欠けているモノを求めて   作:怠惰の化身

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ついに比企谷家へ侵入を果たした美人三姉妹。
猫に異常な執着をみせる次女の雪姉さん、猫♥目で目的のカマクラを探す。
同刻、三女のいろはは雪姉さんの相棒の八幡が炬燵に懐柔されている現場を目撃してしまう。
いろはと行動を共にしていた長女の結衣姉さんも炬燵に懐柔されてしまう。
なんやかんやで八幡といろはがデートしていたことが発覚。
雪姉さんの追求が始まる。。。

注:カマクラは由比ヶ浜が猫が苦手なのでご近所さんに預けています。


きっと、比企谷家はソファーと炬燵と素敵な何かでできている。後編

先に食事を済ませてから尋問を開始することになり、全員お肉様のお味に感涙の声を漏らしながら食事をする。

一色は最後の晩餐だ。

食事も終わり、お茶を飲んで一息ついてから雪ノ下は八幡に視線を向ける。

 

「比企谷くん」

「俺は悪くねえ!」

「…無罪」

「俺はわ、…え?お、おう?な、なんで?」

「比企谷くんに何があったのか大体想像つくもの。コラムの件であれだけ苦労したのだから、何かしらの非があっても償ったと言って差し支えないわ」

 

比企谷八幡まさかの勝訴。雪ノ下のこの判決に由比ヶ浜も小町も一色も驚きの顔を隠せない。

 

「残念だったな一色、もう観念しろ。罪を償ういい機会だ、楽になれ」

 

そして、一色は理解した。八幡を許すことで一色は隠し事ができなくなったことに。

一色被告人は吐いた、包み隠さず吐いた。

カフェに行った事は雪ノ下も由比ヶ浜も聞いているが、問題はフリーペーパーの取材のためにではなく、経費で落とすためにフリーペーパーを利用したこと。

これだけで意味合いは180度変わる。

そして卓球、なりたけ、も利用したことも。

 

「比企谷くん、一色さんの言ってることは間違いないのかしら?」

「はい、ちなみに俺の分は自腹で払ってますよ」

 

八幡は決して悪くない。むしろ付き合わされた挙げ句、フリーペーパーのコラムで締め切りに追われた。でも、何故か敬語になるのか、挙動不審になっているのかはわからない。

 

「となると、一色さんは生徒会経費で遊びに行き、フリーペーパーで経費として落とすつもりだったけれど、決算に間に合いそうになかったから比企谷くんを脅し、私達を巻き込んだと」

 

「自身の財布を守るだけのためにね」と淡々と語る雪ノ下に一色の顔は青い。

 

「違うんです!違わないけど違うんです!」

 

わちゃわちゃと手を振る仕草で意味不明な自供をする一色に雪ノ下は微笑みを返す。

 

「一色さん」

「わたしは悪く_」

「有罪」

「は、はううぅ…」

 

一色は沈む様にうなだれる。

覆水盆に帰らず。一色船あざと丸、ココニ轟沈セリ。

 

「ゆきのん、なんか楽しそう」

 

静観していた由比ヶ浜は頬ずえをついて笑顔でそう漏らす。

 

「ふふ、バレてしまったわね」

 

口に指を当てて、ちょとお茶目な素振りで応える雪ノ下にも負の感情はない。

 

「意外だな。お前こういった行為は嫌いだと思ってたわ」

 

失言だ、と八幡は思うが、雪ノ下は思い出すように口を開く。

 

「別の可能性を考えてたのよ」

 

そう言って雪ノ下は、自身の問題に気を使ってくれている八幡に”大丈夫”とばかり小さく首を振る。

 

「もし、私が生徒会長になっていたら、と想像したの」

 

一色の依頼。もし、八幡が一色を乗せて生徒会長にしなければ、雪ノ下が生徒会長になっていただろう。

由比ヶ浜も阻止に動いたが、先生からの支持もある雪ノ下に勝つのは不可能に近い。

 

「クリスマスイベントも私の指揮のもと問題なくこなし、総武高歴代最高の生徒会長として君臨してたでしょうね」

 

「私、優秀だもの」と笑う雪ノ下。

雪ノ下陽乃とも違う道、そこには雪ノ下雪乃の抱える問題”依存”は無い。

 

「でも、比企谷くんと由比ヶ浜さんから逃げた後悔が残る。…奉仕部にも行けなくなって、今この場に私はいない。一色さんが生徒会長になってくれなければ私、一生後悔してたでしょうね」

 

そう言って雪ノ下は一色に微笑む。

 

「それって…。もしかして、わたし救世主だったりしますー?」

 

一色は、パッと顔を上げ愛嬌のある微笑を浮かべる。総武のアイドル、復活は早い。

 

「わかったな小町、お前はああなるなよ」

 

八幡が目配せすると「何言ってるの、お兄ちゃん」と、小町はしらっとした視線で見返す。

 

「これも1つの処世術だよ、お兄ちゃんも少しは見習った方がいいよ」

「え…」

 

小町の返答に八幡は絶句する。

 

「小町ちゃんが悪の道に!?」

「結衣先輩!酷いですよー!」

 

「あ、ごめーん」と笑う由比ヶ浜にプンスカと抗議する一色。

 

「クリスマスイベントといえは、小町も手伝いに行ってたんですよ、いろはさん」

「小町ちゃんのクッキー美味しかったんだよー」

 

小町は雪ノ下のお菓子作りを手伝っていた。そんな小町が焼いたクッキーを由比ヶ浜は食べていた。

 

「結衣先輩…」

「結衣さん…」

 

「あ、ごめーん」と笑う由比ヶ浜。

 

「ケツカッチンでちょーやばかったから助かったよー、アゴアシ無しだから手伝い期待てきなかったしー」

「サス無しであれだけできれば十分ですよ、聞けばドラリハ無しであの演出だとか…凄いです!」

 

何かが無かったことだけしか理解できない八幡が困惑してると、「アゴ…アシ?…サス?…ドラリハ…?」「2人が何言ってるのかわかんないよ…」と、雪ノ下も由比ヶ浜も困惑のご様子。

 

「あのシナリオ、書記ちゃんが頑張ってくれたんだよ。今度紹介するね」

「ぜひぜひ~」

 

八幡奴隷化計画の楔を打つ一色。このまま二人だけで話をさせてはいけないと思うのは必然なのだろう。

 

「賢者の贈り物だっけか。選んだのは一色だよな、無難な選択だった」

 

夫婦がクリスマスのプレゼントに妻は懐中時計の鎖を買うため自慢の髪を売り、夫は髪をとく櫛を買うために自慢の懐中時計を売ったお話。

短い期間で形にするならベストの選択だった。八幡は、そんな意味で発した言葉だが一色は心外だとばかりに不満げな顔をする。

 

「そんな打算的な理由で選んでないですよー。普通に素敵だなと思った話でしたし!」

 

ふんす、と腕を組みぷりぷり怒る一色。由比ヶ浜は頬に指を当てて思案しながら口を開く。

 

「えーと、夫婦が贈り物をするけど無駄になっちゃう話だったよね」

「由比ヶ浜さん…。それだと、愚者の贈り物じゃない…」

 

「あれー?」と言ってお団子をポンポン叩く由比ヶ浜。それを見て、「しょうがないわね」と微笑む雪ノ下。姉妹百合フィールドが二人を包む…

 

「確か贈り物は無駄になったけど、お互いの一番欲しい物を理解していた贈り物だった。お互いの気持ちを理解しているからこその贈り物だった、て話でしたよね!」

 

小町が百合フィールドを破壊するように、人差し指を立てて言うと由比ヶ浜は「なるほどー」と納得する。2歳下に教わる由比ヶ浜、学力の底が見え隠れする。

 

「違うな…。お互いの一番欲しい物を理解しているが、お互いの気持ちは理解していなかった。報連相は大事だよって話だ」

「うわー、捻くれてるなー」

 

うへぇー、としなだれる小町。流石の由比ヶ浜もこれには苦笑い。

 

「でも、比企谷くんの意見も理解できるわ。お互いの気持ちを理解していれば、こうなることは予想できたもの」

「雪乃さんまで…」

 

流石の小町もこれには苦笑い。

 

「わたしはそうは思いませんけどねー」

 

素敵だな、と言った手前、後には退けない一色。八幡&雪ノ下連合に単身で挑む”漢”の姿があった。

 

「二人は確かにすれ違ったんですよ。でも、二人は確かに幸せだったんです!」

「…それは妥協だろ、幸せだと思い込んで誤魔化しただけだ」

 

雪ノ下も何も言わない、八幡と同意見なのだろう。小町と由比ヶ浜も敗戦濃厚な一色に心の中で敬礼をする。

 

「妥協ですね。でも、妥協してでも失いたくなかったからですよ」

 

そう言うと一色は探るような視線で特大の爆弾を放つ。

 

「…先輩が奉仕部で言ったあの言葉は、妥協じゃなかったんですか?」

 

『あの言葉』それが、どの言葉なのかは言う必要は無かった。

八幡がアイデンティティクライシスに陥り身悶えした言葉。その意味までは理解されなかった、八幡も理解していなかった言葉。

それを一色は理解していた。八幡は、そのことが恥ずかしくて、嬉しくて、嫉妬して、子供みたいに俯いてしまう。

 

「いろはちゃんは凄いね」

 

由比ヶ浜は悲しそうに微笑みながらも言葉には尊敬の念が含まれている。

 

「何言ってるのかよくわかりませんでしたが、いろはさん凄いですね。あんなお兄ちゃん初めて見ましたよ」

 

隣から目をキラキラさせてかぶり寄りそうな小町、今にも「姉御!」とも言わんばかりだ。

 

「一色さん」

 

不意に呼ばれる声に振り向くと、雪ノ下が屈託の無い笑顔を一色に向けていた。

 

「比企谷くんの代わりに言わせてもらうわ。…私達の負けよ、貴女が正しいわ」

「ゆ、雪ノ下先輩の口からそう言ってもらえるなんて、その、恐縮です」

 

それは、女王に謁見を許された市民が思わぬ賛辞に萎縮する構図だった。

 

「可愛い、優しい、称賛される。いろはさん、モテるんでしょうね~」

「まあ、否定はしないけどね。でもー、葉山先輩には通用しないんだよねー」

 

ガックリ肩を落とす一色に「あのイケメンの…、…ん?」と首を傾げる小町。

 

「いや、そりゃ葉山に見る目がないんだよ」

 

一瞬、何を言われたのか理解できず声の主をみれば、目を瞑り僅かに微笑んでいるのが確認でき、みるみる自分の頬が紅潮するのがわかった。

 

「な、なななんですか!?口説いてるんですか?俺はわかってるよアピールすればコロコロっといくんじゃないかーとか炬燵でゴロゴロしてる人に言われても効果がないのでとりあえずこめんなさい!」

 

同一人物からフラれた回数でギネス狙えるんじゃなかろうか、と本気で思う八幡だつた。




書いててわかったこと
俺ガイルは気持ちが絡まり過ぎて分かり易く表現するのが不可能。
11巻に苦戦してるだろうなってのがよくわかります。

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