比企谷家への招待券を手に入れ我が家に帰る。
そして休日、手土産を持ち比企谷家へ。
昨日の敵は今日の友、駆逐艦雪ノ下、戦艦由比ヶ浜と比企谷家へ。
道中、由比ヶ浜のマシンガントークの標的にされつつ向かうのだった。
幕張本郷駅から住宅街を抜けると、のどかな田園風景が広がる。
その境界線にある民家の1つに比企谷家も存在する。
総武高校に小町が合格したので名実共に合格パーティーと相成った。
比企谷家には一度行ったことがある由比ヶ浜が雪ノ下と一色を引き連れて行くことになった。
最初は八幡が迎えに行こうと提案したのだが、雪ノ下が『由比ヶ浜さんが知っているのだから迎えにくるのは非効率よ』と断じたため八幡は晴れて引きこもることができたのだ。
しかし、小町に由比ヶ浜から”これから家に向かう”と連絡が入ったらしく、せめて外で迎えなさいと言われ追い出された。
もうすぐ春だが、まだそれなりに寒い。そんな中、ぬぼーっと立ってたら聞いたことのある声が聞こえた。
「あれ?比企谷じゃん、何してんの?空き巣?」
振り向くと、おいっすーと手を上げた折本かおりと見知らぬ女と男2人がいた。
「いや、ここ俺んちだから…」
そう返すと後ろで「知り合い?」「中学の時同じクラスに居た奴じゃね?」と言った会話がされており、同級生のご様子だ。
「じゃあ、家から追い出されたれたとか?」
「…まあ、そんなところだ」
「何それウケる」と言った折本の後ろでも情報の擦り合わせが終わったらしく同級生らしいお三方が薄ら笑いを浮かべているのが見てとれた。方やトップカーストの折本と一緒にいる自分、方や折本にこっぴどくフラれたボッチ、そんなとこだろう。
「んじゃ、ま、そゆことで…」
これ以上、話てもろくなこともなさそうなのでさっさと切り上げようとし、折本も不穏な空気を察して立ち去ろうとした。
「あ、じゃあね、比企__」
「比企谷、暇なら一緒来るか?折本のこと好きなんだろ?遊べるチャンスじゃん」
薄ら笑い浮かべ誘うその姿は、彼等の中学生活において比企谷八幡に向ける姿であり本質ではないのだろう。
集団心理からくる一種の防衛本能であり、彼等の性格を判断する基準にはならない。臨海学校の鶴見瑠美を取り巻く人間関係と同様に、彼等と八幡の関係を破壊した時、初めてその本質を見せるのだろう。
「人待ってるんで暇ではないんだが…」
「ほら、行こうよ!比企谷も高校生活で色々あるんだよ」
「久々に会った同級生なんだしさー、待ってる人が来るまで話そうよ」
人を待ってる。その言葉に折本は警戒レベルを上げるが、同級生共は不動明王の如く動かない。顔は冒険者ギルドの絡んで来る系の冒険者だが。
別に八幡は彼等の本質に興味の欠片もないが、これも彼等の選択の結果なのだ。やられたらやり返したい気持ちも相応にある。ただ、気まずさそうにする折本だけはフォローしてやろうと誓った。
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「やっはろーヒッキー!」
「こんにちは」
「こんにちはー」
後ろから掛けられる三者三様の声に八幡は振り返り「おう」と返事を返す。三者とも美少女だ、単身ですれ違う男を振り向くかせるレベルが一緒にいるのは、外見を取り繕うタイプには最早凶器ですらある。
先程まで薄ら笑いを浮かべてたのが嘘のように固まっている様は滑稽だ。折本も「あ、1人じゃないんだ…」と顔を引きつらせている。
「流石に迎えに行かず家の中で待ってるのもなんかあれだしな、外で待ってたら中学の同級生に声掛けられて、待ってる人が来るまで話そうと言われて今に至るわけだ」
「折本は遠慮してたんだけどな」とフォローをする。
こう言えば雪ノ下は理解するだろうと八幡は確信している。雪ノ下もこういった輩は嫌悪の対象なはずだから乗ってくれると。
「そう、食材も私達のしか用意してないから安心したわ。…それに見知った人だけじゃないと嫌だもの」
そう言って食材の入った袋を見せるしぐさに内心ニヤリとした八幡は、お兄ちゃんスキルを全開にして袋を取り雪ノ下を見る。
膝上までのファー付きの白いコートに黒のスキニー、雪ノ下の端正なたたずまいも相まって一枚の芸術のようだ。
「正月の時も思ったが、やはりお前の綺麗な黒髪に白のコートはよく似合うな」
「っ!あ、ありかとう…」
そう言って髪をいじりながらもじもじする姿に八幡は演技とわかっていてもドキリと胸を弾ませる。
「ヒヒヒヒッキー!!あ、あたしはどうかな!」
絶対に察してない由比ヶ浜はこの作戦で一番の難関だ。軽い感じで褒めると「ヒッキーキモい!」で返される。
しかし、褒められるのには慣れてない。軽く褒めるのは葉山と戸部で耐性が付いてるだろうが。だから八幡は重く行く。
そんな由比ヶ浜は赤のジャケットに白のセーター、黒のショートパンツからスラリと伸びた足を覗かせる。
「似合ってるな…」
あー、と含みをもたせていると、由比ヶ浜が「な、何?何か変かな?」と聞いてくる。
「いや、素敵な女の子だな、と思って」
「………………ふわ」
由比ヶ浜は動かなくなった。直立不動である。
そうすると次に動くのは当然、一色いろはだ。
「先輩!先輩!わたしには何かないですかー?」と、その場で一回まわって、手を後ろに組み少し前屈みになって上目遣いで聞いてくる。女版”かかってこいや”のポーズだ。
一色はピンクのロングジャケットにリボン付きの白いワンピース、黒のタイツだ。
一色は察しては無いだろうが、流れを読む能力は一流だ。前ふりまでする姿勢は芸人のソレである。そう八幡は読み取り、その挑戦に全力で応える。
「ああ、今日も可愛いよ。いろは」
「あぅ…。先輩も、その、イイかな?って思い…ます…よ」
ここでまさかの清純派。雪ノ下陽乃には絶対に不可能なスキルを一色が使えることに驚愕し、八幡は一色の評価を劣化版陽乃から亜種陽乃に改めることにした。
八幡はそんなやりとりをしながら横目で同級生を見やる。
同級生・女はポカーンとし、同級生・男2人は悔しげに睨んでいる。
もう同級生のプライドはズタズタだ…。同級生で越えるはずのない自分を超えるものが現れてしまった…。しかもそいつはたかがボッチ野郎だった…。ショックを受けたまま生き続けるがいい、ひっそりとな…
「じゃあな折本、また葉山絡みで何かあったらな」
海浜高校でも名の知れた、髪質もそれっぼいスーパートップカースト葉山隼人の名を出すことで折本の立ち位置を崩さない。Wデート、クリスマスイベント、料理教室、どれも葉山がいた、嘘は言ってない。フォローも忘れない男、八幡。折本は微妙な顔をしていたが。
八幡はそのまま家に向かって歩を進める。正気に戻った由比ヶ浜と一色も追従するが、雪ノ下は留まっている。
「…?どうした?雪ノ_」
「何でもないわ八幡。折本さん、さようなら」
そう言って、歩を進める雪ノ下は勝ち誇った顔をしていた。八幡は雪ノ下が何に勝ったのか皆目見当付かないが、作戦中ずっと自分の心臓が激しく動いていて、今は顔も熱いので心臓病の発作かな?と思っていた。
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「皆さん、ようこそ比企谷家へ、ドゾドゾ上がって下さいー」
玄関に入るとドタドタっとリビングから八幡にめったに見せてくれない笑顔で比企谷小町が現れる。
「こんにちは、小町さん」
「や、やっはろー、小町ちゃん」
「初めまして、一色いろはです」
「やっはろーてす!雪乃さん結衣さん。それと、初めまして一色さん。比企谷小町です!小町とお呼びくたさいー」
「はい。わたしもいろはと呼んでね、小町ちゃん」
「いろはさんもお美しい……ん?」
そこで小町は何かに気付いたように雪ノ下と由比ヶ浜をチラチラ見ると「お兄ちゃん何かあったの?」と小声で聞いてくる。無理もない、まだ微妙に威風堂々としている雪ノ下ともじもじしてる由比ヶ浜は違和感はあるだろう。
「中学の同級生に会ってな、まあいろいろあってコイツらに協力してもらったんだよ」
「あー、やっぱりですか。わたしのクラスにもいますよ、ああいうの」
一色は「先輩、あんなセリフ言いませんしねー」と納得している。一色の場合は見下したい連中だが、同じ人種である。一色は生徒会選挙の時を思い出しうんうんとうなずいている。
「人を見下す下衆(げす)がいたから比企谷くんと仲の良い演技しただけよ」
「ああ、演技だったんだ…そだよね、ヒッキーあんなこと言わないし」
返す刀で八幡を斬り捨ててご満悦の雪ノ下とちょっと残念そうに笑う由比ヶ浜。
小町も何があったのか大体理解したのだろう。お兄ちゃんがご迷惑かけたみたいですいません、と謝罪をする。
八幡は靴を脱ぎリビングへ向かいながら「まあ、言った言葉に嘘はないけどな」と告げる。
次話投稿のやり方が面倒くさい…
雪も凄いし、寒いし、風邪引くし…
千葉も雪積もったのかな?
千葉には一度行ってみたいです。