インフィニット・セイント   作:ロナード

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 少しペースが遅れてきましたね…祐介とアルベリッヒとの戦いに加え、もう一人の幻闘士も登場します。


第4話 ミラージュピース

 アルベリッヒの放つ技により一夏達が別の場所に飛ばされ、一人残った祐介はアルベリッヒと対峙していた。

 

「大自然の精霊達よ、奴を生け贄に捧げる!好きにするがいい!ネイチャー・ユーニティ!!」

「高まれ俺の小宇宙(コスモ)よ!お前が大自然に住む精霊達を使役するというのなら、俺はアルベリッヒ、お前では無く、その精霊達を叩くまでだ!狐座フォックスの聖闘士(セイント)である祐介が命じる。積尸気(せきしき)よ、俺の声に応え、精霊達を凍結させよ!積尸気凍結界(せきしきとうけっかい)!!」

 

 アルベリッヒが放つネイチャー・ユーニティは大自然の精霊達を使役する事でその力によってか巨大な木の根っこが相手に襲い掛かる上に木の根っこから(つぶて)が発射されるので攻撃範囲が広く威力も高い凶悪な技だが、祐介は積尸気を司る聖闘士である蟹座の黄金聖闘士で自分の師でもあるキャンサーのカブキから伝授された技の一つである積尸気凍結界を発動させると、アルベリッヒのネイチャー・ユーニティで現れた巨大な木の根っこが凍り付き、そのまま静かに砕け散った。

 アルベリッヒは一体、何が起こったのか解らない様で困惑した表情になる。

 

「バカな…私のネイチャー・ユーニティが凍り付くなど有り得ぬ…凍り付いたのはネイチャー・ユーニティだけでは無い…精霊達までもが凍り付き、動かなくなっているだと!?」

「積尸気凍結界。これは本来なら積尸気から呼び出した霊魂を凍結させて相手を凍り付かせる事が目的の技だが、霊体だけを凍り付かせる事も可能だ。精霊達もいわば霊体の一種だ。俺は積尸気凍結界を使いアルベリッヒ、お前が使役する精霊達を凍結させて身動き出来ない様にした訳だ。積尸気から相手を凍り付かせる程の霊魂を呼ぶのは少し骨が折れるが、精霊達だけを凍り付かせるだけなら容易い事だ!」

「チッ!面倒な技を…だが、この程度で精霊達を止められると思ったら大間違いだ!」

 

 祐介が放った霊魂を凍らせる積尸気凍結界は霊体の一種でも有る精霊達を凍り付かせたが、アルベリッヒは祐介の技の特性を把握すると冷静になり、積尸気凍結界に対抗出来る新たな精霊を呼び出した。

 

「炎の精霊達よ、今こそ集いて凍り付き動かなくなった同胞達を解放するのだ!サラマンダー・ウェーブ!!」

 

 アルベリッヒが炎の精霊達を呼び出すと、この一帯に強大な熱エネルギーが発生すると巨大な炎の衝撃波が拡散し、祐介はその炎の衝撃波を受けて吹っ飛ばされてしまい、岩の壁に背中が当たり大きなダメージを受けてしまった。

 

「グアッ…何だ、この熱エネルギーは…」

「炎の精霊達を呼び出し、膨大な熱エネルギーを作らせて炎の衝撃波を放つ技サラマンダー・ウェーブの味はどうだフォックスよ?熱いとかじゃ済まない物凄い衝撃だっただろ?この技を使った事でお前の積尸気凍結界で凍り付いていた精霊達も動ける様になった上にお前にも大きなダメージを与える事が出来た。一石二鳥とはこういう事を言うのだ」

「精霊達が動ける様になったと言うのならば…凍らせるのでは無く、お前の使役する精霊達を俺が逆に利用してお前を倒してみせよう!」

「ほう?面白い。やってみるがいい!私の使役する精霊達は決してお前の味方になる事は無い!それでも精霊達を利用して私を倒すというならば、見せてもらおうか!」

 

 アルベリッヒは炎の精霊を炎の剣に変えて手に持つと、その炎の剣で祐介に斬撃を喰らわせていく。

 

「どうした?さっきの言葉は出任せか?さっさとしないと焼くと斬るの二つを同時に味わうこの痛みから解放されないぞ!」

「くっ…言われずとも今、見せてやる!積尸気最大の技をな!!」

 

 祐介はアルベリッヒを蹴り飛ばして、距離を取ると積尸気最大の技を放とうと小宇宙を高めた。

 

「描き出せ俺の小宇宙よ!積尸気魂葬破(せきしきこんそうは)!!」

「なっ!?何だこの技は…精霊達が悲鳴を挙げているだと…」

「積尸気魂葬破は積尸気最大の技だ。その特性は霊魂を起爆剤へと変えて爆発させるものだ。つまり、お前の使役する精霊達自体がお前に引導を渡す爆弾となる訳だ!」

「バカな…精霊達が爆弾となり、この私を…」

「時間だ!爆発の時間だ(イッツ・エクスプロージョンタイム)!!」

 

 祐介が高らかにそう宣言し指を鳴らすと、アルベリッヒの周りにいた精霊達とアルベリッヒが手にしていた炎の剣となっていた炎の剣が爆発し出し、アルベリッヒはその爆発に飲み込まれていた。

 

「俺の全力の小宇宙を込めて威力を最大にまで高め放ったんだ。さすがにこの爆発を受けては只では済まない筈…アルベリッヒは倒せたのか…」

 

 爆発の威力で砂煙が舞い散る中で祐介は全力で放った積尸気魂葬破でアルベリッヒを倒せたのか確認する為に前に出る。砂煙が晴れると、目の前にはアルベリッヒが巨大な紫色の水晶の様な物の中に入っており、その水晶が砕け散ると中のアルベリッヒが出てくる。

 

「さすがに今のをまともに受けていたら、私は倒れていただろうが…積尸気魂葬破の爆発を受ける直前に咄嗟にアメジスト・シールドを使ってダメージを減らしたのだ。まさか、本来なら相手を閉じ込めるアメジスト・シールドをこんな形で私自身に使う事になるとはな…そこまで私を追い詰めた事は評価しよう。だが、今の技でフォックスよ。お前は全力を使い切ってしまった以上、最早ここで私の手で散る運命なのだ!」

「くっ…ここまでなのか…」

 

 アルベリッヒは再び炎の剣を作り出すと祐介に向けて振りかざそうとした時だった。

 

鳳凰(フェニックス)幻魔拳!」

「ガッ…何だ今のは?誰だ、姿を見せろ!」

 

 アルベリッヒが祐介にトドメを刺そうとした瞬間に自分に攻撃をしてきた者が現れたので、その人物に姿を見せる様に言うとその人物が姿を現した。その人物は不死鳥を思わせる鎧を纏った少年だった。

 

「お前か?今、私に蚊に刺されたかの様な攻撃をしたのは?」

「そうだ。俺の名はフェニックスの聖闘士紅蓮だ!」

「紅蓮だと!?確か伝説の聖闘士フェニックス一輝の弟子がそんな名前だったと聞いた気が…」

「ああ、そうさ。俺がそのフェニックス一輝の弟子である現フェニックスの聖闘士紅蓮だ!下がっていろ、フォックスの聖闘士よ。お前は少し休んで見物でもして回復に専念した方がいい」

「そうさせて貰う。すまない、フェニックス紅蓮。情けない話だが、この狐座フォックスの祐介はお言葉に甘えさせてもらう。後は任せた…」

「ああ、任された。フォックスの祐介、お前の頑張った分を無駄にしない為にもこの勝負は俺が征す!」

 

 祐介は紅蓮にアルベリッヒの相手を任せる事にし、後ろに下がって回復する為に休む事にした。アルベリッヒはいきなり現れた紅蓮がフェニックスの聖闘士だと聞くと、何かを思い出したかの様に口を開いた。

 

「フェニックスだと?ほう、あの死に損ないの一輝の弟子か。どうやら、さすがの一輝も二つ星幻闘士(ファンタジスタ)バキュラのゾーラにヤられた一撃で再起不能に陥った様だな!差し詰め、それで弟子であるお前が急遽フェニックスの聖闘士になった訳か」

「バキュラのゾーラ…ソイツは単眼のマスクを被った大男の事か!!」

「そうだ。奴がペラペラと自慢していたのを何度も耳にたこが出来るほどに聞いたからな…」

 

 アルベリッヒは紅蓮の探していた一輝の敵である者の正体はバキュラのゾーラだと話すとアルベリッヒは急に我に帰り、先程喰らった鳳凰幻魔拳の特性を思い出し、自分が嵌められた事に気付いた。

 

「チッ、私とした事が…先程喰らった幻魔拳の効力を忘れていたとは…精神を攻撃する幻魔拳で私の口を軽くし、奴の情報をあぶり出すとは…」

「思ったより、一輝を追い詰めたあの卑怯者の事を話してくれたな。先程の幻魔拳でお前の精神を完全に破壊する事も出来たが…俺は敵である奴の情報をお前から得る為に敢えて威力は抑えた。お陰でお前から敵である奴の名前がバキュラのゾーラだと知る事が出来た」

「フェニックスよ、よくも私を嵌めてくれたな!私にペラペラと敵に情報を漏らしてしまった失態はお前を始末する事で帳消しする事にしよう!大自然の精霊達よ、奴を葬れ!ネイチャー・ユーニティ!!」

 

 アルベリッヒは自分の失態を帳消しする為に紅蓮を消そうと、ネイチャー・ユーニティを放とうとしたが何も起こらないので困惑したのか取り乱し始めた。

 

「ば、バカな!?な、何故だ!?精霊達が私の声に反応しないどころか…精霊達の声すらも聞こえなくなっている…まさか、既に私は…」

「そうだ、アルベリッヒ。お前の全神経は既に幻魔拳で壊れ始めている。俺は幻魔拳をお前から敵である奴の情報を得る為に敢えて話す事だけは可能な状態になる様に加減しただけだ。幻魔拳は精神を破壊すると同時に神経すらも砕く!最早、お前の神経は喋る事しか出来ないまでに破壊されたのだ!!」

「ふざけるなぁぁっ!!?私は簡単には終わらぬ!精霊達の力が使えなくとも、私にはまだアメジスト・シールドが残っている!お前を永遠に結晶の中に閉じ込めてやろう!私と共にな!!アメジスト・シールド!!」

 

 アルベリッヒはアメジスト・シールドを自爆覚悟で自分の回りに放つと、アルベリッヒの足元から回りの地面が紫色の結晶に侵食されていき、それが紅蓮をも飲み込もうとしていた。アルベリッヒの身体も結晶に閉じ込められる中でアルベリッヒは叫んだ。

 

「どうだ!!これなら私が動けなくとも、お前を閉じ込める事が出来る!私と共に結晶の中で永遠に眠りに着くのだ!!」

「最早、敗北さえしなければ共倒れでも構わない様だなアルベリッヒ…だがな、俺はお前と共に結晶の中に閉じ込められる気は無い!」

 

 紅蓮の足が結晶に侵食され始めるが、紅蓮は小宇宙を高め、フェニックス最大の技を放とうと鳳凰の構えを取った。

 

「最大燃焼しろ俺の小宇宙よ!!フェニックス最大の拳!鳳翼天翔!!」

 

 紅蓮が放った鳳翼天翔は炎の拳から放たれた衝撃波が火の鳥と化し相手を燃やし尽くすフェニックス最大の技であり、その火の鳥がアメジスト・シールドで結晶に侵食されていた大地を羽ばたくと、結晶は崩れていき、火の鳥は結晶を砕き中にいたアルベリッヒを炎で包み込んだ。

 

「ぐわぁぁっ!!?私は…また敗けて、また死ぬのか…イヤだぁぁぁっ!!?」

 

 アルベリッヒは炎によって燃やし尽くされると、ハイドルアに与えられた二度目の生を受けた事が原因か力尽きたアルベリッヒの身体は妖しい光を放つと水となり地面に吸われていった。

 紅蓮と祐介は今のアルベリッヒの死に方は二度目の生を受けた者は普通の死に方は出来ないのを実感させるものだった。

 

「どうやらハイドルアに二度目の生を与えられた者が死ぬ場合、死に際がこの様に水となり散る定めらしい」

「今思えばアルベリッヒは哀れな奴だ。己が生き返る為に二度目の生を受けた結果がこれでは…死体も残らない様では本当に生きていたのかさえ実感出来ないだろうな…」

 

 紅蓮と祐介は二度目の生の誘惑に敗けた結果のアルベリッヒの死に際を哀れに思う中、祐介は先程アルベリッヒが水となり散った場所に瑠璃色の宝石が落ちているのを見つけたので拾い上げた。

 

「この瑠璃色の宝石…アルベリッヒが水となり散った場に有るという事はアルベリッヒが持っていた物か?」

「そう考えるべきだろう。それより、その宝石をどう見る祐介?」

「見た目は綺麗な宝石だが…何故だろうか、危険は無いだろうが邪な何かをこの宝石からは感じ取れる…」

「お前もそう思ったか…その宝石は怪しいが一応は持っていた方がいいかもしれないな。アルベリッヒが持っていた辺り、ハイドルアに関係有る代物かもしれないからな」

「お前の言う事も一理有るな。俺はこの宝石を砕こうと思っていたが、この宝石が何か分からない以上は壊す方が危険かもしれないしな。取り敢えずは俺が持っておこう。聖域に持っていけさえすれば、この宝石が何なのか分かるかもしれないしな」

 

 祐介は紅蓮の言う事も一理有ると思い、宝石を持っていく事にした。祐介はアルベリッヒに飛ばされた一夏達を探しに向かう事にし、紅蓮にこれからどうする気か尋ねる。

 

「俺はアルベリッヒに飛ばされた仲間達を探しに向かおうと思うのだが、紅蓮お前はこれからどうする気だ?」

「知りたい情報はアルベリッヒから聞けたからな。俺にはもうここにいる理由が無いからな。悪いが…ここでお別れだな」

「そうか…なら、俺は一夏達を早く探しに行かねばな」

「一夏だと?一夏がここにいるというのか…」

「ああ。一夏は俺と同じく聖闘士の一人になった仲間さ。紅蓮、その言い方だと一夏を知ってるのか?」

「まあな。俺は一輝がまだ健在だった時に一輝と一緒に聖域に行く事が何度か有ってな。その時にたまたま知り合って意気投合して友になったってところだな。それで祐介、一夏は何の星座の聖闘士になった?」

「ペガサスだ」

「一夏がペガサスの聖闘士か…結構似合っているな。アイツらしいと言えばいいのか?取り敢えずは俺に追い付いて聖闘士になったんだな。それでこそ、良き我が友で有り、良き我がライバルって感じだな!」

 

 紅蓮は祐介から一夏がペガサスの聖闘士になった事を聞くと、一夏が聖闘士になった事を嬉しく思うと同時に追い付かれない様に頑張らないといけないと思いながらも紅蓮はカノン島から去っていく。そんな紅蓮を見届けた祐介は一夏達を探しに向かうのだった。

 

 

 

 一方、その頃の一夏と龍音にラインハルトの三人は洞窟の外に出て、カノン島の火山の火口を目指して、火山を昇っていたのだが…そんな三人の前にアルベリッヒの他にいたもう一人の幻闘士である大きく尖った甲冑の様な橙色の幻衣(ホロウ)を纏った赤いバンダナで髪を覆った男が立ち塞がった。

 

「山羊座のラインハルト…テメェは確か死んだと聞いたんだが…どうやら、暗黒聖闘士(ブラックセイント)の中に紛れ込んで生きてやがったのか。それで俺様達、幻闘士の情報を有る程度得たからこうして本性を現したってところか?」

「そういうところだな。さて、そろそろこの暗黒聖衣(ブラッククロス)とはおさらばするとしよう。今より正真正銘本物の山羊座の聖衣(クロス)を纏う事にしよう!来い、山羊座の黄金聖衣(ゴールドクロス)よ!」

 

 ラインハルトが山羊座の暗黒聖衣をパージすると、聖域に有る山羊座の黄金聖衣がラインハルトの目の前に瞬間移動し出現すると、ラインハルトは山羊座の黄金聖衣を纏った。

 

「久々だな、カプリコーンクロスよ…さて、お前が持つミラージュピースを渡して貰おうか!」

「チッ!ミラージュピースを狙ってるって事は…そういう事なら何が何でも聖闘士に渡す訳にはいかないな!例え、黄金聖闘士(ゴールドセイント)が相手で有ろうと俺様のミラージュピースは渡さねえぜ!一つ星幻闘士テカラピアのハンス様が今ここでテメェを始末してやるよ!ソコのオマケである青銅聖闘士(ブロンズセイント)も一緒にな!」

 

 ハンスと名乗る幻闘士の男は青銅聖闘士である自分達を見くびっている様なので、一夏はハンスに向かってこう告げた。

 

「一言言っとくぜ。俺と龍音が青銅(ブロンズ)だからって甘く見ていると足元を巣食われるぜ!」

「その通りだな。ハンスよ、この一夏は俺が鍛え上げた自慢の弟子だ!青銅だからと言って侮っていては本当に足元を巣食われるぞ!」

「ほう。そのガキがテメェの弟子って事か。じゃあ、ソコの女だけがオマケか?」

「オマケ?どういう事かな?」

「だってそうだろ。お前は女だから守られてばかりいる女々しい存在だろ!」

 

 ハンスは龍音を真のオマケ扱いにし、本来は男にしか使わないのだがそれを知らないのか彼女を女々しいと発言する。更にハンスは龍音に向かってこう言う。

 

「ケッ、今の世界は女しか扱えないISが最強だとかってほざいて威張り散らす糞ったれの女ばかりいる世界だしよ!!どうせ、テメェもそんな女の一人なんだろ!!」

「おい、龍音は間違ってもそんな女じゃねえよ!!」

「へっ、どうだかな!ペガサス、テメェがそう言って守ってやってるだけなんだろそのブスを!」

 

 一夏はハンスが言う様な女じゃないと告げるが、ハンスは聞く耳を持たず、龍音をブス呼ばわりした。その言葉を聞いた龍音からは何かが静かに切れた音がし、龍音はハンスに笑顔で尋ねた。

 

「ねえ、今言った事をもう一度聞かせてくれない?よく聞こえなかったから、お願いね。英語で言えばリピートアフタミーってところかな?」

「仕方ないな、簡潔に纏めて言ってやるよ!テメェの事を守られてばかりいる女々しい糞ったれのブスだって言ったんだよ!!」

「ブス?それは誰に向かって言ってる言葉なのかな?」

「だからテメェだよドブス!!聖闘士だろうが所詮は女々しいだけの糞ったれのブスだろ!!」

「フフッ…そうか、そうなんだ…アハッ」

 

 龍音は自分をブスと呼ぶハンスに笑顔を向けるが、その笑顔は殺気に満ちたものであり、その笑顔を見た一夏は恐怖を感じたのかラインハルトに尋ねた。

 

「ラインハルトさん、龍音が笑っていますけど…あれって絶対に…」

「ああ。心の底は笑ってないな…確実に怒っているな…」

「やっぱり…めちゃくちゃコェェな…」

 

 一夏は心の底で誓った。龍音を含め女性には絶対に何が合ってもブスとは言わないという事を誓った。それ程に龍音の笑顔からは半端じゃない怒りを感じたのだ。龍音は拳を強く握りしめながらもハンスに向けて笑顔で発言する。

 

「さっきから聞いていれば…糞ったれだの、ブスだのって…人が大人しくしてるからって調子に乗るのもいい加減にしろ、この野郎!!アンタの顔面をそのバンダナと同じ様に真っ赤に染めてやる!!一夏にラインハルト…絶対に手を出さないでね!コイツだけは女の意地とプライドに掛けて私の手でぶちのめさないと気が済まないから!!」

「龍音…口がかなり悪くなってるぞ…さすがに落ち着け…」

「あん?何か言ったかな?」

「いえ…何も!?ええと、頑張ってくれよ龍音…」

「最早、彼女を止める事は出来ないか…仕方ないか、ハンスの相手は彼女に任せるとしよう…」

 

 一夏とラインハルトはとてつもない怒りを持つ龍音を止める事は出来ないと判断し、事の成り行きを見守る事にした。

 龍音はハンスの前に立つと、ハンスは溜め息混じりで龍音に向けて発言した。

 

「ハアッ、何だよブス。テメェが俺様の相手かよ…女々しい糞ったれのブスじゃ、俺様の相手にはならねえよ!!」

「その傲慢に満ちた態度を端からへし折ってやるから覚悟しなよ!!」

「へっ、無理だぜ!テメェみてえな女々しい糞ったれのブスなんざ、このテカラピアのハンス様の…ぶびゃあぁっ!!?」

 

 ハンスが余裕綽々の態度で相変わらず龍音に酷い暴言を吐きながら改めて名乗り出た瞬間、龍音のアッパーが見事にハンスの顎を捉えるとハンスはアッパーの威力で空中に浮き上がり、空中を縦に何回も回転した後に地面に思い切り背中を打ったハンスがもがき苦しみ出したところを龍音は思い切り助走を付けた飛び膝蹴りをハンスの腹部に命中させ、そのダメージで声にならないハンスに馬乗りした龍音はハンスの顔面に向けて拳で強く殴ると、そのまま拳を何度もハンスの顔面に殴り続けた。

 その光景を見ていた一夏とラインハルトは自業自得とは言え、敵ながらハンスを哀れみ同情した。ハンスは今も尚、龍音に顔面を殴り続けられていた。

 

「本当に龍音はハンスの顔面が真っ赤に染まるまで殴り続ける気みたいですね…どうしますラインハルトさん…さすがに止めるべきでしょうか…」

「止めておけ。下手に止めに入れば俺達も危険だ…この際、龍音の気が済むまでやらせておくとしよう。ハンスがさすがに哀れに思うがな…」

「そうですね…技すら使われずにただボコ殴りされるってのも可哀想ですね…ハンスの技も見ていませんし…」

「取り敢えず、ミラージュピースは確実に手に入りそうだから良しとしようではないか…ハンスよ、自業自得と言えど敵ながらも同情しよう…」

 

 しばらくして、龍音がハンスを殴るのを止めると顔が血で真っ赤に染まり変わり果てた上に歯がほとんど折れたので、まともに喋る事すら出来なくなったハンスに向けて、龍音はこう発言した。

 

「女の意地とプライドを思い知ったかな?それと最後に教えておいてあげる。女々しいって言葉は男にしか使わない言葉なの。ちょうどアンタみたいな奴の事を言うの!さよなら、女々しい男ハンス。ミラージュピースと思われるこの宝石は持っていくけど、別に持っていて構わないよね?断ったらどうなるか解るよね?」

「ひゃひ…」

「じゃあ、お達者でね。まあ、戦士としても普通に生活する上でも最早再起不能だと思うけど…これからの人生、楽しんでおいてね!」

 

 龍音は完全に意気消沈し、かろうじて生きているハンスを後にして一夏とラインハルトの元に戻ってくるとミラージュピースをラインハルトに渡した。

 

「これがミラージュピースだよね?」

「確かにこれがミラージュピースで間違いない…だが、あれはいくら何でもやり過ぎではないか…」

「いいのいいの、ああいう奴は一回、今の様に徹底的にぶちのめさないと調子に乗るからね。さてと、そろそろ行こうか。早く任務を終えて、はぐれた皆を探しに行こう」

 

 ミラージュピースをラインハルトに渡した龍音はハンカチでハンスを殴った時に右拳に付いた返り血を拭きながら先に進んでいった。一夏はそんな龍音を見て絶対に彼女を本気で怒らせない様にしないと心の奥で誓った。一夏とラインハルトは龍音の後を追って火山の火口を目指す事にした。

 

 

 

 

 一夏とラインハルトに龍音が火山の火口に到着すると、ラインハルトは一夏にアテナの瞳を火口に放り込む様に催促した。

 

「一夏よ、このカノン島の火山の火口にお前が持っているアテナの瞳を放り込むのだ。そうすれば、アテナの加護が地上全体に拡散する筈だ」

「はい。これでひとまずは任務を終える事が出来そうですね。じゃあ、アテナの瞳を火口に落としますね」

 

 一夏は自分が手にしていたアテナの瞳を火口に向けて放り投げると、火口のマグマの中にアテナの瞳が沈む。すると、火口から巨大な光が出現し、その光がカノン島の火山から地上全体へと一気に流れていった。おそらく、一般人はこの光を見る事は出来ていないだろうが、アテナの加護が地上全体に広がったのは間違いないと一夏達は思った。

 

「これで任務は無事に終わったって事でいいんだよな?」

「いいんじゃないの。ラインハルトはどう思う?アテナの加護は地上全体に広がったと思う?」

「ああ。アテナの加護は間違いなく地上全体に広がった。聖域の中と比べれば微弱な力だが、確かにアテナの加護が受けられる状態にはなったな。これでハイドルアの支配するバミューダトライアングルの中で少しはまともに動ける様にはなった筈だ」

 

 ラインハルトがアテナの加護は確かに地上全体に広がったと言うので、任務は成功した事で間違いないと判断したので、一夏達は散り散りになっていたフィリス達を探しに行くべきだなと考えていると、フィリスと祐介がコチラに向かって来ているのが見えたので一夏と龍音はフィリスと祐介の元に向かっていた。

 

「フィリスと祐介。お前達も無事だったんだな!」

「当たり前だよ、イッチー!僕はアル何とかの技で飛ばされた先で暗黒聖闘士が十人いたんだけど、適当に片付けておいたよ。その後にイッチーとルーちゃんを探しに動いたら、アル何とかと戦いを終えていたお稲荷と先に合流したから一緒にイッチー達を探していた訳」

「そろそろ言うのもバカらしくなったが敢えて言おう。誰がお稲荷だ…俺は狐座フォックスの祐介だ。まあ、こんなやり取りはともかく…俺はお前達がアルベリッヒの技で飛ばされた後、俺は一人でアルベリッヒと戦っていたが…決定的なダメージを与える事が出来ずに追い詰められていたところをフェニックスの聖闘士である紅蓮に助けてもらい、彼の手によってアルベリッヒは蹂躙された」

「紅蓮だって!?アイツ、ここに来ていたのか!?」

「へえ、紅蓮もここに来ていたんだね。本当に一輝の後を継いでフェニックスの聖闘士になったのね…」

「僕もグレレンがここに来ていたのには驚いたよ。それにお稲荷を助けてくれたみたいだしね」

「もう突っ掛からんぞ。紅蓮と知り合っていなかったのは俺だけの様だが…確かに俺は紅蓮に助けられてしまった。彼が助けてくれなければ俺はアルベリッヒに殺られていただろう。紅蓮はアルベリッヒから一輝の敵と思われる者の情報を聞き出した事で目的を達した為にアルベリッヒ撃破後、カノン島から去っていたが、アルベリッヒを倒した際、アルベリッヒは水になり消えると同時にこの怪しい宝石が落ちたから一応持ってきたのだが…」

 

 祐介が懐から怪しい宝石を取り出したので、それを見た一夏と龍音はその宝石の正体に心当たりが合ったので声に出す。

 

「おい、これってもしかして…」

「そうね。間違いなくミラージュピースで間違いないね」

「ミラージュピース?何だそれは?」

「うーん、僕も聞いただけじゃ解らないけど…詳しい事は彼処にいる死んだと思っていた方に聞けば解るんじゃない?」

「バカな…あの人は間違いなく、山羊座のラインハルト!?死んだのでは無かったのか…」

「詳しい事はラインハルトさんから聞いた方がいい。俺と龍音も生きていたと解った時は驚いたからさ」

 

 一夏と龍音はフィリスと祐介をラインハルトの元へ連れていくと、ラインハルトから今までの事をフィリスと祐介に話した。話を聞いた後、フィリスと祐介はハイドルアという神の強大さを知り、そのハイドルアこそが聖闘士達が倒す敵だと認識した。

 

「成る程、つまりハイドルアを倒すにも…まず敵の本拠であるバミューダトライアングルでまともに動く為に今回の任務が必要だった。その任務は無事に達成し、アテナの加護は地上全体に広がったのはいいが…」

「バミューダトライアングルの中に有るムー大陸を見付けるにはミラージュピースが必要だけど…ムー大陸を見付けても、更にソコに有る魔城アトランタに入るには十五個のミラージュピースが必要で、今有るミラージュピースはアル何とかが持っていた物とルーちゃんが完膚なきまでぶちのめした奴が持っていたのを合わせて二つしか持っていないから…後、十三個のミラージュピースを集めないとダメって事か…」

「本当に面倒な神だな。そこまで人を自分の城には入れたくないというのか…」

「確かに面倒では有るが、十三個のミラージュピースさえ手に入れば後は倒すだけと割り切ればそんなに面倒だと思わなくなるだろう。とりあえず、俺の生存とお前達の任務の達成に幻闘士とハイドルアの情報の報告を済ます為にひとまずは聖域に戻る事にしよう」

 

 ラインハルトが自分の生存と一夏達の任務達成を合わせて幻闘士とハイドルアの情報を報告する為に聖域に戻る事にし、一夏達はラインハルトと共に聖域に戻っていた。

 

 

 

 

 聖域に戻ると直ぐにラインハルトと一緒に一夏達は教皇の間に向かい、教皇に今回の任務の結果に幻闘士とハイドルアの情報を報告した。

 

「成る程、今回の相手はやはり一筋縄ではいかない相手の様だな。一夏達が何とか任務を達成し、アテナの加護が地上全体に広がったと言えど油断は出来ない。幻闘士とハイドルアへの警戒は常に怠らない様に全ての聖闘士に伝えねばな。それとラインハルト、お前が死んだという誤報については、一夏達が任務に向かった後に直ぐに私がそれは誤報だと聖域にいる聖闘士には伝えておいたので、既にお前の戦死はお前の奇策で作ったものだと知れ渡っているから誰もお前が死んだとは既に思っていない。しかし、作戦の為と言えど、味方に心配させたのは事実だ。後で聖域にいる他の聖闘士達に一人一人心配を掛けた事を謝罪するのだな!」

「本当に心配をおかけしました教皇…このラインハルト、責任持って謝罪しに向かう事にしましょう」

「やれやれ…本当に真面目過ぎるなお前は…少しは適当に生きる事を知ればいいものを…まあいい。それがお前らしさと言うものだからな。さて、一夏に龍音、祐介、フィリスの四人もご苦労だった。お前達のお陰でアテナの加護が地上全体に広げる事が出来た。これで少しは幻闘士とハイドルアとの戦いで優位に立てる筈だ。さて、さすがに疲れた筈だ。今日はもう休むと良い。後日、また呼ぶ事にしよう」

 

 教皇がそう告げた後、一夏達は教皇の間を後にした。ラインハルトは本当に聖域中の聖闘士達に一人一人心配させた子とへの謝罪をしに向かった様だ。一夏は本当に疲れたので就寝所に入ると直ぐに眠りについたのだった。




 ハンスは決して弱い幻闘士では有りません…そう決して…ただ女の子をブスと呼ぶのは止めた方がいいですね…

 次回はIS原作に突入する為の伏線となる話になります。

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