そうしている内に、滝の方は、糸守である事件を起こしてしまいます・・・・
一方、滝の異常に気付いた本郷は・・・・・
目が覚めると・・・・ま・・また、この部屋だ・・・・体にも違和感を感じ、上半身を起こして、自分の体を見る・・・・女物の、ピンクのパジャマ・・・・胸も、膨らんでいて・・・・触ってみると・・・・柔らかい?どう見ても本物だ・・・・・
「またやっとるの?お姉ちゃん?・・・・・」
右手の襖が開いていて、そこに、この間の妹が立っていた。呆れたように、こちらを見ている・・・・・
「ごはんやよ!」
それだけ言って、妹は下に降りて行った。
また、同じ夢を見ているのか?・・・これは、本当に夢なのか?
朝食を終え、通学の途に就く。妹と別れてから、考える・・・・・
全く同じ設定の夢を、何度も見る事があるのだろうか?それとも、これは夢では無いのか?・・・だとすると、自分は、異世界にでも飛ばされているのか?前世にでも戻っているとか・・・・・でも、どう見ても現代だよな・・・・・
「三葉~っ!」
後ろから、声を掛けられた。振り向くと、テッシーとサヤちん・・・・で、いいんだよな?その2人が、自転車に2人乗りしてこっちに向かって来る。
「おはよう!三葉!」
「おはよう!・・・て・・テッシー・・・サヤちん・・・」
今日は、あだ名で呼んでみた。すると、2人は笑顔のまま寄って来る。
「あら?三葉、その頭・・・また・・・・」
「さ・・・侍やな・・・・・」
またか・・・いつもは結っているという話だったが、やり方を知らないので、これはどうしようも無い。説明も面倒くさいので・・・・・
「時間が、無かったから・・・・」
この間と、同じ答えを返した。ただ、言い方は、少し大人しめにしておいた。
そのまま、一緒に歩いていると・・・・
『 ――― そしてなによりも!』
突然、拡声器の野太い声が耳に飛び込んで来る。声のする方を見ると、町営駐車場の敷地内で、誰かが演説をしている。その男の上半身に、“現職・宮水としき”のたすきが掛かっている。更に、後ろには横断幕も掲げている。どうやら、町長選の演説のようだ・・・・宮水?・・・この娘と、同じ苗字だな・・・・
「おう、宮水。」
その時、前に居て演説を見ていた3人組の高校生の中の、真ん中に居る男が声をかけてきた。
「町長と土建屋は、仲がいいね。その子供たちも、癒着しとるな。それ、親のいいつけでつるんどるの?」
その男の隣の女が言う。・・・町長?土建屋?その子供たち?・・・・・どういう意味だ?
俺は、演説している男の横を見る。“勅使河原建設”と書かれたワゴン車の前に、同じ作業服を着た数人がいる。その連中は、“宮水としき応援団”と書かれたたすきをしている。宮水としきのすぐ横に居るのが、社長のようだ。
そうか・・・あの人は、テッシーの親?・・・じゃあ、あの町長は、この女の親・・・・何だ、父親居るじゃないか・・・・何で、一緒に暮らして無いんだ?
俺達は、その3人組の横を通り過ぎる。何やら嘲るような笑みを浮かべ、こちらを見ている・・・・・嫌味な奴らだ・・・・・その時は、その程度の感覚だった・・・・・
その後、会話には一応注意し、女言葉では無いまでも、男っぽい喋り方は控えた。これが、夢では無いのなら、少しは順応しておかないと、後から困るかもしれない・・・・・
だが、2時限目に、事件は起こった・・・・いや、起こしてしまったと言った方が良いか・・・・
2時限目は、美術だった。花瓶とリンゴのスケッチを描いている時、また、朝の3人組が、こちらを見て何やら呟いていた。
「・・・だから、町政なんて助成金をどう配るかだけやで、誰がやったって同じや!」
「・・・でも、それで生活してる子もおるしな・・・・・」
何だ?あれは、俺・・・いや、この女の事を言っているのか?
「ねえ、サヤちん・・・あれって、俺の事?」
「え?・・・俺?・・・」
「あ・・・いや・・・わ・・・私の事?」
「う・・・うん・・そうやと思うけど・・・気にしたらあかんよ!」
ふ~ん、やはりそうか・・・朝は聞き流したが、こう何度も言われるとな・・・・
俺は立ち上がって、ゆっくりとその3人の、真ん中の男の前に歩み寄る。
「・・・な・・・何だよ?」
男は、少しびびったように問いかけてくる。
「お前さあ・・・そんな、嫌味ばかり言ってて楽しいか?」
「・・・はあ?」
「楽しいかって、聞いてるんだよ!」
「あ・・・ああ、た・・楽しいで・・・」
「ふん・・・最低だな・・・それでも男か?お前?」
「な・・・何やと!」
その男は、かっとなって立ち上がり、こちらの制服の胸倉を掴んでくる。だが、直後に俺はその手首を掴み、思い切り捻り上げてやった。
「いっ!いたたたたたたたっ!」
男は、情けなく悲鳴を上げる。
「や・・・やめなさい!み・・宮水さん!」
先生が、止めに入る。仕方無く、俺は手を離してやる・・・・教室内が、騒然とする。流石に、ちょっとやり過ぎたか?・・・・その男は、捻られた手を必死に押さえ、じっとこっちを睨んでいる。その目は、涙ぐんでいる・・・・あの程度で、情けない奴だ・・・・・
その後、職員室にも呼ばれて説教をくらったが、暴力を振るった事に対してでは無く、“女の子が、ああいう態度を取るべきでは無い”というような、昔の大和撫子主義じみた内容だったので、上の空で聞き流していた・・・・・これだから田舎は・・・・・
そして、帰り道・・・・・
「三葉、本当に大丈夫?」
サヤちんが、心配そうに聞いてくる。
「何が?」
「何か、三葉らしく無いよ・・・あんな事するなんて・・・・」
まあ、都会でも、普通の女の子はしないだろうな・・・・でも、俺、女じゃ無いし・・・・
「いや、あいつらにはいい薬や!スカッとしたで、俺は!」
テッシーの方は、逆に興奮ぎみだ。俺が手を出さなきゃ、こいつが出してたかもしれんな?いい奴だな、テッシーって・・・・
「は~っ・・・ほんとに、お気楽でええね、あんたは・・・・」
サヤちんは、頭に手を当てて俯いている。ただ、この時俺もテッシーも、彼女が何でこんなに不安そうなのか・・・・その本当の理由に気付いていなかった・・・・・
スマホのアラームが聞こえる・・・・これは・・・・私の、スマホの音楽じゃ無い・・・・先日、一度聞いた・・・・・
「ん・・・んんっ・・・・・」
目を開けると・・・・この間の、部屋・・・・ま・・・また、同じ夢を?
体を起こす・・・・この間と同じ、違和感を体に感じる。視線を体に落としてみると・・・・やはり、胸が無い・・・そして、下半身には・・・・
夢にしては、何もかも鮮明のような気がする・・・・全く同じ環境の夢を、何度も見るものだろうか?それとも夢では無く、違う世界にでも飛ばされているのか?・・・・・
呆けていても仕方が無いので、私は、制服に着替えて学校に行く事にした・・・・のだが・・・・
この間、1回行っただけでは覚えきれず、また迷って遅刻してしまった。授業中に入るのは体裁が悪い出ので、1時限目が終わった直後に、そっと教室に入ったが・・・・
「おす!滝!」
「おそよう!滝君。」
圭一君と瑠璃ちゃんに、直ぐに見つかってしまう。
「お・・おはよう・・・圭一君、瑠璃ちゃん。」
控えめに挨拶を返して、席に着く。
「圭一くん?」
「瑠璃ちゃん?」
すると、2人は怪訝そうな顔をする・・・・まさか、滝くんって、この2人も呼び捨てなの?
昼休み、また、屋上で3人で昼食をとる。何か、この辺も含めて、サヤちんとテッシーと一緒に居るみたい・・・・・
「なあ、滝・・・・まだ、この間の事、知らないって言い張るのか?」
「え?・・・この間の事って?」
「覆面軍団に、襲われた時の話だよ!」
「ああ、猛さんに助けてもらったって話?」
そういえば、電話で、翌日詳しく聞かせてって言われてたっけ・・・・でも、翌日こっちに来てなかったし・・・・・
「何だ・・・やっぱり、覚えてんじゃん?」
私は、仮面ライダーやショッカーの事は伏せて、猛さんに助けられた事を話した・・・・当然、カニとコウモリの怪物の事も、話さなかった・・・・
「何者だったんだ?あいつら?」
「ん~っ・・・・分かんない・・・・凄い逃げ足で、逃げてったし・・・・」
爆発して、木っ端微塵なんて・・・・言える訳無い・・・・・
「何で、滝君が狙われたの?」
「分かんない・・・・」
これは、本当に分からない・・・・相手がショッカーだとしても、何故、滝君が狙われるの?
学校を終え、アパートの前まで帰ってくると、聞き覚えのあるバイクの轟音が聞こえてくる・・・・猛さんだ・・・・私が振り向くと、バイクが私の前で止まる。
「よう、滝、異常は無いか?」
「は・・・はい・・・・」
私は、猛さんに、本当の事を話そうかどうか迷っていた・・・・滝君がショッカーに狙われているのなら、その理由を、猛さんは知っているのか?滝君本人もそうなのか?だったら、今の自分が滝君では無い事を、この人には話した方が良いのか?・・・・・
「・・・お前・・・滝では無いのか?」
「え?・・・・」
以外にも、猛さんの方から、そう切り出して来た・・・・・・
私達は、とりあえずアパートに入り、中で話をした。
「私は、宮水三葉と言います・・・・岐阜県の、糸守町という所に住んでいる、高校2年の女子です・・・・」
「・・・・女の子だったのか?・・・・」
これには、猛さんも驚いたようだ・・・・その後、滝君になったのが2度目である事、前の時は丸一日、そうなっていた事を話した。
「・・・ところで、君が前に滝になった時、その日の君の糸守での記憶はあるのか?」
「い・・いえ・・・丸一日、記憶がありません。」
「となると・・・君と滝は、入れ替わっているのか?」
「あ・・・・・」
そう言われてみれば、そうだ・・・・その日の私の行動は、まるで別人のようだったと皆言っていた・・・・・そうか、私は、滝君と入れ替わっていたんだ・・・・
「それじゃあ、俺達のせいで、怖い思いをさせてしまったようだね・・・申し訳ない・・・」
え?・・・それって、ショッカーの事を言ってるの?じゃあ、猛さんは・・・・・
「猛さん、私・・・じゃなくて、滝君がショッカーに狙われた理由、知ってるんですか?」
「ん~っ・・・・知ってるというより、俺達には、狙われるだけの理由があるという事だ。」
「え?・・・どういう事ですか?」
「俺達、仮面ライダーには、ずっと影で支えてくれた協力者が居た・・・その一番の協力者が、“立花藤兵衛”。俺達は、“おやじさん”と呼んでいた・・・・滝は、その“おやじさん”の孫なんだ。」
「え?・・・・」
「そして、俺の親友で、FBIの捜査官だった男も、過去のショッカーとの闘いでは、“おやじさん”と同等の協力者だった・・・・その男の名は、“滝和也”。滝の名は、そいつから貰ったものだ・・・・・・」
「そうなんだ・・・・で・・でも、それだけで、滝君がショッカーに狙われるんですか?」
「・・・滝の両親・・・・“おやじさん”の息子夫婦も、俺達に協力してショッカーと闘った・・・・そのために、命を落とす事になったが・・・・だから、その息子である滝も、ショッカーにとっては邪魔な存在だろう・・・・・」
「そ・・・そんな・・・・あ・・・そういえば、何で、ショッカーがまだ居るんですか?ショッカーは、だいぶ昔に仮面ライダーが倒したって・・・・・
「・・・確かに、ショッカーの首領を倒し、殆どは壊滅させた・・・・だが、ショッカーの組織は世界的に広まっていた・・・・各地に残党が残っていて、中には、新しい勢力を加えて、ショッカーの復興を目指す者も出て来た・・・・・俺達は、今も闘い続けているんだ・・・・・」
「俺たち?・・・仮面ライダーって、他にも居るんですか?」
「ああ、今は世界中に散らばり、ショッカーの残党から世界を守っている!」
し・・・知らなかった・・・私達が、何気なく平和に暮らしている影で、猛さんのように、今も人々を守り続けている人達が居たなんて・・・・・
いち早く、2人の入れ替わりに気付いた本郷猛。今後、三葉にとっても良き相談役になっていきます。
でも、彼は、このお話ではワキ役です。主役はもちろん、三葉と滝くんです。
今迄は影が薄かったですが、次回以降から、どんどん滝が活躍していきます。