「ん・・・んんっ・・・・・」
な・・・どこ?ここ・・・・・・
私は、見たこともない、部屋のベッドで目が覚める。もしかして・・・・これも夢?体を起こして、部屋を見渡す・・・・それなりに整頓されているけど、少し乱雑に物が置かれている・・・・どう見ても、男の子の部屋のように見える・・・・・
体にも、違和感を感じる。喉が妙に重い、視線を下に落としてみると・・・・胸が・・・無い?・・・逆に下半身には・・・・何かある?ええ~~っ?
起き上がって、鏡を探す・・・・ようやく見つけて、覗き込む・・・・・?!そ・・・そこには、精悍な顔付の男の子の顔が映っている・・・・・
「え?・・・これが・・・私?」
部屋に戻って、まず着替えを探す・・・・壁に、学校の制服と思われる服があったので、とりあえずそれに着替える。
ベッドにあるスマホを取り、中を確認する・・・・アドレス帳には、知っている名前は一件も無かった・・・・とりあえず、この男の子の名前は、“立花滝”である事が分かった。
その後、アパート内を確認した結果、今の私・・・滝君は、このアパートでひとり暮らしである事が分かった。
そうだ、この子も高校生なら、学校に行かないと・・・でも・・・・こんな、見知らぬ土地で、誰も知っている人のいない学校に行って良いものかどうか、しばらく悩んでいた・・・・
悩んでいたため、完全に遅刻の時間になったが、結局学校に行こうと家を出た。
「うわ~っ・・・東京やあ・・・・・」
アパートを出ると、そこは、憧れの東京だった・・・・しばし見とれていたため、更に時間が遅れてしまった・・・・・
学生証を見つけたので、学校と学年、クラスは分かった。学校の場所は、スマホで確認して、だいたいは分かった。それでも、初めての東京なので、かなり迷った。
もう、かなり陽が高くなり、既に学生は誰もいない河原の土手を歩いていると、急に後ろから声がした。
「滝!」
振り向くと、そこには、大きなバイクに跨ったひとりの男性の姿があった。黒い革ジャンを着て、手袋も嵌めている。やたらと大きなバイクに乗っているのに、ヘルメットは被っていない。頭は天パーに近い黒髪で、非常に濃い顔をしている。それこそ、“密林に探検に出かけて行く隊長”といった顔だ。
「こんな時間にどうした?寝坊か?」
「え・・・その・・・・」
何も、答えられなかった。私は滝君では無いし、この人の事も分からない・・・・・ただ茫然と佇むだけの私を、その人は特に叱るでも無く、それ以上は何も聞かず、バイクの後ろに乗せて学校まで送ってくれた。
「じゃあな、しっかり勉強しろよ。」
そう言って、その人は走り去る。
来たのはいいが、大遅刻で初めて来る学校・・・・中々入り難かったが、意を決して中に入る。丁度休み時間で、廊下には生徒が何人か居た。とりあえず、2年の自分の教室の辺りをうろうろしていると・・・・
「何だよ、滝!ずいぶんと重役出勤だな?」
後ろから、声を掛けられる。振り向くと、眼鏡を掛けた、ちょっとインテリ風の学生が立っていた。この男の子の友達らしいが、名前が分からない。
「圭一!」
更に、後ろから声がした。廊下の向こうから、女生徒が駆けて来る。
「おう、瑠璃!」
「あれ、滝君、今来たの?」
この女の子も、この子の友達?・・・・“瑠璃”って呼ばれていた・・・男の子の方は、“圭一”って呼ばれていた・・・・
授業中に、スマホのアドレス帳で確認した。“圭一”と呼ばれていた彼は、“志度圭一”。“瑠璃”と呼ばれていた彼女は“緑川瑠璃”。着信履歴にもこの2人の名前は多く、滝君の一番の親友のようだ・・・・私にとっての、サヤちんとテッシーみたい・・・・・
昼休みに、圭一君と瑠璃ちゃんと、屋上で昼食を食べた・・・・と言っても、私は朝は混乱していて、お弁当など作れなかった。圭一君と瑠璃ちゃんが、サンドイッチとコロッケを分けてくれたので、コロッケサンドにして食べた。話していると、時々訛りが出たり、女言葉になったりして怪訝な顔をされたが、そこは笑って誤魔化した・・・・
『・・・・くん』
声が聞こえる・・・・・・
『・・・きくん』
誰かを、呼んでいるのか?
『・・たきくん』
お・・・俺を、呼んでいる?
『覚えて・・・ない?』
なんだ?・・・何を言っている?・・・・・ん?他に、何か聞こえる・・・スマホのアラームか?・・・・だが・・・・俺のスマホのメロディーと、違う・・・・・・
そこで、目が覚めた。何か、変な夢を見ていたような・・・・・ん?
何となく、体に違和感を感じる・・・・何か、体が妙に軽い・・・・それと、胸のあたりが何か重い・・・・・・
目を開け、起き上がると・・・・あれ?俺の部屋じゃ無い。ベッドじゃなくて布団だし・・・・アパートの部屋じゃ無く、日本家屋で・・・・ん?
ふと、下を見ると・・・胸が膨らんでいて、胸の間に谷間が・・・触ってみると・・・・柔らかい?何だ、この感触は?
「何しとんね?お姉ちゃん?自分の胸が、そんなに珍しいん?」
気が付くと、右手の襖が開いていて、そこにひとりの幼女が立っていた。見た事無い顔だ・・・・ん?この幼女、今、何と言った?
「お・・・お姉ちゃん?」
俺は、自分を指さして問う。
「他に誰がおんねん!ご・は・ん!」
そう叫んで、幼女は乱暴に襖を閉めて、下に降りて行った。
お・・・俺がお姉ちゃん?何を言ってるんだ、あの幼女は?俺はどう見たってお姉ちゃんには見えない・・・・・・
と、その時、目の前にある姿見に、自分の姿が映った
「な?!」
俺は、愕然とした。そこに映っているのは、高校生くらいの女の姿で、完全に俺の姿では無かった。
「え?ええ~っ?」
な・・・何だ?この事態は・・・・まだ、夢を見ているのか?お・・・俺が、女になってる?そ・・・そんなあほな!
いくら考えても、訳が分からなかった。ただ、いつまでも呆けていても、何も分からないままだ。とりあえず、何か行動してみようと思い、まずは服を着替えた。壁に制服が掛かっていたので、それを着た。“ごはん”と言われていたので、下に降りた。
「お姉ちゃん、おそいっ!」
さっきの妹が怒鳴る。その横には、婆さんがいる。女だけの3人家族か?父親と母親は、居ないようだ・・・・
朝飯を食べていると、テレビからニュースが流れてくる。
『1200年に一度という彗星の来訪が、いよいよ一月後に迫っています・・・・』
彗星?一月後?そんな話、あったっけか?あまりニュースを見ないので、よく分からないが、圭一や瑠璃との会話でも、そんな話は出て来てない。
「お姉ちゃん!はよう食べんと、学校遅れるよ!」
学校?・・・そうか、学校に行かなきゃいけないのか・・・・・
学校に行くとなると、今の自分を何も知らないでは済まされない。妹は先に行かせ、部屋に戻って、この女の身元が分かるものを探した。
スマホと学生証から、糸守高校の2年生の、“宮水三葉”という事は分かった。あとは、スマホの着信履歴とアドレスから、“勅使河原克彦”と“名取早耶香”という友人が居る事は分かった。
学校の位置は、確認するまでも無かった。家を出たら、湖を挟んだ向かい側の高台の上に、それらしい建物が見えた。しかし、随分とど田舎だ。3階を超える建物は、殆ど見かけない。周りは山に囲まれ、車も殆ど走っていない。都会育ちの俺は、こんな景色、テレビの中でしか見た事が無い。空気が澄んでいて、何か清々しい気分だ・・・・・
「三葉~っ!」
学校に向かって歩いていると、後ろから、声を掛けられた。振り向くと、自転車に2人乗りした男女が、こっちに向かって来る。
「おはよう!三葉!」
「ああ、おはよう!」
一応、挨拶を返しておく。この2人が、勅使河原と名取かな?
「あら?三葉、その頭・・・どうしたん?」
名取が、俺の髪を見て聞いて来る。何か、おかしいのかな?長いから、部屋に置いてあった組紐で纏めただけだが。
「いつもみたいに、結ってないやん!」
「それじゃ、まるで侍みたいやな!」
ふ~ん、この女、髪の毛を結ってから纏めているのか・・・・でも、そんなの知らねえし・・・・
「時間が無かったんだよ。」
適当に答える。
「?!」
2人が、怪訝そうな顔をする・・・何だ?何かおかしな事でも言ったか?
「ねえ、あんた・・・・三葉よね?」
「そうだよ。」
「?!」
また、怪訝そうな顔をする。何なんだ?いったい・・・あ・・・そうか、俺は今女の子だったんだ・・・・でも、オネエ言葉なんか、使いたくねえし・・・・いや、今は女なんだから、オネエにはならないか・・・・でも、言葉合わせる必要あんのか?
結局、考えがまとまらず、その後は、ずっと黙っていた・・・・・
放課後、圭一君と瑠璃ちゃんと、3人で一緒に帰る。
朝通った河原の土手を、3人で歩く。圭一君と瑠璃ちゃんは、横に並んで仲良く話し込んでいる。私はそれを眺めながら、後ろを歩いている。
仲がいいんだな、この2人・・・・本当に、サヤちんとテッシーみたい・・・・と、その時 ――――
「イーッ!」
突然、目の前に複数の怪しい一団が現れた!全身黒いタイツに身を包み、頭にはプロレスラーのような覆面を付けている。胸には、“骨”を模ったような模様も付いている。
「な・・・何なの?こいついら・・・・」
「や・・やばそう・・・逃げろっ!」
圭一君の合図で、全員が一斉に回れ右ををして走り出す。当然、怪しい覆面軍団は追いかけて来る。
「ふ・・・二手に分かれよう!」
圭一君の提案で、私と、圭一・瑠璃コンビの二手に分かれる・・・・だけど・・・・・
「イーッ!」
な・・何で?・・・こいつら、全員私を追って来る・・・・狙われてるの・・・私?
とにかく、逃げるしか無い。幸い、走るのは得意だ・・・・それに、この体、かなり鍛え込んである。体力も、ありそう。これなら、逃げ切れるかも・・・・と、思ったのも束の間・・・・・
「キイイイイイイイイッ!」
何やら、空から大きな叫び声が聞こえたと思ったら、何かの影が私を追い越し、私の前方に降り立つ。
「きゃあああああああっ!」
思わず悲鳴を上げ、脚が止まってしまう。そこには、カニのような鋏を持ち、コウモリのような羽を付けた、異様な怪物の姿があった。
私は、腰を抜かしてその場に尻餅を付いてしまう・・・・・・後ろからは、例の覆面軍団が迫って来る。絶体絶命!その時 ――――
凄まじいバイクの爆音が轟き、覆面軍団が次々に跳ね飛ばされていく。
「イイーッ!」
覆面軍団を一掃したバイクは、私を追い越して、私と怪物の間に入って止まる。その姿は・・・・朝、学校まで送ってくれた、顔の濃い隊長さんだった。
「あ・・・現れたな!本郷!」
「ショッカー!貴様らの好きにはさせん!」
その人はバイクから降り、怪物に向き合う・・・・そして、右手を深く握って腰に付け、左手を伸ばして、腕を斜め上方に翳す。
「ライダ~~っ!」
その腕を、時計の針のように回し・・・・
「変身!」
右手のように強く握って腰に付け、今度は右手を伸ばして、右腕を斜め上方に翳す。
すると、突然腰にベルトが現れ、中央の風車が回転を始める。
「とおーーーーっ!」
その人は、垂直に大きくジャンプする。人間が、こんな高さまで飛び上れるのか思うほど、高く、高く・・・・そして、光に包まれたその体は、緑色の怪人となって再び地面に降り立つ!
「え?・・・こ・・・この人も・・・怪物?」
どうもすみません。
名前が“立花瀧”なんで、ついこんな話を妄想してしまいました・・・・・
このお話の、“立花”は“おやじさん”こと“立花藤兵衛”の立花です。そして、“滝”は、本郷の親友でFBI捜査官だった“滝”の名を引き継ぐ者・・・・“おやじさん”の孫の“滝”君です。いや~このネーミングだと、昭和の世代は、これ連想しちゃうんですよね・・・・
この話の本郷猛は、映画“仮面ライダー1号”の時代の本郷です。滝君やその友人はオリジナルキャラですが、多少その映画の要素を入れてます。