている……」

 

「……え?」

 

「……まさか」

 

「シロウ、どうかしたのですか?」

 

「ッ! ……いや、なんでもないよ」

 

セイバーの問いで、思考の渦から引き戻された。

まずは、生存者の対応だ。

やれる事を先にやろう。

 

 

 

──カアァ、カアァ

 

 

 

夕方になって生存者への対応も終わり、昇降口で情報交換を始めた。

 

「使い魔たちを操っていたのはキャスターの陰に過ぎませんでした」

 

「そうか…キャスター本人は柳洞寺から動いていないんだな」

 

セイバーの発言に対し、確認の意味を込めて問い直す士郎。

 

「ライダーは騙し討たれた、と言う訳ですか」

 

「くそっ…けどどうあれキャスターのマスターが学校にいるってことはわかったんだ」

 

やはり想像通り、キャスターが桜を攫ったのだろう。

 

「……遠坂、言いたいことがあるなら言えって」

 

「衛宮くん冷静なのね。意外だった」

 

「冷静じゃないぞ。怒りで我を忘れていただろう」

 

「それでもみんなの傷を把握してたじゃない。私にはできなかったけど」

 

「別に大したことじゃない。死体は見慣れてる」

 

「えっ?」

 

段々と騒がしくなってきた。救助隊が到着したのだろう。

 

「裏口から出よう」

 

「セイバーがいるとは驚いたな」

 

「お前……」

 

アーチャーか。

 

「アンタ今頃やってきて何のつもりよ!」

 

「決まっているだろう。主の危険を感じて駆けつけた。最も、遅すぎたようだがね」

 

「えぇもう済んじまったわよ!何が起きたのか1から聞かせてやるからそこに直れっていうの!」

 

「ちっ。どうやら最悪の間で到着してしまったか」

 

「場所を変えて話そう」

 

ここ、目立つから。

話すなら、人目のつかない雑木林がいい。

 

 

 

 

 

 

「消えたのはライダーのサーヴァント。状況はわからないけど、キャスターにやられたのよ。おそらく」

 

「フン、腑抜けめ。所詮口だけの女だったか」

 

今日も毒を吐くアーチャー。

 

「ライダーはマスターを守って死んだ。腑抜けなどと貴方に言う資格はない」

 

セイバーが反論する。

 

「腑抜けは腑抜けだろう。英霊を名乗るのなら、せめて命懸けで相討ちを狙えと言うのだ」

 

「それができぬ状況であったあからこそ、無抵抗で敗れたのではないか」

 

セイバーの言葉に、チカラが篭る。

 

「散り様を罵るとは、貴様こそ英霊を名乗る者か」

 

「英霊であろうがなかろうが、この戦いに相応しくない輩は早々に消えればいい」

 

「よく言った。ならば私と戦うか、アーチャー」

 

セイバーの、見えざる剣から暴風が吹き荒れる。雑木林が揺れ、軋む音が聞こえる。

 

「私は、おまえたちと戦うな、と令呪が下されている。いま挑まれてはライダーと同じく無抵抗で倒されるだけだが、それが君の騎士道なのか、セイバー?」

 

「そこまでよアーチャー。また私に令呪を使わせたいの?」

 

「そうだな。セイバー殿があまりにも王道ゆえ、からかいに興が乗ってしまった。すまんな、セイバー」

 

「……いいえ。私も大人げなかったようです。凛に免じて今の発言は聞き流します」

 

「兎に角、キャスターを倒すんならマスターを捜すのが先決よ。引き続き学校の調査、そしてキャスターのマスターを発見次第襲撃するわ」

 

「遠坂、1ついいか?」

 

「何かしら? 衛宮くん」

 

「恐らくだが……桜も、キャスターの所にいる」

 

「……ええ、そうね。状況的に、そうとしか考えられないわ」

 

「……で、キャスターのマスターはどうやって探せばいいんだ?」

 

「それは今後の宿題。みんな疲れてるでしょ?今日はここで解散」

 

「おいおい今からでも……」

 

士郎の発言が不味かったのだろう。

凛が士郎の腕を掴み、アーチャーたちから離れる。

 

「アーチャーの様子がおかしいって気付いてないの?纏まるものも纏まらないじゃない」

 

耳元でコソコソと話すが、そんなものは思春期の男子には逆効果である。

 

「分かった帰る。大人しく帰るから」

 

学園のマドンナの吐息が耳元にかかり、デレデレの士郎。タイガーというヒロインが居ながらこの始末。

 

「じゃまた明日ね。ちょっとだけだけど貴方をマスターだって認めてあげたから」

 

凛が士郎から離れていく。

もうちょっとだけ、と思ってしまった士郎。当然の考えだ。

 

「行くわよアーチャー。帰ったら本気でさっきの不始末を追及するからね」

 

「やはりそう来たか。凛にしては口汚さが足りないと思ってた」

 

「あんたねぇ…ほんっと一度白黒つけなきゃダメなわけ?」

 

女ってのは、怖い生き物である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 


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