ツォーネ1984   作:夏眠パラドクサ

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【ラッキー☆】アインザッツコマンドー 7【チャーネル】



「モード、サーマル――」

「遅い!」

 

 硝煙を撒いて、バラライカが三.六センチ砲を全力射撃した。

 三.六センチ榴弾の殺傷半径は、非装甲の人間が相手ならば一〇メートル前後になる。

 数十発も撃てば直撃させるまでもなく、炸裂破片により人間ならば確実に自動小銃の七.六二ミリ弾を浴びせたような死体になるし、驚異的に敏捷なバルルス・ナリスが相手だとしても深手を負わせられる。少佐と呼ばれていた雌犬は死んだ。

 ラヴゾンは「シャカリキヤッター!」と彼が信仰するブッダの加護へ、口から血反吐混じりに祈りをこぼした。あとはバラライカに、近くの病院へ飛んでもらえばよい。

 ラヴゾンは共和国指導者 ウルスラ・シュトラハヴィッツの乗機を整備していたことがあり、革命英雄 テオドール・エーベルバッハの知り合いでもある六六六中隊の古参隊員だ。そして旧体制崩壊直前の重要な時期に、シュタージから依頼を受けて活動した協力者でもある。バラライカを操縦する死んだとばかり思っていたホーエンシュタインは、きっと助けてくれるはずだ。

 なにかが「ガン」と音を立てて、カマーツ操縦室のダハに当たった。

 ぞんざいに固定されているラオトシュプレヒャーが、発していた雑音を急激に増す。

 硝煙を吹き散らす寒風に、黒衣がはためいていた。

 

「モード、サーマルフォース・ディスジャンクション」

 

 金属の錫杖を突いてダハに立ちあがる女は、TSFへの音声認識指令のように、明瞭な英語で言った。どのような方法で数十メートルを移動し砲撃をかわしたのか、その姿は無傷だった。

 何者かの虚ろな声が「ターゲット、キャプチャード。エミュレーテッド」と応じる。

 方向転換を終えたバラライカが、カマーツへ向かって歩き始めていた。

 回避されたせいか、幸いにも再砲撃は選択しなかったらしい。あるいは水槽から出て動くことはできそうにないESP発現機とやらをまきぞえにしたくないのだろうか。

 TSFは『一歩』の動作に、足を大きく上げなくともよい平坦地で二秒を要する。また、歩兵や爆弾を隠しやすい車輌からは数十メートルの距離をとっておくことが対人戦闘の常識だ。

 当然そうしていたバラライカが六~七歩を移動し、腕による攻撃をおこなうまで、まだ一二秒はかかるということだった。

 

「これは、TAS――」

「そんなガラクタでは遅すぎるわね」

 

 暗黒色のバラライカを、走査するように虹色の輝きがなめた。

 

「レディ」

「シュート」

 

 長さ一〇メートル、本体だけで四トンの重さがある携帯突撃砲が、一瞬で赤熱した。

 弾倉が爆発的に紅蓮の炎を噴く。炎に包まれながら突撃砲はさらに黄白色となり、形を保てず飛沫となってカマーツに降りそそいだ。

 管制装置から異常を伝えたのであろう突撃砲を、バラライカが敵のいる前方へ投げ放ったのだった。

 落ちてきた高温の突撃砲部品がESP発現機の水槽を破壊し、臓物臭い蒸気と大量の液体をラヴゾンは浴びた。

 突撃砲を瞬く間に熔解させた、レーザー照射といった手順をともなわない謎の現象をホーエンシュタインが知っていたとしても、実際対処することは非常に難しい。歩行時には大きく揺れる操縦室で腕を操作し、生身の歩兵以上の機敏さでTSFを行動させるなど、人間技ではなかった。

 下からの突風がカマーツを揺さぶる。武器を失ったバラライカがラケーテンアントリープを始動していた。

 

「なぜそんなものを持っている? 科学を嫌う魔女どもが!」

 

 建物のむこうへ、肩のラケーテンヴェルファーから小型弾が放たれる。対BETA戦闘では囮として使われる無誘導弾による牽制だった。

 

「まさか、反乱軍ごときが〈協会〉と取引できたのか! 答えろ、クソ犬!」

 

 一〇〇万個の電球が灯されたような温かさと明るさの中で、おぞましく醜悪な怪物が悲鳴をあげている。

 光に退けられた夜闇の奥へ、噴進飛行の重い轟音が遠ざかってゆく。

 激して問いかけるバラライカに、燃え始めたカマーツからの応答はなかった。

 遠い暗雲を、禍々しくも幻想的な閃光が何度か照らして、荒れ果てたマルクトプラッツの駐車場に静寂が戻った。

 カマーツが焼け爆ぜる音は、寒さに苛まれたラヴゾンにとって騒々しいものではない。かつて家族と暖炉を囲んだときのように、恋人と燃料缶の粗末な竈にくっついていたときのように、心に安慰をもたらしてくれる慈悲深き音色だった。

 ブッダの光輪と同じ色の炎が荷台に落ち、ラヴゾンの視界から廃墟の闇を隠した。

 悪夢からあらわれ彼のなにもかもを否定していったあの存在どもが、ふたたび這い出してくることはないだろう。数トンの熔解した金属で、カマーツも冒涜的な積荷も灰と化す。

 それに、ラヴゾンはもう夢を見ないからだ。

 

 

 





「ラッ――……」
「……」
「お、おい。わたし一五歳って書いてある……」
「おかしいですよカテ公さんwwwwwwww」
「一〇歳くらいから砲撃教程や飛行教程を始めたってことだよね……ヴェストはスパルタやで、アルフレート。戦闘機の何倍するかわからん機体を中学生に? ちょお乗ってみいとか、いややわー」
「まあほら、そこは、戦争にまきこまれたり、最強兵器をカッ飛ばしたり、英雄的に勝利したりする主人公が視聴者と同年代であるほうが共感をより喚起して業界のエントロピーを減少させる購買意欲をだねww」
「ギャグで書いてある出会い系のプロフとちゃうねんで、このロリコンどもめ……一五歳で民族の行く末とか考えんでもええんよ、自分」
「きみは自分を何歳くらいだと思っていたんだい?ww」
「二〇そこそこかのう、防衛大を出たてくらいの。ベトコン姉さんも二世って書いてあるやん。爆撃しながら『んっほおおおぉぉ♡ ナムの地獄を思いだすぜえ~~! なあっ、ヤンキーwwww』とか言わないわけだお」
「ベトコンは派手に爆撃してたアメリカと敵対する勢力だからww」
「敗北主義兄妹は一八歳やて。二〇歳代なかばくらいかと思ってたは! 自我を総括されたりスパイごっこしたりする時間を考えると人生三倍速にせな」
「いや、まあ、あの二人は一五歳くらいの時点で『既にTSF操縦士教程の大半を終えていた』『しかも成績優秀で殺すには惜しかった』と考えればなんとかワンチャンww」
「そもそも、思想犯罪者どころか脱東者にミグなんかまかせたかんやろ」
「確かに、ベレンコされてからあることないこと暴露攻撃、という報復を喰らっちゃうよねww ワンチャンないねww でもそこはフィクションだからねww」
「けッ、どうせフィクションならスパイごっこよりアウシュヴィッツ送りで肉玩具フルコースしたり」
「一般需要を考えるんだ、カテ公ww」
「妹氏がだるま憲兵伍長状態で見つかってお兄ちゃん発狂! バキューンバキューン! 『こんな腐った政府はブッつぶしてやる! 皆殺しだ!』でええがな」
「それは一般需要じゃないよww」
「発狂はせず『いや、リィズは綺麗なままだよ』と冷静に言う」
「金髪巨乳を排除してヴァルターと男の友情を越えた愛を描けと? やはり特殊需要だよww」
「ほなことあるかい。営業獣が活躍するあれもクレイジーサイコレズが真の主人公だったからこそ一般需要をとりこめたんやで。よっしゃ、アクスマンとなんたらの楔でグッドルッキングガイズを重点じゃ!」


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