遠くにいるともっとウザいよね。
でも憎めない、そんなキャラだよね。
小町はサイゼに行き、食事をしながら総武高校の話をしたり流行りの話題などを一色から聞いた。
小町は一色が入り浸る前の奉仕部の出来事など中心に話していた。
そして、食事が終わると一色から誕生日プレゼントとして化粧品を貰ったのだが、小町は化粧など詳しくないので一色からレクチャーがてら化粧をしてもらう。
小町も女の子だ、化粧で大人っぽくなった自分を鏡で確認すると感激した。そして、新しいワタシにぴったりの仕草を一色から教わりながら過ごしたのだ。
その最中に二人を見かけた葉山と戸部が来て会話に加わった。
「どう?お兄ちゃん、普段と違うワ・タ・シ。見間違えた?」
「……」
上目遣いで聞いてくる小町に八幡の思考は止まった。まるでカカシのように微動だにしない。
「妹ちゃんイケてるっしよー。男子虜っしよー」
「戸部先輩の意見はともかく。先輩と血の繋がりがあるとは思えないよ~」
ありがとうございますー、ときゃぴるんとお礼を言う小町。そのお礼は、虜にできることか、血の繋がりの否定なのか分からないがどちらにせよ小町は一色の影響を受けていることは疑いようはなかった。
小町と一色はまるで姉妹のように仲良く話して、戸部が合間合間に会話に入り由比ヶ浜は若干引きつつその輪に入っている。
それを八幡は遠い目で眺めながら小町の変化に、これからどう接していけばいいのか思いにふける。
「比企谷は何をしてたんだ?」
すると、隣で八幡と同じく輪に入らずにいた葉山がそう聞いてくる。
「なんでもいいだろ、そんなこと」
「そんはこと、とは思えない気がするが…言えないことか?」
葉山は八幡と由比ヶ浜の様子が違うことを察したのだろう。
「……雪ノ下さんに捕まってたんだよ」
「それは……、悪いことを聞いた」
申し訳なさそうに返す葉山の言葉には重みがあった。
そんな葉山の苦労に比べると、まだ恵まれているような気がして八幡は少し可笑しく思えた。
「でも、悪く思わないでほしい。……陽乃さんも君に期待してるんだ」
「わかってるよ」
陽乃から聞いたことは知るべき現実だったから悪く思う理由がない。ただ間が悪かっただけだ。
そんなことを考えて、ふと由比ヶ浜を見ると彼方も八幡を見ていた。
「ヒッキーと隼人くん、何気に仲いいよね」
「おいやめろ。邪教のメガネ女子を喜ばせるだけだ」
『はやはち』
邪教の教えは業が深い。
「ははは、そうだな。俺もこの件についてはコメントしないでおこう」
葉山は苦笑いで言うと由比ヶ浜も困ったようにしながらも追求は止めたようだ。
そんな中、戸部が思い出すように邪教…邪教…と呟いていると突然、声を上げる。
「あー!そうそう、聞いて聞いてよー。ここに来る前に総武の女子に声かけられたんよー」
バッと立ち上がり言うと、葉山も「ああ、あれか…」と困ったような顔をする。
「でさー、葉山くーん葉山くーんって言ってくるわけよー」
女子は二人だったらしく葉山を休日に見かけた女子は案の定、一緒に遊ぼうと言ってきた。たまにあるらしいが葉山と戸部はサッカーの備品を買いにきていたので断った。
それを聞いた一色は気まずいようにしていた。前は一色が備品を買っていたので申し訳ないと思ったのだろう。
他にもマネージャーはいるのだから一色のせいでもないし、むしろ今まで買いに行ってくれてたことに感謝してもいいくらいだ。八幡はそんな一色の姿に評価を一段階上げた。
葉山も八幡と同じような感想を抱いたらしく優しく声をかける。
「いろはは今まででも十分頑張ってたさ、感謝してるよ。ありがとうな」
そんな葉山の言葉に一色は「葉山せんぱーい」と笑顔になるが口元は不適に歪む。八幡は計画通りと言わんばかりの表情に、なんかイラっとしたので評価を一段階下げた。
「したらさー、今度はおっさんが声かけてきたんよー」
「あれは参った」
すると戸部は背筋を伸ばし目細めてキリッとしたウザい顔をする。
「葉山さんでよろしいですよね?貴方は葉山教の教祖だと聞きましたが。新興宗教だと思いますが少しお話を…って言われたワケよ」
「え!?」
おっさんは由緒ある寺の僧侶で、最近の新興宗教にはカルトや邪教と言われる類いのものが問題になることが多く宗教全体のイメージを低下させることを懸念しているのだとか。
そこに少僧正から葉山教なる宗教の話をコーヒーショップで聞いたのだとか。
よくある話だ。
戸部のモノマネは完全にスベったが、内容を葉山が分かりやすく説明して小町や一色は、それは大変でしたねー、と言い、由比ヶ浜は口を押さえ目を見開いて驚き、八幡は腹を抱えて笑った。
「あれ?結衣?なんか知ってんの?」
「結衣?」
由比ヶ浜の意味深な反応に葉山と戸部が反応し、そう聞く。
「いやー、し、知らないかも…」
由比ヶ浜は瞳をさ迷わせてそう言うが葉山は当然だが戸部も訝しげな目で見てくる。
「原因、戸部先輩じゃないですか?」
唐突に一色から出る”戸部原因説”に当の本人は首を傾げると「え?どゆこと?」と尋ねる。
「戸部先輩が言い出したんじゃないかと」
「え?俺、そんなこと言ってないよ?」
戸部が言い出した、そんなことあるわけないと否定する戸部。当たり前だ、犯人は目の前にいるのだから。
「や、戸部先輩ってよく神、神、とか言ってるじゃないですかー。だから葉山先輩を神とか言ったりとかして、その場のノリで葉山教とか言ったんじゃないかと」
「へ?あー…いやー、言ってないと思う…んだけどー…」
「出た思う!戸部先輩が思うって言った時、大体違うじゃないですかー!」
は~やれやれと言った風の一色に戸部は「うっ」と言いながら、たじろぐ。
「言ったのかなぁ?いや~でもなー……」
「どうなんですか?」
ジッーと一色に見つめられながら、うんうん悩む戸部。悩んでも言ってないのだから分かるはずもない、だから戸部の答えは決まっている。
「俺、かも……っべー…」
「やっぱり!」
何故か戸部を咎めるように勝ち誇る一色、対する戸部は立ち上がった時とは打って変わって肩を落として席につく。
しかし、ここでまさかの追撃が来る!それは勿論、一色だ。
「戸部先輩、葉山先輩に何か言うことはないですか?」
戸部は一瞬だけキョトンとたが、一色の言葉の意味を理解して葉山に話しかける。
「ごめーん、隼人くーん!俺だわー、俺のせいだったわー」
「い、いや、戸部がそれでいいなら俺はかまわないが…」
葉山は愛想笑いで応え、困ったようにため息を吐く。
「うわー、やっぱ優しいわー、隼人くんっべー。っべーわー、海原だわー」
戸部は目を輝かせて感謝するが葉山は微妙な表情だ。
由比ヶ浜はそんな光景に唖然としながら、ふと一色を見ると真犯人はひっそりとサムズアップで返す。
八幡は腹を抱えて笑い続けるが次の一言で現実と向き合うことになるのだった……。
「さすがはお姉様です」
「さすおね!?」
それともビリビリ!?その方がタイプだよ?と八幡は衝撃を受けながら目を見開き一色と小町を交互に見やる。
すると常盤台の劣等生、一色いろはは困ったように小町を見ながら八幡を指で指す。
「こまちゃん?あの人と同じ並びはやだよー」
「そ、そうだ!俺も人を指で指す奴と一緒は嫌だぞ!」
二人からの抗議を受けた小町は手をぽんと叩き「そうですね」と言って八幡に目を向ける。
「では、八幡さんで」
「小町ちゃん?泣くよ?きっと気持ち悪いよ?俺。いいの?」
「もう!冗談だよ、じょーだん。やれやれ…」
ほっぺを膨らませてそう小町は言うが、その目は遠くを見ていて八幡は冗談に思えなかった。
「じゃ、俺らはそろそろ行くべ。な?隼人くん」
「そうだな」
それから少しして葉山と戸部がそう言って席を立つ。
「また学校で、小町ちゃんは新年度からかな」
「いろはすぅ~、たまには部活来てくれよ~」
「あ、とべっち」
二人が帰ろうとすると由比ヶ浜が八幡に目配せして戸部を呼び止める。
「ヒッキーのことどう思ってるか聞いていい?」
「お、おい」
由比ヶ浜のホモホモしい聞き方に焦る八幡だが戸部はニカッと笑ってサムズアップして答える。
「当然、好きっしょー。リスペクトしてるしなー。ライバルだけど!」
そして、負けねーから!と力強く言って葉山と一緒に店を出て行く戸部であった。
サイゼは千葉発祥なので敬意を払って1話にしました。
戸部回ならぬサイゼ回ですね。
次回ようやく3月3日が終わりそう…長かった…。