この紅魔の剣士に栄光を!   作:3103

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遅くなりました。申し訳ございません。




第14話

「………………」

 

「………………」

 

 

 現在俺は、ゆんゆんと二人で向かい合っていた。

 場所は紅魔族の族長の家。つまりゆんゆんの家。

 担任に頼まれて邪神関係の調査の報告書を届けに行った俺は、何故だかそのまま家の中に招かれ、ゆんゆんの部屋でお茶をご馳走になっていた。

 目の前のテーブルの上には、まずウチじゃ出される事がないような豪華なお菓子が並んでいる。

 ……た、食べてもいいのだろうか? 本当にこんなお菓子、俺なんかが食べてもいいものなのだろうか?

 

「…………あ、あ、あの……。よ、よろ、よろろん……。ど、どどどうっ、どうしてウチに……?」

 

 と、見たことの無い豪華なおやつに目が眩んでいた俺に、テーブルを挟んで対面に座るゆんゆんが、物凄く目を泳がせながら聞いて来た。

 落ち着かない様子のゆんゆんに、俺は事の経緯を説明する。

 

「いやそれが俺もよくわからないんだけど……。族長さんに用があってこの家を尋ねたんだよ。んで、玄関でゆんゆんのお父さんに事のあらましを説明してたら、なんか急に、

『ゆんゆんの、友達……だと……? ……さ、さあ、遠慮せず上がってお茶でも飲んで行きなさい!! か、母さん大変だ!! ゆ、ゆんゆんの友達が、ゆんゆんの友達がウチに遊びに来たぞぉ!!』とか言われて気がついたらこの部屋に……」

 

「あ、あああっ……! ああああああもうお父さんのバカァァァァァァ!!」

 

 ゆんゆんは顔を真っ赤にして叫んだ。

 ……まあ、あんな大騒ぎして突然自分の部屋に友達押し込まれたら、そりゃ叫びたくもなるよな。

 俺だって無断で姉さんが俺の部屋に(といっても一部屋をカーテンで仕切っているだけ)入って来たら怒るもん。それが血の繋がってない他人なら尚更だ。

 自分の意思では無いといえ、同級生の女の子の部屋に入ってしまった俺は、突然押しかけてしまった申し訳なさと、妙な気まずさに頬をかいた。

 

「……あー、うん。もう頼まれてた事も終わったしすぐに帰るから。そんなに気にしな」

 

「い、いやっ! ち、違うのっ! 別によろろんにすぐに帰って欲しいとかじゃなくてそのっ……」

 

 慌てた様子で俺の言葉を遮るゆんゆん。

 い、一応歓迎はされてるのか? ならもう少しだけお邪魔する事にしよう。

 ……でも、どうしよう。正直女の子の家とか一人で来たの初めてだし、何話せばいいのかとか、何して遊べばいいのか、とか全然わからん。

 ゆんゆんも俯いたまんま全然動かないし、一体どうすれば……。

 

「……ね、ねぇ。よろろん。き、聞いてもいいかな?」

 

 と、頭を悩ませていた俺に、ゆんゆんが恐る恐る聞いてきた。

 俺は彼女に頷きを返す。ゆんゆんはまだ少し口籠もりながら、

 

「……そ、そのっ。……ウチに来た時、よろろんはお父さんには、私の友達だって言ったの?」

 

「……え? ……あ、ごめん。姉さんとならともかく、俺達そんなに一緒に遊んだりした事なかったもんな。友達はちょっと馴れ馴れしかったか……。……ごめん」

 

「う、ううん! そ、そうじゃなくて! よろろんに友達って言われたのは凄い嬉しくて! どうして私なんかを友達扱いしてくれたのかが知りたくて……!」

 

 そこまで言って、ゆんゆんは赤かった顔を更に赤くした。

 それをあまり見ないようにしながら俺は答える。

 

「いや理由って……。姉さんも一緒だったけど、何回か一緒に遊んだし、結構一緒に帰ったりとかしてたし……」

 

「じゃ、じゃあ……。私もよろろんの事を友達だって思っても……」

 

「お、おう。別にいいけど……」

 

「…………っ!!」

 

 ゆんゆんが物凄い嬉しそうな顔になった。

 そ、そんなに友達に飢えていたのか……。

 俯きながらニヤニヤ笑うゆんゆんに、どうやって声を掛けていいのかわからなくなる俺。

 

 目線をゆんゆんから逸らして、解決策を探していた俺の目に、木造りの衣装ケースの上になにやら縦長の箱が乗っているのが見えた。

 確かあれは……。王都で話題になっているボードゲーム。

 ルールは単純ながも、戦略性の奥深さにハマってしまう人が続出している最新のゲームだ。

 これは途切れた会話を再開するきっかけになるかも知れない。

 俺は箱を指差して言う。

 

「な、なあ、ゆんゆん。アレって王都で話題になってるボードゲームだよな?」

 

「え、あっ、うん。……この前王都から帰って来た叔父さんが買って来てくれて……」

 

「ならアレやろうぜ! 俺話に聞いてからずっと気になってたんだよなぁ……。あのゲーム、めちゃくちゃ面白いんだろ?」

 

 俺が聞くとゆんゆんは、ぽかんと口を開けしばらく俺の顔を見てから、

 

「……う、うん! やろう!」

 

 はにかみながら答えた。

 その笑顔にどことなく、俺は気恥ずかしさを感じた。

 

 

 

 

 ♦︎

 

 

 

 

「……よし! ここでソードマンを進化ッ! 移動力が上がったソードマスターで一気にゆんゆんの陣地をーー」

 

「あっ……。アークウィザードの『ライトニング』でそのソードマスターは……」

 

「え、嘘? ま、またかよ……。……これで俺のソードマスター全滅……。前衛が居なくなって一気に攻め込まれるから……」

 

「わ、私の勝ち、だね……?」

 

「………………」

 

 駒が並べられた卓上を見て項垂れる俺。

 五戦やって全敗。俺は早くも自分のボードゲームに対するセンスの無さに絶望していた、

 

「ち、ちくしょう……。どうしてこうも前衛職の移動力は低いんだ。やっと敵陣に到達したと思ったら周りに囲まれてフルボッコだし……」

 

「もう少し攻め込むタイミングを待つべきじゃないかな? いくらなんでも開幕早々ソードマンだけで突っ込んでくるのは止めた方がいいと思う」

 

 ぐうの音も出ない正論だった。

 でも仕方ないじゃないか。ちまちま攻めるのは性に合わないんだから。

 男ならこう……、一気に突撃して一気にズバッと敵を制圧したいと思うもんだろう。

 まあ無理なんですけどね。俺はままならない現実を前に、再び項垂れた。

 

「ね、ねぇ。よろろん。聞いてもいいかな?」

 

 そんな俺に、再びゆんゆんが尋ねてきた。

 顔を上げて返事を返す。

 

「どったの? もうゲーム終わりにする?」

 

「う、ううん。そうじゃなくて。……よろろんは学校卒業したら、どうするつもりなの?」

 

 ゆんゆんの質問に、盤上の駒をいじりながら答える。

 

「んー……。まあ、この里を出て世界中を旅をするつもりかな。やっぱりダンジョンを冒険、とかしてみたいし。こめっこを置いていくのはちょっと心残りがあるけど」

 

 素直に思っている事をゆんゆんに話す。

 世界に対する好奇心と、剣の腕を高める為に俺は旅に出るつもりだ。

 両親にはもう話をして、旅に出る許しを貰っている。そこは心配していない。

 

 姉さんもまあ、大丈夫だろう。

 体力は無いし爆裂魔法しか魔法が使えなくなりそうだけど、なんだかんだで逞しい人だ。

 あの悪知恵が働く頭があれば、どんな環境だって生きていけるだろう。

 姉に関してもまた懸念は無い。

 

 しかし問題はこめっこの事である。

 父さんも、その仕事を手伝っている母さんも家を留守にしがちだ。

 爆裂魔法を覚えようと画策している姉さんも、きっと旅に出るつもりだろうし、今面倒を見ている俺達が旅立ってしまえば、彼女は一人で留守番する事が多くなってしまうだろう。

 しっかりしているこめっこのこととはいえ心配だ。

 旅に出る前に、近所の人たちに妹の面倒を見てくれるよう、頼んで周る事にしよう。

 あとぶっころりーには変なことをしないようにしっかり釘を刺しておこうかな。

 

「……そうなんだ。よろろんも旅に出ちゃうんだ」

 

「ま、まあ、ちょくちょくこめっこや母さん達の顔を見に帰って来るつもりだし。そんな何十年も音信不通になっちゃうとかはないから安心してくれ」

 

「う、うん。そっか。…………やっぱり、私も」

 

 ぽつん。と小さな声で呟いた、最後のゆんゆんの声を、俺は聞き取ることが出来なかった。

 

 

 

 

 ♦︎

 

 

 

 

 白い月が窓の外に見える。

 夜。中々寝付けずにいた俺は、自室のベッドの上に寝転がって空を見上げていた。

 いつもなら布団に入ったら二分で熟睡する俺が、今日は珍しく寝付けていなかった。

 原因は夕方ゆんゆんの家で飲んだコーヒーだろうか。

 普段飲まない癖にカッコつけて、ブラックのまま飲み干したコーヒーの影響が強く出ているのだろうか。

 布団を被っても全然眠れる気配が無い。

 明日も朝から学校だというのに、このままでは寝不足で授業中に力尽きてしまう。

 早くポーションを集めるためにも、寝落ちだけは阻止しなければ。

 

 なんとか眠ろうと、再び布団を被る俺。

 しかし冴えた目を閉じた所で眠ることは出来ない。

 これは困った。そこそこ疲れも感じているし、早く眠りたいところなのに。

 

「……はぁ。仕方ない。腹が膨れれば少しは眠くなるだろ」

 

 俺は枕元に畳んで置いてある、自分のローブの隙間からゆんゆんの家で貰ったお菓子の一部を取り出す。

 姉さんとこめっこにあげたぶんのおまけだ。

 王都で流行っている小麦粉の焼き菓子。

 明日の昼食の足しにしようかと、姉さんとこめっこに見つからないようにとっておいたそれを、俺は口の中に放り込む。

 寝ている姉さんを起こさないよう、音を立てないように咀嚼する。

 

 中に入っている甘いクリームと、さくさくした焼き菓子の食感が良いアクセントになっている。

 ……うむ。やっぱり美味しい。

 お土産に貰って帰って来たら、姉さん達が目の色変えて食べ進めるわけだ。

 俺は二つ目の袋を取り出し、破いて中身を出す。

 

「にゃあ」

 

「ん、クロ? なんだお前、まだ起きてたのか」

 

 袋から取り出したお菓子を口に放り込もうとしていると、どこからともなく現れた黒猫と目が合った。

 ちびすけは物欲しげな瞳で俺の顔を見上げながら、ベッドに腰掛けていた俺の膝の上を占領した。

 その視線の先は、当然食べようとしているお菓子。

 誰に似たのか知らないが、食い意地が張った猫である。

 このままだとテコでも動きそうにない。

 俺はお菓子を半分に割ると、クロの鼻先へと持っていく。

 

「……見つかっちまったなら、しょうがない。半分食べさせてやるから、この事は秘密にしてくれよ」

 

「にゃあー」

 

 クロは小さく鳴くと、俺が差し出したお菓子をむしゃむしゃ食べ始めた。

 すぐに食べ終わり、再び俺の顔を見上げる。

 まだ食い足りないアピールだ。残りの半分も要求する気らしい。

 俺は結構食べたし、もう半分くらいあげようか。

 半分にしたお菓子をまた半分にして、俺はクロに差し出した。

 

「……。にゃあ」

 

 まだ足りないと申すか。

 この欠食児童め。まったく、誰に似たんだか。

 クロは早くよこせと言わんばかりに、俺の膝の上をごろごろ寝転がる。

 遂には催促の声のつもりか、にゃあにゃあと鳴き始めた。

 

「ちょっ、 ……静かに。姉さんが起きちまう」

 

 慌てた俺はクロの口にお菓子を突っ込む。

 半分に割っている余裕は無かった。

 むしゃむしゃと食べられるお菓子を見ながらため息を吐く。

 

「……はぁ、まあいいや。あんまり腹は膨れなかったけど、猫相手にお説教しても仕方ない。もう寝よう」

 

 俺はクロを膝の上から降ろすと、再びベッドに寝転がる。

 依然として俺の目は冴えたままだった。

 このままだと一晩中ベッドの上で眠れぬ夜を過ごす事になりそうだ。

 ……仕方ない。少し体を動かしてくるか。

 明日に備えて無駄な体力を使いたくはなかったのだが、こうも寝付けないんじゃそうも言ってられないだろう。

 不幸にも腹を膨らませられるだけの食べ物は家には無い。

 俺は起き上がると、寡黙な相棒である『ダークソウル・ブレイド』を背中に提げて部屋を静かに出て行った。

 

 

 

 

 

 


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