インフィニット・セイント   作:ロナード

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 今回はこの作品での聖闘士と敵対する存在が明らかになります。後、前回の後書きで一夏が聖闘士としての初戦闘が有ると書きましたが今回は戦いの前までになります。


第2話 初任務、師の意志を継げ一夏よ!

 一夏がペガサスの聖闘士(セイント)になって早くも一ヶ月の月日が流れた。この一ヶ月の間、一夏は聖闘士になったからと言っても修行を疎かにはせずに続けており、小宇宙の扱いにも慣れてきた頃なのだが…一夏が聖闘士になった日に任務に向かったラインハルトが一ヶ月経っても聖域に戻ってこないので、一夏はラインハルトの安否が気になっていた。そんな一夏の元に伝達係の者から教皇が教皇の間に来る様にと伝えられたので、一夏は急いで教皇の間に向かった。

 教皇の間に着くと、教皇の間には当たり前だが教皇が玉座に座っており、その前に祐介と龍音にフィリスの三人がいるので一夏は三人の横に着くと、教皇が一夏達四人に向けて発言した。

 

「お前達四人を急に召集したのはお前達四人に頼みが有るからだ。一ヶ月前、ちょうど一夏がペガサスの聖闘士になった日に私が命じた任務を受けたラインハルトなのだが…アイツにしては帰りが遅いと思った私が先週に白銀聖闘士(シルバーセイント)で構成した捜索班を派遣してラインハルトの捜索をした結果、残念な事が判明した…」

「ラインハルトさんがどうしたんですか!?」

「一夏、彼の弟子であるお前には一番辛い報告かもしれんな…捜索班がエーゲ海の沖合いに浮かぶ人影を見つけ出し、その人影の正体はラインハルトの遺体だった…そう、何者かとの戦闘で倒れラインハルトは戦死したのだ…」

「嘘だ…ラインハルトさんは簡単に倒されて死ぬ様な人じゃない…」

「落ち着け一夏!今は教皇から話を聞くのが先決だ」

 

 一夏は教皇から捜索班の報告からラインハルトが戦死した事を告げられ、彼の強さを弟子である自分だからこそ一番知ってるのでとても信じられない話だった為に取り乱したので、そんな一夏を祐介が宥めた。今は教皇の話を聞くのが先決だと祐介に言われたので、一夏は大人しく教皇の話を聞く事にした。

 

「ラインハルトが戦死したとは信じられないの私も同じだ…だが、捜索班が彼の遺体を連れて戻っていた為、その遺体を確認した結果、確かにラインハルトだった…ラインハルトの遺体には黒く焦げていた箇所も有った…おそらく、ラインハルトが戦った相手は黄金聖闘士(ゴールドセイント)と互角かそれ以上の実力を持った雷か炎を操る強敵だったと思われる」

「雷か炎を操る奴がラインハルトさんを殺したのか…ソイツを見付けたら、俺が絶対に倒してやる!」

「バカ者!怒りで我を忘れるな!怒りをちゃんと力にして戦えるのなら構わないが、実戦経験の無いお前が怒りに満ちた状態で戦ったところで勝てる相手である筈が無い!何せ、ラインハルトを倒す程の強敵なのだからな!」

「だけど、俺はラインハルトさんの敵を…弟子である俺が師の敵討ちをしなきゃ、誰がラインハルトさんの敵を討つと言うんですか!!」

 

 怒りが混み上がってきた一夏はラインハルトを殺した相手を倒して敵討ちをする事しか考えられなくなった様で、そんな彼の頬に龍音が強力な平手打ちを与えると怒りに満ちていた一夏の頭は真っ白になる。

 

「バカなの?相手の実力を考えずに敵討ちという名目で怒りで自分をコントロール出来ない状態で戦って一夏、あなたは自分が生きて帰れるって思っているの?冷静になって考えてみてよ!怒りに満ちた状態で戦って、仮に敵討ちが成功したところでラインハルトが浮かばれるの?そうじゃないでしょ!ラインハルトがあなたに教えてきたのは怒りで我を忘れて戦う様な事じゃなくて、誰かの為に戦って守り抜く事じゃなかったの!」

「そうだったな…ラインハルトさんが俺に教えてくれたのは、聖闘士としての心構えだけじゃなくて…ラインハルトさんが抱く理想も教わったんだ。ラインハルトさんは聖闘士としての力を決して自分の私利私欲には使わず、他の人を守るためだけに使い、自分が傷付き倒れても、残った者達がその思いを受け継いでくれさえすればいいと…自分はそういう信念で動いているんだとラインハルトさんから聞かされたんだ…なのに、俺は怒りで我を忘れて、ラインハルトさんの思いを踏みにじるところだった…」

 

 一夏は龍音の言葉を聞き、ラインハルトの教えを思い出した。ラインハルトは自分の力を私利私欲の為には使わず、他人を守る為に使う信念を。例え、その信念を貫いた結果、自分が傷付き倒れる事になっても残った誰かが継いでいきさえすればいいと聞かされた。そんなラインハルトの信念を自分は怒りで忘れるところだった。

 それを思い出させてくれたのは龍音だった。彼女が自分に大切な事を思い出させてくれたのはこれで二度目だ。だからこそ、一夏は彼女に感謝の言葉を送った。

 

「ありがとな龍音。俺はラインハルトさんから教わった信念を忘れるところだった。お前がビンタしてくれたお陰で怒りに満ちた頭が真っ白になって冷静になれた。本当に面倒ばかり掛けてすまねえな」

「そんな事無いよ。私は怒りで我を忘れた一夏が放っておけなかっただけだから、別にあなたを落ち着かせる為にやった訳じゃないんだからね」

「相変わらず素直じゃない奴だな…でも、一つ文句言わせてくれ。冗談抜きで俺の奥歯が二本折れたぞ…」

「そんなに強かったの!?ごめんなさい…思わず力加減を考えずに手を出しちゃったみたい…」

 

 一夏は自分を冷静にしてくれた龍音には感謝こそしてるが、龍音が放った平手打ちが思った以上に強かった様で一夏の奥歯が二本折れたので龍音は素直に謝罪した。そんな一夏と龍音のやり取りを見ていた教皇と祐介にフィリスの三人はこの空気に対してそれぞれ思った事を口に出す。

 

「教皇である私の前でどうして…こんな空気に出来るモノだな…どうやって話を戻せばいいんだ…」

「全く、この二人は…気付かない一夏も一夏だが、素直に思いを言えない龍音も龍音だ…さっさと、告白すればいいものを…」

「イッチーとルーちゃんも相変わらずだな…まあ、それが二人にとっていい距離なんだろうけどね…本当にイッチーとルーちゃんの二人は見ていて飽きないよ」

 

 教皇は自分の前で独特な空気にした二人に呆れ半分で少し困惑し、祐介は鈍感過ぎる一夏と素直になりきれない龍音に呆れ果て、フィリスは敢えてそういう距離感なのだと認識しており、そんな二人を見て楽しんでいる様子だ。

 一夏と龍音が三人の視線に気付くと、二人は教皇の話が終わってないのに話を遮ってしまったのを謝罪した。

 

「すみません、教皇…俺が怒りで我を忘れるばかりに…」

「話を遮ってしまって申し訳なく思います…本当にごめんなさい…」

「全くだ。私が話をしているのに、一夏は怒りに捕らわれるわ、龍音はそんな一夏を平手打ちで引き留めるわで話が大分拗れたな。そもそもラインハルトをやった相手が誰かすら解らない状態でよく怒り任せに突っ走ろうと思うところが一番理解しづらいな」

 

 一夏は教皇から敵討ちする相手すら知らない状態で突っ走ろうと思えたのが理解しづらいと言われ、本当に怒りで冷静な判断が出来なくなっていた事を恥ずかしく思った。

 

「さて、話を戻すとしよう。ラインハルトが何者かの手で戦死してしまったのは残念だが、ラインハルトは死亡する前に任務自体は終えていた。私がラインハルトに命じていた任務はアテナの祈りが込められた宝珠である“アテナの瞳”の捜索だ。ラインハルトはアテナの瞳を見事に見つけ出し、このアテナの瞳を死んでも離さずに手に握りしめていた」

 

 教皇は手に握っていたアテナの瞳と呼ばれる宝珠を四人に見せた。アテナの瞳は透き通った水色の綺麗な宝珠であり、その宝珠からは不思議な力を感じる。

 

「アテナの瞳を捜索させたのはちゃんとした理由が有る。今の聖域にはアテナの化身だった城戸沙織は既にいない。新たなアテナの化身が誕生するのは少なくとも二百年後の筈だからな…それ故に今の聖域はアテナの化身である城戸早織がいなくなる前に加護を受けた聖域の中でしかアテナの力を借りる事は出来ないと言っても過言ではない状況だ」

「確かに今の聖域は何とかアテナがいなくなる前に受けた加護だけで凌いでいるに近い状況なのは薄々と解りきっていたが…教皇が言うとなると、下手すれば一大事な事になりえると考えていると見て、いいのでしょうか?」

「確かに祐介、お前の言う通りだ。聖闘士の勝利にはアテナの加護も有ってこそだ。聖域の中とその近くでは残ったアテナの加護によって、聖闘士の能力は高まるが…それはアテナの加護が届かない領域で戦うとなると…下手すれば、全滅する可能性も考えなければならない。だからこそ、敵に先手を打たれる前に先手を打つ事にしたのだ。ラインハルトが命を掛けて守ったアテナの瞳を使えば、聖域に残ったアテナの加護が届く範囲を数十年程度だが地上全体に届かせられるかもしれない」

「それは本当なのですか、教皇!?」

 

 教皇が聖闘士の勝利にはアテナの加護も有ってこそだと言うと、今の聖域に残っているアテナの加護を地上全体にまで効果が及ぶ様にする策が有るらしく、それを聞いた龍音が少し驚いた様だが、教皇は話を続ける。

 

「お前達四人にはこのアテナの瞳をカノン島の火山にまで運んでいき、火口にアテナの瞳を放り込んできてもらいたい。カノン島の火山の火口は聖闘士が傷を癒す為に使う神聖なる場でも有るからな。その火口にアテナの瞳を放り込む事で聖域に残ったアテナの加護が地上全体に及ぶまでに拡大する。しかし、加護の力が弱まるかもしれぬが…これは聖闘士が出来る限り力を発揮出来る様にする為にも必要な事なのだ。そんな重大な役目をお前達四人に任せるとしよう。もしかすると、ラインハルトを殺った者はこの作戦を知ってる可能性も否定は出来ない。その為、何者かの妨害も有るかもしれないが…お前達四人はこの重大な役目を担う覚悟が有るというのなら、この任務を受けてくれないか?」

 

 教皇が一夏と祐介に龍音、フィリスの四人にアテナの加護が届く範囲を拡大出来るかもしれない重要な任務を受けてくれる様に頼むと四人は迷い無く任務を受ける事にした。

 

「俺はとっくに任務を受ける気でいました。このフォックスの祐介、その任務引き受けよう!」

「私も引き受けるよ。ラインハルトが命を掛けてまで守ったアテナの瞳だもん。絶対に残された私達が彼の代わりに引き受けなきゃ、ラインハルトが浮かばれないよ!」

「お稲荷とルーちゃんが受けるって言うんだし、僕も行くよ。もしもの時の為にこの中で一番強いであろう僕がいないと困るだろうから、僕も引き受ける事にするよ」

「誰がお稲荷だ!?俺は狐座フォックスの祐介だ!」

「しかも今、何気に自分が一番強い発言してたよね?」

「本当の事じゃない。それでイッチー、君はどうするの?行くの?行かないの?」

「勿論、行くに決まってるんだろ!龍音に言いたい事は言われたけどよ、ラインハルトさんが命を掛けて作ってくれた最大のチャンスなんだろ?なら、そのチャンスを無駄にしない為にも俺はこの任務を受ける!」

「どうやら全員がこの任務を引き受けるって事で構わないみたいだな。ならば、お前達四人にこのアテナの瞳を託そう。出来れば成功して戻ってほしいが…くれぐれも無茶だけはするな!例え、その任務が失敗しようともお前達四人が無事に戻って、任務の結果を報告しに戻ってくれさえすればいいのだ…絶対にラインハルトの二の舞にならぬ様に気を付けて行くのだ!」

 

 教皇が一夏達四人に無事に任務を終えて結果報告しに戻ってくる様に告げた後、一夏達四人は聖域に有るモーターボートでカノン島に向かったのだった。

 

 

 

 一夏達がカノン島に着くと念のために聖衣を纏い、真っ直ぐにカノン島の火山に向かい、もうすぐで火口に着くと思われた時に何者かが技を放ったのか掛け声が聞こえた。

 

「ネイチャー・ユーニティ!」

「誰の声だ?」

「止まらないで一夏!早くジャンプして!」

 

 立ち止まった一夏に龍音がジャンプする様に指示したので、一夏は素早くジャンプすると、一夏が立っていた場所から巨大な植物の根の様な物が突き出てきたので一夏は助言してくれた龍音に感謝した。

 

「ありがとな龍音、お陰で助かった」

「礼には及ばないかな」

「植物を操る技か…まるで魚座の黄金聖闘士みたいだな…」

「お稲荷、魚座の黄金聖闘士が使うのは薔薇だけだよ。今の様な趣味の悪い技は魚座の聖闘士が好かないと思うよ」

「誰がお稲荷だ!それよりも龍音、お前はこの技を知ってるみたいだが…どういう訳だ?」

「今の技は私がお祖父様から聞いて知っていたから、どんな技か知っていたから一夏が回避出来る様に助言出来た訳だけど…今の技を放てる奴はとっくにいない筈なんだけど…どういう事かな?隠れてないで出てきなさい!」

「ほう?この私の技を話を聞いただけで避ける様に指示を出せるとは…流石はあの紫龍の孫だけあるな!」

 

 龍音に言われて今の技を放った張本人である男が姿を見せた。男は臼桃色の髪をしており、水晶髑髏をイメージした様な聖衣に似たプロテクターを纏っていた。

 

「誰だお前は?聖闘士じゃないよな?」

「ふん。先程と言い、この時代のペガサスも単細胞の阿呆の様だな。知らぬのなら教えてやろう。私はデルタ星メグレスの神闘士(ゴッドウォーリアー)アルベリッヒだ!」

「神闘士だと!?確か極寒の地アズガルドを守護する神であるオーディンに仕える闘士の筈だ…そんな奴が何故、俺達をいきなり襲う?」

「狐座の聖闘士よ、お前の言う通り神闘士はアズガルドでオーディンに仕える闘士の事だ。私はその神闘士の一人だった…」

「ええ、『だった』筈だよね。だって、アルベリッヒ。お前はかつてお祖父様との戦いに敗れて死んだ筈だからね!何故、死んだ筈のお前が生きて私達の前にいるのか聞かせてくれないかな?」

「ククク…紫龍の孫娘よ、お前の言う通りだ。私は紫龍との戦いに敗れ死んだ…だが、そんな私に自分に忠誠を誓えば新たな命を与えてくれる神がいたのだ!私はその神に忠誠を誓い、新たな肉体を得て新たな命を与えられ甦ったのだ!最早、私はオーディンに仕える神闘士では無い!私を甦らせてくれた大いなる神に忠誠を誓った戦士なのだからな!」

 

 かつて紫龍との戦いで死んだ自分がある神の手で甦ったと言うと、アルベリッヒの纏う神闘士の証である神闘衣(ゴッドローブ)が姿形を変えていき、禍々しさと神々しさを漂わせる鎧へと変貌を遂げたのだ。それはまるで水晶の身体を持った悪魔の様であった。

 

「今の私は新たな命を与えてくれた神に仕える幻闘士(ファンタジスタ)の一人、一つ星幻闘士ウォーロックのアルベリッヒだ!」

「幻闘士…僕はかつての聖戦での記録を見た時にその名前を見た事が有るよ。それは千五百年も前のアテナがアレス、ポセイドン、ハーデス、女神パラスとの戦いの連鎖で疲れ果てていた時に現れた水と知識、幻影、そして命の四つを司る神ハイドルアに仕えていたのが幻闘士だったという記録が残っていた…ハイドルアはアテナが強力な結界を張って何とか千五百年の間は何も出来なくなる様にしたと記述されていた…」

「フィリスの話が本当ならつまり、千五百年も封印されていたハイドルアっていう神が目覚めてしまい、アルベリッヒを甦らせたってのか!?」

 

 フィリスの話を聞いた一夏はアルベリッヒは千五百年前の戦いでアテナに封印された神ハイドルアが目覚めた事でハイドルアによって、新たな肉体と命を与えられ、ハイドルアに仕える戦士である幻闘士になったという事になるので、この地上に脅威が生まれつつある事を知り、改めて聖闘士としての自覚をした。

 

「その通りだ!ハイドルア様は千五百年ものの時を得て復活しつつあるのだ!」

「その口振りだと、まだハイドルアは完全には復活してないみたいね!」

「確かにハイドルア様はまだ完全に目覚めてはいない。だが、ハイドルア様の復活は最早、時間の問題だ!今の地上にアテナがいない以上、聖闘士の力は弱まっている筈だ。それは聖闘士であるお前達こそが一番理解している筈だ!だからこそ、お前達はこのカノン島で何かしようとしているのだろ?残念だが、その目論見は潰させてもらうぞ!貴様らの首を手土産にして、一つ星より上の二つ星に昇格してやるわ!」

「一つ星やら二つ星って何の話だよ?」

「ペガサスはやはり阿呆なのか…少し考えれば解る話だろうが、まあ良かろう。冥土の土産に教えてやろう。幻闘士にはランクが存在し、星が多い程にランクが高いのだ。ランクが高い程、ハイドルア様の戦士の証明でもある幻衣(ホロウ)も協力な物を渡されるのだ。まず星を持たない雑兵はアンノウンと呼ばれ、一つ星の幻闘士はお前達聖闘士で言うところの青銅(ブロンズ)、二つ星で白銀(シルバー)、三つ星で黄金(ゴールド)のレベルと言ったところか…今は一つ星だが、私はお前達を倒して二つ星に昇格してみせようと言いたいところだが…そうはいかない事情が有るのでな…」

 

 アルベリッヒは一夏達を倒して、自分が幻闘士の上へと上り詰める事を目論んではいた様だが、そうはいかない事情が有るらしく、渋った顔をしながらもアルベリッヒは口を開いた。

 

「異次元に住む精霊達よ!奴らを散り散りに分散せよ!ディメンジョンホール!」

「何だ!?空に黒くて大きな穴の様な物が…うわぁぁっ!?」

「これって、まさか!?きゃああぁぁっ!!」

「成る程ね…僕達を一人一人違う所へ飛ばして分断させるつもりみたいだね。とりあえず、お稲荷。アルベリッヒの相手は君に任せる事にするよ」

「誰がお稲荷だ!何度も言わせるな!いや…そんな事を言ってる場合じゃないな…」

 

 アルベリッヒは異次元の精霊達に空間に大きな穴を開かせて相手を違う場所に飛ばすディメンジョンホールと呼ばれる技を使い、一夏と龍音にフィリスをカノン島の違う場合にそれぞれ飛ばした様だ。

 

「さて、私の取り分がお前だけになってしまうが…まあ、良かろう。狐座の聖闘士よ、お前を倒して私の手柄にしてくれよう!」

「先程の台詞を聞く限り、貴様は精霊使いか…成る程、確かに俺の方がコイツの相手には向いているのかもしれんな。それを考えてフィリスめ、わざと飛ばされる様な真似を…全く、相変わらず侮れない男だな」

「何をごちゃごちゃ言ってる?戦う気が無いのかお前は?」

「安心しろ。ちゃんと戦う気は有るさ!狐座フォックスの祐介、いざ参らん!」

 

 

 

 

 祐介とアルベリッヒの戦いが開始した頃、アルベリッヒのディメンジョンホールで飛ばされた一夏はカノン島の火山の近くに有る洞窟の中で目を覚ました。

 

「いつつっ…まさか、いきなりこんな洞窟の中まで飛ばされるとは思ってなかったぜ…後で覚えていろよ、アルベリッヒの野郎…皆とはぐれてしまったけど、今は合流より先にこのアテナの瞳をカノン島の火口に放り込む事を優先すべきだな。俺が持っている以上は俺が向かった方がいいだろうし、どのみち皆が火口に向かうんだから自ずと合流出来るよな」

 

 一夏は洞窟を抜けてカノン島の火口へ向かおうと洞窟の出口を探し始めた。一夏は洞窟に流れる風を頼りに進んで行くと出口が見えてきたので、洞窟から出ようと駆け出した瞬間だった。

 何者かが自分に闇討ちしようとしてきたのに気付いた一夏はその相手の攻撃を咄嗟に両腕を盾にして防ぐが、一夏の腕に装着されていた聖衣のパアームが鋭い刃で斬られたかの様な亀裂が入り、その聖衣の亀裂した箇所から一夏の血液が吹き出したので、今の攻撃をまともに受けていたら自分の身体は真っ二つにされていたと思うと一夏は度肝が冷えた気がした。

 一夏に闇討ちを仕掛けてきた者は山羊座の聖衣を漆黒に染めたかの様な鎧を纏った男だった。

 

「イテェな…下手すれば俺の身体が真っ二つに斬られていたな…まるでラインハルトさんが使う技に有ったエクスカリバーみたいだ…」

「そうだろ?俺の腕は貴様が言う通り、山羊座の聖闘士のエクスカリバーと同じく研ぎすさまれた刃なのだ!それにしても、よく俺のブラックカリバーを受けたにも関わらず、両腕が切断されていないとはな…」

「ブラックカリバーだと?お前は何者だ?纏っているプロテクターはラインハルトさんの山羊座の黄金聖衣(ゴールドクロス)に似た感じはするけどよ、どう考えてもお前は聖闘士じゃないよな?」

「いや、聖闘士だ!ただし、聖闘士と言ってもアテナや聖域に従わない暗黒聖闘士(ブラックセイント)だがな!」

「暗黒聖闘士だと!?確か…聖闘士としての力を正義の為じゃなくて、己の欲を満たす為だけに使う聖闘士の面汚しだとラインハルトさんから聞いた事が有る…お前がその暗黒聖闘士の一人だと言うのか!!」

「その通りだ!俺は聖闘士の力を俺の為にだけ使う暗黒聖闘士だ!俺は山羊座の暗黒聖闘士、差し詰めブラックカプリコーンという訳だ!」

 

 一夏を襲った男の正体は聖闘士の力を己の欲を満たす為だけに使う暗黒聖闘士と呼ばれる者達の一人だった。しかも、一夏の前に現れたのは皮肉にも自分の師であるラインハルトと同じ山羊座の暗黒聖衣(ブラッククロス)を纏った暗黒聖闘士であるブラックカプリコーンだった。

 

「ブラックカプリコーンだと…ふざけるな!!お前みたいな聖闘士の力を己の欲を満たす為だけに使う様な奴が紛い物と言えど、山羊座の聖衣を纏うっては山羊座の聖闘士だと語るんじゃねえ!!それにだ、さっき俺は幻闘士として甦ったアルベリッヒって奴にこの洞窟に飛ばされたんだ。ソコでお前がこの洞窟で待ち構えていた事を考えれば、お前もハイドルアって神の手下の筈だ!」

「ふん。確かに俺はハイドルアという神に言われた通りにアルベリッヒが飛ばしてきたお前を待ち構えていた。だが、それは決してハイドルアの手下だからという訳ではない。俺を含めた暗黒聖闘士達はハイドルアに従うふりをして、ハイドルアが率いる幻闘士が聖域にいる聖闘士を滅ぼした後、俺達暗黒聖闘士が聖域に残ったお前が言う通りのこの紛い物の聖衣ではない、本物の聖衣を手に入れた後、俺達暗黒聖闘士がハイドルアを倒して地上の支配者になるのだ!その計画の一端として今は敢えてハイドルアに従うふりをしなければならん。その為にもペガサス、お前を倒してその首をハイドルアに差し出させてもらうぞ!ついでに、そのペガサスの聖衣も俺が貰ってやる!」

 

 ブラックカプリコーンを含めた暗黒聖闘士達はハイドルアに従うふりをしてる様だが、その真意がやっぱり只の私利私欲だったので一夏は尚更、ブラックカプリコーンが紛い物と言えど山羊座の聖闘士の姿をしてるのが許せなかった。

 

「ブラックカプリコーン!!テメェが例え、山羊座の聖闘士の格好をしていても所詮は紛い物!実力も黄金聖闘士には程遠い筈だ!」

「確かにこの山羊座の暗黒聖衣は所詮は山羊座の黄金聖衣を模造しただけの紛い物よ。本物の山羊座の聖闘士には程遠い。だが、紛い物だからと言って油断してると足下を巣食われるぞペガサスよ!光速のスピードはさすがに無理だが、それでも白銀聖闘士より早く動けるからな!所詮は青銅であるお前ごときが俺に勝てないという事を教えてやろう!知った時には既にあの世に行ってるかもしれぬがな!」

「あの世に行くのはテメェの方だ!ブラックカプリコーン!!」

 

 こうして、一夏と山羊座の暗黒聖闘士であるブラックカプリコーンとの戦いが始まった。果たして、一夏は紛い物と言えど山羊座の聖衣を纏うこのブラックカプリコーンに勝てるのだろうか…

 

to be next




 今回にて、聖闘士が戦う新たな敵は神ハイドルア。ハーデス同様に死者を甦らせて従わせる事も可能なので厄介な相手でしょう。この小説のプロローグの最後にて、ラインハルトと魚座の聖闘士がかつて倒された筈の戦士と戦ったという話が有ったのもハイドルアの力の影響です。
 それと、初期こアニメオリジナルエピソードで登場した神闘士の一人であるアルベリッヒがハイドルアの戦士である幻闘士として甦りましたね。彼のランクが一つ星なのは甦ったばかりで本調子では無いからです。
 プロローグで甦ったガルーダの冥闘士とダガーのパラサイトであるハティも甦ったばかりで本調子では無い為に簡単に倒された訳です。と言っても、ガルーダの冥闘士に関してはハーデスへの忠誠心が高く命令を聞かない為にハイドルアが意志を剥奪した操り人形に近い感じでした…
 そして、ハイドルアの手で甦った者が二度目の死を迎えると水の様に溶けて消えます。これは通常なら人は二回も死なないので、甦って再度死ぬ時に起きる現象の様なモノです。

 次回は一夏と山羊座の暗黒聖闘士ブラックカプリコーンとの戦いとなります。後、他の皆の戦闘の様子も書くかもしれません。

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