Fate/kaleid blade   作:サバニア

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元の世界での遠坂を示す時は〔遠坂〕、切嗣→爺さんとしています。

数話、中学時代をやってから本編に入ります。



1話 中学生編①

 日が傾き、空が黄金(こがね)色に染まっていく中、俺は自宅のリビングのソファーに座りながら、エンドウ豆の筋取りをしていた。何故、俺がこんなことをやっているかと言うと、ただ単に夕食の準備を手伝っているだけだ。

 

 

 家での料理は俺とセラの当番制。今日はセラが担当の日だ。家事は全般的にセラが受け持っている。お手伝いさんとして居るのはリズも同じ筈なのだが、彼女は余りと言うか……家事、手伝いをしない。まぁ、彼女の握力を持ってすれば食器等は砕け散る運命が見えてくるので、この状況は有難いのか? ただ、荷物運びなどの力仕事の時は手伝ってくれる。報酬にポテチを用意するけどな。

 

 

 斯く言う俺は出来る範囲で家事を手伝っているし、料理も作っているのだが、セラはいい顔をしなかった。何でも、「私は旦那様たちから任されているのです!」と、いった感じだった。

 

 

 そう言ってくれるのは良いことなんだろうけど、俺もじっとして居るのは性に合わない。小さい頃から家事をこなして、最終的にはルヴィアさんの所で執事仕事をこなしてきたからか、すっかり染み付いてしまっているようだ。

 あとあれだ、セイバーの飯も作り甲斐があって、料理をするのが楽しかったからな。美味しそうに食べるセイバーの姿は印象強かった。作る側としては、嬉しい限りだった。

 

 

 ここでの家事についての最初は、幼い頃に俺も手伝いたいと言うことからだ。地道にやっていく中、セラは初めの頃は見守ってくれたけど、段々とやることが増えてきたところでストップが掛かった。家事の手伝いの上達ぶりに驚いたようだ。

 

 

 で、今後のことについて話し合った結果のところ、料理は当番制と言うことで話はまとまったけど、それでもセラは複雑そうな心境みたいだ。俺が下手で場所が荒らされることではなく、自分の役目が取られるのが。

 

 

 そんな日々を過ごしながらも、ここでの生活も慣れた。あれだな、もう一度学生生活をするのも意外と新鮮だった。それに、あの頃と比べて毎日が賑やかだ。そう思った時に、家が賑やかな理由がリビングに入って来た。

 

「あれ? お兄ちゃん、何してるの?」

 

「見ての通り、夕食の準備の手伝い。まぁ、今終わったけどな」

 

「そっか」と言って妹――――イリヤは俺に歩き寄って来る。

 イリヤは物心付いた頃からよく俺の後ろに付いて来た。家でも外でもと言った感じだ。そんなイリヤも今では小学生になっている。だが、それは今でも余り変わっていない。どうやら、甘えん坊の妹になってしまったらしい。

 

 

 小さい頃から一緒と言うのもあって、昼寝の時は側に居てあげたり、セラが忙しくて風呂に入れることが出来ない時は俺が代わりを務めるなどをしたためか、『兄を慕う妹』と固定されたようだ。

 

 

 つまり、兄妹仲は友好。1つ気になるのは、時折セラの視線が鋭い。俺はイリヤを『妹』として見ているだけで、他意はない。

そんなことを考えていると、膝の上に軽みを感じた。意識を戻すとイリヤが俺の膝の上に座って、俺の胸板に背中を預けていた。

 

「♪~」

 

 鼻歌っぽいものを唱えながら、俺の膝の上を占領するイリヤ。まぁ、いつものことだからいいけど。

 俺はイリヤを乗せたまま、ソファーに座ったまま。イリヤもこれと言って何かをする訳でもなく、ただ座って居るだけだ。

 そうして、筋取りを終えて暫くすると、セラが台所からこちらに来た。

 

「セラ、終わったよ」

 

「ありがとうございます、士郎」

 

 セラにエンドウ豆が入ったボウルを渡そうとするが、イリヤが俺の膝の上に乗っているため、手を届かせることが出来ない。

 

「イリヤ、ちょっと降りてくれるか?」

 

「うん」

 

 俺の言葉にイリヤは膝の上から降りる。俺はボウルに手を伸ばして手に取り、セラに渡す。

 

「士郎、そろそろ“時間”では? 今日は“鍛練”に行くとのことでしたが?」

 

「あぁ、そろそろ行くよ」

 

 俺は周に何日か、“鍛練”と称して、夕方から家を空ける。これは家族全員が知っていることだ。了承も得ている。ただ一人は不満な顔を浮かべるが……。

 

「お兄ちゃん……今日は鍛練の日だっけ」

 

 しょんぼりとした様子で訊ねてくるイリヤ。言葉が紡がれるにつれ、トーンが下がっていた。これもいつものことだ。まぁ、その内に慣れるだろう。いつまでも兄離れが出来ない訳ではないと思うし。

 

「竹刀を振るうのはここじゃあ出来ないからな。良い子で居るんだぞ」

 

 そう言ってイリヤの頭に手を置いて撫でる。それに対してイリヤは嬉しそうな微笑みを浮かべてる。

 俺が手を離すと名残惜しと目で訴えてくるが、それも一瞬だ。直ぐにそれは消えて、笑顔で俺が出掛けていくのを見送ってくれる。

 こうして、俺は“鍛練”へ向かう。

 

 

  ×   ×   ×   ×   ×   ×  

 

 

 

 

同調開始(トレース・オン)

 

 自身に暗示を掛けて、魔術を行使する。俺が今やっているのは強化の魔術だ。以前の俺が5年以上も続けていても、何一つ進歩しなかった魔術。〔遠坂〕に魔術を教えてもらう最初の時に、今までどうやって鍛練してきたのか説明したところ――――怒られた……。

 

 

 当時の俺は魔術回路が一度構築すれば、後は魔力を通すだけでいいことを知らず、毎回一から作っての繰り返しをしていたんだから。

 それに、こんな無茶なやり方をしてよく生きていられたとも呆れられた。少しでも集中が乱れて、たった数ミリ擦れただけで、中身が吹き飛ぶほどの危険な行為だったらしい。

 

 

 確かに、激痛が走ったりしていたけど、我慢出来る範囲だったし、魔術の鍛練は苦痛が伴うことだと知っていたから、大して気にしなかった。

 鉄パイプを宙に放り投げて、舞っている所を、強化を施したペーパーナイフを素早く走らせる。すると、鉄パイプはまるで棒状の野菜が輪切りにされたかのようになり、音を立てて土蔵倉の床に落ちる。

 

 

 これ程の強化が以前より若い歳で出来るのには理由がある。体内の魔術回路自体の鍛練はまた一からやり直しだったけど、知識は持っていたから、効率的にやってこれたからだ。

 ゲームで言うなら、Lv(強度)がLv99からLv1に下がるが、スキル(知識)はそのままと言った感じか。リズのやっているゲームを見ているとそう感じる。

 まぁ、例え出来る範囲が狭くなっても、それに関する知識の有無はこの先の成長に大きく影響するのは間違いない。

 

 

 息を吐き出し、思考を切り替える。俺の魔術は大きく分けて2種類だ。一つは今やった“強化”。もう一つは俺の本質の影響をもろに受けた魔術だ。

 

投影開始(トレース・オン)

 

 再び腰を下ろし、呪文を唱える。呪文は同じだが、込められている意味は異なる。俺の呪文は大体が同一の物だが、それぞれにちゃんとした個々の意味が込められている。

 脳内にある鉄を打ち下ろし、撃鉄を引き下ろす。

魔術回路に魔力が流れる。熱が生み出される。

 

「――――っ」

 

 電流が流れてビリビリとするような感覚が体を駆け巡る。今、俺がやっているのは“投影魔術”。オリジナルの鏡像を作り、物質を複製する魔術だ。ただ、“俺たち”のこれは一般的な投影とは異なるのだが……。

 

 

 俺が造り出そうとしているのは、夫婦剣とも呼ばれる1対の剣。

 漆黒の刀身を持った陽剣――――干将(かんしょう)

 白亜の刀身を持った陰剣――――莫耶(ばくや)

 俺が愛用し、『聖杯戦争』の半ばから使い始めた二刀だ。この二刀は対となって一つの意味を成立させる剣だ。夫婦剣の銘に相応しいだろう。

手元に出現したのは俺がイメージしていた剣。

 だが――――――

 

「やっぱり完全に、とはいかないよな……」

 

 投影した剣は以前の俺のと比べると、劣る。理由は明白だ。自身の特性を理解していようと、体がついてこれない。

 魔術回路の強度だって、遠坂の指南を受けたり、ロンドンで日々を過ごしたりして30歳を越えた以前の俺のと、中学2年生まで戻った俺の……どちらが強いかなんて考えるまでもない。

 

 

 でもこの調子で鍛練をして行けば、少なくとも高校生の頃には『聖杯戦争』末期の頃より向上した魔術が行使出来る筈だ。焦ってはいけない。今焦って無理をして、半身麻痺やら、胴体がまた擦れるようなことが有ったりしたら、本末転倒だ。

 

 

 投影した剣を消して、腰を上げる。そろそろ来る来訪者のために夕食の用意をしなければならないからだ。

 

 

 

 

 

 

 今更だが、俺が居るのはイリヤたちが住む一軒家ではない。ここに来る前の世界で俺と爺さんが暮らしていた武家屋敷だ。俺が魔術を教えて欲しいと切嗣に頼んで、鍛練場として用意をされたのがここだ。

 

 

 俺が魔術を教えて欲しいと言い出したことに切嗣は顔をしかめた。切嗣から考えれば、俺にはそんな選択を取る理由がないし、魔術を俺に教えることを良いとは思っていなかった。

 

 

 昔と同じだった。魔術を教えることを避けていた爺さんと同じで、切嗣も俺が魔術に関わることに抵抗を覚えた。親として、子供に降りかかる事柄から遠ざけようとするのは当たり前だ。

 

 

 でも、俺にはどうしても魔術は必要だ。『聖杯戦争』当初だって、俺の未熟さがどれだけセイバーの足を引っ張ったかは嫌と言うほど思い知らされた。

 同じことを繰り返してはいけない。だから、こう頼んだ。

 

『俺は……目の前で苦しむ人が居るなら助けたいし、家族を――――イリヤを守るための力が欲しい』

 

 俺の真っ直ぐな眼と意思を問うように切嗣の眼が俺と交差した。暫く交わして、切嗣は「解った」と頷いてくれた。

 このことは切嗣を交えて、アイリさんや、セラ、リズにも伝えられた。リズ以外は最初は反対の意向を示した。特にセラが。アイリさんは切嗣の言葉と俺の意思の強さを感じ取ったのか、少し悲しそうな雰囲気を出しながらも、了承してくれた。

 

 

 セラは俺が魔術に関わると言うことに猛反対だった。あれは俺のことを思っての判断だと言うのは、よく分かった。

 俺は魔術を嗣ぐ遠坂家のような人間でもないし、切嗣の持つ魔術刻印を嗣ぐ人間でもない。本来なら、魔術と言った非日常に足を踏み入れる理由はないのだ。

 

 

 だけど、そんなことは俺にとっては関係ない。この先に何があるかは解らない以上、『聖杯戦争』のように突然として何かが訪れないとも限らない。

 俺は自分の意思を告げた。内容は切嗣に伝えたこと同じように、家族を守りたいと言う自身の意思だ。どれくらい話をしたのか覚えていないが、それなりの時間は掛けただろう。

 

 

 そうして、セラは渋々だが了承してくれた。俺が折れないのを悟ったのか、俺の意思の強さに押されたのは解らないけど。ただ、一つだけは約束をさせられた。それは、絶対に死ぬようなことにならないこと。イリヤの兄である俺が死ぬことは何があっても許さないと。

 俺も死ぬつもりなんてないさ。だって俺が死んだら、皆に申し訳が立たないからな。

 

 

 イリヤにはこのことは話していない。また、彼女にも大きな秘密が秘められているのは、切嗣たちから聞かされた。封印でそれは抑えているとのことだが、魔術から遠ざけるのは決定事項だ。だから、俺が魔術使いになることは隠し通す方針を取った。それに、イリヤはまだ幼いしな。

 

 

 そんなことを考えながら、夕食の準備を進める中、来訪者は来た。

 

「士郎ー、ごはん~ごはん~」

 

 登場して一番がこれだ。藤村大河。この辺りを占める藤村組の長――――藤村雷画の孫娘であり、教師だ。こっちでは高校の教師ではなく、小学校の教師だ。所々差異があるのは生活をして行く中で気付いた。一成や遠坂たちが同じ中学に居たりな。

 

 

 ただ、藤村先生――――通称、藤ねえとの出会いは同じような感じだった。

 切嗣がこの武家屋敷を買い取って、手直しをする時などは藤村組にお世話になり、その際に藤ねえは切嗣に一目惚れ。それ以来、ここに足を運ぶようになった。切嗣とここで会うことが出来ると期待していたらしいが、当の本人が来ていたのは初めの方だけだ。今ではすっかり姿を見せなくなった。

 

 

 では何故、未だに藤ねえはここに来ているのかと言うと……俺の飯目当てだ。俺が料理を披露した時に、味を占められてしまった。

 まぁ、たまに剣道の相手をしてもらったりしているので、料理を披露するのは今でも構わないのだが、よく食べる。そう言えば、セイバーが来る前に、家の食事を占めていたのは藤ねえだった。どうやら、それも変わらないらしい。

 

「あのさ藤ねえ……入って来てそうそう、それはどうかと最近思うんだ……」

 

「まー、細かいことは気にしない。それより士郎ー、早くー」

 

 性格も変わらない。マイペースな藤ねえはここにもしっかりと居る。こんな感じの大人だが、学校ではきちんと先生をしているのだから、驚きだ。

 

 

 俺は配膳を進める。藤ねえはまだかまだかと子供ように待っている。

 これもいつも通りだ。だが、配膳が終わるまで大人しく待っている。先に食べ始めることはない。

 

「「いただきます」」

 

 合掌して、食べ始める。

 

「士郎、中学はどうなのよ?」

 

「これと言って無いかな。普通に過ごしてるよ」

 

「そんじゃ、イリヤちゃんは元気?」

 

「元気。むしろ元気じゃない時がない」

 

 俺が中学二年生で14歳に対して、イリヤは今、小学一年で7歳だ。来年度からは小学生デビュー二年目だ。

 つまり、クラス替えにより藤ねえの世話になる可能性がある。

 

「藤ねえ、来年度からイリヤも小学2年生だ。担任になったとしても、余り引っ張ってやるなよ」

 

「ねぇ士郎? 私をなんだと思ってるの?私は優しいお姉さんで、子供たちから慕われる”せんせー“よ」

 

 ダウト。それは間違っていないが、欠損している情報が多々ある。

 しかし、それを口にすると暴れだすので、黙っておくのが鉄則だ。触らぬ神(女神?)に祟りなし。

 

 

 その後も、雑談しつつ夕食は進む。それが済むと藤ねえはそそくさと帰って行き、俺は再び魔術の鍛練だ。

 こんな生活を過ごしていくのが、『今』の俺の日常だった。

 




藤ねえの性格はSN寄りと捉えてください。
プリヤの感じで書ける気がしなかったんだ……
それに加えてFGOの7章後だと、SNの性格だよなって個人的に根強くなってしまったのもありますが……

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