君の仮面は   作:JALBAS

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さて、ここから、いよいよ物語は佳境に入って行きます。
ショッカーも本格的に動き出し、徐々に謎が明らかになって行きます。
彗星落下の日も近づき、滝、三葉の身の上にも、大きな変化が・・・・・




《 第六話 》

 

今日は、滝君の体で目覚めた。いつも通り学校に行き、ショッカーに襲われる事も無く帰って来た。

部屋で寛いでいると、呼び鈴が鳴る。ドアのところに行き“どなたですか?”と尋ねると、“お届け物です”の返答が来る。特に警戒もせずドアを開けると・・・・・

目の前に居たのは、確かに宅配業者のユニフォームを着た人だが、2m近い大男だったので一瞬驚く。しかも、その顔には見覚えがあった。

え?・・・この人、影月さんじゃ?・・・・ううん、そんな筈無い。だって、ここ東京だし・・・雰囲気も、少し違う・・・・他人の空似か、親戚の人かな?

しかし、“お届け物”と言っていたのに、荷物は何も持っていなかった。すると、懐からボイスレコーダーを取り出し、私に渡す。

「それを、聞いてみて下さい。」

訳が分からないが、とりあえず再生ボタンを押すと・・・・

『た・・滝!』

『たすけて!滝君!』

け・・・圭一君と瑠璃ちゃんの声!ど・・どういう事?

「お2人は預かってます。助けたかったら、大人しく私について来て下さい。もちろん、警察とか、他の人には一切知らせないで!少しでも、そのような素振りを見せれば、お2人の安全は保障できません!」

こ・・この人、まさかショッカーの手先なの?け・・・圭一君と瑠璃ちゃんが人質だなんて・・・・ど・・・どうすればいいの?

私は、黙って従うしか無かった。例の装置で、猛さんに助けを求める事も考えたが、こちらの状況を説明できなければ危険すぎる。もし敵に気付かれて、2人にもしもの事があったら・・・・・

 

私は、指示されるまま、人気の無い廃屋まで連れて来られた。

昔、病院だった建物のようだ。建物はまだ崩れていないが、窓類は一切無く、中は埃と蜘蛛の巣だらけだった。奥の方の、昔病室だったと思われる部屋の中に入ると、真っ黒に汚れたベッドの上に、ひとりの女の人が座っていた。

「?!」

その姿を見て、私はまた驚く。髪は真っ白に染まっていて、体全体に包帯が巻かれていてよく確認できないが、背丈や顔付が、私(糸守の自分)によく似ていた。しかも、薄汚れてぼろぼろだが、来ている服が、糸守高校の制服のように見えた。

部屋にはその女の人ひとりで、圭一君や瑠璃ちゃんの姿は、何処にも無かった。

「け・・圭一と、る・・・瑠璃は?」

「・・・心配するな、2人を攫ってはいない・・・・」

かすれた、男のような声で、その女が答えた。

「え?・・・ど・・どういう事?」

「声は合成だ・・・・お前を、ここに連れて来るだけでよかったんでな・・・・」

そういう事か・・・少し安心した。と同時に、私はポケットの中に手を突っ込み、例の装置で猛さんにコールを送った。あとは、会話で、猛さんが来るまでの時間を稼げば・・・・

「わ・・・お・・俺に、何の用だ?」

「ふん・・・無理に、男を装わなくても良い・・・宮水三葉!」

「え?」

な・・・何で、ショッカーが、私達が入れ替わってる事を知ってるの?ま・・・待って、今迄、滝君が狙われてると思ってたけど・・・・まさか、狙われていたのは?

「・・・・察しの通りだ・・・わしが用があるのは、お前だ!三葉!」

女は立ち上がり、少し歩いて私に近づく。そこで、顔の包帯を取り始める。その下にあった顔を見て・・・・・

「きゃああああああああっ!」

私は、悲鳴を上げた。包帯を取ったその顔は、正に糸守の自分の顔だった。しかし、その顔は、皮膚は爛れ、いまにも崩れてしまいそうな状態だった。

あまりの事に、私は、そのまま意識を失ってしまった・・・・・・

 

「・・・・き!」

ん?

「・・・たき!」

な・・・なに?

「・・滝!」

だ・・・誰かが、呼んでる?

「滝っ!」

目を開けると、目の前に猛さんの顔があった。

「た・・・猛・・さん・・・」

「三葉だったか?」

「は・・・はい・・・」

気付くと、さっきの廃屋の病室で、私は、猛さんに抱き起されていた。周りには、私達2人しか居ず、さっきの女と、影月に似た男の姿も無かった。

「大丈夫か?」

そう言われて、私は自分の体を確認する・・・・どこにも、異常は感じない・・・・特に、何もされていない・・・・

「は・・・はい、大丈夫です。」

「一体、何があった?」

そう言われて、答えようとしたが・・・・・あれ?ここに連れて来られた後、何があったんだっけ?全身に包帯を巻いた女が居て・・・何か、会話を交わしたような・・・・だめ、思い出せない・・・・・・

「ご・・・ごめんなさい、お・・・覚えてないです・・・・ショッカーの手先と思われる人に、ここまで連れて来られたんだけど・・・・」

「そうか・・・でも、無事で何よりだ!」

 

猛さんに送って貰い、アパートに帰った。

念のため、圭一君と瑠璃ちゃんに電話してみたが、2人とも無事で、今日は何事も無かったようだ。

しかし、あの女は一体誰で、何のために、滝君をあそこに誘き出したんだろう?そして、どうして、何もしなかったんだろう?

 

 

 

朝、三葉の体で目が覚め、いつものように制服に着替えて下に降りると・・・・・

「何で、制服着とんの?」

と、四葉に突っ込まれる。あれ?今日は、日曜じゃ無かったよな?祝日でも無いと思うけど?・・・・・

 

今日は、山の上にある御神体に、口噛み酒とやらを奉納する日らしい。この町だけの行事なので祝日では無いが、学校や仕事は休みなのだそうだ・・・・三葉め、そういう事は、ちゃんとメッセージ入れとけ!

俺と四葉、婆ちゃんの3人で出かける。宮水神社の、裏手の山を登って行くらしい。

しかし、何故御神体が神社にでは無く、山の上にあるのだろう?普通、御神体の近くに神社を建てないかな?・・・・・田舎には、俺には分からない古いしきたりでもあるのかな?

 

結構な山道を、ひたすら歩く。俺や、四葉は何とかなるだろうが、婆ちゃんにはこの山道は辛くないか?非常に、歩みも遅い!これじゃあ、いつ御神体に辿り着けるか分からない・・・・

「お婆ちゃん!」

俺は婆ちゃんに背中を差し出す。婆ちゃんは、にっこり笑って、

「ありがとうよ。」

と言って、俺の背中におぶさる。

立ち上がる時に少しよろけたが、婆ちゃんは、あまりにも軽かった。おぶって歩くのも、大して苦にはならない・・・・・人をおんぶするのも初めてだが、自分のお婆ちゃんをおぶっているみたいで、何か、いい気分だった。

山頂までの道中、俺の背で、婆ちゃんが日本古来の“ムスビ”の事を語った。

糸を繋げることも、人を繋げることも、時間が流れることも、全部同じ言葉“ムスビ”を使う。それは神様の呼び名であり、神様の力でもあると。

こんな風に、婆ちゃんに昔の話を聞くのも、初めての体験だった。何もかも新鮮で、何か暖かい・・・・・

ようやく頂上に着くと、そこには、大きなカルデラ状の窪地があった。その中央には、巨大な岩と一体化した巨木があり、それが御神体らしい。俺達は、その御神体を囲むように流れる、小川の前まで行く。

「ここから先は、隠り世。」

婆ちゃんが、また語る。この先はあの世、つまりは死後の世界であり、戻るには、俺達の一番大切なものを、引き換えにしなければならないらしい・・・・その一番大切なものが、口噛み酒なのだと・・・・・この酒は、三葉と四葉が米を噛み、唾液と共に吐き出したものらしい。これが、三葉達の半分なのだそうだ・・・・そんなので、本当にお酒ができるのかな?

御神体の前まで行くと、小さな入り口があり、下に降りる階段が付いていた。中まで降りて行くと、小さな祠があり、口噛み酒はそこに奉納された。

「?!」

俺はふと、奥の壁に目がいった。蝋燭のわずかな光ではっきりは見えないが、絵か、模様のようなものが見える。よく目を凝らす・・・・円状の・・・星?地球かな?その球体の上に、鳥が乗っている?・・・あれは、鷹か?鷲か?・・・何かのマークのようだ・・・・まてよ、あのマーク、昔どこかで見たような?・・・・・・

 

結局、思い出す事はできず、御神体を出る。

山を降りて来ると、もう陽が雲の後ろに隠れ掛かっていた。

「もう、カタワレ時やなあ・・・・」

また、婆ちゃんの言葉が耳に残る。そういえば、古典の授業で教師が言っていたな・・・・夕方、昼でも夜でも無い時間・・・人ならざるもの、魔物や、死者に出くわす時間・・・・・

考え込んでいる俺に、婆ちゃんが、横から声を掛ける・・・・

「あんた今、夢を見とるな・・・・」

 

『・・・・くん』

声が聞こえる・・・・・・

『・・・きくん』

誰かを、呼んでいるのか?

『・・たきくん』

お・・・俺を、呼んでいる?

『覚えて・・・ない?』

なんだ?・・・何を言っている?・・・・・ん?

そこで、目が覚める。自分の部屋、自分の体だ。何か、前にもこんな夢見たような・・・・

起きて、制服に着替えて、朝食を済ませる。学校に行く準備をして、机の引き出しから例の組紐を出す。それを、腕に巻いたところで、スマホに着信が来る。猛からだ。

『滝、体に異常は無いか?』

「ん?無いけど・・・どうかしたのか?」

『昨日、三葉が入れ替わったお前が、一度ショッカーに攫われたんだ!』

「な・・・何だって?」

 

 

 

朝、自分の体で目覚めると、何故か、胸が痛い。何か・・・抑えきれない気持ちが、こみ上げてくる・・・・

朝食を済ませ、学校に行こうと四葉と家を出るが・・・・・

「私、ちょっと東京に行ってくる。」

「ええ?今から?・・・な・・何で?」

「ん~・・・人に会ってくる・・・」

「えっ?誰?まさかお姉ちゃん、東京に彼氏がおんの?」

「ん~・・・分かんない・・・夜には帰るで。」

そう言って、私は駅に向かった。

 

電車に揺られながら、私は考える・・・・

ここ数日、滝君の事を思うと、胸が痛い・・・・・この気持ちは・・・恋なのかな?・・・違うのかな?・・・・逢えば、はっきりするのかな?・・・・・

いきなり行ったら・・・・迷惑かな?それとも・・・・喜んでくれるかな?・・・・

ひとつだけ、はっきりしている事は、私達は、逢えば絶対に分かる。私に入っていたのは君だって、君に入っていたのは私だって・・・・・・

 

昼過ぎに、滝君の通う学校に着いた。でも、中まで入って行く勇気は無かったから、外で待っていた。

放課後になって、下校する生徒が何人も出て行ったけど、滝君は出て来なかった。部活動はやっていない筈だけど、下校時間を1時間以上過ぎても、滝君は来なかった。

もしかしたら、見逃したのかもしれないと思い、彼のアパートまで行った。しかし、留守だった。

 

結局会う事は出来ず、駅のホームで途方に暮れていた時・・・・・居た!目の前に入って来た電車の中に、彼の姿が・・・・・・

私は、彼を見かけた車両まで走った。ドアが開いて、下車する人達の波が去った後、直ぐに乗り込む。中は混んでいて、中々進めないが、ぎゅうぎゅう詰めの人の間を縫って、彼の目の前までたどり着く。彼は、単語帳を見るのに集中していて、こちらには気付いていない。

“滝君”

心の中でそう呼ぶ。しかし、それが届く筈も無く、彼は気付かない。

“滝君・・・滝君・・・滝君!”

何度も何度も、心の中で呼ぶ。最後の方は、心の中で叫んでいた。でも、やはり気付いてはくれない。

「・・・た・・滝君・・」

勇気を出して、やっと私は声を絞り出した。ようやく彼は気付き、顔を上げる。

目が合う、私は少し照れた笑顔を送る。でも、彼はきょとんとしている。

「あ・・・あの・・・」

もう一度、勇気を振り絞る。

「私・・・覚えて、無い?」

やっとの思いで、そこまで言う。

「誰?お前?」

突然、頭をハンマーか何かで叩かれたような、強い衝撃が襲う・・・・な・・・何で?

ひと目で、分かり合える筈だった。そう、信じて疑わなかった。その確信が、脆くも崩れ去っていった・・・・・

「ご・・・ごめんなさい・・・」

蚊の鳴くような声で、それだけ言って、私は俯いてしまった。

滝君なのに・・・・どうして?・・・・・

滝君は、怪訝そうな顔で、私を見つめる。

やめて!そんな目で見ないで!・・・・ど・・・どこかに消えたい・・・・でも、こんなぎゅうぎゅう詰めの中じゃ・・・・・

気まずい時間が、長く続く。ようやく電車が次の駅に到着して、ドアが開く。私は直ぐに、出口に向かう・・・・すると・・・・・

「君・・・名前は?」

そう、滝君が尋ねて来た。その時私は、何故か無意識に頭の組紐を解き、振り向きざまにそれを滝君に翳した。滝君が手を伸ばし、その先端を掴む。

「みつは・・・名前は、三葉!」

最後にそう叫んで、私は組紐を放した。ドアが閉まり、電車は走り去って行った。私は、そのまま、しばらくホームに佇んでいた。

どうして?・・・・どうして?

何度も何度も、心の中で問いかけていた。

“何しに来たんだ”、“何で来たんだ”、そのような事を言われる恐れはあった。でも、まさか、気付いてももらえないなんて・・・・そんな事、考えもしなかった・・・・・・

最後に名前を叫んだ時も、彼の表情は変わらなかった。それでも、気付いてもらえなかった・・・・どうして?・・・・どうして?

悲しみが、洪水のようにこみ上げて来る。

私は、いったい、何のためにここまで来たの?今迄の、入れ替わりは何だったの?

大粒の涙が、目から溢れ、ホームに滴り落ちる。そうしている内に、だんだん、意識が遠のいていく・・・・・私は・・・・わ・た・し・は・・・・・・・

 

しばしの硬直の後、ようやく三葉は顔を上げる。だが、その顔にはもう涙は無く、逆に薄ら笑みを浮かべている。そして、その口から、およそ三葉のものとは思われない、異形な声が発せられる。

「ふふふふふ・・・ははははははっ!ようやく、出て来れたわ!時間が掛かったが、これでもう、あの娘が表に出る事は無い!成功だぞ、死神博士!」

 






ショッカーが狙っていたのは、滝では無く三葉だった・・・・
傷心の三葉に、現れた異常は?ショッカーは、三葉に何をしたのか?
そして、滝が、御神体の中で見つけたマークは・・・・・
次回、ショッカーの恐るべき計画が、明らかになります。

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