第4話
「ようこそ、俺の秘密基地へ」
「うわぁ。陰気臭い場所だねぇ、ここ」
そりゃそうだ。ここ、Zeroでキャスター陣営が使ってた場所なんだもの。
「……」
ライダーさん、一言ぐらい何か言ってくださいよ。
「……で、僕の魔術回路は、どうやったら創れるんだ」
お前さっきからそればっかりだなオイ。
「それをやるには、準備が必要だ」
もしも失敗したら、廃人になるかもしれんしなぁ。
「あぁ、そうそう。俺はキャスターと組んでるんだわ。アサシンクラスなんでよろしく」
本当はハンターだけどね。
「ちなみに、あんたのクラスはライダーで合ってるよな?」
「……はい」
俺、嫌われてるなぁ。やっぱハンターだからかなぁ。
「ライダー、アサシン、キャスターか。いい具合に集まってるね」
ワカメが、こんなセリフを言えるだと?
俺の知ってるワカメは、もっとこう……ヒドかった。それがなぜこんな、普通な人に……いや、思考がズレた。
「さて、情報交換といこう。俺は、各クラスのサーヴァントの情報を持っている。セイバーのマスターは衛宮士郎。アーチャーのマスターは遠坂凛。ランサーのマスターは分からないが、真名はクー・フーリン。バーサーカーのマスターはアインツベルン。こんくらいだな」
「……そうか」
あれ? 反応が薄い。
「そっちには、どんな情報がある?」
「そうだな……」
チラリと、ライダーの方を見るワカメ。
ライダーは何も反応しない。
視線を此方へ戻し、口を開いた。
「見ての通り、僕は魔術師じゃあない。本当のライダーのマスターは……妹の、桜だ」
え? 言っちゃうの? そんなことまで言っちゃうの? ライダーでさえもピクリと反応したよ? お前、マジでワカメか? ワカメにしては綺麗すぎないか?
「桜は、本当の妹じゃあない。本当は、遠坂凛の妹だ」
わぁ、キレイなワカメダナー。
「僕に魔術回路があったなら、桜は、間桐の魔術を受け継がずに済んだんだ。でもそれは、たらればの話だ。僕には才能が無かった。ただ、それだけの話だ」
ウソ……このワカメ、綺麗過ぎ?
「今さら魔術回路を創り出せたとしても、もう手遅れだ。でも、もしもを考えちまう。もしも魔術を使えたならって」
「……そうか」
こんなん聞かされたら、嫌でもやる気が出てきちゃうじゃないですかー。
「いいぜ、気に入った。救いようのないクズだと思ってたが、冷静になってマトモになったじゃあねぇか」
「んなぁ!? 僕が救いようのないクズだと思ってたって言うのか!? ふざけるな! 僕はクズなんかじゃないぞ!」
なんだ、いつものワカメか。
「フッ、まぁいい。では、作戦を発表しよう」
▽▽▽
ライダーが士郎を適当に痛めつけ、怪我をさせたのが昨日の話。
呪刻潰しをしていた士郎をシンジが煽ったのが今日の話。
つまりは、そう。
今日、俺は山門の守護者として、もう一度戦うことになる。
「聞こう。その身はいかなるサーヴァントか」
やっぱり、来ちゃったか。
階段の下の方から、世界に名高い騎士王の凜とした声が響く。
「アサシンのサーヴァント。佐々木小次郎」
小次郎のコスプレしてるだけだがな。
「名乗られたからにはこちらも名乗り返すのが騎士の礼。その上でここを退いてもらうぞ」
え? 名乗るの?
「私の名は……」
「よい。敵を知るにはこの刀だけで十分だ」
真名バレはダメでしょうに、騎士王様。
「ここを通りたいのならば、押し通れ」
背中の太刀を抜刀し、ダラリと自然に垂らした。
長さは物干し竿と大して変わらないだろう。向こうと比べて、強度と切れ味はかなりいいがな。
仕掛けて来たのは、セイバーだった。
やはり、マスターの身を案じているのだろう。一振り一振りに力が篭っている。だが、甘い。所詮は騎士。やはり愚直なまでの剣筋だ。フェイントをかけられたりしても、ある程度余裕を持って対処出来る。
では此方も攻めてみるか。
置いてけぇ。置いてけぇ。首を置いてけぇ。とにかく首を狙ってやるぜぇ。
「いやお見事。その首5度は落としたつもりだがいまだ付いていようとは。西洋の棒振りにも術技はあったのだな」
「そちらこそ 小細工だけは達者なようだな」
「おうさ。力も気合いもそちらが上、となればこちらの見せ場は巧さだけよ」
アーチャーやランサーの動きを取り入れ、頑張って会得したからな。
あとは対人戦を積むだけだったが、そこはそれ、騎士王様と戦うことで段々と慣れて来た。
くらえ! 学習して慣れて来た事によって、更に上達した剣技を!
ぶんぶんぶんぶん振り回してセイバーを攻め立てるも、割と普通に防がれる。
あぁ、悲しいかな。小次郎ならもっと巧く戦ったのだろう。俺では全然ダメだ。
でも、戦えば戦うほど対人戦に慣れて更に強くなる俺は、現状セイバーより有利なはず。
なら、とっておきを見せてやろう
「この期に及んでも宝具を明かさないのだな」
これを使うためには、足場が広い方がいい。
「頭上の有利を捨てるのか?何のつもりだ」
この、階段と階段の隙間にあるちょっと広めのスペース。ここでなら放てる。
「無名とは言え剣に捧げた我が人生だ。死力を尽くせぬのなら……」
悪いな、セイバー。運が悪いと、お前の首は落ちる事になる。
「その信念 力ずくでこじ開けようか」
俺も、小次郎のこれだけなら扱うことができる。
「秘剣──燕返し」
この技で以って、俺は幾多のモンスターを斬り伏せて来た。さぁセイバー。どう対処する?
「クッ……!!」
ほう。ストライクエアで飛んで逃げたか。だが、確かに掠った。
「凌いだな。我が秘剣を」
小次郎なら、首を斬り落としていたかもしれないな。
「なに、そう大した芸ではない。偶さか燕を斬ろうと思いつき身についただけのものだ」
実際は、ドラゴンを斬ろうとしたんだがな。
「しかし連中は素早くてな。事を成したければ一呼吸の内に重ねなければならなかった」
一呼吸の間に重ねなきゃ、攻撃する暇すら見つからんからな。
「そのような真似は、人の業ではない」
自分が出来ないからってそんな事を言っちゃあダメだぞ、この動く固定砲台め。
「だが生憎と、他にやることもなかったんでな。一念鬼神に通じるというやつだ。気が付けばこの通りよ」
九頭龍閃は無理。9つ重ねるのは流石に無理だった。
だが、燕返しでも、騎士王相手なら通じる。
さて、少しばかり本気を出そうか。
気も練れた。今度はこの技を使ってみよう。
「気刃斬り」
練り上げた気を込める事によって、先程までよりも更に早く、重く、鋭い斬撃で騎士王を攻め立てる。
「グッ」
だが、まだ防がれる。まだ足りない。あと少し。あと少し。
「でああぁ!!」
「クッ!」
ストライクエアか。厄介なり。
風で飛ばされ、仕切り直しとなる。足場は階段のせいで悪い。燕返しは使えない。
「士郎!」
セイバーが階段を飛び上がり、上から落下して来た人物を受け止めた。
そういや、こんなシーンもあったなぁ。
「なぜ、今私を討たなかったのです?」
「なに。果たし合う顔もよかったが、主を想う張り詰めようも捨てがたくてな」
流石は型月の看板娘。可愛かったぜ。
「今宵はこれで十分。立ち去るがいい」
おっと、そういや忘れてたな。
「そうだ、これを使え」
腰に括り付けた袋から瓶詰めの液体を取り出し、セイバーに投げ渡す。
「なんだ、これは?」
「ちょっとした活力剤だ。傷の治りが早くなるだろうよ」
「……感謝します」
セイバーが軽く会釈した。
だが、世の中には無粋な者も居るものだ。
上からアーチャーが落下しながら斬って来たので、それを凌ぐ。
「邪魔をするつもりか?侍」
「それはこちらのセリフだ。見逃すと言った私の邪魔をするつもりか?些か雅さに欠ける首だが今宵はそれで納めるとしよう」
置いてけぇ。首を置いてけぇ。
「キャスターの手駒風情が、この俺と闘うと?」
「貴様こそあの女狐めの胆を冷やそうと送ったというのに、我が身可愛さで逃げ返るとは失望したぞ」
手が早い! まぁた攻めて来た。
「士郎、いまのうちに」
よしよし、セイバー達は帰ったな。
「私の目的は、彼女達を見逃す事。お前の目的は、あの少年を殺す事。さて、見逃すために全力で殺しに行くとしよう」
「アサシン……いや、お前はアサシンではないな」
あっ、やべ。こいつ、剣を見たら直ぐに解析するやん。てことは、直ぐに身バレするやんけ。
「幻想種で構成された武器。対人外の技術が垣間見える剣技。ここまでくれば簡単だろう」
英雄博士かよ。
「数多の幻想種と戦い、勝ち、喰らってきた狩人の英雄。ハンターの語源たる英雄。アサシンと同じく、クラス名が真名に繋がる英霊」
もうやめてぇ! ドヤ顔で真名バラすのやめてぇ!
「貴様。クラス、真名共に、ハンターの英霊だな?」
「はぁ……バレちまったかぁ。もうちょっとだけ騙してられると思ったんだけどなぁ。しゃあないか」
「潔く認めるのか」
「まぁな。ぶっちゃけ、真名バレしても痛くないんだよなぁ。エクストラクラスなのに知名度が高いってのは、なんでかなぁって思うけど」
「ハンターの語源となった英雄だ。エクストラクラスが出来るのは、当然とも言うべきだろう」
「うへぇ。知名度が高いってのも、考えものだな」
「私としては、意外という感想を持っている」
「意外? どこら辺がだよ」
「ハンターの語源たる英雄と、こうも気安く会話できるとは思わなくてね」
「俺、どんな扱いなのよ」
「さぞかし気難しい人間なのだろうと」
「俺はただ単に、下心満載の奴等と腹の探り合いなんて面倒なことはしたくなかっただけなんだよなぁ……」
「なるほどな」
「んで、どうするんだ? 俺としてはまだ戦ってもいいんだが」
本当のことを言うと、もっと戦ってアーチャーの剣技を吸収したい。
「いや、いい。これ以上は不毛な争いだ」
そう言って、アーチャーが霊体化を始める。
「あぁちょっと待て」
「なんだね?」
「先輩から、後輩へのプレゼントだ。受け取れ」
腰に括り付けた袋から、瓶詰めの液体を取り出し、アーチャーへ投げ渡す。
「なんだね? これは」
「俺の血を薄めたやつ。飲めば魔力回復する」
「んなっ!?」
「あと、先輩から後輩へのアドバイスだ」
「……」
「どう足掻いたって過去は変わらない。変えられるのは、今と、これからだ。たらればを考えてる暇があったら、今出来ることをした方がいいぞ」
「貴様に何がわかる」
「俺には分からん。お前の剣は俺と同じで、凡人の剣だ。憧れに向かって走り、現実を見て、挫折した剣だ」
やっぱ、才能ってのは無慈悲だわ。
「いつもいつも、たらればを考えていた。でも、そんなのは無駄だった。考えた所で、何も変わらんしな」
ボウガンがあったら楽なんだろうなぁって、いつも考えてたよ。
「お前は、もしかしたら俺に憧れてたのかもしれない。でも、俺もお前と同じで、物語のなかの英雄に憧れてたのさ」
▽▽▽
セイバーの主従コンビは家に帰り、マスターの手当てをしていた。
「アイツは最低だ。勝つ為とは言え、それじゃキャスターと何も変わらないじゃないか」
その発言に対し、セイバーはクスリと笑う。
「なんでそこ笑うんだよ」
「士郎が人の悪口を言うなんて、珍しいと思いまして」
士郎は普段人の悪口なんて言わないので、そこが面白かったのだろう。
「ですが、アーチャーに斬りつけられたことを怒ってはいないのですね」
「……俺はあくまで遠坂と協力関係を結んだだけだ。そういう意味では、あいつの行動は裏切りじゃない」
「まったく、士郎は不思議ですね。確かにキャスターは放置できない敵ですが、アーチャーは非道ではないと私は思います」
石段での戦いを思い出しているのだろう。セイバーは、遠くを見据えながら、話し始めた。
「彼の剣技は清流のようでした。心に邪なものがないのでしょう」
セイバーの視線が士郎へ戻る。
「……決めた。傷が治り次第剣を教えてくれ。ただの鍛錬じゃなくて戦う方法を」
「はい。士郎がそう言うのでしたら」
「犠牲者を少なくするために犠牲者を出すなんて言ったアイツだけには、負ける事は許されない」
活力剤の存在を忘れられている模様