君の仮面は   作:JALBAS

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今回は、ストーリー展開からは少し脱線します。
滝と三葉、それぞれの環境に、お互いが少しずつ関わっていきます。
そして、2人の心にも徐々に変化が・・・・・




《 第五話 》

 

三葉の体で目覚めるのも、もう何回目だろうか?相変わらず、髪の結い方は分からないし、面倒くさいので、髪の毛は組紐で束ねるだけだ。俺は、机の上の組紐を取るが、それを見てある事に気付く。

あれ?よく見ると、この組紐って、俺がいつも手に巻いてるのに似てるな・・・・でもこれ、この家で作った組紐だよな?1回やらされたけど、全然出来なかった。俺のやつは、どこで手にいれたんだっけ?・・・・確か、誰かに貰ったんだよな?いつだっけ?よく覚えて無い・・・・・

 

朝食を終え、テッシー、サヤちんと共に学校に向かう・・・・・そこに・・・

「あねさん!カバンをお持ちします!」

目の前に跪き、影月が現れる。本当に、うっとおしい。

「あのな、影月・・・カバンくらい、自分で持てるわ!」

「で・・・では、学校までお供します!危ない輩が、現れたらいけませんので!」

お前以外に、こんな田舎にそんな奴いねーよ!ショッカーが襲って来るってんなら、別だがな!

自分で蒔いた種とはいえ、本当に頭が痛い・・・・俺でさえこうなんだから、三葉はもっとだろう・・・・・

例によって、町営駐車場の前を通ると、三葉の親父さんが演説をしている。その前に、あの嫌味野郎を含めた3人組が居たが、こちらを見つけるなり、慌てて逃げ出して行った。

「あ・・・あの野郎、あねさんに挨拶もしねえで・・・・」

影月が、奴らを追おうとしたので・・・・

「おい!余計な事はするな!」

つい、男言葉で叫んでしまった。

「へ・・・へい!申し訳ありやせん!」

影月は大人しくなったが、テッシーとサヤちんは、硬直してしまった・・・・やばい・・・・また、三葉に怒られる・・・・・

ふと、右の町営駐車場に目をやると、そこで演説していた人達や、それを見ていた人達までこちらを向いている・・・・声が、大きすぎた。三葉の父親、宮水としきも、驚いてこちらを見ている。

俺は、そそくさとその場を後にする・・・・・しかし、未だに分からん!何で、一緒に暮らしていないんだ?こんな事、婆ちゃんや四葉に聞く訳にもいかない。テッシーやサヤちんにも聞ける訳が無い・・・・やはり、三葉に聞くしかない。素直に、教えてくれるとも思えんが・・・・・

 

“何で、父親と一緒に暮らしていないんだ?”

                ▼

“あなたには、関係無いわ。余計な詮索はしないで。そんな事より、言葉使いには気を付けて!人前で、怒鳴ったりもしないで!”

 

やはり、この間の件は怒られた。父親の件も、予想していた通りの返事だった・・・・しかし、気になる・・・・・やはり、家族に聞くしかないか?

朝食時、防災無線から町長選挙関連のアナウンスがある度に、婆ちゃんは放送を切る。その後、四葉は“いい加減、仲直りしないよ”と言う。という事は、婆ちゃんは父親と仲が悪い。でも、四葉は、そんな事は無い・・・・・話を聞くなら、四葉か?

学校から帰った後、それとなく四葉に問いかける。

「ねえ、四葉?お父さんの事、どう思う?」

「え?何やの?突然・・・」

「ん・・・ちょっと、気になってね。」

「いつも言っとるけど、あたしはお父さんが出てった時のこと、よう覚えとらんに。だから、みんな仲直りして欲しい・・・・また、一緒に暮らしたい。」

そうか・・・という事は、出て行った原因は婆ちゃんとの確執か?

「お母さんが亡くなって、みんな、気が滅入っていたんやろ・・・・あれから何年も経っとるのに、お婆ちゃんも、お姉ちゃんも、いつまで意地張り続けとんの?」

あや・・・逆に、問い詰められちゃった・・・・・お母さんが亡くなって?じゃあ、父親が家を出たのは、母親の死が原因なのか?

「いつも、“仲直りしないよ”って言っても、“大人の事情”って言うばっかで・・・何が“大人の事情”なんか、あたしには分からん。逆に、子供の喧嘩みたいや・・・・・」

何となく、分かってきた・・・・・

「そうだよね・・・・何、意地張ってんのか?・・・・・」

「?」

他人事のように言ったので、四葉は首を傾げている。これは、俺の率直な感想だった。

細かい事情は分からないが、母親の死が原因で、婆ちゃんと宮水としきの間で何かの確執があった・・・・・その結果、宮水としきは家を追い出された・・・・・だが、三葉は、父親に捨てられたと感じているんじゃないのか?でも、それは違うだろう。婆ちゃんが、2人を手放さなかった・・・・宮水の、大事な跡取りだ。当然そうなる。

しかし、宮水としきは、何でこの町を出なかった?娘が心配だからか?・・・・・ここは、本人に聞いてみるしか無いかな?三葉には、怒られるだろうけど・・・・

俺は、四葉の顔を見る。四葉は、本当に心配そうな顔をして、じっとこっちを見ている。

何より、一番可哀想なのは、こいつだ・・・・・

 

俺はその後、町役場に行った。受付に行って、父に会いたいと告げたら、直ぐに案内してくれた。実の娘が会いに来たからか?それとも、こんな田舎の町長じゃ予定も少なくて、暇なのかな?

「何だ?こんな時間に?」

暇そう・・・という感じでは無かった。書類に目を通しながら、片手間に話だけは聞いてやろうという雰囲気だ。

「ねえお父さん、家に戻って来る気は無い?」

「はあ?」

いきなり、直球をぶつけた。まずは、反応を見たかったからだ。宮水としきは、怪訝な顔をして、しばらく俺を見つめていた。

「お・・・お前は、私を、恨んでいたんじゃないのか?」

「え?何で?」

本当はそうかもしれないが、わざと惚けた。

また、しばしの沈黙があった。俺は、じっと宮水としきの目を見つめていた。すると、向こうの方が目を逸らした。

「お前が良くても、婆さんが許さんだろう。それに、俺は、宮水神社を継ぐつもりは無い!」ほほう・・・婆さんとの確執の理由は、それか・・・・んで、そうなった原因が、母親の死ってとこかな?

「お父さん、何で町長続けたいの?」

「何?」

また、直球をぶつけた。こんな事を三葉が聞いて来るとは、思いもしなかっただろう。宮水としきは、鳩が豆鉄砲を食らったような顔をしている。

「お・・・お前に言っても、どうせ分からないだろう・・・・だが、俺は、この糸守を変えてみせる・・・・用はそれだけか?なら、もう帰れ!」

最後は、追い出された。だが、これで大体は分かった・・・・・だけど、三葉の説得は・・・・・難しいだろうな、四葉には気の毒だけど・・・・・ん?何で俺、こんなに真剣になって、宮水家の家庭環境心配してんだろう?

 

 

 

何か最近、滝君のメッセージがお父さんの話ばかりだ。一体、何をやってるの?関係無いから、余計な詮索しないでって、言ってるのに・・・・

 

“意地を張るな!四葉の事も考えてやれ!”

 

何よ!何にも知らないくせに、人の家庭の事情に口を挟まないで!本当に、お節介なんだから・・・・・でも、言われてみれば、四葉の事を、考えてやっていなかった・・・・・四葉は、やっぱり、お父さんと一緒に暮らしたいのかな?でも、お婆ちゃんは絶対許さないだろうし・・・・・・

と、悩むのはここまで。今日は、予てから考えていた事を、実行しなくっちゃ!

私は、アパートの大掃除を始めた。やはり、男のひとり暮らしというのは、基本的に部屋が散らかっている。酷く汚いという事は無いが、やたらと物は乱雑に放置され、隅の方は埃が溜まっている。布団も、あまり日干しはしていないようだ。幸い、今日は日曜だから・・・・あれ?3日前も日曜じゃなかったっけか?・・・・まあ、いいか・・・・・

ベッドの掛け布団や毛布を日干しにして、溜まっている洗濯物も洗って、部屋の隅までしっかりと掃除機を掛けて・・・・・・何だか、気分は家政婦か専業主婦だ・・・・

衣服類を見ると、あちこち破れている物も多い、掃除が終わったら、これらも縫っておいてあげよう。

放置されていた荷物も、できるだけ整理してクローゼット等に片付ける。Hな本は・・・・人目の付かないところに隠して・・・・・

「精が出るな、三葉!」

ある程度片づけが済んだところで、猛さんが顔を出す。ひと目で、私だと分かったようだ。やはり滝君は、掃除などはあまりやらないのだ。

私は、片付けは一時中断して、猛さんにお茶を出す。

「ふふ・・・滝の姿でやられると、凄く違和感があるが・・・いいお嫁さんになれるな、三葉は。」

「や・・・やめて下さい!そ・・・そんなんじゃ、わ・・・私は、滝君のことなんか・・・・」

「ん?別に、滝の嫁にって意味で、言ったんじゃないが?」

「え?」

思わず、私は真っ赤になった。

「はは・・・しかし、君には感謝している。君との入れ替わりが始まってから、あいつは凄く明るくなった・・・心の底から、分かり合える友が出来た・・・・まあ、入れ替わってるんだから、いつでも本音で語り合う事になるしな・・・・・」

それは、確かにそうかも・・・・滝君が相手だと、自分を偽る事はできない。何せ、自分自身も同然なんだし・・・・・

「義理の・・・という事になるかもしれないが、家族が出来たのも大きいだろう。君の体に、入っている時にな。幼い頃に両親を無くして、あいつはずっとひとりだった。身内と呼べるのは、こんな俺だけだった・・・・・」

あ・・・そうか、滝君は、親が居ないんだった・・・・だから、余計に私とお父さんの事を心配して・・・・四葉の事も、私より、ずっと四葉の気持ちが分かるんだ・・・・

“あなたには、関係ないわ”なんて、酷い事言っちゃったな・・・・今度、謝らなきゃ・・・・・

と、思ったんだけど・・・・

 

“てめえ、三葉!勝手に人の部屋の中、掃除すんじゃねえよ!人のプライバシー侵すな!”

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“人聞き悪い事言わないでよ!プライバシーなんて、侵してません!せっかく片付けてやったのに、お礼のひとつも言えないの?”

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“お前、俺の服にへんな刺繍すんじゃねえよ!恥ずかしくて、外に着てけねえだろ!”

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“何よ、可愛いでしょ?何が不満なの?破れた服で出歩く方が、よっぽど恥ずかしいでしょ!”

 

な・・・何で、こうなっちゃうのかな?

 






という訳で、今回は、滝と三葉のお互いを思いやる感情の変化、を書いてみました。
“君の名は。”の本編では、こういう部分はあまり深く触れられていなかったから、一度書いてみたかったので・・・・・

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